「・・・そのような顔をなさっても、自業自得ですものね。 ・・・マリューさん予定では少し早まりましたけど・・この際、仕方ありませんもの。 今から、オーブへ強制送還をなされては? このまま、AAにいらしてもこのような騒動を起こしてしまわれるだけですもの。 ・・私たちには一刻の時間も惜しいと考えておりますし・・・・」



あの時から2年も経った。
少しはマシになったかと思ったが・・・・。
あの女にとって見ればそんなもの関係はなかったようだな。


あいつは、目の前で自分が最も大切に想う者を殺されかけた。
結果だけ見れば未遂だが、やつにとってはそれほど衝撃的なことはなかっただろう。

・・・あの時とは違うぜ?
迂闊なことを言えば、只ではすまない。

・・・・既に、姫を・・姫の乗る『虚空の天使』と異名を持つ『フリーダム』を破壊した『ミネルバ』クルーと『インパルス』のパイロットは死が宣告されてるが・・・。









制  裁
    ― 新しき剣 ―











《分かったわ。 ・・・この方たちをポットへ。 ・・マードックさん、この人たちをオーブへ向けて射出してください。 ・・・目標は・・・この画面に映し出されますから》


《分かりました、艦長。 ささ、オーブからこられた方はこのポットの中へ。 予定は狂いましたが、今からオーブへ帰っていただきますよ》




 マードックに押されながらオーブの軍人たちは民間人用のポットの中へと入れられていった。最後まで抵抗を見せたのは分かりきっているとは思うが・・・カガリであった。




《私はここに残る! 触るな!!》




 カガリの抵抗はむなしく、AAの整備士たちによってポットの中へ入れられていた。



「・・・お前がこちらにいても何の役に立つ? 邪魔ばかりをしているお前が。 ・・・MS戦でも邪魔にしかならない。 もちろん、ブリッジクルーとしても迷惑でしかないということを気付かないのか?」



 アスランの冷酷とも言えるこの一言によって、カガリは抵抗を見せなくなりマードックたちによって詰め込まれた。




《準備完了です、艦長。 ・・・・目標、オーブ連合首長国》




 AAのブリッジで舵を握っているノイマン言葉によって格納庫のハッチが開かれた。その様子をエターナルのブリッジで見ていたアスランたちは直後に通信回線を切った。


「お邪魔な方をお返しいたしましたから・・・コレで少しは静かになりますわね。
こちらへお呼びしたのはコレのことでしたので・・アスランは先にお部屋へキラを休ませてくださいませ。 お部屋のほうは、
2年前と同じですわ。 ベッドで安静にしておくほうが傷にもよろしいのでは?」


「・・・そうですね。 では、そうさせていただきますよ。 俺はキラの傍にいますから。 急用以外の通信関係は受け付けませんから」


「承知しておりますわ。 こちらも急用以外であなた方の時間を奪うことはいたしません」



 ラクスは先ほどカガリにぶつけた毒舌が嘘のような微笑をアスランたちに見せた。そんなラクスに苦笑いを浮かべたアスランは隣にいたイザーク達に視線を送り、一礼をしてブリッジを後にした。


アスランの視線の意味に気付いた元同僚たちはアスランの後を追うようにブリッジを後にし、アスランたちの部屋へ向かった。ディアッカは2年前の大戦時に何度かこの艦に来ていたため、アスランたちの部屋の位置を把握していたため問題はない。しかし、先に部屋へ向かっていると思われていたアスランはブリッジと居住区の境目にある廊下でイザークたちが来るのを待っていた。



「・・意外と早かったな。 もう少し遅いと思っていたが」



アスランは意外そうに2人を見つめた。しかし、その表情はどこか信頼をしている色を見せ、ミネルバにいた頃には見られなかった笑みを浮かべていた。



「・・会ったばかりのやつなら気付かないだろうが、俺たちにはすぐに分かる。 ・・・なにせ、あの合図は俺たちしか使わないからな」


「そそ。 ・・・たった2年で忘れるほど単純な合図を作った覚えはないって」



イザークはどこか馬鹿にしたように視線を横へ移したが、その表情はどこか照れているような感じのものであった。そんなイザークの様子を真横で見ていたディアッカは笑いをイザークにばれないように堪えながらアスランに苦笑いを見せた。






