「アスラン=ザラ、『ジャスティス』出る!!」
俺にとっての天使であるキラを傷つけた者たち・・・。
憎しみに瞳の色を変えた天使の片割れは左翼を艦に残し、『不滅の正義』を纏って宇宙へと飛び出して行った・・・・・。
制 裁
その様子を一足先に出ていた戦闘区域で見つめていたアスランは自分たちの前へ向かってくる新型2機の姿を見ているうちに頭がクリアになっていった。アスランと回線を繋げていたディアッカはもう誰もアスランをとめることができないのだと改めて悟った。
(・・・・アスランのやつ、2年前と同じ瞳の色をしてやがる。 一見、変わったようには見えないだろうが・・、やつの瞳を見れば一目瞭然だ。 普段は淡い翡翠に近いエメラルドの瞳が今では氷のように冷めたく濃いエメラルドになってやがる)
アスランに気付かれないように内心でため息をつき、もう1人回線を繋いでいる画面に視線を移した。 イザークもディアッカ同様、アスランが本気で怒ったことを見たことある経験者なため、彼の変化を敏感に感じ、〔触らぬ神に崇りなし〕とばかりに無関心を装った。 そんな2人に興味はないのかアスランは敵を知らせるアラームが鳴り響く中、ただ向かってくる3機を憎しみの炎を見せる瞳で見つめた。
(『デスティニー』と『レジェンド』・・。 『デスティニー』にシンが搭乗か。 『レジェンド』にはレイが。 ・・あまりで今の『インパルス』のパイロットはルナマリアか)
「イザーク、ディアッカ。 こちらに向かってくる3機は先ほど部屋で記録を見せた後輩たちだ。 今からデータを送る」
ミネルバとの接触の前にアスランはザフトのマザーより新型の存在を知っていた。その際、『デスティニー』と『レジェンド』の存在を知り、同時にその搭乗者の名前を知った。
一方、AAのブリッジ並びにエターナルのブリッジではミネルバから出てきた新型2機に驚きを隠せないでいた。
「前方より、MSと思われる熱源を確認。 その数、3です。 スクリーンに映像でます! MS、1機は『インパルス』と断定。 残り2機、該当ありません!」
「アスランより入電。 “あの機体のデータを両艦に転送する。 あの2機に乗る者たちはミネルバのパイロットだ。 手出し無用。 AA、エターナルはミネルバの相手をされたし”。 残り2機の詳細データ、転送されてきます。 データ確認。残り2機断定。 『デスティニー』、『レジェンド』です!!」
CIC席に着いているダリダとミリアリアの言葉によって新型の名前が明かさせた。
「その3機はアスラン君たちに任せて。 この場で彼の逆鱗に触れることはできないわ。 MSについては迎撃だけに。 私たちの目標はあくまでも前方にいるミネルバよ。 『ゴットフリート』照準。 目標・ミネルバ!!てー!!」
マリューの言葉とともに緑色に光る高エネルギー収束火線砲はミネルバへ向けて発射された。AAから発射されるとほぼ同時にミネルバから『ゴットフリート』と同じくらいの威力を持つ『イゾルデ』が発射されていた。
「回避してください。 右舵後方20、面舵前方40」
ラクスは冷静に状況判断をし、目の前に迫る高エネルギー収束火線砲に対して回避命令を出した。
「主砲発射準備。 ・・・てー!!」
バルドフェルドの言葉とともにエターナルの単装のビーム砲である主砲がミネルバめがけて発射された。
その頃、宇宙のもっとも危険戦闘区域であるMSの戦場では、『インフィニッドジャスティス』が単機で3機の相手をしていた。イザークたちは自分たちの持ち場であり守るべきエターナルの援護をしていたが戦艦同士の戦闘に彼らが役に立つのではなく、もともとは味方であったMSたちの相手をしていた。追撃してこないザクたちを横目で見ながら2人は自分たちの前衛で戦うアスランを見つめた。
(・・・少しは強くなったかと思えば・・・まだまだだな。 この新型の威力は相当なものだろうが、パイロットとして未熟のせいか全てにおいて不十分だ。 ・・・まぁ、2年前みたいに核を積んでいるわけではなさそうだな)
アスランは余裕を見せながら3機の攻撃をかわしながら冷静に相手を分析していた。この3人はアスランがまだミネルバにいた頃から攻撃パターンが変わっておらず、同じところで戦っていたアスランが攻撃を受けるような事を起こすはずがなかった。戦場へ出る際、心配そうにアスランを見つめていたキラに対してニッコリと微笑みながら無傷で還ると宣言していたのが効果的だったらしく、一度も攻撃を受けることがなった。
