「CPG設定完了、ニューラインケージ四ノード正常。 メタインパラレーター正常、ゲンシロリン開放、パワーブロー正常。 全システムオールグリーン。 『ストライクフリーダム』、システム起動!!」
僕に、力を貸して。みんなを・・・アスランを守りたい。
――――――― 天使は再び、その手に剣を持つことを決意した。
制 裁
《各クルーたちに連絡。 ただ今より、本艦は戦闘区域へと移ります。 コンディションレッド発令。 パイロットたちは、そのまま待機していてください》
ラクスの言葉が全艦に響き渡り、イザークたちはそれぞれのモニターとブリッジへの通信回線を開いた。
「・・・アス、イザーク、ディアッカ。 このデータ、一応見ておいて?」
《キラ・・・。 このデータはどこで?》
キラはとあるデータを画面上に起動させ、アスランたちの機体に転送させていった。そのデータとは、これから自分たちが向かう『メサイア』の情報でもあり、部屋の中で静かにしていたキラに疑問を感じたアスランが尋ねた。
「・・・アスが帰ってくる前、ザフトのマザーにちょっとだけお邪魔したんだ。 ・・・そしたら、ちょうど隠しファイルにヒットしたらしくて・・。 そのデータはそのファイルにあったやつだよ? ・・・『メサイア』って書いてあったから・・・もしかして関係があるんじゃないかなって思って」
《・・・姫の趣味、‘ハッキング’だったもんな・・・・》
キラが慌てて言い訳を言っている中、先の大戦時に彼女のプログラミング能力の高さを目の前で見ていたディアッカは思い出したかのように呟いた。その言葉は、隣にいたイザークが‘ハッキング’という言葉にフリーズされていた。
《目標まで、180!!》
《まもなく、戦闘区域へ入りますわ。 みな様、ご武運を。 私も平和の歌を歌いますわ・・・・。 ・・ミーティア、起動!! 『ストライクフリーダム』、『イニフィッドジャスティス』、『デュエル』、『バスター』は、発進してください!!》
艦に響いたオペレーターとラクスの声にコックピット内にいた4人は頷きあった。自分たちの前にあるカタパルトが開いていき、それぞれのモニターに映ったラクスに微笑を返した。
《・・・イザーク・・。 ご無事でお戻りになるのをこの場でお待ちしておりますわ》
「あぁ。 ・・・この艦は俺とディアッカが守る。 『メサイア』にはアスランが。 その近くをキラが守る。 ・・・心配するな。 必ず、全員で戻ってくる」
イザークは画面に映るラクスに優しく微笑むと瞳を閉じ、再びそのアイスブルーを見せた時には軍人としてのイザークの姿があった。
「イザーク=ジュール、『デュエル』、出るぞ!!」
「ディアッカ=エルスマン、『バスター』、発進する!!」
先に、イザークとディアッカが戦闘区域である宇宙へと機体と共に出撃した。
《『インフィニッドジャスティス』、『ストライクフリーダム』発進後すぐに『ミーティア』、リフト・オフ!!》
「アスラン=ザラ、『ジャスティス』、出る!!」
「キラ=ヤマト、『フリーダム』、行きます!!」
戦場にて2年前と同じように赤と白を強調した2機のMS・・・『攻撃自由』と『不滅の正義』が姿を現した・・・・・。
一方起動要塞『メサイア』では、こちらに向かってくる艦隊の最前列にいる2隻の艦と5機のMSに対抗するべく、『メサイア』の周りにいた全ての艦に伝達を伝えていた。
「・・・『ネオ・ジェネシス』を起動させる。 急いで準備に取り掛かってくれ」
「目標、射程距離まで後20。 『ニュートロンジャマ−キャンセラー』起動。 『ニューカートリッチ』、撃破スイッチへ」
議長の言葉に管制官は冷静に対処し、『ネオ・ジェネシス』の起動コマンドを入力していった。これにより、近づいてくる艦隊の大半を消滅させようとの考えであった。
