「俺は、またこの手でキラを殺すためにザフトに複隊したんじゃない・・・。 キラを守るためだ。
・・・ザフトが彼女を撃墜するというのなら・・・、俺は再び彼の艦に戻ろう・・・・」



俺が守りたい者・・・それは、キラだけだ。
俺の中で絶対的存在であり、俺の世界を構成するかけがえのない存在・・・。
確かに、本国も俺にとって大切な故郷。
だが、彼女は絶対に失いえない。
あの時のように、もう二度と虚無だと思ったあの感覚を味わいたくはない。
待っていて?
俺は、キラの元へ還るから。
キラの隣が、俺の還るべき場所なのだから・・・・・。
そして、俺の傍がキラの居場所なのだから・・・・・。





天使の右翼である彼の者は、自身の望むことに気付き行動を起こした。
そして、彼の者にとって唯一絶対的存在である天使を亡き者にしようとした者たちへの
憎悪を双方の瞳に宿しながら天使の元へ戻る準備に取り掛かった・・・・・。









Reason
    ― 月の騎士、決意 ―









それからしばらくすると漸くかつて彼も乗艦したことのある艦が捜索範囲に引っかかり、
即座にキラが使用しているメールアドレスに接触を試みた。




(・・・このメールに気付いてくれ、キラッ!)




アスランは内心、焦りを感じながらもキラの・・・AAの安否を気にしていた。
それからしばらくするとアスランの使用するPCにメール着信の音声が入り、
慌ててメールを開くとそこにはキラからのメッセージが入っていた。





「差出人:キラ
件名:なし
内容:アス・・・ラン?」





アスランはその内容を見た瞬間、キラの精神状態を大体だが把握した。
・・・キラ至上を自他共に認めている彼だからこそ・・・
そして、長年共に過ごしてきたことが伊達じゃないことをこの時、証明していた。





「差出人:アスラン
件名:もう、大丈夫だからね?
  内容:キラ、俺はこれからAAに・・・お前の元に戻る。
     議長がとんでもないことを計画していることが分かったからな。
     そして・・俺が本当に望むものもはっきりと思い出したから」





メールを送信してから5分も経たずに吉良からの返信が返ってきた。
よほど、彼の発言が驚くもだったのだろう。





「差出人:キラ
  件名:大丈夫なの!?
  内容:そんな危険なことして・・・大丈夫なの!?」





(・・・・大丈夫だよ。 俺が、キラを置いて死ぬはずがないだろう?
俺はキラを守って死ぬって決めているんだからな)




キラからの返信メールを見ながら苦笑いを浮かべたアスランは心の中でそう呟くと
PCに保存されている最近のキラの写真に彼女にしか見せない笑みを浮かべた。






キラと連絡を取ってから数日後、
彼の乗艦する『ミネルバ』は本国からの連絡があると言うこともあってか
ベルリンの郊外で改修作業をしていた場所から動くことなくクルーたちはつかの間の休息が与えられた。




(・・・この時を逃したら、キラたちと接触する前にAAが危険だな・・・・。 明日にでもこの場から離れるか・・・。
・・・キラには連絡を入れておくか。 それが、キラとの約束だからな・・・・・・)




アスランは簡潔に明日にでも脱出するということを連絡するとPCの電源を切り、
身の回りの整理をしていたためにその中にPCを入れるとその荷物を持って
人気のない場所を選びながら機体のある格納庫へと向かった。
格納庫に着いたアスランは修復されているザクをつけると整備士たちに見つかることなくコックビット内に入った。


アスランはアカデミー時代から自分の気配を消すことと他人の気配を読み取る能力に優れているため、
見つかることなくコックピット内には入れたのだ。



コックピット内に入ったアスランは即座にキーボードを取り出し、
『ミネルバ』では見せたことのない速度のタイピングで自分の使いやすいようにOSを改良した。
アスランはその場で仮眠を取ることを決定し、明日の脱出することを成功させるためにつかの間の休息を取った・・・・・。






翌朝、
アスランは通常の起床時間よりも2時間ほど前に起きると昨日しなかった
最後の仕上げのためにPCを開くと『ミネルバ』のマザーにハッキングしていた。
もちろん、艦内にばれないようトラップや警報などを止め、足跡を消しなら制御プログラムへの侵入を果たした。




