《・・・落ちたものだな、ザフトも。 ・・こいつらの実力では‘紅’服を纏う資格がない。 せいぜい、‘緑’だろう?》



《だな。 ・・俺たちよりも個性が強い。 それによって、射撃、剣術においてその差が極端すぎる。 ‘紅’は、全てにおいて平等に高レベルじゃないといけないな》



「・・・・俺が言った通りだろう? やつらは‘紅’をその身に纏う力量ではない。 ・・・・ザフトのセキュリティーでさえ、昔よりも穴が多い。 ・・・『コーディネーター』がいかに優秀だとしても、『ナチュラル』も馬鹿が多いわけじゃない。 俺たちが2年前、【ヘリオポリス】に仕掛けたことをそのまま実行したからな。 この戦争の始まりともいえるザフトの新型が連合に3機奪取されたことは」



確かに、この2年間は平和だった。

・・・だが、あの戦いを前線で体験した俺たちにとっては、それはただの偽りだとしか思えなかった。
あの時、俺たちは必死で共存の道を探した。

・・・キラが、それを強く望んだから。
他の者たちのように『ナチュラル』が全て憎いわけじゃない。

・・・母上を・・罪もなき、【ユニウスセブン】に住んでいた民間人を殺した地球軍は正直憎いが、全てを滅ぼそうとは思わなかった。
俺がザフトに所属したのもあんな無益な戦争を終わらせてキラを迎えに行きたかったからに他ならない。

・・・そんな似た思いのやつらばかりが志願した軍だった。
開戦まじかだったせいか、アカデミー時代も殺伐とした空間だった。
・・今思えば、アレは訓練の一環だったのかもしれない。
あの空気に耐えられない者は、戦場でも同じようなことを起こすからな。

・・・しかし、平和ボケした者たちによって軍の最高機密であるマザーのセキュリティの退化と軍人としての未熟さがやつらの実力を物語っている。





その証拠に、俺たちの中で一番‘紅’にプライドを持っていたイザークから《緑服》宣言をされたのだからな・・・・?








制  裁
    ― 魔王降臨 ―











その頃、2隻同盟艦とミネルバの戦いはやはりと言うべきか今までの場数の勝負となっていた。ミネルバのブリッジではアスランたちの戦いによって動揺が走り、通信系統に支障がおきているが、2年前に激戦を繰り広げてきたAAとエターナルは各自の仕事をこなしていた。



「『ゴットフリート』照準。 目標・ミネルバ右翼!! その後にミサイル発射官『スレッジハマー』12番照準・ミネルバ後方!!」



マリューの言葉と共に『ゴットフリート』が放たれた。その瞬間、あたり一面が明るい光に包まれ、煙幕の役割を果たした。その隙に前門で開かれていた『スレッジハマー』から発射されたミサイルがミネルバの後方に命中した。



「艦長!! 敵艦の主砲が掠めました! 危険レベル3に上昇。 !! 後方に、熱源8確認!! これは・・ミサイルです!!」


「回避!!」



目の前で再び緑色に光る高エネルギー収束火線砲を見つめ、煙幕に隠れた瞬間に体勢を立て直そうとした。しかし、この煙幕でさえ敵の計算内だったと知るのは次のクルーの言葉を聴いてからであった。クルーの言葉に驚いたタリアはすかさず操縦士に避けるように命令した。



「だめです、よけ切れません!!」


「っ!! 総員、衝撃に備えて!!」



タリアが報告を受けた時点で避けることは不可能となっており、後方と右翼にAAからの攻撃が直撃していた。



「危険レベル、4に上昇! ブロック2と6にて火災発生!! 消化班は速やかに消火に当たってください!!」



ミネルバの損害を伝えるメイリンの言葉にこれまでに無い緊張が走った。タリアは唇をかみ締め、陽電子砲準備を副官に命じた。



「・・・『タンホイザー』起動。 照準・『アークエンジェル』!!」



『タンホイザー』は照準をAAのブリッジへと向けた。






AAでは、前方にいるミネルバからの熱源を感知していた。AA、エターナルの通信機器及びハード、ソフト面においてアスランが合流した時に強化されていた。それにより、今まで感知できなかった広範囲での確認を可能としたのだ。



「艦長! ミネルバより、陽電子砲の発射準備を確認!」


「・・・陽電子砲を? 右舵後方40、面舵前方20。 ノイマン、タイミングをお願いね」


「分かりました、艦長。 ・・・ギリギリで回避します」



トノムラの言葉に焦りを感じさせない口調でAAの舵を操るノイマンに話しかけた。彼は2年前もAAの舵を握っており、今までの激戦を耐えてきた操縦士である。そのため、反射神経が優れており、ミネルバから発射される『タンホイザー』を寸前で避けようとした。



