「・・・連れて行って。 僕も、アスランの傍にいたい。
アスランと出会ってから、アスランの傍にいるとすごく安心できたの。
毎日、《天界》に帰りたいと思っていたのに・・・アスランの傍にいるほうが、安心できるの。
アスランが、魔族でも構わない。 だって・・・僕はアスランが、好きだから」



彼が、何者でも構わない。
だって、彼の腕の中はこんなに安心できるもの。
《天界》でも、こんなに安らいだことはなかった。



そう・・・。
それはまるで、足りない何かがピッタリと合わさったような・・・そんな感じ。


僕が『天使』でも、貴方は構わないと言った。
僕も、貴方が『魔族』でも構わない。

貴方が好きだから。




貴方の傍に・・・ずっと、いたいから。











比翼連理
  ― 堕天使の誕生 ―











アスランに抱き締められた状態のキラは、
自分を包み込む彼の独特な気配に安心しきった表情を浮かべ、
自らもっと密着するように彼の逞しい胸に顔を埋めた。
そんな可愛らしい仕草をするキラに対し、
アスランは優しい笑みを浮かべるとギュッと抱き締める腕に力を込めた。



「キラ? 体調は大丈夫かい?
君にとって・・・この地は少々きついかもしれない・・・。
すぐに、俺の自室に連れて行くから・・・もうしばらく、我慢していてくれ」

「うん。 ・・・ちょっと、きついけど・・・・。
でも、アスランに抱き締められていると・・・少しはマシなんだよ? ありがとう、アスラン」



視界を漆黒の闇が包み込んでいる。
そんな中、魔力を使って一瞬のうちに魔界へ続く門を潜ったアスランは、
腕の中にいるキラの体調が妖気に当たって崩れていないか確かめた。
本来、キラは妖気とは正反対の性質を持つ。
そのため、魔界に充満する妖気はキラにとって毒でしかない。
長時間妖気に当たっていると、死に至ることもあるのだ。



だが、その妖気を最小限に抑えようとアスランはキラの周りに遮断する為の結界を張り、
紛らわされるように抱き締める腕に力を込めた。
そんなアスランの心遣いに気づいているキラは、
多少血の気は失っているものの、ニッコリと微笑を浮かべていた。




アスランは再びキラの身体をスッポリとマントに包み込むと、
漆黒に染まった翼を使って実家である城を目指した・・・・・・。






魔界の中央に聳え立つ塔が、魔王の居城・・・ディセンベルである。
城全体は漆黒で統一されており、城内の装飾にいたるまで黒が基調されている。



「・・・キラ、先に父上たちに会ってくるよ。
本当は、君も一緒に連れて行きたいけど・・・まだこの妖気に馴染んでいない内は、
あまりここから出ないようにしたほうがいいからね」



アスランはまず、キラを自室の寝室へと連れて行った。
寝室全体に結界を張り、キラの額に触れるだけのキスを落とすと寝室を後にした。



アスランは寝室から出ると、纏っていたマントを脱ぎ、漆黒の服を取り出した。
その服には、紅の刺繍が施されている。上からは漆黒のコートを纏い、
腰の辺りで絞られており、裾の部分は左右に大きな広がりを見せていた。


公的立場で着用する服装にはすべて、金の刺繍が施されており、
私的立場で着用する服装にはすべて、紅の刺繍が施されている。



「・・・ニコルか」

「アスランが女性の方をお持ち帰りなされたと、噂になっていますよ?」

「彼女は、俺の婚約者だ。 そのことを、父上たちに報告しようとしていたんだ」

「そう、ですか。 では、イザークたちも呼びましょうか? 僕らにとっても、人事ではありませんからね」

「・・・任せる」



影から現れたのは、若草色の髪にトパーズの瞳を持つ少年であった。
ニコルと呼ばれた少年は、ニッコリと微笑みながら主の帰還に一礼した。


少年・・・ニコル=アマルフィの気配が再び消え多野を確認したアスランは、
目的地である広間に向かうべく、静寂に包まれた回廊を静かに進んでいった・・・・・・。






アスランが広間に到着した頃、中には既にニコルから連絡のあった主要メンバーが揃っていた。
上座にある玉座には現魔王であり、アスランの父であるパトリック=ザラが座っており、
玉座の一段下に后であり母であるレノア=ザラ。



階段下の左右には、ニコルと同年代の少年少女が2人ずつ分かれて静かに佇んでいた。
また、その後ろには彼らの親であり4大貴族の現当主たちの姿もある。



「父上。 アスラン=ザラ、ここに帰還しましたことをお伝えいたします」



私的立場であるとはいえ、報告などはキッチリと行うのが彼の性分である。
右膝と左手を床に付け、右手を己の胸元に置いたアスランは、
両足の中心地点を見つめながら帰還報告を行った。