(・・・ココの部分を書き換えておけば、多少の時間稼ぎになるはずだ。 ・・・後は、キラの迎えまで体力を温存しておくか・・・・)




アスランはある程度の書き換えを行うとそのまま『ミネルバ』の武力関係を無効化にし、
そのついでとばかりにアスランのいる格納庫のカタパルトをすぐに開けられる状態にした。






アスランが『ミネルバ』のマザーに細工をしている頃、
彼の求める相手のいる艦・・・AAではアスランから連絡を受けたキラは
自室に置いてあるPCの前でニッコリと微笑を浮かべていた。



「・・・・やっと、僕のところに戻ってくるんだね・・・・。 アスラン」



キラは小さく呟くと肩に止まっていたメタルグリーンのロボット鳥・・・『トリィ』の頭を優しく撫で、
彼にだけ見せる心からの笑みを浮かべた。



しばらくの間自室に篭っていたキラだが、いつものように肩に『トリィ』を乗せると自室を出てブリッ
ジへと向かった。


ブリッジには艦長であるマリューを始め、いつものブリッジクルーのメンバーが揃って業務にあたっていた。



「あら? どうしたのキラ君」


「いえ・・・。 ちょっと用事を思い出しましたのでカタパルトを開いていただこうかなと」


「・・・・どこへ向かうか、聞いてもいい?」



キラはマリューにニッコリと微笑みながらカタパルト開放を要求した。
表情的には微笑んでいるが彼の瞳がその微笑を裏切っていた。
彼を最も理解し、最も愛しているアスランがいつも好きだと言っていたキラの瞳・・・アメジストは通常よりも冷たい色を宿していた・・・・。



「今は、一刻を争っていますので。 ・・・そうですね・・・・・。 数時間後には明らかになりますから」


「・・・分かったわ。 カタパルト開放、許可します」



キラの瞳に宿る色が分かったのか苦笑いを浮かべながらも許可を出した。
マリューの言葉に頷いたキラはそのままブリッジを出て彼の愛機のある格納庫へと急いだ。



「!! どこに行く気だ、キラ!!」


「・・・・・・。 君には・・・関係ないよ、カガリ」


「!? キラの分際で生意気な口を利くな!」



格納庫へと向かっていたキラを目敏く見つけたカガリはブリッジに向かおうとしていた足をわざわざキラに向け、
いつものように怒鳴りながらキラに近づいた。
通常のキラであればこの時に辛そうな表情を見せるのだが
今のキラは頭の中は既にアスランでいっぱいのために完全に感覚が麻痺していた。
最も、精神的にストレスを感じていない場合であればいつもと変わらないキラであったのだろうが・・・・。



いつものようにカガリはキラの頬や見えない部分を狙って攻撃をしてきたが頬に一発浴びたキラは一向に気にすることなく格納庫へと向かった。


その騒動を見ていたミリアリアは慌てて2人の間に入り、カガリを取り押さえた。



「何をやっているの!? ・・・・カガリも好い加減にしなさいよっ!
・・・ごめんなさい、キラ。 彼女は私が責任もって部屋にでも閉じ込めておくから・・・・・」


「ありがとう、ミリー」



ミリアリアの言葉にニッコリ微笑を浮かべたキラは
先ほど叩かれた衝撃で赤くなっている頬の痛みを気にすることなく目的場所である格納庫へと急いだ。



「・・・・キラ=ヤマト、『FREEDOM』、行きます!!」



格納庫へ着いたキラはさっさとコックピットに乗り込むとマリューからの伝言が伝わっているのか
すんなりとカタパルトが開放され、8枚の羽を持つ天使は右翼を求めて天空に舞い上がった・・・・・・。







『FREEDOM』が向かう先は先ほど連絡のあった場所・・・・『ミネルバ』が滞在するポイントである。
最大出力を出したキラは肉眼でミネルバを確認できる地点まで来た時にアスランの使用していたアドレスを呼び出して通信を試みた。