「目標、射程内に入ります」
「撃て」
デュランダルの言葉と同時に高エネルギー体が収束し、発射された。
そのエネルギーに気付いた艦隊だったが、反応が遅れたために、艦隊の半分が壊滅状態となった。
「・・・2発目のチャージ、急げ。 『メサイア』周辺にいる艦に告ぐ。 残りの艦隊への攻撃を開始せよ! ・・・さぁ、今度こそ消えてもらおうか。ラクス=クライン!!」
デュランダルは不敵な笑みを浮かべると宇宙地図へと視線を送った。
その様子をいち早く反応できたのはアスランたちであった。『インフィニッドジャスティス』にはキラが構築したデータが載っており、そのデータによっていち早く感知したのである。2年前のように一瞬にして消し去られた味方艦隊の様子を見ていたイザークはその身に宿る怒りによってコックピット内で震えていた。
《なぜ、あのようなものを再び造りだすのだ!? 2年前の出来事を忘れたわけではあるまい!?》
《・・・イザーク。 アスラン、姫。 この場は俺たちが食い止める。 お前らはとっととあの要塞を落として来い。 あんなもの、守りなんかじゃない。 あれは・・・ただの大量殺戮兵器だ》
一見冷静そうに見えるディアッカだが、画面上に映るディアッカの表情は今までにない厳しい顔をしていた。それほど、彼らのやり方に反感を持っていた。
「分かった。 ・・・アスラン!!」
《・・・あぁ。 行くぞ、キラ!!》
ディアッカの言葉にキラとアスランは自分たちの剣を『メサイア』に向けて発進させた。
《・・・イザーク。 あなた方はまだザフト特有の信号をキャッチできますわ。 ・・先ほど、キラによって何らかのプログラムを受け取っているはずです》
「・・・もらったが? ・・・『メサイア』のデータと一緒に」
《そのデータをお2人の機体に組み込んでください。 キラによって、構築された通信機のデータですわ》
ラクスは2人に通信回線を開き、出撃前に渡されたキラのデータをそれぞれの機体に組み込むように伝えた。彼らはラクスの言葉とキラのプログラムを信じ、データをOSに組み込んでいった。その瞬間、今までにない反応をし始め、すでにザフトの籍を抹殺されているであろう2人の機体に以前と同じような通信を伝えてきた。
「・・・了解した。 ここから伝えられることはエターナルとAAにも伝わるよう、通信回線をオープンしておく」
イザークはラクスとの通信の合間にもエターナルに向かってくるMS部隊に容赦ないミサイル攻撃を加えていった。 アスランたちは『メサイア』付近に到達すると、隣を駆けていたキラに視線を送り、頷いた。
「・・・分かった。 僕はここでMSを迎え撃つね。 ・・・・コックピットは狙わないけど」
《それが、キラの戦い方だもんな。 ・・・だが、キラが危険な目にあったら俺は容赦するつもりはない》
通信回線をお互いに開いたままの戦闘が続き、アスランは撃墜されてもなお他人の命を守ろうとする信念を貫こうとするキラに苦笑いを見せた。
アスランは自分の後方をキラに任せ、自分は『ミーティア』に装備されている『ビームソード』を使って『メサイア』の『陽電子リフレクター』発生装置を破壊した。このことによって、鉄壁を誇る『メサイア』の防御は無効化となり、その隙を突いて『ビームライフル』と共に『ファトゥム-01』と一緒に内部へと発射させた。その際、『ミーティア』に装備されている『60cmエリナケウス艦対艦ミサイル発射管』(合計で77門)を一気発射させ、内部へ侵入した。
内部に入ったアスランはキーボードを取り出し、キラから受け取ったデータを挿入してそこから『メサイア』のマザーへと進入を果たした。
(・・・・やはり、2年前よりもセキュリティーが脆いな・・)
「 」
