「・・・・ラクスに連絡を入れろ。 俺はこんなところであいつの怒りを買いたくは無い。
買ったが最後、生きては戻れないだろうからな。 それにもともと、あの議長は信用できん」


「了解。 ついでに、この隊はクライン派ってことでいいんだな?」



俺はやつの怒りを買いたくはない。
普段、俺が何を言っても澄ました顔をするくせに、キラのこととなると今までにない黒いオーラを撒き散らす。
ザフトは俺の誇りだが、今の状況を見てそれを盲目的に信じることはできない。
何より、ラクスは俺が守る。

・・・彼女は、俺にとって唯一無二の存在だから。


・・・癪だが、今となってはやつの気持ちが少しは理解できるかもしれん。









制  裁
    ― 右翼帰還 ―











イザーク達が宇宙に上がっているラクスとの連絡を取ろうかとしている間、
キラを救出したアスランはキラを連れてAAを探していた。
本来ならば宇宙へ上がりたいところだが、ザクでは単独で宇宙へ上がることは不可能である。
そのため、優先事項をキラの治療としたのであった。



「・・・AAも無事なはずだ。 マリューさん達はこんなあっさりとやられたりはしない。
・・・カガリもいるだろうが・・・まぁ、ミリアリアも一緒みたいだから彼女にまかせるか・・・」



アスランは2年前の大戦時でマリューや操縦士であるノイマンの器量を認めていた。
彼の知るザフトの操縦士達に引き手をとらないくらいの腕前だということを。
しかし、彼もカガリが苦手・・・というよりも邪魔な存在であった。
彼はキラと共にいたい時に勝手に寄り添ったり、キラとの間をことごとく邪魔をしてきた。
特に、停戦後はアスランもキラと一緒にマルキオ導師の元でお世話になる予定だったのだが、
勝手にカガリが自分の元にいさせるためにSPにした。
キラはアスランが離れることを嫌がったが、たった一人の姉であるため、自分が身を引いた。
キラはアスランにしか伝えていない出生の秘密で苦しんでいたためでもあった。



「・・・一刻を争うか・・・。 !!以前、キラが使っていた回線を開ければ・・・・っ!!」



アスランは何とか突破口を考え出すと、キラの様子を見ながらOS書き換えのため、
キーボードをすごいスピードで叩きながら書き直していった。
しばらくすると、2年前に使っていた回線を何とか開くことができ、
一か八かの賭けのように通信を入れてみた。



「・・・繋がるか!? ・・・こちら、アスラン・ザラ。
AA、応答せよ。 ラミアス艦長? 応答してください!!」



一方、エンジンを切り離して海へと潜ったAAに一部の者しか知らない回線での通信を受信した。



「艦長、この識別は2年前のものです。 ・・・誰でしょうか、この識別での通信は。
今、周波数を合わせます」



2年前と同じ席であるダリダは周波数を合わせながら艦長席にいるマリューに報告した。



「・・・2年前の通信回線を!? ・・・誰かしら」



ダリダの報告を受けたマリューだが、首をかしげながら呟いた。
その間もダリダは周波数を合わせ、どうにか受信できるまでになった。
海中だったが、
よほど近くにいたらしくNジャマーの影響をあまり受けることなく受信を感知できたこともあった。



「こちら、AA。 誰だ? この周波数を知っている者は」



《・・・・ら、・・・ラン・ザラ・・・・。 ・・・ちら、・・・・スラン・ザラ。
・・・応答せよ。 こちら、アスラン・ザラ。 AA、応答してください!!》




ようやく周波数を合わせることに成功した時、
今は敵となってしまったかつての戦友からの通信だということに対して、
AAのブリッジにいたクルー達は驚いていた。



「アスラン君!? あなた、『ミネルバ』に所属しているのではないの!?」



《・・・艦長、お久しぶりです。 やはり、ご無事でしたか・・・。
・・・・よかった・・・・・・。 ・・・もう、俺はザフトへは戻る気はありませんよ。
彼ら・・ザフトは俺の唯一の者を亡き者にしようとしたのですから・・・》