「うむ。 《人界》は如何だった?」

「・・・特別、何か変わったことなどは。
・・・しかし、《人界》へ行ったことにより我が妃となってくれる姫君を見つけることができました」



息子の帰還報告に頷いたパトリックは、右手を上げてアスランを立たせた。
その合図と共に立ち上がったアスランは、
父の問いかけに対してあまり《人界》に興味がないためそっけない態度だったが、
《人界》に行ったことによりキラと出会えたのだから悪くはないと思っている。



「ほう。 その姫君とは、どのような娘なのか?」

「彼女は、我らと敵対する《天界》の住人・・・『天使』です。
俺が人間として生活を送っている時から気になり始めており、気付いたのはつい先ほど。
彼女は、同族であり実の姉にその命を狙われていました。
彼女は、自らの意思で俺の妻になってくれると、そう言っておりました。
現在は、この地の空気・・・妖気よりその身を守るため、我が寝室に結界を張っております」

「・・・そうか。 お前の結界ならば大丈夫だろう。 だが、すぐに婚儀の準備を進めたほうがいいだろうな。
結界で守られているとはいえ、この空気に慣れない事には外に出ることもままならないだろう」



滅多に感情を表に出さない息子が、
『姫君』との発言で今まで見たことのない慈愛に満ちた微笑を浮かべていることから、
どれほどその者を愛しているのかを理解したパトリックたちであった。
しかし、息子から告げられた言葉に驚きを隠せなかったものの、
自ら堕天することを選んだその娘に、興味を持ったのも事実である。



「ありがとうございます。 ・・・正式に、彼女を紹介したいので俺の寝室に来ていただけますか?」

「分かった。 ここにいる者で向かうとしよう」



父の言葉に、キラとの婚儀が正式なものになったことを喜んだアスランは滅多に見せない微笑を浮かべた。
その微笑に、レノアも安心した表情を浮かべており、
その表情を引き出したまだ見ない未来の娘を見てみたいと思った。



パトリックはアスランの提案に頷くと、右手を頭上に掲げた。
掲げられた右手から漆黒の光が満ちると部屋にいた全ての者を飲み込み、
光が消える頃にはその場から姿を消していた・・・・・・。






パトリックの使用した魔法は瞬間移動で、
光に包まれた者全てを一瞬の内にしてアスランの部屋に移動させた。


まずはアスラン1人が寝室に向かい、
扉の向こうに聞こえる話し声を静かに聞いていた彼らの前に、再び寝室の扉が開いた。



「父上、母上。 紹介します。 彼女が、私の選んだ唯一無二の存在、キラ=ヤマトです」

「お初にお目にかかります。 キラ=ヤマトと申します」



扉を開けたアスランは扉をそのままに、再びキラの傍に近づくと優しく肩を抱いた。
穏やかな表情を浮かべながらキラを紹介したアスランと
アスランに信頼を寄せているのか身を預けているキラは、
ニッコリと儚いながらも美しい笑みを浮かべていた。



「初めまして、キラちゃん。
私は、レノア=ザラよ。 アスランの母です。
貴女はアスランのお嫁さんになるのだから私のこと、『義母』と呼んでね?
あっちにいるのが、アスランの父のパトリック。
彼は現魔王だけど・・・遠慮なく、『義父』と呼んで頂戴?」

「お義母・・・様、お義父・・・様・・・?」

「えぇv アスラン、でかしたわv こんなに可愛らしい子を、お嫁さんに選ぶなんて!
政略結婚を仕掛けてきた没落貴族たちの娘より、断然キラちゃんのほうが愛らしいわv」



美しいキラの微笑みにノックアウト状態だった彼らの中で最初に復活したのは、
影で魔王よりも強いと噂のレノアだった。
自己紹介と共にさり気なくキラに対しての要望を告げたレノアに対し、
困惑した表情を浮かべながらもキラは素直に呼んでみた。


そんなにキラに、レノアは完全に気に入ったのかキラを選んだ息子に賞賛を送った。



「当然です。 俺が初めて何よりも優先的に守りたいと思った人ですから」

「あらあら。 アスランの口から惚気を聞くことができるなんて、今まで想像もしておりませんでしたわ。
初めまして、キラ様。 私は、ラクス=クラインですわ。
私の隣におりますのは、私の婚約者でもあるイザーク=ジュール。
その後ろにおりますのは、ディアッカ=エルスマンとニコル=アマルフィですわ。
私たちアスランとは、幼馴染ですの」



母の言葉に対して満足そうに微笑んだアスランは、
肩から手を外すとキラを横向きにし、自身の膝の上に抱き上げた。
いきなり不安定になったことに驚いたキラだったが、
落ち着かせるように背中をポンポンとリズム的に軽く叩かれ、徐々に落ち着きを取り戻した。
そんな2人にニコニコと微笑を浮かべていた
桃色の髪とアクアマリンの瞳を持つ少女・・・ラクス=クラインは、
どこか関心した様子で自分たちの紹介を始めた。


彼女たちはそれぞれ、
4大貴族・・・クライン家・ジュール家・アマルフィ家・エルスマン家の嫡子である。
また、彼ら自身がアスランを自らの主と認めているため、幼馴染兼臣下という立場であった。