アスランはそんなことを考えながらも目的の場所へと到達し、ある言葉を残して自爆装置を起動させた。もちろん解除されないようにパスワードを変えているのだが。
その作業を終えたアスランは中心部に向かうことなくキラの元へ急いで戻った・・・・・。
―――― ・・・俺の逆鱗に触れた。その怨み、憎しみをその身をもって知るがいい ――――
宇宙ではザフトと同盟艦が戦闘を繰り返し、エターナルに取り付きそうになったMSにはイザークたちが容赦ない攻撃を加えていた。同胞だが、ラクスの乗る艦を攻撃しようとした時点でイザークの中で敵と断定され、同胞であろうと容赦がなかった・・・。
キラも『メサイア』付近でMSと戦闘を繰り返し、今までのようにコックピットを狙わない戦いを繰り広げていた。
《キラ、大丈夫か?》
「アスラン? うん、大丈夫だよ? ・・・どこ行くの?」
《この場所、ちょっと危険になるからね》
アスランはモニター越しでキラに微笑むとキラを先導するかのように『メサイア』の攻撃範囲から遠ざかり、同盟艦の近くまで撤退していった・・・・。
アスランとキラが戦闘を離脱していった頃、『メサイア』内部では着実に装置が作動し、崩壊が秒読みされていた。
しかし、そのことはプログラム上では確認できないため議長を始めとする『メサイア』にいたクルーたちに気づかれることなく侵食していった。
2機が同盟艦付近にたどり着いたと同時に『メサイア』の後方から激しい音のした爆発音が鳴り響いた。
「何事だ!?」
「分かりません!! き、急に後方から炎上との連絡です!」
デュランダルはオペレーターに怒鳴ると急いで原因を探させた。しかし、全てのモニターに映るプログラムに異常はなく、MSからの攻撃だと思い込んでいた。
・・・・・アスランがマザーにハッキングした際、ダミーとして下からあったプログラムを書き直したプログラムの上に付けていたのだ。その上、書き直したものはアスラン以上つまり、キラくらいしか分からない場所に保存されているため、『メサイア』にいる者たちに気付かれることはなかった。例え、気付かれたとしてもアスランが構築したプログラムを解除できる人間がいないため、どの道一緒なのだが・・・。
原因不明のまま『メサイア』は徐々に崩壊していった。
その様子をエターナルの傍で見ていた『デュエル』と『バスター』はこの崩壊を招いた人物を思い、それぞれのコックピット内で肩を落としていた。
(・・・これで、アスランの怒りが収まるといいけどね。 ・・・まぁ、地雷を踏んだ張本人たちは自身の手で葬ったから・・・一安心か?)
ディアッカはコックピット内で両腕を組みながら『インフィニッドジャスティス』と『ストライクフリーダム』のいる方向に視線を向けた。もちろんその間も自分やAAに向かってくるMSの相手をしながらだが。
「・・・『メサイア』が崩壊していく・・・。 アス、何かやったの?」
《ちょっとプログラムを弄っただけさ。・・・その時、自爆装置を作動させておいたけど》
アスランと回線を繋いだままキラはモニターに映るアスランを見つめたが未だに彼の瞳には怒りが収まってはいなかった。そんなアスランに心の中でため息をついたキラは単独で『メサイア』に進んだアスランの行動を尋ねた。キラの予想通り、『メサイア』崩壊のスイッチを押したのはアスランであった。
アスランは『メサイア』の自爆装置をセットする際、内部の人間に気付かれるのは爆発する5秒前にセットしていた。もちろん、この秒数ではどんなに足の速い者でも港に着くことは不可能である。内部ではちょうどその警告が鳴り響いている頃でもあった。そのため、爆発によって自分たちが巻き込まれないように範囲外である同盟艦付近まで退却をしてきたのであった。
