「・・・ずっと、傍にいるからね。 ・・・嫌なことは忘れるといい。
もう、お前を傷つけさせたりはしないから・・・」



もう、二度と君の傍を離れたりはしない。
今回のことで、偽れない自分の望みを再確認してしまったから。
・・・これからは、俺がお前を守る。
優しい心と君の身体がこれ以上もう、傷つかないように・・・。








制  裁
    ― 地雷を踏みし者 ―











その頃、宇宙ではディアッカの定期的に連絡を入れていた戦艦からの返答が返ってきていたところである。



「・・・『天使たちのことはすでに情報が来ている。 大天使が天使を保護。
その際、右翼も帰還。 これより、大天使が宙へ還ってくる』。 ・・・予感、的中か?」


「・・・・天使達とはキラ達のことだろう? 大天使はAAの直訳。
・・・右翼とはアスランのことか。
つまり、『AAがキラとアスランを保護し、今から宇宙へ上がってくる。 俺達はこの領域にて待機』
ということか?」


「・・・大体、そんなとだろうな。 こりゃ、本格的に荒れるだろうな」



ディアッカはイザークに通信機を渡しながら先ほどの発言を思い出していた。
この通信から推測すると、キラが生きていることは間違いないが、
1人で動けるほど軽症でもなかったのだ。
そんなキラの状態で片時も傍にいると思われる右翼・・・アスランが黙っているはずがない。
そのことは、2年前共に第3勢力で戦っていたディアッカには
忘れたくても忘れることのできないものとして残っている。



「・・・・そんなにひどいものなのか? キラのこととなると・・・」



2年前も今回のようなことがあった。
それはまだアスランたちがAAに来たばかりの頃であった。
この頃はまだコーディネーターをよく思わない人物がいた時期でもあり、
キラの精神的疲労も少なからずあった。
以前までのことであったのならキラの精神は完全に崩壊していたというまで追い詰められていた。
しかし、そうなる精神を現実に引き止めていたのはアスランである。
ディアッカの存在も少なからず大きいが、一番の余韻はアスランである。
彼がキラと共にAAへと向かうようになった頃から、
キラの精神的負担が半減されていたのだ。
だが、そんなキラを目の前にしたアスランは黙ってはいなかった。



「・・・あぁ。イザークは姫に関してではなかったから知らないんだな・・・。
・・・・アレは、酷いってもんを通り越している。
あいつは、キレてもお前みたいに怒鳴らない。 ・・・静かにキレるんだ。
さらに性質が悪いことに、その変化は今のとこ・・・姫にしかわからないくらいあまり表情が変わらない」



ディアッカは2年前のことを思い出すように無限に闇の続いている宙を見ながらイザークに語りだした。




きっかけは些細なことであった。
姫自身、アスランがキレるのは自分に関わったことだと自覚があった。
まぁ、あって当然だよな?あいつらは幼年学校に通う前からの幼馴染だ。
そのことを分かっている姫は、アスランに知られないようにいつも周りに警戒をはっていた。
・・・今となればそれが原因だというだろうな。
当然、アスランはそのことに気づいた。
だが、あいつは自他共に認める姫馬鹿だからな。
・・・まぁ、認めていない者も1名いるが・・・。
それはいいとして、
とにかく姫が必死に隠そうとしているということは分かったからあえて何も聞かなかったらしい。
・・・それから数日がたった。
俺たちと戦闘中に通信を交わすやつら・・・ブリッジにいるやつらとは俺たちも早く普通に会話が出来た。
当然だよな?
あいつらが一番、『コーディネーター』・・・・姫との交流があったんだからな。
もちろん、格納庫にいた整備士たちともだ。
・・・一部には悪意を持つ者もいたがな。
・・・・イザーク、分かっただろう?
アスランの地雷を踏んだ馬鹿共が誰なのか。




「・・・その一部の整備士たちか」


「ご名答。 あいつらはアスランの殺気にも似たオーラを区別できなかった。
あいつらは、アスランの前で姫に暴言を吐いたんだ。
・・・それが、あいつの地雷だったみたいでな。 一気に膨れ上がったぞ?
・・・しかし、やっぱり姫馬鹿なんだ。 やつらへの報復の前に、姫を最優先にした。
あいつらの部屋は同じ部屋だったからな。 まず、アスランは姫を自室へと連れて行った。
・・・やつらを俺に任せてからな」


