「・・・あの時、あの森にいたのは・・・アスラン・・・・?」

「・・・あぁ。 あの森は、天界と魔界を直接繋ぐゲートとなっている。
だが、そのゲートは不定期に開く為、あそこから堕天した者以外、知ることはない。
そんな時、あの森の結界が揺らぎ、開くことがなかったゲートが開いた。
その光に誘われるように向かった先に、迷い込んだ君がいたんだ。
・・・なぜ、俺が君に触れられたのか・・・これでハッキリした。
俺・・・いや、俺の魂が元は天使だったからなんだな。
最初にこの地へ堕天した天使・ルシファーの魂を持つ者。
だからこそ、あの場所を知り、君にも触れることができた。
堕天使には、極稀に魔力を持ちながらも聖力を反射することができると聞いている。
歴代最高の魔力を持つ為、その力も作用しているのだろう」



初めて、貴方に会ったあの時・・・・・・・。
とても、懐かしいと、思ったの。
まるで、欠けていた『半身』が戻ったかのように。



確かに、『半身』と呼べる存在はいる。
双子として、生を受けたから。

けれど・・・姉様は私を『妹』とは、思っていない。




双子であるはずの彼女にすら感じたことのない、懐かしいと思える貴方の気配。


地上に降り立ったあの時から、常に付きまとっていた《心の闇》が、あの時から消え去っていたの。





なぜ、あの時懐かしいと思ったのか・・・・・・。

なぜ、あの時貴方の気配がとても安心できると思ったのか・・・・・・。



それは、貴方が私にとって真の『半身』であるから。








貴方の魂と私の魂は、遠い過去から繋がっていたから・・・・・・。











比翼連理
  ― 通告という名の警告 ―











ほのぼの空気がアスランたちを包んでいる頃、
自室に戻ったはずのラクスは、城の奥にある『水晶の間』に封じられている水晶を覗いていた。




封じられている水晶とは、魔界が誕生した当初から伝えられている宝玉の一つである。
魔界で最も魔力の高いアスランに引け手を取らない魔力を保持するラクスは、
その水晶を媒介として様々な先見を『視る』ことができる。



基本的には、そのイメージが浮かび上がるたけで新たな道を啓示することしかできない。


そのほかには、水晶がラクスに向けて信号を送る時がある。

その場合、天界からの一方的な宣言や魔界全体の危機など、
魔界そのものを脅かすモノに対して警告を送るのだ。




現在ラクスが『水晶の間』にいるのは、
予定していた先見を『視る』行為ではなく水晶から発せられた警告のためであった。




《私は、唯一神であるウズミ=ナラ=アスハの一子、カガリ=ユラ=アスハ。 我が妹である、キラの堕天を姉として見過ごすわけには行かない。 即刻、妹を我ら天界へ引き渡せ。 この警告を受け入れない場合、我ら天界との全面戦争の宣戦布告とみなし、我らはこれを阻止する為に『ピースメーカー』を発射させる》




その一方的な宣言は、
つい先ほど天界から送られてきたものであった。その発言に対し、ラクスは別の意味で驚いていた。



「・・・このような方が、あのお優しいキラの姉・・? ・・・・何を言っておられるのやら。
キラ様は、既に私たちの同胞。 何より、今まで何も望まなかったアスランが唯一欲したお方。
自分勝手な方に、お渡しするほど私たちは酔狂ではありませんわ?」

「当然だ。 ・・・アスランには俺から伝えよう。
返答後、すぐに撃ってくるとは思わないが・・・念のためだ。 ニコルに連絡を入れてくれ」



ラクスはニッコリと微笑みを浮かべていたが、その背後には真っ黒なオーラを纏っていた。



また、そんなラクスの傍にはイザークの姿もあったが、
水晶に映ったカガリの姿に嫌悪とその宣言に対する怒りの為、
ラクスのオーラに当てられることなく、静かに頷いていた。



「分かりましたわ」



イザークの言葉に頷いたラクスは、ローブを翻しながら『水晶の間』を跡にした。
イザークもまた、『水晶の間』からアスランの私室へと向かった・・・・・・。








『水晶の間』で真っ黒なオーラが垂れ流しになっている頃、
アスランは長い間封印されていた力が解放されたために再び眠りについた妻を愛しげに抱いていた。
先ほどまで、様々な語らいを続けていたのだが襲ってくる睡魔に勝てず、
アスランの促しで彼の膝を枕に深い眠りについている。
そんな主人の様子をちゃんと理解しているのか、アスランの肩に静かに止まっている。