《アスラン!! 何を遊んでいる!!》
「・・・攻撃パターンを解析していたんだ。 こいつら、俺たちよりも個性が強すぎて攻撃パターンを何通りも考えることはできない。 ・・・その後でもいいだろう? やつらが見たいと言って、俺に喧嘩を売ってきた馬鹿共に俺たちの力を見せ付けるのは」
イザークはいつまでたっても攻撃を仕掛けないアスランに我慢の限界が超えたらしく、通信回線を開いて怒鳴りつけたが本人はその怒鳴り声を予測していたらしく、眉を少しだけ動かしたような変化しか見せず、手元のキーボードを打つ速度は落ちなかった。
《はぁ? あいつら、連携もなっていないのか!? ・・・まぁ、情報解析も立派な戦術だけどさ》
アスランの発言に呆れたディアッカはコックピット内で肩を落とした。彼らが同じ対に所属していた2年前の自分たちも個性が強すぎてほかの隊よりは友好関係はお世辞にもいいとは言えなかったが、戦闘に対しては誰よりもプライドが高く、普段の関係を覆すような連携をとっていた。普段は突っかかるイザークではあるが、情報関係に関してはアスランと今は亡き戦友・ニコル=アマルフィが得意とした分野であった。そのため、情報収集はアスラン・二コル組が。実行はイザーク・ディアッカ組が。というようなコンビを組むことが多かった。時には、アカデミー時代万年トップだったアスランとあとちょっとのところでいつも2位だったイザークがコンビを組むこともあった。この組み合わせの場合、白兵戦を必要とする場合のみだったが。
「あぁ。 だから、脆い部分を衝けばすぐに連携が取れなくなる。 だが、その前に情報収集をしていたほうがより、確実だろう? 大体、この俺がこのような者たちに負けるとでも? キラが撃たれたのはコックピットを狙わないと分かっていての攻撃だった。 あの時からキラ自身が決めた信条・・・〔不殺生〕を利用しての。 そんな者たちに俺は倒されるつもりはないさ」
アスランは不敵に笑うとキーボードを打つ早さに加速をつけた。 最後の仕上げとばかりにエンターを押すころには今までの敵は不満だったらしく、自身たちの目で彼らの実力を知りたいと思ったイザークたちも参戦していた。
《俺たちもやらせろ。 今の‘紅’の実力、知りたいからな。 ・・・‘紅’の実力はそのまま、現段階のザフトの実力だからな》
イザークはこの中で一番プライドが高く、‘紅’を誰よりも誇りに思っていた。そのため、今の‘紅’の実力を気にしていた。
一方その頃、エターナルとAAの2隻と交戦していたミネルバは自軍のMSである3機と交戦しているなんとも見覚えのある機体をメインスクリーンで確認していた。
「この3機・・・、見覚えがあるわね。 『ジャスティス』、『デュエル』、『バスター』? どれも2年前の機体じゃない。 ・・密かに修復されていたのね・・・」
タリアはスクリーンに映し出されている3機を見つめながら呟いた。目の前に飛び交う敵のMSは2年前、【プラント】を守ったと英雄とされた機体たちであった。
「艦長『ジャスティス』、『デュエル』、『バスター』のパイロットたちは確か!?」
「えぇ。 アーサーも知っているはずよ? あの3機・・あの機体たちのパイロットたちを」
副官であるアーサーはうろたえながらタリアに話しかけた。タリアはそんな副官に視線だけ送ると再びスクリーンを睨んだ。ザフトの所属する者・・・いや、【プラント】に住む者たちの中で彼らを知らない者はいなかった。
特に、【プラント】と地球を救ったと言われている3隻同盟に所属していたとされる『ジャスティス』、『フリーダム』、『バスター』の3機はとても有名だった。しかし、『フリーダム』のパイロットについては極秘であった。だが、『ジャスティス』と『バスター』は【プラント】出身者であり、ザフトの‘紅’を纏う者たちだったため名前が公表された。
『ジャスティス』パイロット:アスラン=ザラ
『バスター』パイロット:ディアッカ=エルスマン
そして、最後までザフトに残りただ1人となってしまった‘紅’もまた英雄と言われた。彼は『デュエル』のパイロットだった。
『デュエル』パイロット:イザーク=ジュール
そして、彼らは当時のアカデミーの記録を多数更新していた。その記録はいまだに破られてはいなかった・・・。
「・・・あの3人ですか!? では、ジュール隊も裏切りを!?」
「・・そう、考えるしかなさそうね・・」