「・・・・おい、まさかお前まで巻き込まれたのか?」


「あぁ・・・・。 だから俺はあいつを怒らせたくはない。
・・・・今回は今までのケースと違っているからな。
・・・さすがに殺しはしないだろうが、下手すればこっちの身も危険だぞ。
・・・まぁ、殺すとしたらAAを追いかけて上がってくる『ミネルバ』だろうな。
まぁ、あいつはあの後がすごかった・・・・・・・」



ディアッカはため息を吐きながらアスランがしてきた数々のことをイザークに教えていった。

「・・・おい、それを本当に実行したのか? あいつは」



ディアッカから聞いたイザークの第一声はその一言である。
顔色は先ほどよりもさらに白くさせ、わずかだがカタカタと肩を震わせていた。





ディアッカが2年前のことを話していると同じ頃、
AAは整備を終えてエターナルのいる宇宙へと大気圏を突入していた。
キラの自室では当然のようにアスランがおり、
キラの枕元ではキラを心配そうに見ているトリィの姿が見られた。



「・・・トリィ、俺の代わりにキラの様子を見ていてくれ。
何かあったら俺はブリッジにいるから・・・・知らせに来てくれ」



アスランはペットロボに意思疎通のできるようにキラに頼まれて改良していた。
トリィはアスランの言葉を理解すると『トリィ』と一言鳴くと羽をしまって大人しくキラを見つめた。




アスランはトリィにキラを任せると自室をでてブリッジへと向かった。
彼の瞳には先ほどまでの優しさは一欠けらとも残ってはいなかった。



「艦長、宇宙へ出たらラクスと通信を行ってください。
・・・彼女に貰わなければならないものがありますから」



ブリッジに来たアスランは、なんの前触れもなくマリューに話しかけた。
ラクスからある程度事情というよりもこれからの計画を聞いていたマリューは
アスランの言葉に頷いただけであった。



「分かっているわ。 ・・・アレを取りに行くのでしょう?」


「えぇ。 ・・・・イザーク達も決断をしている頃でしょうし。
・・・何を驚いているんです? 俺もキラと同じようにハッキングは出来ますよ?
あいつと違って、俺はソフト面があまり得意ではないからやらないだけで。
・・・今回、プラントに対してはいい加減に愛想が突きそうですからね」



アスランはこちらへ戻ってきてからキラの自室でキラの様子を見ながら
キラが持ち込んだPCを弄っていた。
彼・・・本来の性別は【彼女】だが、
彼女がこれまで作り上げてきたOSなのでハッキングが通常のPCよりも簡単に行えた。
PC内にあるデータにも明らかにコピーしたと思われるやつもあり、結構な情報収集となった。



「・・・そうだったわね・・・・。 まぁ、いいでしょう。 味方になるんなら結構心強いわ」


「あと、某議長も例の女を連れて一時【プラント】に戻って宇宙基地に行くみたいですよ。
・・・あぁ、存じてはいるとは思いますが・・・・・・俺への口出しと手出しは無用ですよ?」



アスランはハッキングして得た情報をブリッジにいたクルー達に知らせた。



「・・・承知しているわ。 なんだか、2年前よりもひどいみたいね・・・・」



彼が某議長といった瞬間、
物事には結構聡いマリューはアスランが何をしようとしているのかが分かっていた。



「・・・・俺のキラをあんなに傷つけた代償は軽くはありませんからね。
それも、あんな身勝手な言動のせいで」



アスランは特に気にするとこともなく、無感情な声で呟いた。
そんなアスランに対して、マリューは何も言わずただため息を吐いた。





それからしばらくすると、大気圏を越えて、AAは無事に宇宙へと出た。
追っ手を心配したが、アスランからの情報によると『ミネルバ』はロゴズの侵攻を進めているようだった。
その前に、ザフトの基地によって議長から『フリーダム』・・・キラの乗っていた愛機を落とし、
アスランが今一番憎む相手・・・シン=アスカと彼の同僚である
レイ=ザ=バレルが新しい機体と『フェイス』昇格を授与してからとのことであった。
シンの乗る機体は『デスティニー』でレイの乗る機体は『レジェンド』である。
この二機を彼らに渡したデュランダルは一緒に地上へ降りてきた
『プラントの歌姫』であるラクス=クラインの偽者、
ミーア=キャンベルを連れて宇宙へ上がるためにシャトルへと来ていた・・・。