―――――コン、コンッ





3人用のソファでアスランの膝に頭を乗せ、
アスランの腕に守られるように眠っていたキラをアスランは起こさないように注意を払いながら抱き上げ、
2人の寝室にあるベッドに運んでいた。







布団の中に入れ、出ている右手を包み込むように握っていた彼の耳に、私室の扉を叩く音が響いた。



「・・・イザーク? ・・・入れ」



キラの美しい鳶色の髪を優しく梳いていたアスランだったが、
扉前にある気配を感じるとキラの額に触れるだけのキスを落とすとそのまま私室へ向かった。



アスランの気配感知能力は、魔界一と言ってもいいほど優れている。
一度感じた気配ならば、半径500メートルならば感知することが可能だ。




そのため、扉をノックする前にイザークの気配を感知していたが魔界にある自室にいる際は、
相手からの呼び出しがない限り扉を開けることがない。



「・・・アスラン。 天界側からの警告が先ほど届いた。
キラ皇妃の姉と名乗る人物・・・戦場で指揮を取っている者だ。 ・・・確か、名をカガリ=ユラ=アスハとか」

「指揮官? ・・・そんな名前だったか?」

「・・・そのことはどうでもいい。 とにかく、その者がいきなりこちらに向かって警告を発してきた。
内容は、この魔境を見れば解る」



私室に入ったイザークは、寝室からキラの気配を感じると自然と声のトーンを落とし、
キラの睡眠を妨害しないように努めた。
そのことを理解しているアスランは、
イザークの表情から何かが起こったと判断し、目の前にあるソファに座るよう、促した。




ソファに座ったイザークは、早速本題とばかりに先ほど『水晶の間』で見て聞いたことを告げた。
イザークの言葉に魔界軍の最高司令官であるアスランは、
敵軍である天界軍の指揮官の名を思い出そうと首を傾げたが、彼の優秀な頭には全くヒットしなかった。


アスランの思考回路を幼馴染の為に熟知しているイザークは、
そんなアスランを気にすることなく水晶に映し出された映像を凝縮し、コピーされた鏡を渡した。




その鏡は『魔境』と呼ばれ、通信・映像をそのままコピーする知るものである。
通常は鏡のため、コピーしたい映像などを反射させるように掲げると、
そっくりそのまま同じ内容がコピーできるという優れものであった。



「・・・この者・・・。 そうか。 あの時の女は、この者か」

「アスラン? どこかで、この女にあったことが?」



魔境に映し出されたものを静かに見つめていたアスランだったが、
見終わる頃にはラクスに匹敵するほどの真っ黒いオーラを身に纏っていた。
アスランは独り言のようにポツリと呟いたが、2人しかいない空間であるため、
正面に座るイザークの耳には届いていた。
聞こえたイザークは眉を顰めながら、
この通信をよこしてきた者を主でもあり幼馴染である彼が知っているのか尋ねた。



「あぁ。 ・・・キラを連れてくる日、人界・・・【コペルニクス】で最後にあった者だ。
俺の最愛であるキラに攻撃を仕掛け、『出来損ない』と罵った。
この女からの攻撃を受け止める為、軽く結界を張ったんだが・・・この者は全く気付かなかったぞ」

「・・・どうする? もちろん、我らは皇妃を渡すつもりなどない。
ラクスも言っていたが、キラ皇妃は既に、我らの同胞。
元天使であったとしても、我らにとって守るべき存在だ」

「当然だ。 長き時を経て、漸く再び出会うことができた。
相手がたとえ神であろうと、二度と手を放すなど・・・そのような愚かな真似はしない」



イザークの問いかけに、
コクリと頷いたアスランは自身とキラの正体を知る切欠となった出来事を思い出した。
そのことを告げてゆくうち、より一層黒いオーラを放つアスランだったが、
先ほどの宣言で怒りのピークに近いイザークは怯むことなく静かにアスランの言葉を聞いた。




アスランの言葉を聞いたイザークは、
確信を持ちながらキラを警告という名の脅しをしてきた人物・・・カガリの言葉に
徹底的に対抗する意思を見せた。



そのイザークの言葉に、当然だとばかりにアスランは頷き、
先ほど判明したことを思い出しながらエメラルドの瞳には冷酷の色を隠すことなく宿していた。



「・・・だが、いきなりこの宣言はなんだ?
アスランが魔族だと気付かなかったのならば、皇妃がこちらにいることも解らなかったのだろう?」

「・・・儀式後、キラは力を解放した。
魔力に変換されたために魔界には守りの力として作用されたようだが・・・あちらには、
それなりの被害があったようだな。 ・・・今更だが、キラがミカエルの生まれ変わりだと気付いたようだ」