スクリーンに映し出されたアスランの瞳に
かつての憎しみの色が映っていたということに気づいたのは誰一人としていなかった・・・。
そんな彼は腕の中で気を失っているキラをAAのクルー達に分かるように画面を少し、下へと向けた。



「!!キラ君!?」



《・・・キラは海中に沈むところを俺が回収しました。
・・・本当はこのまま連れて宇宙へ行きたいと思ったのですが・・・・・。
ほっとくと危険な状況になるのでまず、乗艦許可をいただきたいと思いまして・・・》



「許可します!! 乗艦の際、キラ君を即刻医務室へ」



《・・・了解》




アスランはAAとの通信を切ると先ほどまで乗艦していた『ミネルバ』にばれないように
注意を払いながらAAが海中から上がるのを待った。
ハッチ部分が海上へ上がるのを見届けるとハッチを開放して中へと入っていった。
ブリッジではアスランの乗るザクが艦内へといるのを見届けると再び海中へと潜っていった。



「・・・キラ、もう大丈夫だからね? 俺が傍にいるよ」



アスランはコックピットの中で気を失っているキラに語りかけるように話しかけた。
格納庫が沈黙するとアスランは扉を開き、キラを抱えてザクから降りた。
本来はそれぞれの機体にある紐を伝って降りるのだが、アスランの両腕にはキラがおり、
ザクからの高さであればアスランは平気で飛び降りることができる。
もちろん、その際、キラに負担がかからないように注意するのはアスランにとっては無意識である。


そんな中、格納庫の入り口付近から金色の髪をした少女が走ってアスランの元へやって来た。



「アスラン!! やっと私の元に帰ってきたんだな!!」



金色の髪の少女・・・カガリ=ユラ=アスハはアスランの顔を見るなり嬉しそうに抱きつこうとした。
彼女には、アスランが抱きかかえている人物が見えていなかったのである。



「・・・カガリ、抱きつかないでいただこうか? お前には見えないのか?
キラが。 仮にも姉と公言しているくらいならば兄弟の心配でもしたらどうなんだ?」



アスランはカガリがキラに気づかなかったことに対して、
普段はポーカーフェイスに徹している状態だが今回ばかりはあからさまに眉をひそめた。



「!! キラ!? ・・・・生きていたのか・・・」



カガリはようやくアスランに抱えられている人物に視線を送った。
しかし、その視線の意味は生きていてよかったというものとは無縁のものであった。



「・・・邪魔だから、どいてくれないか? キラを医務室に連れて行きたいんだ」



アスランはキラに向けるカガリの視線の意味に気付き、
内心では殴りたい気持ちを抑えながら冷静な口調をした。
そんなアスランに対して、
冷たい言葉をかけられたカガリはビクッと肩をすくませながらその場を離れた。




(・・・カガリ、俺はお前のことを思ってはいない。 キラを傷つけてみろ?
その時は徹底的に報復をするからな・・・)




アスランは、キラを大切に抱えながら医務室へ向かっている途中、
先ほどの視線を考えていた。
彼の世界はキラを中心に回っている。
彼にとって、キラがいれば生きる価値があるということであった。
その逆で、キラがこの世からいなくなることは彼にとって自ら死を選ぶということとなる。
アスランはキラに対して執着をとっくに通り越して依存していた。
もちろん、キラもである。
彼らは依存しあい、それを重荷に感じることなく、むしろ幸福と考えていた。


アスランはキラを医務室に備わっているベッドへ寝かせると専属の医師にその場をまかせ、
ブリッジへと急いだ。



「・・・艦長、カガリをオーブへ返すのでしょう?」


「・・・久しぶりね、アスラン君。 ・・・えぇ、カガリさんはオーブへ返すわ」


「・・・そうですか。 でしたら、一刻も早くここから向かったほうがよろしいと思いますよ。
ザフトの・・・あの狸議長の次の標的はロゴズの基地と“オーブ”ですから」


「!!」



アスランの爆弾発言にブリッジのクルー達は驚きを隠せないでいた。
しかし、アスラン本人はこうなることを予測していたため、淡々とその根拠を話して言った。



「・・・よく考えれば分かることでしょう。 今のオーブはあのころとは違う。
今は立派な【中立】ではなく【連合】なんですから。 あそこを叩けば後は“月基地”のみでしょう」