 「では諸君。後は頼んだよ? 私は宇宙へ帰らなくてならないからね。
・・・・月基地での動きがあったと知らされているからな。
君たちはジブリール・・・ロゴスの討伐を任せるよ」


「みな様、お気を付けくださいませ」


「「「「はっ、ザフトのために!!」」」」



シン達『ミネルバ』のパイロット達は議長に敬礼をした。
この時、既にザフト内では『ミネルバ』から脱走したアスランを指名手配とし、軍を使って追っていた。
そのこともアスランには洩れているためにアスラン本人が情報を操作していた。
さすがの議長もアスランがハッキングをできるとは思っていないため、
少々不審な点があろうが気づかなかった。




無事に宇宙へ出たAAは即座にエターナルとの通信を試みた。
既にAAのことを知っていたエターナルは予測される地点でAAの到着を待っていた。



「エターナル、捕捉しました。 通信、開きます」



チャンドラの言葉に頷いたマリューは艦長席の隣にある通信機を手に取った。



《お待ちしておりましたわ、マリューさん》



「予定が早まってしまったわ。 こちらにアスラン君が戻ってきているの」



《まぁ、そのことでしたら既に存じておりますわ。
そのとこでアスランが乗る予定である機体を最優先にしておりましたの。
・・・キラのご様子は?》


「命に別状はないそうよ。
今は、常にアスラン君がキラさんの傍についているから・・・・安定しているそうよ?
・・・彼女はミリアリアさんが引き受けているようだし」



《分かりましたわ。 シャトルでアスランとキラをこちらへ運んでいただけますか?
カガリさんはそうですわね・・・。
今からオーブに向けて民間人用ポットでお供の方々と一緒に降下させてくださいませ。
大丈夫ですわ? まだオーブは戦場にはなりません。 しかし・・・時間の問題でしょうね。

カガリさんがオーブに降りられてくだされば間違ってもオーブが消滅することはないでしょう。
プラント・・・・いえ、議長はこれを期にオーブを崩壊させようと思われておられますのよ?
・・・ロゴスの最高司令官であり、ブルーコスモスの盟主である彼を亡き者にしようと思われております。
彼があの基地より逃げ出した際はオーブへ逃げられますわ。
オーブの実権を今握っておられるのはセイラン家ですもの。
彼らはロゴスと同じ思想の持ち主たちですわ》



「あなたがそう言うのなら間違いはないわね。 わかりました。
シャトルでアスラン君達をエターナルに送った後にでもオーブへ引き渡します。
・・・・元々、彼女はこちらの陣地に入れないタイプですもの。
それに・・・・カガリさんはキラさんのことを・・・・・本気で憎んでいるわね・・・・」



《・・・・まぁ、そうでしたの? ・・・確かに・・・私達の陣営には不必要な方ですわね。
アスランは彼女と出会う以前からキラのみを愛しておりますわ?
それなのに・・・・
一時期アスランが彼女を優しくしただけで己を愛していると勘違いをするなどと・・・・
身の程知らずみたいですわね》




ラクスは辛辣な皮肉を言った。
マリューも近くでアスランとキラの様子を見てきたため、ラクスの言うことに反論を唱えなかった。








2005/10/07

・・・1話目にして、枚数の数え間違い・・。
加筆・修正
2005/11/30













3話目です・・・。
本来ならば、3話で終わらせるはずだったのに・・・・。
【制裁】を待っていてくださった方々、大変お待たせいたしました(滝汗)
ラクス、真っ黒です。
この話しは・・・マリューさんも黒いですね;
キラが女性だということはアスランのほかに
ラクス、マリュー、ノイマン、ミリアリアが知っています。
ラクスはキラが【プラント】にて休養をしていた時に。
マリュー、ノイマンはアラスカ基地脱出後にキラから明かされました。
この時、フラガさんも一緒に知られておりますが;
ノイマンは好きなので・・・贔屓します。
ミリアリアは戦後にキラから明かされました(学生組ではミリーのみ)
尚、某姫及びそのほかのクルーたちは未だにキラは『男』だと思っています。