「キラァァァァァァァァァァアアアア」
「アスラン・・・・」
「嘘だ・・・・キラが・・・フリーダムが倒されるわけがない!!」
「アスラン!? どこに行くんです!!」
「・・・キラ、待ってて? 今、迎えに行くから・・・・」
なぜ、あの時気付かなかったのだろう・・・。
彼女は、俺の唯一無二の存在だったのに。
・・・・2年前のあの時、そのことに気付いていたはずなのに・・・・。
俺は、何度同じ過ちを犯せばいいのだろうか・・・。
だが、もう二度とこの過ちは犯さない。
・・・気付いてしまったから・・。
俺が、何を優先すべきなのかを・・・・・・。
制 裁
― 天使墜落 ―
彼の悲痛な悲鳴とも言える叫びは彼の乗艦している『ミネルバ』全体に響いた。
彼の近くにいるのは、2年前の彼と同じ立場にいるザフトのエリート部隊・・・“紅”を身にまとう者たち。
その中でも彼の隣にいた少女が今まで見たことの無い伝説とも呼ばれたプラントの英雄を見つめていた。
しかし、そんな彼女の思考は彼の壁を叩く音で戻った。
――――ダンッッ!!!
彼にとって、目の前で追撃された機体に搭乗していた人物は唯一無二の存在であった・・・・・・。
そんな彼の目の前の映像は彼の信じがたいものであり、
本来ならば味方であるはずの機体がフレイジストダウンした姿であった・・・。
「・・・キラ。 今行くからね・・・。 俺が、冷たいその場所から助けてあげるから・・・・」
「アスラン!? どこに行くんです?」
少女・・・ルナマリア=ホークには彼の呟きともいえるくらいの小さな言葉が聞こえてはいなかった。
「・・・邪魔、しないでいただこうか。
それに・・・俺の名を呼んでいいのはこの世にただ一人だけ・・・。 キラだけだ・・・・」
彼・・・アスラン=ザラはルナマリアに冷たい視線を浴びせると静止の言葉に耳をかすことなく、
格納庫へと向かった。
格納庫では、いまだに戦闘に出ていた一機が帰還してはいないらしく、
人通りが少なかった。
彼の機体は先日の戦闘において再起不能となっていたため、
アスランは近くにおいてあるザクに搭乗した。
「待っててね、キラ。 今、行くから・・・・」
彼は呟きとともに壊れたハッチから先ほどまで戦闘のあった戦場へと出力最大で向かった。
彼が向かった戦場では、いまだに動かない一機の機体があった。
しかし、アスランはその機体に目もくれず、
海に落ちたと思われる唯一の自由の名を持つ存在を捜し求めた。
しかし、そんな彼にもう一機・・・インパルスの搭乗者はアスランに気づき、通信を開いてきた。
《・・・あんた、こんなところで何をやっているんです?
任務は完了し、議長のご命令通り『浮沈艦』と『虚空の天使』を落としましたよ。
コックピットを狙わないなんて、ふざけたことをするんですからね。
当然でしょう? あの機体、俺の家族だけでなく、ステラも殺したんだから》
「・・・キラの機体を落としたのはお前か? シン=アスカ。
・・・お前は満足だろうが・・・大事なことを忘れているな。 俺は、言っただろう?
『憎しみで誰かを殺せば、憎しみが帰ってくる』と。
・・・確かに、キラはお前にとっては敵だとしよう。 だが・・・・忘れるな。
お前がキラを討った時点でお前は・・・いや、その命令をしたザフト全体が俺の敵だ。
俺は、2年前、キラを守るために・・・キラの優しい心を守るために『不殺生』を誓ったが・・・
誰でもないキラのために俺は自分に科した不文律さえ・・・・破る。
覚えておけ、シン。 お前を殺すのは俺だ。
お前が逆恨みをしてキラを憎む以上に俺はお前を絶対に許さない!!」
アスランは今までに見せたことの無い表情と非常に冷たい視線を画面越しのシンに見せると、
それ以上は何も言うことのないとばかりに通信を強制的に切った。その後、
OSを弄って通信を故意的にシャットアウトされるようにプログラムを書き換えた。
(・・・あの人があんな顔をするなんて・・・。 大体なんだ!?
あんただって、自分の愛機をあの機体に破壊されたじゃないか!!
あんたの敵だって討ったんだぞ!!)