「回避と同時に『バリアント』発射準備。 照準・ミネルバ主砲!」



マリューは相手の攻撃後、すぐに防衛を晴れないと言う弱点に気付いており、そこを突いて一気に決着をと考えていた。

『タンホイザー』が発射されたと同時にノイマンは予測される時間を瞬時に弾き出し、艦に当てることなく攻撃を回避した。

回避した瞬間、既に準備されていた『バリアント』を発射し、対処の出来なかったミネルバの主砲2基を含む複数の武装を消失させた。この攻撃によって、ミネルバの武装のほとんどを破壊し、勝敗は目に見えていた。

その頃、3隻から少し離れた戦場でもまた勝敗が目に見えている展開となっていた。



「イザーク、ディアッカ。 このデータを組み込んでおけ。 今までのパターンをデータ化したものだ」



《了解。 ・・・しかし、やつらも馬鹿な真似をする。 俺たちの裏を掻いたと思っているだろうが、それすらも予想の範囲内だということにまだ気付いていない》




《・・・当然だろう。 俺たちは攻撃してもアスランはデータを収集していたんだからな。 実力は下でも、何事にもデータは重要だろう?》




アスランは先ほどまでのパターンをデータ化し、近くにいる2機にそのデータを転送した。彼らの戦い方は、まずは攻撃パターンを解析したデータの収集である。そのデータによって、攻撃パターンを変えていくのが彼らのやり方であった。それに気付いていない3機は自分たちが有利だと過信していた。




《これで、終わりだーーーーーーー!!!!》




シンの乗る『デスティニー』は左右の掌に装備されたビーム砲『バルマフィオキーナ』をアスランの機体に向けて叩きつけようとした。



「・・・そんなもので俺を倒せると思ったのか?」



アスランはコックピット内で冷笑を浮かべると回し蹴りの応用で攻撃を避けた。その際、強く蹴られたのか左手が損傷し、砕けた。

その隙を突いて『レジェンド』が後ろから攻撃を仕掛けようとしてきたが、そのことを予測していたアスランはビームサーベル『シュペールラケルタ』を振り向いたと同時に振るった。それにより、『レジェンド』の片足を消失させた。




《・・・アスラン、お前はそっちの相手をしていろ。 俺は、エターナルの側に行く。 ディアッカは『インパルス』の相手でもしてやれ》




『デスティニー』と『レジェンド』を粉砕していくアスランに対して半ば諦めたイザークはこれ以上この場にいないということを選択し、早々に立ち去ろうとした。アスランが見向きもしない『インパルス』の相手はディアッカに任せるとラクスが乗る艦を守るべく、エターナルへと向かった。




《・・・リョーカイ(俺も逃げたいっ)》




イザークからの通信を受け取ったディアッカは内心逃げ出したいという気持ちを何とか押さえ込み、その怒りの矛先を『インパルス』に向けた。



「あぁ。 ・・・すぐには殺さないさ。 コックピットは最後に貫いてやる。 ・・・・キラの痛みはこの程度じゃないからな。 ・・・まぁ、お前たちの運命はどの道、これ以上はないからどちらにせよ一緒か」



イザークとの通信をOFFにしたアスランだが、ディアッカは両方と繋がっていたため、表情は見えないもののアスランの冷たい声と共に舞い込んだ冷気に青筋を立てた。




《・・・そっちはお前の好きにしろ。 『インパルス』の相手は俺がしてやるよ》



「あぁ。 ・・・その機体は『フリーダム』を破壊したが・・・パイロットが違う。 ・・・機体だけを相手しても意味がないからな」



この状況から逃げ出せないと痛感したディアッカは諦めたようにアスランに伝えると腰の右側に装備されている『ガンランチャー』を『インパルス』の両足に照準を合わせて発射させた。

イザーク、ディアッカの乗る機体は2年前彼らが乗っていたGシリーズを修復させていたものであるため、彼らにとってはゲイツやジグーなどよりも火器系が扱いやすくなっていた。

ディアッカが『インパルス』と交戦している間にもアスランは容赦なく『デスティニー』と『レジェンド』に攻撃を加えていった。

両腕、両足と次々と切断し、コックピットのある胸部以外を粉砕していった。




《っ!!》



《シンッ!!》



「・・・キラであれば、この時点で戦闘をやめていただろうが・・・それではお前は満足しないのだろう? コックピットをあえて狙わずに戦っていたキラを嘲笑ったお前は。 ・・安心しろ。 俺はお前たちに対して、慈悲というものが失せているからちゃんと止めを刺してやる。 だが、暫しの間は死への恐怖を思う存分味わうがいい」



アスランは強制的に自分と交戦している2機に通信回線を開き、その顔に冷笑を浮かべた。そのアスランの様子はミネルバにいた頃に一度も見られないものだったためか、2人は息を呑みこんだ。