ザフト軍は自分たちの最後の砦とも言える『メサイア』が激しい音をたてて崩壊していくのをただ見つめるしかできなかった・・・・・・・・・。
内部には、デュランダルのほかに多くのザフト軍の軍人たちが取り残されていたが、残り時間を知らせる警報が鳴り響いた時は既に遅しで、気付いた瞬間には爆風に飲み込まれた。
こうして、アスランの目の前で『虚空の天使』を撃った罪深き者たちにアスランはその身をもって償わせたのである。
『メサイア』の崩壊から数分後、『エターナル』のブリッジから強制的に近くの艦隊などにハッキングしての全周波数に合わせてラクスの声明が発表された。
《私は、ラクス=クラインです。 皆さん、銃をおろしなさい。 我々は、戦う理由などないのですから。 あなた方は、その銃で新たな憎しみを生むおつもりですか? そうすれば、〔平和〕がいつまでたっても訪れないということをなぜ、分からないのですか? ・・・『ナチュラル』が憎いとあれば、ご自分の肉親を殺められますか? 私たち『2世代目コーディネイター』の祖父母は『ナチュラル』ですわ。 ご自分の肉親だけは例外だとお考えですか? しかし、ご自分にとっては大切なお方でしょうが・・・他の方には、それは憎い『ナチュラル』と変わりありませんわ。 ・・・私たちは、そのような世界にならないために戦ってまいりましたわ。 議長のおっしゃるプランは確かに魅力的でしょう。 しかし、ちゃんとお考えになられましたか? 全て遺伝子によって皆さんの人生を決め付けられるのですよ? 確かに、戦いはなくなるでしょう。 遺伝子によって決められたレールの上を歩くだけなのですから。 しかし、実際そのような世界となって、果たして〔平和〕と言えるでしょうか? 向上心のない人間があふれかえるだけではないのでしょうか? 私たち人間は、努力してこそ多くの知識を身に付けるのです。 『コーディネイター』だからとか『ナチュラル』だからとかで人間を区別してはいけません。 私たち『コーディネイター』は『ナチュラル』の方々よりも少しだけ記憶するスペースがあると言うことだけなのです。 努力しなければたくさんの知識を身に付けることはできないのです。 連合艦隊は壊滅。 ブルーコスモスの盟主であるロード=ジブリール氏は死亡との連絡を受けておりますわ。 そして・・・ザフトの最高指揮官であるギルバート=デュランダル議長も先ほど、『メサイア』にてお亡くなりになられたとの報告を聞いておりますわ。 ・・・地上・全宇宙にいる皆様に宣言いたします。 私、ラクス=クラインの名の下に、この戦争の終結を宣言いたします!!》
ラクスの宣言は宇宙には全周波に乗って、地上にはハッキングしたマスメディアを通じての宣言だった。この宣言にプラントの評議会及び地上の各国々から申し受けの伝達が送られ、1年にも及んだ戦争が今、終結を迎えたのである・・・・・。
ラクスの声明を各自の機体の中で聞いていた5人は、それぞれの艦に帰還していった。エターナルの格納庫では、イザークの帰還を心待ちにしていたラクスの姿があり、イザークはラクスの姿を肉眼で確認すると『デュエル』のOSにロックをかけるとコックピットの外側を蹴り、一目散にラクスの元へと駆けつけて行った。その様子を隣に固定したディアッカは苦笑いを浮かべながらも幼馴染であり今では上司であるイザークの後姿を見送った。
2機の向かい側に固定した愛機のコックピットから隣に固定された機体へとワイヤーを使わずに半無重力を利用して『ストライクフリーダム』のコックピット付近に張り付いた。
「・・・キラ? 出ておいで?」
アスランは優しく扉を叩き、中にいるキラに呼びかけた。何度か叩いたアスランに反応したのか、今まで物音をたてなかったキラは開閉のボタンを押した。コックピットが開いた瞬間、少しだけ離れた場所にいたアスランはキラの姿を肉眼で捉えると衝動のまま抱き締めた。
