「彼女は、我らと敵対する《天界》の住人・・・『天使』です。
俺が人間として生活を送っている時から気になり始めており、気付いたのはつい先ほど。
彼女は、同族であり実の姉にその命を狙われていました。
彼女は、自らの意思で俺の妻になってくれると、そう言っておりました。
現在は、この地の空気・・・妖気よりその身を守るため、我が寝室に結界を張っております」



彼女が『天使』だろうと、そうでなかろうと・・・俺には関係ない。


俺が唯一、欲した・・・何よりも大切な半身。
昔から、何に対しても興味が全くわかなかったこの俺が、
何よりも大切にしたいと思ったのは、キラが初めてだ。



彼女と出会ったあの時、心のそこから歓喜したことを覚えている。





彼女を奪おうとするのならば、誰であろうと・・・容赦はしない。











比翼連理
  ― 力の解放 ―











フワリとキラの美しく長い鳶色の髪が靡き、重力に従って肩に落ちてゆく。
光に驚いたトリィもまた、元の定位置であるキラの肩に止まった。


閉じられていた目が開かれ、極上のアメジストの瞳が目の前にいる伴侶となった者を見つめた。
そんなキラの変化をジッと見つめていたアスランは、漆黒へ変化した翼に満足そうな笑みを浮かべた。

アスランの笑みに対し、キラは愛らしい微笑を浮かべていた。



穏やかな空気が2人を包んでいたが、突然キラの中に吸収されたはずの漆黒の光がキラを包み込んだ。
微かな光が徐々に大きくなり、辺り一面を漆黒に染めた光が弾けた。





―――― パァン!






漆黒の光は城の祭壇を中心に魔界全土へと広がり、
呆然とその光を見つめていた魔族たちはその光に守られているような感覚を覚えた。










同時刻、魔界とは異なる世界・・・天界では、
人界の重力に囚われることのない場所であるにも拘らず、
上から圧力がかかっているような奇妙な現象が起きた。





―――― ドンッ!





突然大きな音が響き、人界でいう地震のように激しく揺れた。
結界によって守られている天界だが、
ところどことでパチパチと火花を散らしながら衝撃の激しさを物語っていた。
地上であって、地上でない。
天界に地面はあるが、人界のように地震の被害にあうことなどありえないのだ。
だが、地震のように・・・いや、それ以上の揺れを体感した天使たちは、
不安気な様子で唯一神の居城であるオロファトを見つめていた・・・・・・。










天界全体が大きなゆれを感知した頃、
オロファトにある一室でカガリが自身を強く抱き締めながら蹲っていた。




(な、なんなんだ・・・? この感じは!?
ち、力が抜けていく!!?
今まで、どんなに力を使ってもこんな事にはならなかった。
私は、選ばれたんだ。 次期の神となるべく、父様に選ばれた。
そんな私の力が、なくなるなんて!?)




愕然とした表情を浮かべながら、カガリは自身の腕に爪が食い込んでいることにも気付かず、
ただただ身体中の力が抜けてゆくのを身をもって感じていた。





力が抜けないようにと自身を抱き締めることで無駄な足掻きをしているカガリの元に、
早足で近づいてくる一つの気配があった。
その気配を感じながらも、
カガリは急激に力が弱まった為に立つこともできずその場に蹲った形で扉を見つめた。



「カガリ、大丈夫かい? ・・・カガリ!?」

「父・・様・・・・。 父・・・様、これは・・・一体? 揺れを・・感じたと・・・・・思ったら、急に・・・力が・・・・」



扉を開けたのは、彼女の養父でありこの天界を統べる唯一神・ウズミ=ナラ=アスハであった。
溺愛する養女を心配し、側近たちの静止を聞かずに走るように娘の部屋に入ったウズミは、
目の前で起きていることに対して信じがたい表情を浮かべていた。



父の姿に安心したカガリは、救いを求めるように父に手を伸ばしたが、父の表情にビクリと硬直した。



「・・・そうか。 あの力は・・・やはり。 ・・・なぜ、私がお前を引き取ったか・・
今まで、告げたことはなかったな。 かつて、6枚の翼を持つ双子の天使がいた。
ミカエルとルシフェルだ。 ルシフェルは神に逆らい、魔界へと堕天した。
ミカエルはそのことに悲しみ、魔軍との戦いの最中、その命を落とした。
だが、ミカエルはその聖力から、双子に限り生まれ変わりを続けていた。
そして・・・お前たち2人が生まれた。
力の強いお前を私はミカエルの生まれ変わりだと思って、私の元でお前を育てた。
だが、本当の生まれ変わりは・・・どうやらお前の妹であるキラだったようだ」