   彼らがまだ軍に配属されて間もない頃、合図を決めることになった時に皆が一斉に主張したのがこの“視線”であった。いくつかのパターンがあり、彼らだけにしか解読のできない合図となっているため、ほかの者たちがその視線を見ていたとしてもそれ自体が暗号と化しているということは誰も気付かないのだ。・・・それほど高度なものを彼らは当時使用していた。





AAよりオーブへの強制送還作業が行われている頃、地上ではロゴスの本拠地を言われていた【ヘブンズベース】を崩壊させ、ザフトは勝利を収めていた。しかし、ラクスの予想通りブルーコスモスの盟主であるロード=ジブリールはオーブへ逃げたらしく、『ミネルバ』を始めとするザフト勢力はそのままジブリールを追ってオーブへと向かった。





ザフト勢力がオーブへ向けて侵攻している頃、宇宙にいるエターナルを始めとする第3勢力はそれぞれの情報網を利用し、地上での動きを見ていた。



「・・・やはり、歌姫の勘は当たったみたいですな。 ジブリールはオーブへと逃げた。 ・・セイラン家とやつは関わりが深い。 十中八九、匿うでしょうね」



 部下から渡されたコーヒーを静かに飲みながら目の前に移るデータに視線を向けた。



「・・・ですわね。 ・・・アスランたちは、お部屋ですか?」



 ラクスは一瞬、悲しそうな表情を見せたがすぐに元に戻り、自分の飲んだカップを直しているクルーに話しかけた。



「はい。 先の大戦時に利用していた部屋に皆さん一緒です。 ・・・放送で呼び出しましょうか?」


「・・・刻が来てしまいましたから・・・。 アスランだけ、格納庫へ呼び出していただけますか?」



 クルーの言葉に頷いたラクスは、それだけを言い残して自分も格納庫へと移動していった。



「分かりました。 ・・・・アスラン=ザラ、至急格納庫へ。 もう一度繰り返します。アスラン=ザラ、至急格納庫へ」



ブリッジでアスランの呼び出しをしている頃、当の本人は最愛の者が眠るベッドに静かに腰を落としていた。彼らはブリッジから出ると、すぐさまこの部屋に向かった。ベッドにキラを寝かせるとアスランは今まで所属していた『ミネルバ』で起きたことを元同僚たちに話していたのだ。



「・・・分かってはいたが、それほどまでザフトは落ちてきたのか。 俺たちがクルーゼ隊に所属していた頃では考えられんことだな。 ・・・特に、やつらに成績は」


「確かにな。 ・・・・俺たちの場合、歴代の中でも優秀だったらしいが。 でも、これほど酷いものも初めてじゃないのか?」


「・・AAでその記録を調べた結果をコピーして持ってきた。 ・・・やはり、あの狸議長が絡んでいたさ。 キラの機体を破壊したインパルスの搭乗者・・シン=アスカは元々オーブ出身だ。 先のオーブ崩壊時に家族を失ったらしい。 まぁ、その仇をとるためにザフトに入隊したんだろうな」



 アスランは持ってきたデータを自分のPCにセットすると、目の前にいる2人に渡し、自分はキラの髪を優しく梳いていた。



「・・・そして、そいつは姫をその仇だと勘違いしたってわけね。 姫はあの戦闘で誰一人犠牲者を出していない。 そのことは戦後俺たちが明らかにしている」


「民間人に対してもか?」


「・・当時の戦闘記録だ。 ちゃんと民間人についても残っているさ。 キラは目がいいんだ。 コックピット内にある側面のスクリーンは地上では常に地面にセットされていた。 ・・・気付かないはずがない」



(・・・アスランのやつ、相当キレてるな)


(当たり前だ。 キラがこの状態では・・・)


(多分、姫が目覚めても止められないと思うぞ)


(ふん。 俺に危害がなければどうでもいいさ)