「・・・・アス?」
「キラ・・・。 漸く、〔平和〕になったよ。 これで、もうこの機体に乗ることは今度こそないだろうね。 ・・・キラ、俺たちはあの頃に住んでいた【月】に帰らないか? ・・・【プラント】に帰っても、誰もいない。 それに・・・【オーブ】にも住みたくはないからな。 キラさえ良ければ、【月】に帰ろう? 俺たちの育ったあの都市に」
いきなり抱き締められたキラは困惑しながら少しだけ動かせる首を上に向け、アスランの表情を見ようとしたが、アスランはキラを抱き締めたまま首元に顔を埋めた。しかし、そのような体勢でもキラにはアスランの言葉が通じたらしく、思いがけない言葉にキラは思いっきり目を見開いた。
「・・・【月】へ? ・・・あの頃のように、【コペルニクス】に帰れるの? ・・・・帰りたい。 あの頃のように、【コペルニクス】へ。 でも、アスは大丈夫なの?? ラクスたちは、【プラント】に行くのでしょう?」
「いいんだよ、キラ。 俺も静かに暮らしたいから。 それに・・・もう二度と、キラの傍を離れたくないんだ。 【プラント】のことは、何かあれば連絡をしてくるさ」
腕の中で不安そうに自分を見つめる最愛の者を先ほどよりも強く抱き締めた。キラは物理的に息苦しさを感じたが、嬉しいという気持ちが勝り、アスランからの抱擁を受け入れた。
「キラ、このまま待機室に行くよ? ・・・多分、そこにラクスもいるだろうから。 俺たちが【月】に行くことをちゃんと言っておかないとね」
それから数分が経ち、キラを抱き締めることに漸く満足したアスランはこれからのためにキラの腰を抱き寄せて半無重力の慣性を利用して危ない様子を微塵も見せずに静かに降り立ち、そのまま格納庫を後にした。
一方、待機室には一足先にイザーク、ラクス、ディアッカの3人が普段着である軍服を纏い、待機室にセットされた紅茶用一式を使い、くつろいでいた。
「・・・戦闘に出ることがなく、落ち着いてラクスの淹れた紅茶を飲める。 漸く・・・この無益な戦争を終わらせることができたんだな」
「はい。 ですが、これからが大変ですわね。 議長がお亡くなりになられたということは、【プラント】をまとめる方がおられないということですわ」
「・・・ラクスが就任するんだろう? じゃないと、戦争の根源を叩けないぜ? ・・・今の評議会は古い考えを持つ大人が多いからな」
3人はラクスから渡された紅茶を飲みながらこれからのことを話していた。
「・・・そうですわね。 そうするほか、ないですわね。 ちょうど、この艦は【プラント】へ向かっておりますわ。 そのまま、評議会に向かってもいいですわね・・・。 その時は、お2人もご一緒なさってくださいな」
「もちろんだ。 ・・・やつらはどうするんだろうな」
ラクスの言葉に当然とばかりにイザークは頷いた。そんなイザークの様子を見ていたディアッカは必然的に決められた自分のこの先の行く末を考え、小さくため息をついた。
(・・・まぁ、いつものことだしな・・。 一応、俺が副官だし)
心の中で諦めたディアッカだが、背後にある気配に気付き、慌ててドアから離れた。
「そんなところにいると、ぶつけるぞ? ディアッカ」
待機室に入ってきたのはダークレッドの軍服を身に纏ったアスランとキラであった。
「ちょうど、お2人のことをお話していたんですの。 ・・・私たちはこのまま本国へ向かいますわ。 お2人はいかがなされますの? このまま、私たちと一緒に本国へ向かいませんか?」
「・・・・いつかは【月】に帰るつもりでしたから。 俺たちは・・・【月】へ帰ります。 あの場所で、静かに暮らしたいのです。 ・・・ちゃんと、調印式には出席しますよ」
(そのために、基地の自爆範囲を狭めたのだから)