「父様・・・? キ・・・ラ・・・?」



ルシフェルとミカエル。
世界が神によって創られた際に、初めて誕生した双子の天使である。
そのことから、天界では双子の天使が誕生することなど珍しいことではない。

また、稀であるが数百年に1度の確立で双子のうちの片割れがミカエルの魂を持つ者として、
再び天界の地に戻るのだ。


数度に渡り、転生を繰り返すミカエルの魂を歴代の神々は欲する。
神は、その絶対的力を永久に持続することは不可能である。
そのため、神は世代交代するのだが、
そのことはトップシークレットである為にオロファトに住む者たちや仕える天使しか、その事実を知らない。

そんな神の唯一の欠陥部分を補ってきたのが、ミカエルの魂を持つ天使であった。
生まれたばかりの天使を引き取り、育てる。
そのことにより、神に対する絶対的信頼と服従心をもってその天使は神の命令一つで、
神の力として天界を守ることができる。
また、ルシフェル・・・ルシファーに匹敵する力を持ってすれば、
魔軍の進撃も防ぐことができるからであった。



そのことを知っているウズミもまた、
双子の誕生を知るとすぐさまミカエルの魂を持つ者かどうかを確かめるべく、
誕生したばかりの双子の元へ行った。
そこで見たのは、
眩い光を放つ金色の髪を持つ者・・・カガリと微弱な光を放つ鳶色の髪を持つ者・・・キラだった。
そして、ウズミは眩い光を放つカガリがミカエルの魂を持つ者だと判断して、今まで育ててきたのだった。




ウズミは先ほどまでの心配した表情を一転、冷徹に蹲るカガリを見下した。
その瞳には、強い蔑みが宿っていた。
今まで可愛がられてきたカガリは突然変貌した父の姿に驚きを隠せない表情で、
父から告げられた言葉をオウムのように返しながら、片割れの妹の名を呟いた・・・・・・。










一方淡い漆黒の光が皇妃となったキラを包み込み、
祭壇のあるテラスが未だ輝き続けている状態を招待客たちは、
真下に位置する広場で静かに見つめていた。
そんなキラの光に、それまで静かに見つめていたアスランからも淡い光が徐々に大きく光を放ち始めた。



「皇子殿下と皇妃殿下から光が! まるで・・・お2人の光が共鳴しているようだ・・・・・・」



静かに見つめていた招待客の1人が2人を包み込む漆黒の光を見つめながら、呟いた。
アスランは歴代の魔王の中でも最も強い魔力を持っていることは、
魔界に住む住人たちであれば誰でも知っていることである。

そんな彼の魔力の前ではどんな強い魔力であっても飲み込まれてしまう。
そのため、アスランは必要最低限以外に魔力を表に出すことはない。


そんな彼が魔力を放出しているにも拘らず、
消えることなくまるで混じり合っているかのように2人を包む光を招待客たちは眺めていた。



招待客たちが見守る中、
バサッと羽根の音を響かせながらアスランの背にもまた、キラと同じ漆黒の翼が現れた。
アスランの背中にも翼が出現したと同時に、
それまで瞼を閉じていた2人が、静かに瞼の裏に隠れていたエメラルドとアメジストの瞳を見せた。
だが、2人の焦点は未だ闇に染まる空を見つめており、
2人の意識がここにないことは、傍に控えていたラクスたちは気付いていた。



「・・・ミカ・・・エル?」

「・・・兄・・・様?」



隣にある気配に気付いたのか、ゆっくりとした動作で互いに見つめあった2人は、
トランス状態になっているのか互いを見ているもののその視界には入っていない状態である。



「アスラン、キラさん・・?」



そんな中、小さく呟かれた言葉をラクスたちのいる場所から聞き取ることができず、
控えていたニコルが思わず2人に声をかけた。
ニコルが小さく声をかけた瞬間、それまで光を放っていた2人から漆黒の光が消え、
辺りは再び静寂に包まれた・・・・・・。










