「・・・お前は身をもって知っているはずだ。 唯一無二の存在を傷つけられた場合、傷つけた相手をひどく憎む心を。 ・・・だから、言ったはずだろう? “憎しみで敵を討てば、その何倍ものの憎しみを受けることになる”と。 ・・あの世で悔やむといい。 シン=アスカ、レイ=ザ=バレル」



そう・・・。
俺はお前たちに忠告したはずだ。

誰かを怨み、そして憎しみでその‘敵’を討てば、その反動は自身に返ってくる。
その者を大切に思う者の手によって。

・・・いつか、俺にもその憎しみの手が伸ばされるだろうが・・俺はあの時、覚悟を決めたからな。

・・・いや、あの時・・・この身でその‘痛み’を経験したから・・。


しかし、それとこれは違う問題だ。
自身に返ってくる‘痛み’に耐えることはできる。

・・・俺の傍に、キラがいるから。

・・だが、誰かがその存在を消すと言うのなら、この身の中に閉じ込めている‘憎しみ’が再び表に出るだろう。
俺にとって、キラのいない世界に未練はない。
キラがいるからこそ、俺はこの場にいてこの世界を守ろうとする。





お前たちは俺の地雷を踏んだ。


俺自身のことはあまり気にしないからどうでもいいんだが・・・キラの事となると話は別だ。
キラを傷つける者は、例え誰であろうと例外ない。








制  裁
    ― 天使、再び ―











ミネルバを守るMS3機が消滅するのをブリッジのメインスクリーンに映し出されていた。タリアたちは今までにないアスランたちの戦いを見て、死への恐怖と底知れない彼らの力に対して畏怖を感じていた。『デスティニー』とミネルバは通信回線がオープンになったままだったため、アスランの言葉は筒抜けとなっていた。そのことによって、クルーたちの間でも衝撃だったらしく戦闘中にも関わらず全ての機能が停止していた。






・・・しかし、彼らは知っていたはずである。アスランは2年前、ザフトを離反して義勇軍でもある第3勢力に属していたということを。そんな彼の目の前で、かつての仲間が乗艦している艦とかつての戦友が撃破されたのである。己と置き換えたら彼の行動の意味が分かったはずなのに、彼らはあえてその可能性を考えなかった。いや、思いもよらなかったのだろう。





そのことが彼らの敗因となった。彼らは、そのことを予測していない・・また、あえて避けてきた考えによって戦闘中に思考が停止したため、ものすごい勢いで近づいてくる機体に気付かなかった。このミスは、通常のタリアであれば避けられたものだがこの時はほかのクルーたちと同様、目の前で起きた出来事に対処しきれなかった。

「っ!? 艦長!! ものすごい勢いで近づいてくる機体を確認!! ・・その距離、300!!」


「!! 迎撃!!」


「・・・・間に合いません!!」



メイリンは目の前にあるモニターに映し出される警報によって意識を取り戻し、慌ててモニターを見つめた。警報の知らせは、『インフィニッドジャスティス』がミネルバへ近づいている証拠だったが、報告が遅れたために迎撃の準備ができなかった。



「・・・お前たちも俺は許さない。 知っていたはずだ。 俺が、『浮沈艦』と『虚空の天使』に縁があるということを。 ・・・そして、その絆を捨て去ることができない思いを!」



アスランはコックピット内で小さく呟くと『ファトゥム-01』をミネルバに撃ち込んだ。ミネルバの装甲を貫きメインエンジン部分に達し、それが誘導となって爆発した。






かつての母艦が沈むのをただ静かに・・・何も感じない冷たい瞳で沈んでゆくミネルバを見ていたアスランだったが、エターナルからの通信を知らせるアラームによって完全に意識をミネルバからエターナルへと移した。




《アスラン? 聞こえますか?》



「聞こえていますよ、ラクス。 ・・・ミネルバ及びそれを守る3機のMS、全て落とした。 これから帰投する」



《分かりましたわ。 私たちはこれから、議長のおられる地点まで向かいますわ。 ・・・コンディションレッドからイエローへ移行いたしましたので、機体に何の問題もなければキラの傍へ。 ・・・目覚めたばかりとはいえ、すぐに戦闘となりましたから不安があると思いますの》



「そのつもりですよ。 それに、キラと約束しましたからね」



モニターに映し出された歌姫に先ほどの冷たい瞳のまま微笑んだ。『虚空の天使』・・『フリーダム』を撃墜したのはシンが搭乗する『インパルス』だったが、その命令を下したのは議長である。そのことによって、アスランはシンと同様議長のことも憎しみの感情しか残っていなかった。

アスランがエターナルに帰投すると、格納庫にはすでに『デュエル』と『バスター』が固定されているのを片目で見たアスランは、機体のOSを確認し、不要な部分や書き換えが必要な部分などを探し、すぐさま書き直していった。