アスランは内心、月基地の自爆装置をセットしたときのことを思い出していた。連合の基地は【月】の表面部分に建設されていたため、内部にある月面都市には問題はなかった。
アスランは社交的な笑みを浮かべるとキラを連れて待機室を出ようとした。
「分かりましたわ。 落ち着きましたら、ここにご連絡を下さいませ」
「うん。 ・・・その時は、みんなで【コペルニクス】に遊びに来てねv いろいろと案内してあげるから!」
「・・・楽しみにしている。 その時は、無理やりにでも休暇を取るさ」
「姫、何もこれが最後の別れってわけじゃねーんだからさ。 今度は、いっぱい遊ぼうな」
アスランが不機嫌になっていくのを意識的に無視したイザークとディアッカはキラに微笑み、頭を軽く撫でた。キラ自身、彼らを兄のようにしか見ていないため、アスランの腕の中で嬉しそうに微笑んだ。
「機体は・・・もらっていきます。 本来、戦争が終結した今不必要でしょうが・・・・そこらへんのシャトルよりも高速ですから」
ドアが閉まると同時にアスランが呟いたこの言葉は部屋の中にいた者たちにちゃんと聞こえていた。ラクスは了承とばかりに頷いたのをドアが完全に閉まる瞬間、アスランは見逃さなかった・・・・・。
アスランは居住区にある自室に入るなり、隣にいたキラを大切そうに抱き上げた。急に抱き上げらあれたキラは驚いたが、アスランの温もりを感じると安心したのか抵抗もせずにアスランの首に抱きついた。その様子を視線を追って見ていたアスランはニッコリとキラ限定の微笑を見せるとそのままの体勢でベッドに座った。
「キラ、病み上がりなのにMS戦を繰り返していたから・・・疲れただろう? 今日はゆっくり休め。 準備は明日辺りにすればいいから」
「・・・アスも一緒?」
アスランはキラが安心するように頭を優しく撫でた。キラはアスランから撫でられる心地よさと彼だけがキラを暖めることのできる安心感を持った温もりを感じ、もっととでも言うかのように自分からアスランに擦り寄った。
しかしアスランの言葉にどことなく不安を感じたキラは、無意識のうちに不安な色を濃く残したアメジストをアスランに向けた。
「もちろんだよ? ・・こうして、腕の中に閉じ込めておくから安心してお休み? ・・・大丈夫。 俺がすぐ傍にいるだろう?」
アスランはキラの不安が何なのかを敏感に感じたのか、優しく包み込むようにキラを抱き締めた。それはまるで、自分はもうどこにも行かないとでも言うかのように優しい抱擁をキラにベッドへ横たわりながら与えた。
「・・・・うん。 お休み・・・・アス・・・ラン」
アスランがキラの額と唇に触れるだけのキスを落としたのを切欠か、今まで張り詰めていた空気を一瞬にして甘えるように無防備になり、身体全身の力をアスランに預けた。
「安心してお休み、キラ。 ・・・お前を脅かす“戦争”という名の『悪魔』はもう二度と現れないから・・・・」
アスランは自分の腕の中でぐっすりと眠っているキラに微笑を浮かべると、自分も休むべく少しだけ抱き締める腕に力を込めるとキラの体温を感じながら深い眠りについていった・・・・・・。
次の日、朝早くから目覚めた2人は食堂で朝食を取ると、【月】へ向かうべく身の回りの準備をし、コンパクトに纏めた荷物を持って格納庫へと向かった。整備士たちは前日からラクスの命令を聞いていたため、誰1人彼らを止めることはなかった。
こうして、エターナルから要である2機がかつて住んでいた彼らの大切な場所・・・【コペルニクス】へ向かって飛び立って行った・・・・・・。
2006/02/05
【制裁】、最終話をお送りいたしました。
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