「・・・・お前たち、小話はこの部屋を出てからにしろ。 丸聞えだ」



アスランから手渡されたPCに移るデータを見ながら、隣にいたイザークと話していたディアッカは、後ろから聞こえるアスランの声に冷や汗を掻いていた。




《アスラン=ザラ、至急格納庫へ。 もう一度繰り返します。 アスラン=ザラ、至急格納庫へ》



「呼び出しだ」


「・・・・格納庫か。 アレか・・・。 すまないが、俺が戻ってくるまでキラを見ていてくれ。 起きないとは思うが、1人だと心細いだろう?」



呼び出しに心当たりのあるアスランは、自分の着ていたザフトの軍服をキラに優しく掛けると額に触れるだけのキスを落とし、ドアまで静かに歩いた。その際、後ろを振り返って未だにデータを見ていた2人に話しかけた。



「分かっている。 当分、俺たちもこの艦に滞在することになっているからな。 ・・・俺の艦は議長に怪しまれないよう、警護に行かせている。 もちろん、前線に出るなと言っているが」



イザークはソッポを向きながらアスランに応えた。この2人は、キラのおかげもあってか2年前よりも友好関係となっており、信頼も築き上げていた。


イザークの言葉を背で受け止めたアスランは苦笑いを浮かべ、そのままこちらに振りかえることなく格納庫へと向かった。





   その頃、既に格納庫に着いていたラクスは目の前にある期待の最終チェックを見ていた。彼女の目の前にある機体は、2年前に自爆して【ジェネシス】を破壊したアスランの愛機にそっくりな形を司っていた。


「ラクス様、最終チェックを終えました。 異常はありません」


「そうですか・・分かりました。 皆様はお休みになられてくださいませ。 ・・暫くしたら、そちらにある2機もよろしくお願いいたしますわ」



 クルーの言葉に頷いたラクスはイザークたちが乗ってきた機体に目を向けると、後ろにいる整備士にニッコリと微笑んだ。その微笑を見た整備士は張り切った様子で敬礼をすると、すぐさま他の整備した地のいる場所へと戻っていった。



「・・・『ジャスティス』・・ですか? ラクス」


「ちょっと違いますわね。 『イニフィットジャスティス』ですわ、アスラン。 あなたの新しい剣です。 その隣にある機体は『ストライクフリーダム』。 キラの機体です。 あのような怪我を負われてしまったキラには残酷でしょうが、きっとキラは再び剣を取ることをお選びになられます。 ・・・2年前もそうでしたもの」


「・・・キラが再び戦場に出るというのなら、俺はキラを守るだけですよ。 この艦は、イザークたちが守るでしょうから」



   アスランはラクスに微笑みながら目の前にある自分の新しい機体を見つめていた。フェイズシフト装甲を落としているため、灰色だが起動させるとジャスティスと同じ赤色となる。




彼は再び、最愛の者を守るための剣を手にした・・・・・・。





   一方その頃、地上の【オーブ】では【ヘブンズベース】から逃げてきたジブリールを追って『ミネルバ』を始めとするザフト艦隊の追撃により、崩壊寸前となっていた。オーブ軍は自分たちを指揮する最高指揮官が無能なため、各隊への伝達が伝わっておらず総崩れ状態になっていたからである。



「・・ユウナ様、外部からの通信回線が強制的に開かれます!!!」


「どこからだ!?」



内政府のCIC席に座っていた通信係は中央にいたユウナ=セイランに報告した。しかし、報告し終わると同時に回線は開かれ、メインモニターに【プラント】にいるはずのピンクの髪をした歌姫の姿が映っていた。




《私は・・ラクス=クラインです》




オーブ・ザフト両方の通信回線をハッキングしたラクス(ハッキングしているのはハロだが)は全周波を使った。








2005/11/30














この2年間の間で、アスランとイザークはいい信頼関係を築き上げています。
同じ隊に所属していた際、アスランが本気で起こったことが切欠でアスランがザラ様化している際、イザークは何も反抗しません。
反抗したが最後、その時の報復が後々自分の身に降りかかってくるという事を学習しているからです;
その点が某姫との違いですv
(馬鹿はこの際スルー)