「・・・カガリさんを降ろすのは危険ですね・・・。
・・・AAは直ちに宇宙へあがります!!」


「・・・ラクスはプラントへ向かったのでしょう?
宇宙に上がり次第、何か進展があると思いますが・・・。 ・・・あぁ、ミリアリア。
カガリ、よろしく」


「・・・えぇ。 そうそう、アスラン。 あなたに言っておきたいことがあったの。
ちょっといいかしら」



アスランはブリッジから退室する際にCIC席にいたミリアリアに声をかけた。
そんなミリアリアはアスランを引きとめ、
一緒にブリッジから退室してあまり人気のないメディアルームへ移動した。



「・・・なんだ? キラの傍にいてやりたいんだが・・・」


「すぐ終わるわ。 一つだけ聞いておきたいことだったもの」


「?」


「アスラン、あなたが本当に愛しているのはどっちなの?」



ミリアリアはアスランに対して前から聴きたいことを思い切って聞いてみた。



「キラに決まっているだろう?」



アスランは考えるまでも無いという表情をしながら即答で答えた。



「それを聞いて安心したわ。 ・・・あの馬鹿姫様は私たちに任せて頂戴。
あなたに協力します」



ミリアリアはその答えが当然のように聞き、キラの幸せのために協力を申し出た。
彼女の言っている馬鹿姫様とはカガリのことである。


ミリアリアと分かれたアスランは、キラが眠っている医務室へと急いでいった。
アスランがキラの傍に常にいる頃、AAは宇宙へあがる準備を整えていた・・・・。


 医務室には先日の戦いで捕虜となった人物がキラとは別のベッドで療養をしていた。
地球連合の大佐であるネオ=ロアノーク。
彼は2年前にこのAAにいた少佐であるムゥ=ラ=フラガと瓜二つであった。
しかし、今のアスランにとってはかつての戦友であったとしてもキラのことしかなかった。
キラは全身を包帯で巻かれており、今は安定しているが熱も出していた。
そんな幼馴染であり唯一無二の存在であるキラに対してアスランは、
キラが寝ているベッドの傍に置いてある椅子に座るとキラが安心するように
自分のほうにある左手を優しく包むように握っていた。
昔からキラは熱を出すといつもアスランに手を握ってもらうことをねだっていた。
その願いを叶えると、いつもうれしそうに笑って安心したような寝顔となる。
そんな当時を思い出しているのか、
アスランの表情はザフトでは見せなかったほどの穏やかな表情をしながらキラを見守っていた。



「・・・キラ、もう俺はお前の傍を離れたりはしない。 ずっと、傍にいるから。
・・・俺がこれからすることをお前が知ったら、悲しむだろうが・・・。
だが、それでも俺は許せないんだ。
この戦争を始めたやつらもキラをこんな目にあわせたあいつらも・・・」



アスランの翡翠の瞳には、愛しい存在を無残にも傷つけた者達への怒りの光が見え隠れしていた。
アスランは激情家ではない。
どちらかと言えば、イザークが激情家であろう。
アスランはめったに他人を信用していないからなのか、表情を見せないのだ。
しかし、そんな彼にも例外がいた。
それが、キラである。
キラはアスランにとって唯一安心してありのままの自分でいられる場所であった。
いろいろな表情をしたアスランを本当の意味で知っているのはキラとキラの家族、
そして・・・今はすでに他界している彼の母だけであろう。



「・・・ずっと、傍にいるからね。 ・・・嫌なことは忘れるといい。
もう、お前を傷つけさせたりはしないから・・・」



アスランはまるでキラに言い聞かせるように呟いた。








2005/08/12

加筆・修正
2005/11/30













やっと、中編・・・・です。
大変お待たせいたしまいた!
本来は前後にしようかと思っていましたが・・・・。
予想以上に詰め込みました・・・・。
次回は、完全に死にネタが入ります。
苦手な方はここで警告いたしますので(滝汗)
誰が死ぬのかは、分かりやすいかと・・・・。