ある程度の修正を終わらせると、OSにロックを掛けると軍服に着替えるべくパイロット専用の部屋へ移動した。

部屋には先に帰還していたイザークたちがロッカーを閉めており、扉が開いた瞬間にアスランに視線を向けた。



「ラクスへの報告は俺からしておく。 お前はさっさとキラの元へ行け。 ・・・あとで、様子を見に行く」


「分かった。 ・・・くれぐれもキラを刺激するなよ?」



イザークは部屋を出る際に言い、アスランは視線を合わせることなくイザークの言葉に同意した。その様子を近くで見ていたディアッカは盛大に両肩を落としたが、2人は興味なしとばかりに会話が終了した。アスランの怒りがいまだに収まっていないということは2人にとっても分かっていたので、そのままほっとくことにしたのである。







パイロットスーツから普段着ている軍服に着替えたアスランは重力があれば砂埃ができるほどの速さで走っただろうと思わせる速度でキラの待つ自室へと戻った。



「キラ? ・・ただいま。ちゃんと、約束は守ったよ?」


「・・・・アス・・・?」



アスランは部屋に入ると真っ暗だった部屋の電気をつけ、自分のベッドに寝ているキラに優しく話しかけた。キラはアレから寝られなかったがアスランから言われていたこともあり、寝らずにアスランのベッドで横になることを選択した。暗闇の中にいたキラは廊下の仄かな明かりが見えたことによって、アスランが帰ってきたことを知った。

近づいてきたアスランに甘えるように両腕を伸ばし、アスランが自分の傍にいることが夢でないかを確かめるためにアスランの首に強く抱きついた。

そんなキラの行動の意味を理解したアスランは、キラを安心させるように自ら抱き締め、落ち着かせるように一定のリズムでキラの背中を優しく撫でた。



「落ち着いた? ・・・目的の戦闘区域に行くまで、俺もここにいるから。 ・・・次が多分、最終戦になる」


「・・・・起動要塞基地『メサイア』? ・・・僕も一緒に行く。 ・・ここで、みんなの帰りを待つなんてできない」



自分の背中に回っていたキラの手が少し力を入れたのを感じたアスランは、キラが落ち着いたことを察知し、顔が見えるくらいに抱き締めていた力を弱め、上からキラの顔を覗いた。

アスランに覗かれたキラは心配そうな表情をしながら首に回していた腕を戻し、再びアスランの胸付近にしがみついた。アスランたちが戦闘に向かっている間、アスランを失う恐怖に晒されていたキラはいまだに震えていた。



「・・・また、ハッキングをしたのかい? ・・・あまり、危険なことをしないでくれ。 ・・・・反対しても、君は出るのだろう? ・・・分かった。 『メサイア』は俺が落とすから、キラは周りのMS隊を頼む。 ・・この艦とAAはイザークたちが守りに入るだろうから」


「・・・うん。 ・・・けど、『フリーダム』壊されちゃった・・」


「大丈夫。 ラクスがね、キラの機体もちゃんと用意していたよ? ・・・少し、落ち着いたら格納庫に行こうか」



アスランはキラの導き出した答えに反論はせずに、せめて見える範囲にいるようにとキラに伝えた。実際、エターナルとAAの周りでイザークとフラガが戦闘を繰り返していたため、その辺りにいると逆に危ないと判断したためでもあった。

アスランが反対しなかったことに対して、キラは安心したように頷いたが地上での戦闘の折、『インパルス』において『フリーダム』を破壊されたためにキラの乗る機体がないと表情を暗くした。

そんなキラの様子を見たアスランは、ニッコリとキラ限定の笑みを浮かべながら格納庫でいまだに眠りから覚めていない機体をキラに教えた。



「・・・? ラクスが?」


「あぁ。 ・・ラクスは先見の目が超えているからね。 多分、キラが目覚めて戦いに出ると言い出すと予測していたんだと思うよ? 俺の機体とキラの機体を一緒に製造していたみたいだけど・・・・俺が乗るのを早めにしたから、俺の機体を優先にしていたみたいだ。 宙に上がってきて、少し余裕があったからね。 その時や移動の時に整備士たちがキラの機体を整備していたから。 ・・・すでに、準備は整っている」



アスランは自分の腕の中に閉じ込めているキラに微笑むと、額に軽くキスを落とした。







その頃、ブリッジに向かったイザークたちはブリッジでこれからの計画をラクスから聞いていた。

「・・・・今後は、このような展開となりますわ。 ・・・【プラント】へ放たれるものは完全に破壊させました。 ・・・しかし、問題はもう一つ残っておりますわ。 ・・・・議長がなにやら可笑しな行動をなさっておられましたので、本国で調べさせましたの。 ・・・見過ごせないものをお造りになられたようですわ? ・・・お2人も見ていただけます?」



ラクスは2人にスクリーンで映し出されたもののデータを2人に見せた。起動要塞については、【プラント】にいるクライン派とアスランのハッキングによってラクスたちはその存在を認識していた。しかし、まだ使われる段階ではなかったのでそのことをAAに伝えずにいた。



