「・・・大丈夫ですわ。その際、軍の紋章は外されるはずです。 アスランが着ていらした軍服からもザフトの紋章は取られておりますの。 さすがに、イザークたちはそのままですが」



アスランは、自分にとって最も大切な者であるキラを目の前で傷つけられたことにより、ザフトを見限りました。


ですが【オーブ】の軍服を纏われるのは、彼のプライドに反するからですわ。
【オーブ】はキラを傷つけることしかしない場所。
そのようなところの軍服を纏うことに、彼は強い抵抗感覚をお持ちのようですし・・。
それ故、以前纏っていらした軍服に付いている軍の紋章を外したのですわ。








彼の地雷を踏みし者たちよ。


彼の憎しみは、今まさに始まったばかりである・・・。








制  裁
    ― 月基地崩壊 ―











   一方、アスランによって『レクイエム』の強制沈黙と自爆装置作動をさせられた月基地・『ダイダロス』内では自爆装置作動の警報が鳴り響いていた。



「ジブリール様! 自爆装置が作動しております!!」


「・・・・なぜ、『レクイエム』が作動せずに自爆装置が作動する!?」


「・・・何者かによって、自爆装置と『レクイエム』発射のコマンドが変えられております!! ・・・!? 残り時間・・・3分ですっ!!!」



オペレーターの士官は蒼白しながら自分の上司であるジブリールを見た。残り、3分しかないのなら、誰も逃げ出すことはできない。ここからシャトルのある港まで5分以上はかかるからである。




ジブリールが何かを言いかけた瞬間、『レクイエム』の隠されている月の裏付近から黒煙が上がり、基地内も所々爆発してきた。



アスランは最初に『レクイエム』の自爆をセットしていた。基地はその崩壊と共に作動させるようにセットしたのである。そのため、基地内部に警報は鳴らず、残り時間が少なくなってからの警報だったのだ。




それから暫くして、中心部でありジブリールたちのいる司令塔付近で爆発があり、その爆風によって瓦解されていった。『ダイダロス』の外では、プラント製の民間シャトルが月面都市・【コペルニクス】に向かっていたが、『ダイダロス』の崩壊に巻き込まれ、粉砕された。



「・・・艦長、月基地が爆発しております」



その様子を近くで見ていたAA、エターナルは目の前に広がる光景をただ、見つめていた。




(・・・これほどまでに彼は怒っているのね・・)




マリューはクルーの報告を聞きながらこの騒動を起こした人物を思い出していた。






『ダイダロス』崩壊は、もちろんAAの前を進攻していた『ミネルバ』からもその光景が見えていた。



「艦長、あの基地はジブリールが向かったとされる基地ですよね!?」


「えぇ。 報告ではそのように聞いているわ。 ・・・なぜ、自爆しているのかしら・・・」



『ミネルバ』のブリッジでは目の前に広がる光景をただ呆然と見ていた。自分たちが取り逃がしたジブリールを追ってオーブから再び宇宙へと戻ってきた彼らは、そのまま目標が向かったとされる月基地へと来ていた。



「!! 艦長、この艦後方に熱源を2つ感知!! これは・・・・艦クラスです!!」


「今まで気付かなかったの!?」


「申し訳ありません!! 今まで機影に引っかかりませんでした。 ・・・データとの照合の結果、目標である『浮沈艦』と『FFMH-Y101 エターナル』と断定!!」


「なんですって!? ・・っ! コンデションレッド発令! ブリッジ遮蔽」



オペレーター・・メイリン=ホークの言葉にタリアは驚き、慌てて戦闘配備を発令した。



「コンデションレッド発令、コンデションレッド発令。 攻撃目標確認。 『浮沈艦』及び『FFMH-Y101 エターナル』! 『デステニィー』、『レジェンド』、『インパルス』、発進準備!! 目標までの距離・1500!!」



メイリンの言葉と共にタリアたちのいるブリッジが遮蔽し、パイロットたちは所定の位置へと急いで行った。






その頃、2隻同盟艦はその様子を予測していたらしく、両艦の艦長は慌てなかった。


ラクスは今までの柔らかい表情から一転して何かを決めたかのように澄んだ瞳で前を見据えた。



「そろそろとは思いましたが。 ・・コンデションレッド発令。 ミーティアの整備はどうなっておりますの?」


「ミーティア、全ての整備終えています。 いつでもOKとのことです。 コンデションレッド発令、コンデションレッド発令。 攻撃目標確認。目標・『LHM-BB01ミネルバ』!! 『イニフィッドジャスティス』、『デュエル』、『バスター』、発進準備!!」






同時刻、隣の艦の艦長であるマリューもまた、先ほどまで医務室へ赴いていたが今までにない決意を見せた瞳をしながら艦長席に着いた。



「私たちも戦闘配備に移ります。 総員、第一戦闘配備!!」


「総員、第一戦闘配備!! 『ガイア』、発進準備!」



マリューの言葉にミリアリアは艦全体に聞こえるようにマイクをオンにし、メインスクリーンにエターナルとの連絡を取れえるように通信回線をまわした。地球にいた際、アスランによって回線関係は改善され、依然できなかった作業を即座に行えるようになっていた。



アスランの乗る『イニフィッドジャスティス』の発進命令を出されたことをアスランは自分たちの部屋でそのことを聞いていた。エターナル全体に警報が鳴り響き、少し落ち着いていたキラは再び震えだしていた。