「艦長!! 敵のMSより通信回線が強制的に開かれます!!」
クルーの言葉に驚きを隠せないタリアは表面上だけポーカーフェイスを保ち、メインに移すように命じた。
《お久しぶりですね? タリア艦長》
敵のMS・・・『インフィニッドジャスティス』はミネルバに強制的に通信を開いた。映像も一緒に送信したため、メイン画面にアスランの顔が映し出された。 『デスティニー』を相手しながら残り2機をイザークたちに任せたアスランはミネルバのOSに侵入し、強制的に通信にハッキングした。
《・・アスラン=ザラ!! なぜ、この艦所属だったあなたがあの艦にいるの!?》
「私は元々、こちら側でしたよ? ・・とは言っても、ザフトに所属していましたが」
《あなたは、指名手配になっています。 抵抗せずに降伏なさい!》
「・・・私は、もうザフトには戻りませんよ? ・・あなた方は私の逆鱗に触れた。 ・・・お前たちが見たがっていた俺たちの実力、今見せてやろう」
アスランはタリアの言葉を全て無視してミネルバ経由でハッキングしている敵のMS内に搭載されている通信画面を睨んだ。
《あんたらの実力? 俺よりも弱いあんたが?》
《・・・アスラン、その馬鹿はどの機体に乗っている?》
「俺の目の前にいる機体だ。 名はシン=アスカ。 キラの機体・・・『フリーダム』を破壊した者・・。 こいつの相手は俺がやろう」
アスランはイザークの写る画面に不敵な笑みを浮かべ、ミネルバを始めとするハッキングしたシステムから綺麗に抜けていった。 彼らは記録の中でしかアスランたちの実力を知らなかった。特に、力だけをただひたすら求める傾向のあるシンにとってアスランの言葉は届いてはいなかった。 しかし、目の前で繰り広げられている戦いにおいて、シン、レイ、ルナマリアの攻撃は尽く自分たち‘紅’の先輩に当たるアスランたちに命中もしなかった。
《・・・落ちたものだな、ザフトも。 ・・こいつらの実力では‘紅’服を纏う資格がない。せいぜい、‘緑’だろう?》
《だな。 ・・俺たちよりも個性が強い。 それによって、射撃、剣術においてその差が極端すぎる。 ‘紅’は、全てにおいて平等に高レベルじゃないといけないな》
イザークは『レジェンド』を。ディアッカは『インパルス』の相手をそれぞれしていたが、どの機体もアスランたちの機体に触れることさえ出来ずにいた。その間、先ほどまでアスランが3機の攻撃パターンを解析し終えたものを通信機越しにイザークたちに送っていたため、シンたちの攻撃は全て読まれていた。
「・・・・俺が言った通りだろう? やつらは‘紅’をその身に纏う力量ではない。 ・・・・ザフトのセキュリティーでさえ、昔よりも穴が多い。 ・・・『コーディネーター』がいかに優秀だとしても、『ナチュラル』も馬鹿が多いわけじゃない。 俺たちが2年前、【ヘリオポリス】に仕掛けたことをそのまま実行したからな。 この戦争の始まりともいえるザフトの新型が連合に3機奪取されたことは」
アスランは連合に3機のMSを奪取された現場をその目で見ているため、そのようなことが言えた。彼らが実行したものは2年前に自分たち‘紅’が行ったことと似ていたからであったが。 アスランたちは通信機同士で話しながらも3機の攻撃を交わし、自分たちから仕掛けていった。シンたちと決定的に違う点は連携を取りながらも3機同時に攻撃を加えている点である。シンたちの攻撃は単調で、連携はとることもあるが全ての攻撃がヒットすることなく流されてしまう。その点、相手と機体のことをよく理解しているアスランたちはそれぞれの役割を正確に果たし、的確に攻撃を重ねていった。
《!! ・・・これが、あの『ヤキン・デューエ』の戦いを前線で生き残った人たちの実力なの!?》
《!! 俺たちの攻撃は全部交わされる!? 何で当たんないんだよ! 裏切り者のくせに!!》
《シン、ルナマリア。 落ち着け。 短気を起こすとやつらの思う壺だ。 ・・・あの赤い機体に・・アスラン=ザラに俺たちの攻撃パターンを解析されたらしい。 ここからは、各自の思うように攻撃をしたほうがよさそうだ》
レイは冷静にそう2機に伝えたが、それこそアスランたちの思う壺であったことを知る由はなかった・・・・。
2005/12/30
漸く8話目の更新です。
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