シンはインパルスの中で理不尽な思いを露にしていた。
そして、このときもまたアスランの言葉には何も考えず、自分が一番正しいと思い込んでいた。
――――救いようの無い馬鹿である――――
その頃、故意的に切断したアスランは水面近くまで降下していた。
彼の頭にはもうすでにキラ以外のことがすっぱりと抜け落ちていた。
(・・・なぜ、俺はこうなる前に自分のことが分からないんだ!? 2年前と同じじゃないか・・・。
俺が、あいつを殺したと思っていたころと同じだ・・・。
俺だけが生き残って、あいつが傍にいなくて・・・俺の心の中に残るのは・・・ただの虚無だけだ。
・・・俺にはもう家族がいない・・・。母上以外で俺が安心できるのは、今も昔もキラだけだ・・・)
彼は、唯一の存在・・・キラ=ヤマトを探しながらそのようなことを考えていた。
しばらくすると、彼の視界に変化が起きてきた。
「!! キラッッ!!」
彼はキラの愛機であるフリーダムだということを見届けるとすぐさま近づいて行った。
彼が見たものは、無残にもコックピット以外のパーツが見当たらないという代物であった。
偶然にも急所を外していたために核の漏れが無かったのが不幸中の幸いであろう・・・。
(・・・核、コックピットの付近でよかったな・・・。
これでもしもコックピットもろとも貫いていたらキラが生きているどころか
キラという証すら残っていない・・・。
それに・・・この一帯も放射能を浴びることとなるな・・・)
アスランは2年前にキラの愛機・フリーダムとの兄弟機であるジャスティスの搭乗者である。
その彼の機体もまたフリーダムと同じ核の力によって起動していた。
そのため、どの部分に核とその力を無効にする力である
Nジャマーキャンセラーが搭載されていたのかをよく知っていた。
「・・・キラ、今助けてあげるね」
アスランは回りに危険が無いかを慎重に調べ、
危険が無いことを確認した上で気を失っているキラに微笑みかけた。
その微笑みは彼限定なものでアスランがザフトへ戻っていたころには見せたことの無い微笑でもあった。
コックピットから慎重にキラを連れ出し、自分が乗ってきたザクへと移動していった・・・・・。
アスランがキラをフリーダムの残骸から連れ出した頃、
そら・・・宙ではちょっとした騒動が一部の間で起こっていた。
「・・・こりゃ、宇宙は地獄絵図となるなぁ」
緑の軍服を着た青年が臨時ニュースを見ながらため息とともに呟いた。
それを聞き逃さなかったのは、彼とは幼年のころからの付き合いであり、
今では上司となった幼馴染である。
「どうした。 ・・・!! 議長が『浮沈艦』と『虚空の天使』の撃破命令だと!?
・・・それを実行したのは地上に降りた『ミネルバ』!? おい、『虚空の天使』って確か!!」
イザークはディアッカとともに、キラと常に傍にいるアスランの姿を戦後に見たことがあった。
最初は反発していたイザークであったが、何度か会う内にだんだんと溶け込み、
いまではよい友人関係を築くまでになっていた・・・。
「・・・あぁ、イザークの考えている機体だ。 というより、アレしかないだろうな。
姫の乗っていた・・・フリーダムしか。 ・・・だから、地獄絵図って言っただろう?
あいつのことだ。 姫が生きていようがなんだろうが宇宙に上がってくる。
・・・姫馬鹿であり、姫しか大切に思っていないあいつはもう、誰にも止められない」
「・・・矛盾してないか? お前達はそれを阻止したがために第3勢力に付いたんだろう?
それの要でもあるアスランがそれを自ら破るとでもいうのか?」
イザークは首かしげながらディアッカを見たが、ディアッカ本人は首を横に振ってその言葉を否定した。
「・・・言っただろう? あいつは常に姫を中心に世界が回っている。
2年前の大戦時アスランが言っていたんだ。
『キラは俺の全てだ。あいつが望むとならば、一度は絶望したこの世界をあいつのために守る。
俺は、あいつが平和で笑える世界が俺の中で唯一の真実となり、己の存在理由なのだから・・・。
だから、あいつのいない世界に未練はない』
・・・ここまで言い切っている。
あいつは、自身が何を望むのかをストライクを・・・唯一の存在を己の手で殺した事実によって、
今まで押さえられてきた感情がすべて出てしまったんだ。
・・・だから、あいつは俺があの艦で再会した時はアスランの傍には常に姫がいた。
姫だけがアスランを安心させることのできる唯一の存在。 そして・・・唯一の精神安定剤となれる者」
「・・・キラの姉と言っていたやつでもダメなのか?」
イザークはオーブの獅子の娘であるカガリのことを指した。
「あぁ、カガリか・・・。 無理だな。 あの女はアスランを気遣うどころかその逆だ。
精神的にも肉体的にも疲労しか感じない。
・・・やつ自身は己が彼女だと思い込んでいるみたいだが・・・。
あいつの中での認識は姫と同じ顔か血が繋がっているっていう程度の認識しかもって無いみたいだな。
・・・覚えているか?ユニウスセブンのこと」
イザークの考えを即答で否定したディアッカは
アスランと再会することとなったある事件のことを持ち出した。
「忘れるわけが無いだろう」
「・・・だろうな。 アレに出てきた理由、簡単に言うと姫が悲しむかららしい・・・」
「・・・・ラクスに連絡を入れろ。 俺はこんなところであいつの怒りを買いたくは無い。
買ったが最後、生きては戻れないだろうからな。 それにもともと、あの議長は信用できん」
「了解。 ついでに、この隊はクライン派ってことでいいんだな?」
イザークは何かとアスランに勝負を挑んではいたが、アスランが本気で怒った姿を一度見ているため、
どれほどの恐ろしさをその身をもって体験した数少ない被害者でもある。
もちろん、ディアッカもまた2年前の大戦時にアスランと同じ陣営である第3勢力にいたために、
彼の地雷とその威力を体験していた者である。
イザークはある意味、この世の終わりとも思えるような青白い顔を見せた。
(よほど、恐ろしかったんだろうな・・・・)
イザークのこのような表情を見たことの無いディアッカはイザークにばれない程度で笑いをこらえていた。
2005/07/16
今思えば、無謀なこと・・ですね;
加筆・修正
2005/11/30
いまさらながらにも【悪夢】設定です(滝汗
本来ならば、1話で終わらせるつもりでした・・・。
それをあきらめて、【地上編】と【宇宙編】に分けたいと思います。
次回は完全に死にネタになりますので、
死にネタが苦手な方は最終警告を発令いたします。
もちろん、シン達を好きな方々もです。
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