「・・・こ、これはっ!? ・・・俺たちが苦労してぶち壊したものとそっくりじゃないか!」


「名前は・・・・『ネオ・ジェネシス』!? ・・・要塞基地とドッキングしてるのか」


「私たちの調べによりますと、その破壊力は小さいながらも2年前以上ということですわ。 ・・・これがもし、地球へ放たれることになりましたら、地球上の生物の半数は絶滅するでしょう・・・。 私たちは、そうならないためにも何としてでもこの大量殺戮兵器を破壊しなくてはなりません」


「・・・確かに、これが一発でも放たれたら世界は崩壊するな」



ラクスの言葉にブリッジにいた者たちは頷きあった。彼らは2年前に『ジェネシス』の破壊力を近くで見ていたため、驚異的な破壊力だということを理解することができた。



「えぇ・・・。 皆様もご存知でしょう? 議長がつい先日、声明を発表になられた内容を」


「・・・〔デスティニー・プラン〕とか言うふざけた内容か」


「・・内容だけ聞いていればいいことだと思うが・・簡単に言えばアレ、全てを遺伝子によって決め付けられるということだろう?」


「・・・確かに、こんな無益な戦争を起こすことはないだろうな。 遺伝子によって決め付けられた人生だ。 自分はここまでだと、すでに言われているからな。 その上を目指そうとも思わんよ」



宇宙図の周りに集まったディアッカ、イザーク、バルトフェルドはそれぞれ思っていることは同じらしく、ため息をつきながら議長の出した声明の内容を思い出していた。



「・・・・お前たち、まだここにいたのか」


「イザーク、ディアッカ。 ・・・久しぶりだね」



4人がそれぞれの思考に嵌っていると、ブリッジの扉が開き、部屋から出てきたアスランとキラが姿を現した。



「キラ!! ・・・もうお部屋を出てもよろしいのですか?」


「うん。 ・・・ラクス、今度の戦闘には僕も出るからね」


「・・・あまり、無茶をするなよ? 姫が危険にさらされると、こいつ何をしでかすか分からないからな」


「ディアッカの言うとおりだ。 キラ、お前はあまり前線に出るな」



ラクス、ディアッカ、イザークはそれぞれキラの顔色を見ながら話しかけ、安心したかのように微笑んだ。



「うん。 そのことについては、アスランから言われてる。 ・・・ラクス、後どのくらいで戦闘区域?」



ディアッカとイザークの言葉に苦笑いを浮かべたキラは、宇宙地図の近くにいるラクスに尋ねた。



「・・・後、2時間ほどで着きますわね。 ・・・・皆様、格納庫へ。 ・・・アスラン、キラ。 『ミーティア』のドッキングはいつでも可能ですわ」



ラクスは宇宙地図に示されている目的地と現在地を確認し、ざっと計算を行った。ラクスから告げられた時刻に4人は頷き、格納庫へと向かった。



「キラ。 キラの機体・・『ストライクフリーダム』は最終チェックがされていない。 ・・・キラのOSの組み方は独特だからね。 最終チェックはキラ自身に行ってもらおうってことになっていたんだ」


「分かった。 ・・・最初にOSを組み直すね」



格納庫に着いた4人はそれぞれの愛機に乗り込もうと床を蹴ったが、『インフィニッドジャスティス』の隣で沈黙を守る灰色の機体をキラとともに見つめていたアスランは隣にいるキラに伝えた。キラはアスランの言葉に頷くと、床を蹴って機体のコックピットの中に入った。その様子を下で見ていたアスランはキラがコックピットに入ったのを確認した後、隣に収まっている自分の機体に乗り込んだ。





コックピットに入ったキラは、収納されているキーボードを取り出し、電源を入れた。画面上に『Z.A.F.T』と表示され、すぐさま機体全体の制御を司るコマンドを入力した。



CPG設定完了、ニューラインケージ四ノード正常。 メタインパラレーター正常、ゲンシロリン開放、パワーブロー正常。 全システムオールグリーン。 『ストライクフリーダム』、システム起動!!



キラは言葉と共にものすごいスピードでキーボードを打ち、全てのコマンドを入力した。その所要時間は1分もかかってはいない。







エターナルで静かに眠りについていた『攻撃自由』という名を持つ8枚の羽を持つ天使が再び甦った・・・・・。








2006/01/20














キラ、漸く始動です!!(爆)
保志さん、本当にお疲れ様ですv
あんな早口言葉・・リスニングが大変です;
(『ストライクフリーダム』起動時)
どこか間違いがあるやも・・・^^;
ミネルバには早々沈んでいただきましたv
あの艦は・・呆然としていたのでアスランがvv
戦闘は中休みです
(移動中でしたから)
すでに、原稿は仕上がっていますから次回が最終話となります。