《キラ・・・か?》



「アスランっ!! ・・・お迎え・・・・来ちゃった」



《ありがとう、キラ。 こちらは問題ない。 ・・・攻撃できない状況だからな。 『ミネルバ』の上辺りで待っていてくれないか?》



「分かった。 ・・・・漸く、アスランに会えるんだね・・・・。 もう、離れるのは嫌だよ?」



《あぁ。 俺も今回ばかりは後悔しているからな。 今度からキラも一緒に行こう。 今から出てくるから・・・・ちょっとの間待っていてくれ》



「うんっ」



アスランとの通信に嬉しそうな声を出したキラはアスランの優しい声に嬉しそうに頷き、アスランの言いつけ通り、
『ミネルバ』の上付近に『FREEDOM』を移動させるとカタパルトが開くのを待った。






一方、キラとの通信を切ったアスランはいつでも開けられるようにしておいたカタパルトを難なく開放すると
ブリッジで慌てて閉鎖する作業を行っていることを嘲笑うかのように奪ったザクをグゥルに乗せ、一緒に飛び去った・・・・・。





その姿をスクリーンで見ていたタリアは艦の頭上に先ほど評議会からの勅命があった『FREEDOM』の反応があったのに気付き、
逃走したと思われるアスランの捕獲と『FERRDOM』の迎撃に備えブリッジ内の混乱を何とか収めながら
深く息をつくとそこにはいつもの『ミネルバ』艦長の姿があった。



「ブリッジ遮蔽。 コンデションレッド発令。対モビルスーツ専用用意!」


「コンデションレッド発令。 パイロットは直ちに格納庫へ向かってください。
3人の搭乗が確認され次第、すぐさま発進準備へ!」


「シューズ、トリスタン、リゾルデ起動。 ランチャーワンからスリー全門パルチハル装填!」



タリアの言葉にオペレーターは全艦に「コンデションレッド」を知らせ、3人のパイロットを招集した。
その間、副艦長であるアーサ=トラインの命令によって『ミネルバ』に装備されている火力系を起動させようとした。



「艦長、副艦長! トリスタン他、まったく起動いたしません!!」


「他のミサイル発射官も全て、沈黙!! ・・・これは・・・データそのものが書き換えられております!!」



クルーたちの声に驚きを隠せないタリアに追い討ちをかけるように格納庫からの通信が入った。




《艦長! 先ほどザクが1機出た後、カタパルトが閉鎖されそのまま開放ができません!
こちらもデータが書き換えられた後何十に高度なロックが掛けられております!!》



「修復は不可能なの!?」


「現段階では不可能です・・・・・。 時間をいただければ、回復は可能なのですが・・・・早くても1日ほどは掛かります・・・・・」



タリアの言葉に書き換えられたプログラムを見ていた火器制御担当であるチェン=ジェン=イーは驚愕しながら答えた。


それもそのはずだろう。
これらのプログラムを書き換えたのは彼らの卒業しているアカデミーにおいて歴代最高・・・
今までのトップの成績を凌駕してのトップに君臨する能力の持ち主・・・アスラン=ザラによって書き換えられたのだから。
彼もまた、キラほどではないがプログラミング能力と処理能力はザフトの誰にも負けないほどの腕前を持つのだ。


そんな彼の書き換えられたデータを修復することや彼の仕掛けたトラップ付のロックを数時間で解読・修復することは不可能である。


それでもまだ絶望的ではないのがキラのように独特のプログラミングではなく、
あくまでも彼らの知るプログラムの並びだったため、時間をかければ修復できる程度だったことだろう。




『ミネルバ』からの迎撃がないキラは不審に思いながらもアスランが目の前にいることが重要らしく、
沈黙のままの右翼を閉じ込めていた鉄の塊を一瞥するとそのままザクを誘導するかのように大天使へと還って行った・・・・・・。








2006/06/24















少々、キラが黒化しかけましたが・・・こちらではキラは黒化しません(多分)。
ココで少しだけ補足です(ぇ)
アスランとキラは2年前に本気で殺し合ったことが原因で
共闘直後から依存し合っています。
依存していたキラからあえて離れてザフトに複隊したのは、
本国を大切に思う心とキラの手を二度と汚したくないという思いからです。
しかし、再び『FREEDOM』に乗ってしまったキラのことを心配して
その原因となった出来事を独自に調べていた時に議長発案である
“エンジェル・ダウン”計画を知り、離反を決意。
彼にとって唯一無二の存在であるキラを亡き者にしようとした者たちへの憎悪によって
次回からザラ様がご降臨なされます(予定)。