婚姻の儀式が終わったアスランたちは、
力を放出したために疲労の色を濃く残すキラを心配したアスランがお姫様抱っこをすると、
そのまま自室へと引き返した。
もちろん、晴れて夫婦となった2人の時間を邪魔するような者はおらず、
レノアは嬉しそうにニコニコと微笑み、ラクスはイザークと共に宛がわれている部屋へ下がっていった。



「・・・・キラ。 人界・・・【コペルニクス】で言っていたことで、疑問に思っていた。
双子であっても、力は全て平等のはずだと。 ・・・キラの力は、何かによって塞き止められていたんだ。
だが、俺との婚姻・・・儀式で君は堕天使となった。
聖力とは全く異なる、魔力が俺たちの源。
魔力に変換されたことによって、その何かが消滅したとしか、考えられない」



アスランはキラをギュッと抱き締めながら、
先ほど感じた強い力をキラが放出したことで確信したことを静かに告げた。

そんなアスランの言葉に首をコテンと傾げたキラだったが、
今まで感じることのなかった内側に眠る力が自分たちを包み込んでいるのを、はっきりと自覚していた。



「・・・さっき、一瞬だったけれど頭の中に強いイメージが流れ込んできたの。
その気配とそっくりなのをアスランから感じる。 まるで、こうしているのが当然のような感じ。
まるで・・・失っていた半身を手にしているような感じなの」

「キラ・・・。 それは、俺も感じていたことだ。 今まで、俺の心は満たされることがなかった。
けど、君がこうして傍にいてくれるだけで俺は満たされているんだ。
ずっと、探していたものが見つかったような、まるで魂の半分が漸く戻ってきたようなそんな感覚だ」



アスランがキラを抱く腕に力を込めると同時に、キラもまた自らアスランの背中に腕を回した。
2人を包む力が同調するかのように混じり合い、今までにない安心を互いに抱いていた。



「まさか・・・・。 兄様・・・?」

「ミカエル・・・か?」



完全に混じり合った力により、彼らの瞳には目の前にいる人物とダブって見えた人物に目を見張った。



アスランの魂は、かつて神より追放されし最初の堕天使であり、
天使長という役職を担っていた天使・・・ルシファーのものであった。
そのため、他の魔族たちよりも聖力に対する抵抗を兼ね備えていた。

キラの魂は、神が己の力を天界の繁栄のために欲し、
唯一ルシファーと対等の力を持つ天使・・・ミカエルのものであった。


だが、今までその力の半分も出ていなかったために、神に気づかれることはなかった。



そんなキラは自らの意思で、神への忠義よりも次期魔王であるアスランと共に歩む道を選んだ。
2人が同時に互いの魂の生まれ変わりだと気付いたと同時に、
アスランの中にキラから天界でのイメージが流れ込んできた。




それは、キラさえも知らない過去。
キラが今まで微力の力しか出なかった、その原因が明らかとなった・・・・・。










数百年に1度、天界に神にも匹敵する聖力を持つ者が生まれる。
現在、天界に住まう天使たちの中で双子として誕生した天使は、キラとカガリだけであった。
天使は、誕生した瞬間生命の光でもある聖力を放出する。
生まれたばかりの天使にとって、聖力の制御などできない。
そのため、天使官より作られる制御装置を嵌められるのだ。
天界に双子が誕生したという知らせは、瞬く間に広がった。

当然、神であるウズミにもその報告が届き、
自らが求めていたミカエルの生まれ変わりかを確かめるべく、双子の元へ向かった。



溢れんばかりの力を放出する金色の髪を持つ天使と、
その力に比例して微力な力しか放出しない鳶色の髪を持つ天使。
ウズミは、溢れんばかりの力を放出する天使を見返るの生まれ変わりだと信じ、
2人の両親にカガリを自らの元で育てると命じた。
唯一神であるウズミの命に逆らえるはずがなく、両親はカガリをウズミに託した。


双子ながらも、離れて暮らしたカガリとキラ。
物心が付くまで、2人が双子の姉妹だということは知らせられなかった。
その間もカガリは、無限の力を使いたい放題の我侭を行ってきた。