イザークはアスランの瞳に宿った冷酷に怯えることなく、
むしろ不機嫌そうな表情を浮かべながら今は何も映し出さない魔境を睨みつけた。



そんなイザークを咎めることなく、アスランはククッと黒い笑みを浮かべながら気付いた原因を告げた。



「・・・そうか。 あちらに対しての返答は、どうする? 俺か・・・ニコル辺りにするか?
本来ならば皇族が返答するべきなのだろうが、あちらの一方的なものだからな」

「・・・いや、俺がするさ。 ヤツは、俺のことを人間だと思っていたようだからな?
『天使』であるにも拘らず、人間だと思い込んでいた俺を欲していたようだ。
ならば、その妄想を打ち破ってやろうじゃないか」



不機嫌の表情をそのままに、イザークはこの警告を宣戦布告と受け取り、
天界に対してこちら側の正式な返答を誰がするかを尋ねた。



遥か昔より、双方に共通するものがあった。
それは、互いの世界に宣戦布告を告げる場合などは神や魔王の縁の者と定められている。

そのため、この場合は魔王であるパトリック本人か次期魔王であるアスランが好ましいが、
今回のような一方的な脅迫とも言える内容であるため、皇族が返答する必要はないと、イザークは告げた。


だが、そんなイザークを制したアスランは、自らが宣言すると告げた。





より一層冷酷さの増したアスランの瞳に比例するように、
彼の全身を纏う気配もまた絶対零度の冷気が吹き荒れていた・・・・・・。









一方その頃、イザークと分かれてラクスが向かったのは、軍施設であった。



その中の一室に、魔界軍・・・ザフトの軍師的役割を果たすニコルの執務室がある。



「・・・と、言うわけですわ。 アスランのほうには、今イザークが行かれてます。
私たちは、キラ様をあちらにお渡しなどいたしませんわ。
・・・正式に、アスランから命令が届くとは思いますが・・・打てる手は、打っておきませんと」

「解りました。 軍は、こちらの方で準備しておきます。
キラ皇妃殿下は、すでに僕たちの大切な守るべきお方。
それに、あのアスランが安心して全身をお預けになられる方。
そのような方を、僕たちはみすみすあちらにお渡しするわけには行きません」



軍施設にあまり出入りしないラクスが、自ら自室に訪れることは大変珍しいことである。
その為、ニコルは人払いを済ませるとラクスに机前にあるソファーに座るよう進め、
自身もラクスの前に座った。




ラクスからの要点を纏めた説明を聞くと、ラクスに劣らず彼もまた真っ黒なオーラを放出していた。
ラクスとニコルは、同じ属性である。
2人ともニッコリと微笑みながら毒を吐き、敬語が標準なためその恐ろしさは倍増される。
直情型であるイザークのほうが、
まだ扱いやすいというのは彼ら幼馴染の中では、当に知られていることである。



「もちろんですわ。 ・・・では、そちらのほうはよろしくお願いしますわね?
私の方でも、あちらから仕掛けてくるであろう攻撃は読むことは、多少ならば可能ですわ。
水晶に映し出されるのは、魔界と天界を隔てる狭間までですから。
今まで、沈黙を不気味に思うほど守っていた天界が、何かを作り出したに違いませんもの。
でなければ、あのように堂々と脅しという名の宣戦布告をいたしませんわ」



出された紅茶を優雅に飲みながら、ラクスはニッコリと微笑を浮かべた。
全てを飲み終わるとカチッと小さな音を立て、
置かれていたテーブルに空のカップを戻し、静かに立ち上がった。
その様子を静かに見つめていたニコルは、彼女の発言にしっかりと頷き、了承を示した・・・・・・。








2008/07/01















キラ、前回から引き続き眠っております(滝汗)
このお話では、イザークは微妙に灰色ですv
よって、ほかの作品と違い、あまり黒トリプルsを避けませんv
むしろ、魔族なので・・・黒に近い属性をお持ちです。
某からの一方的な宣言に、アスランを含める主要メンバーはお怒りv
あと、1話続きますが・・・最後まで、お付き合いくださいませv