「・・・『ジャスティス』!? アスラン・・戦うの?」


「あぁ。 『インフィニッドジャスティス』は俺の機体だ。 ・・本当に守りたい者を守るために俺に与えられた剣だから」



アスランはニッコリと微笑むとキラの頬に触れるだけのキスを落とした。昔からの名残で風邪を引いたり身体の調子が悪い時に傍にいてあげられない場合、頬にキスを落とすようになっていた。そのことを覚えていたキラは、驚いたようにアスランを見つめた。



「っ!! 僕も一緒に行く!!」


「・・・キラは、まだ安静にしていけなきゃならないだろう? さっき起きたばかりでまだきついはずだ。 ・・・大丈夫。 イザークとディアッカがいるんだぞ? だから、キラは安心してここで休んでいて? 戦闘が終わったらすぐにここに帰ってくるから」



アスランはふらつく身体を支えて一緒に行こうとするキラを宥め、優しく栗色の長い髪を梳き、ベッドへと戻した。いまだ何かを言いたそうな表情を見せたキラに対して苦笑いを浮かべ、額と唇にキスを落として小さく「行ってきます」と呟いた。

長年の付き合いからか、アスランのお怒りがMAXだということをキラは無意識に感じ取っており、どうにかしてアスランの怒りを納めようとしていたが、それはアスラン本人によって遮られ、もう誰にも彼を止めることは不可能ということになった。






アスランが不穏なオーラを取り巻きながら格納庫へ急いでいる頃、AA、エターナルのいる後方へ方向転換してきたミネルバは両艦に勧告もなく、いきなり42cm通常火薬3連装副砲『イゾルデ』を発射し、AA、エターナルに攻撃を仕掛けてきた。



「回避してください!!」



《総員、衝撃に備えて!!》




エターナルの格納庫ではAAと通信を艦全体に繋げているためか格納庫内に響いていた。戦闘中はキラたちの部屋以外回線を繋げているため、このようにAAの指示も聞こえてくる。もちろん、エターナルのブリッジの指示も聞こえてくるため、艦内は混乱しそうだがそこは『コーディネーター』だからなのか、大して混乱は起きなかった。


両艦とも目立った損害はないがそれぞれ被弾したらしく、整備士たちに緊張が走った。



「・・・何も勧告なしにいきなりの攻撃・・・。 やつらはよほど、俺を怒らせたいらしい」



アスランは誰に呟くこともなくその様子を後ろから見つめていた2つの視線があったが、元同僚たちの視線だと気付いていたアスランは特に何も言うわけでもなく、淡々と言葉を発すると今までにない闇とも言える黒いオーラを纏いながら『イニフィッドジャスティス』のコックピットに乗り込んだ。その間、アスランは特に何も言うわけでもなく2人の視線を無視した。



「・・・あいつ、相当切れてるな。 さっきがまだましだったぞ」


「当たり前だろう? 何の勧告もしないでいきなり撃ってきたんだ。 クルーゼ隊の頃だってそんなまねはしなかった。 ・・というか、MSを発進せずに攻撃した艦など、始めて見たぞ」



2つの視線・・イザークとディアッカは目の前を通り抜けていった元同僚を見ながらそれぞれの機体のコックピット内へと乗り込んだ。



「・・・ラクス、俺たちも出る。 ミーティアは使えるな?」



《はい。 整備は終わっておりますわ。 みな様、ご武運を。 ・・ミーティア、起動!! 『イニフィッドジャスティス』、『デュエル』、『バスター』は、発進してください!!》



「アスラン=ザラ、『ジャスティス』出る!!」


「イザーク=ジュール、『デュエル』、出るぞ!!」


「ディアッカ=エルスマン、『バスター』、発進する!!」



エターナルのカタパルトからMS3機が宇宙へと飛び出した。



「ミーティア、リフトオフ!!」



エターナルのブリッジでは前を見据えたラクスがミーティアを『イニフィッドジャスティス』に換装させるよう要請した。






その頃、隣艦のAAでも『ガイア』の発進準備をしていた。




《『ガイア』、発進どうぞ!!》



「ムゥ=ラ=フラガ、『ガイア』、発進する!!」



ミリアリアの発進スタンバイの合図と共にフラガはエターナルから受け取った『ガイア』に乗り込み、エターナルから出た3機を追って宇宙へ飛び出した。



「エターナルの前に出る。 ゴットフリート、バリアント起動。 ミサイル発射官、前門コリントス、スレッジハマー総点」



マリューの言葉と共にAAの外部武装が開かれ、225cm2連装高エネルギー収束火線砲『ゴットフリート』は収納された場所からせり上がってきた。AAの副砲である110cm単装リニアカノン『バリアント』は艦尾両舵に1基ずつ装備されている『リニアガン』である。前門にある全てのミサイル発射官を開き、次にくるであろうミサイルの防衛と攻撃のために前門を開いた。






エターナルよりアスランたちが宇宙へ出た頃、何の勧告もなしにミサイルを撃ってきたミネルバでは、シンたちパイロットの発進準備を待っていた。



「シン=アスカ、『デスティニー』、行きます!!」


「レイ=ザ=バレル、『レジェンド』、発進する」


「ルナマリア=ホーク、『コアスプレンダー』、行くわよ!」



ミネルバからも2機のMSと1機のMAが宇宙へと飛び出していった。








2005/12/19













7話目更新ですb
・・・漸く、終わりに近づいてまいりましたね!
本編では、『レイ』と『最後の力』辺りだとお考えください。
月基地、自爆させてしまいまいた^^;
・・・・『レクイエム』をそのままにしておくと、何かと大変なので;
次回〜最終話までは・・・苦手な戦闘シーンでしょうね・・。

艦の火気系統を調べながら書きますのでっ!