ラクスは魔力が優れている魔女で、上位の召喚魔法などのスキルを保持している。
ニコルは戦場に降り立つと、頭脳を駆使しての戦略を練ることから、魔軍の参謀的立場を担っていた。
銀色の髪とサファイアの瞳を持つ少年・・・イザーク=ジュールは、
外見とは裏腹の激情家で、戦場では副将という立場にも関わらず突撃部隊を率いている。
金色の髪とヴァイオレットサファイアの瞳を持つ少年・・・ディアッカ=エルスマンは、
突撃隊長という任についていながらも実際は暴走するイザークのストッパー的役割になっているのは、
既に周知の事実である。



それぞれが微笑みあいながら自己紹介をし、
誰も自分に対して悪意を持っていないと感じたキラは再び可愛らしい笑みを浮かべていた・・・・・・。

アスランがキラを連れて、魔界に帰還を果たしてから数日後。魔界全土はお祭りムードに染まっていた。次期魔王である皇子に、皇妃が迎えられると城から全土に報道されたからである。アスランに政略結婚を持ちかけてきた貴族たちはこのことに悔しがり、娘たちもまた玉の輿を逃したと見たことのない姫に嫉妬していた。
そんな彼らのことを知る由もないキラは、
アスランの作り出した結界に守られたままこの数日を過ごしていた。
キラの傍には、《人界》にあるキラの家に置いてきてしまった小鳥の姿もあった。
この小鳥は、アスランが瞬間移動でキラの家に行き、連れてきたのだ。


トリィを大切にしていたキラにとって、小鳥を置いてきてしまったことに悲しみを抱いていた。
キラがトリィを大切にしていたことを知っていたアスランは、キラの願いを叶えるべく連れてきたのだ。



キラとトリィの出会いを聞いたアスランは、小さく息を呑んだがキラに気付かれることはなかった。







この数日間、
ラクスたちは暇を見つけてはキラのいる部屋に着たりなどして交流を深め、
現在ではアスランが触れていなくても笑顔を時折見せるようになっていた。
『天使』ということであまり近づこうとしなかったイザークであったが、
儚い笑みを浮かべるキラに対し徐々にその認識を改め、
『天使』は今でも嫌いだがキラ本人は守るべき対象だと認識した。
その様子を静かに見守っていたアスランは、
嬉しそうに微笑むキラに安心したのか終始穏やかな微笑を浮かべていた。





婚儀の準備も着々と進み、現在キラはレノアの選んだ漆黒のドレスをその身に纏っていた。
その肩にはトリィの姿もあり、
静かに祭壇の前に進むキラを見つめていた招待客たちは
幻想を見ているのかと錯覚するほど、美しかった。




祭壇には既にアスランの姿があり、中央にはパトリックの姿もあった。
レノアに先導されるように祭壇に向かったキラは、
アスランの隣に立つとパトリックの隣に立ったレノアから一つの短剣を渡された。




短剣を手に取ったキラは、自分に向けられたアスランの左薬指を小さく斬り、
アスランもまたキラの左薬指を小さく斬った。


ポタッポタッと落ちる血を気にすることなく、アスランとキラは斬った傷口を合わせる様に絡ませ合い、
パトリックから渡されたグラスを手に取ったアスランは、
キラと自分の血を混じ合わせながらグラスに入れていく。
ある程度溜まったのを確認すると、ゆっくりと双方の指を離した。



グラスに溜まった血をアスランが半分ほど口に含み、半分残った血のグラスをキラに渡した。
渡されたグラスを口に含み、残った血をすべて飲み終えたキラは、
自分の体内で変化が起きていることを感じた。





アスランの血が混じるのを感じたキラは、
全身に熱を持つと淡い純白の光を発したが、その光も徐々に漆黒に染まってゆく。



光が漆黒に染まり、キラの身体に吸収されるように消えてた瞬間、
バサッとキラの背に純白の翼が出現した。
純白の翼はパンッと響いた音と共に抜け落ち、漆黒の翼が新たに出現した。




傷口を離してからすぐに治癒されたアスランと違い、
流れ続けていたキラの傷口が漆黒の翼の出現と共に治癒された・・・・・・。










――――― 魔族と契りを交わした天使。
魔族の血を体内に取り込んだ天使は、新たに堕天使として生まれ変わった・・・・・・。








2008/04/01















早めに更新とかいって、4ヶ月かかりました;
魔界編ですv
ザラパパがすんなり結婚を許してますが、
そこらへんはごちゃごちゃすると終わらないので;
婚儀の儀式・・・『血の儀式』ですが、その部分は考えていてとても楽しかったですv
漸く、話も折り返しになりました;
こんな調子の更新ですが、最後まで楽しんでいただけたら幸いです;;
リク者である桜ちゃん以外、お持ち帰りは不可です。
桜ちゃんに限り、加筆・苦情を受け付けます。
お持ち帰りの際は、必ず【水晶】と管理人の名前をよろしくお願いしますねv