カガリが力を使うたび、キラは体調を崩すことが多かった。




ある日、カガリは本来ならば犯してはならない天界の掟を犯した。
人界で膨大な力を解放したのだ。
その解放により、罪もない人間が巻き添えになった。


天使は、人界でその力を解放してはならない。
その力は、癒しであるが暴走する力は、予測を遥かにしのぐ。
そのため、天使の力を全て解放することは禁じられてた。



天使軍と魔軍が戦うのは、人界とはまた別の世界の狭間である。
そのため、双方の戦いの際には人界が巻き込まれることはなかった。


だが、カガリはその理を犯し、暴走ではなく自らの意思でその力を解放したのだ。
本来ならば追放処分ですまないほどの罪を犯したにも拘らず、神の一言で無罪放免。
一週間程度の自宅謹慎に止まった。
ウズミは、養子として迎えたカガリを大変溺愛していた。
また、カガリをミカエルの生まれ変わりだと信じて疑わないため、手放すことは一切しなかった。


カガリがその力を解放したと同時に、天界で静かに暮らしていたキラは、自宅で倒れた。
天使では珍しいことにキラはよく発熱を起こし、寝込むことが多々あった。
だが、この時はその熱が一向に引かず、三日三晩高熱を出し続けた。



ウズミから召喚状を受けたキラはオロファトで今まで一度も会うことがなかったカガリと対面し、
ウズミから2人が双子の姉妹だと告げられた。
初めて見たキラに対し、カガリは言いようのない嫉妬をキラに感じた。
大人しく、周りから受けのよいキラと神の子として甘やかされてきたカガリ。

カガリはそんな大人しいキラを嫌い、
無理やり入ってはならないと言われた禁断の森にキラを連れ込んだのだ。
奥までキラを連れて行き、自身はさっさと森を抜け出したカガリだったが、キラはその森を彷徨った。


そんなキラの前に、漆黒のローブを纏った者が現れ、
キラの涙が止まるまでその者はキラを優しく抱き締めていた。

その者は自らの力で、掌に乗るほどの小さなメタルグリーンの小鳥を創り出した。
落ち着きを取り戻したキラは、そんな小鳥に驚き、涙に濡れた表情を微笑みに変えていた。



そんなキラの様子に安心した様子を見せたその者は、キラの掌にその小鳥を乗せ、
大事そうに抱き締めたキラを見届けるといつの間にかその姿を消していた・・・・・・。









「・・・あの時、あの森にいたのは・・・アスラン・・・・?」

「・・・あぁ。 あの森は、天界と魔界を直接繋ぐゲートとなっている。
だが、そのゲートは不定期に開く為、あそこから堕天した者以外、知ることはない。
そんな時、あの森の結界が揺らぎ、開くことがなかったゲートが開いた。
その光に誘われるように向かった先に、迷い込んだ君がいたんだ。
・・・なぜ、俺が君に触れられたのか・・・これでハッキリした。
俺・・・いや、俺の魂が元は天使だったからなんだな。
最初にこの地へ堕天した天使・ルシファーの魂を持つ者。
だからこそ、あの場所を知り、君にも触れることができた。
堕天使には、極稀に魔力を持ちながらも聖力を反射することができると聞いている。
歴代最高の魔力を持つ為、その力も作用しているのだろう」



2人の間に流れたキラ自身も知ることのない・・・キラの中に眠る力が知る、
過去のイメージが流れたキラは、呆然と目の前に立つ夫を見つめた。
そんなキラに、アスランはニッコリと微笑を浮かべるとキラの肩に止まるトリィに指を差し出した。




トリィは羽根を広げると『トリィ』と鳴き、抵抗もなくアスランの指に止まった・・・・・・。








2008/05/18















本日中に更新できて、大変嬉しく思いますv
ありきたりな流れになってきましたね;
勘のいい方は、序盤辺りから予測ができていたことだと思います;
『双子』だということで、某はキラの力を吸い取っていました。
だからこそ、コペルニクスで某がキラたちに攻撃を仕掛けていた時に、
キラの様子がおかしかったのです。
本来、キラの力はアスランと匹敵するほどの力。
だからこそ、キラの魂はミカエルなのですvv
以上、補足でした〜(ぇ)
リク者である桜ちゃん以外、お持ち帰りは不可です。
桜ちゃんに限り、加筆・苦情を受け付けます。
お持ち帰りの際は、必ず【水晶】と管理人の名前をよろしくお願いしますねv