《・・なぜ、あなたが『フリーダム』に対してそんなに執着をする!? あのまま、ギルの言うとおりにしていれば理想が手に入ったものを!》




レイは苦し紛れにアスランに問いかけた。彼の機体はアスランによって頭と胸部、左足しか残っておらず、攻撃もできない状態となっていた。



「・・執着? 何を勘違いしている。 ・・いいだろう。 冥土の土産にでも聞いておくんだな。 ・・特に、シン=アスカは聞いておくべきだろう。 自分が一番不幸だと思い込み、英雄かヒーローと思い込んでいるお前は知っておくべきことだ。 戦争というシステムを。 そして、誰しも被害者であるがそれと同時に加害者だということを」



《何を言っているんだ、あんたは。 俺が加害者? 家族を失い、大切だった・・っ!?》




シンは最後まで言葉を発することができなかった。アスランが『デスティニー』に向けて『ファトゥム-01』を発射したためであった。



「・・・それがどうした? だから、『フリーダム』を討つことがその理由となるのか? ・・・・お前が、そうして『フリーダム』を討った。 であれば、俺がお前たちを討つことのどこが疑問に感じる? 貴様たちと同じ理由だろう?」



アスランは照準を『デスティニー』にぴったりと合わせると通信回線を開いたまま画面の向こうにいるシンを睨みつけた。




《・・『フリーダム』のパイロット・・キラ=ヤマトを生み出すために俺が・・ラゥが犠牲となった! キラ=ヤマトという完成品を生み出すために、俺たち欠陥品が生み出された!! そして、ラゥもやつに殺された。 それを恨んで、何が悪い!? それを妬んで!! 人間たちも同じじゃないか!!》




レイは感情的になり、アスランに向かって叫んだ。しかし、そんなレイに対しても何の感情も生まれなかった。





アスランはキラの出生のことを2年前に本人の口から聞いていた。語られた当初は驚いたものの、それによってキラに対して嫌悪感を感じることはなかった。彼女の出生の秘密と同時にザフトに所属していた頃の上司がクローンだということも同時に知ったが、それに対しても感情が動かされなかった。キラ以外のことでめったに感情が動かされないアスランにとって、レイの言葉はただの妬みとしか受け取らなかった。

キラは、この2年間自らが人前に出ることを極端に嫌がった。アスランがキラの頼みでオーブにいるカガリの護衛をしている頃、ラクスと一緒に孤児院の子どもたちと一緒に過ごしてはいたが、月に住んでいた頃のように笑うことなく、ほとんどを自室で過ごす毎日であった。外にしても、アスランが連れ出さないと出ようとはせず、人との関わりを極限に避けていた。

一時期、子どもたちがキラに触れようとした時に震えてしまい、キラに触れることができるのはアスランと一緒に暮らしていた義母であるカリダのみであった。





そんなキラの様子をまじかで見てきたアスランにとってレイから語られる言葉はどれも甘えとしか思うことができなかった。



「それがなんだ? キラが〔完璧〕だから羨ましいのか? 〔欠陥品〕だと言い訳して諦めていただけだろう? キラは、その事実を知っても尚自らの足で立とうと必死にがんばった。 ・・・俺にとっては、お前たちは加害者でしかない。 『フリーダム』のパイロット・・キラ=ヤマトは俺の最愛の者。 この世で唯一無二の存在なのだからな」



アスランはひどく静かな声でレイの反論を粉砕した。しかし、その瞳は言葉の音と裏腹に憎しみの炎を宿しており、その視線をシンに注いだ。彼にとって、今一番憎む者はシンである。




《!! 『フリーダム』のパイロットが!?》



「・・・お前は身をもって知っているはずだ。 唯一無二の存在を傷つけられた場合、傷つけた相手をひどく憎む心を。 ・・・だから、言ったはずだろう? “憎しみで敵を討てば、その何倍ものの憎しみを受けることになる”と。 ・・あの世で悔やむといい。 シン=アスカ、レイ=ザ=バレル」



アスランは瞳に宿した憎しみはそのままに、『ファトゥム-01』の首部周辺装備された『ハイパーフォルティス』2基の照準を前方にある2機のコックピットに合わせ、躊躇いもなく発射させた。

発射されたビーム砲は照準が狂うこともなくコックピットを貫き、跡形もなく爆発した。

『デスティニー』、『レジェンド』の爆発と同時に、ディアッカと交戦していた『インパルス』も同時に爆発を起こし、ミネルバを守るMSは消滅した。








2006/01/01














新年、明けましておめでとうございます。
年明け早々、【制裁】9話目をお送りいたします。
・・・今回は、死にネタ注意報が発令いたします。
・・まぁ、シン好きさん及びミネルバ好きさんはいないだろうとは思いますが。
『デスティニー』&『レジェンド』VS『インフィニッドジャスティス』の戦いをお送りいたしましたv
アスランはキラ至上主義者です。
第3勢力で頑張っていたのはキラが暮らす平和な世界を創るためです
(それが例え、偽りだとしても)
しかし、そんな彼にとって最も大切な者を傷つけた彼らをアスランが許すはずがありませんv