「キラ? 大丈夫だよ。 俺が付いているだろう? ・・・・きさま、いったい何者だ? 何が目的だ」



目の前の女に怯えるキラ。
キラは、全身でこの女に対して恐怖を感じている。


キラを殺す?
そんなこと、この俺が許さない。
漸く見つけた、愛おしいと思える存在。
そんな存在を、みすみす奪われてなるものか。


自分が優れていると勘違いし、キラと比べるにも程のある醜い魂を持つ者。

キラを害する者は、例えキラの姉であろうと・・・許さない。











比翼連理
  ― 双方の正体 ―











「ッ!!」



自分たちに向かってくる光の玉に対し、キラは咄嗟にしがみついているアスランの腕をさらにきつく握り締めた。
そんなキラに、アスランは優しげな微笑を見せると、キラに握られていない腕を彼女の背中から外し、
徐に向かってくる光に翳した。




――――― パンッ!




二人に直撃するかと思われた光の玉は、2人の前を遮る何かによって阻まれ、音を立てて砕け散った。


砕けた光の玉を見たカガリは呆然とし、苦虫を潰したような様子で醜い顔をさらに歪ませた。
アスランの腕に守られるような形になっていたキラも呆然としていたが、
光の玉が弾ける瞬間に感じた自分とは相反するはずの気配をすぐ近くで感じたことに、
自分がしがみついているのに護られていると実感する態勢のままでいるアスランを見上げた。
そんなキラの視線に気付いたのか、腕の中に大人しく納まっているキラに曖昧な微笑を見せ、
顔を上げると顔を歪ませたままのカガリに冷徹な視線を浴びせた。



キラたちに向かって投げ飛ばされた光の玉は、一部の『天使』が使用することの許可された唯一の攻撃技であった。


本来、『天使』は神の創り出した人間たちを見守り、正しい道に導くことを仕事とする守護天使としての役目が多い。
そのほかにも、死人となった人間の魂の浄化の為、天国へ召還する仕事など温厚な性格の持ち主たちが多い。


だが、カガリはそれらの天使たちとはまったく逆の性格をしており、他人のモノを平気で奪うことが多かった。
そして、そのことについて罪悪感などない。
むしろ、自分は特別な存在であるから当然だと思っている。



カガリとキラはほかの『天使』たちと違い、天界でも珍しい双子であった。
だが、生まれた当初から力の溢れるカガリと微力しか感じられないキラであった。
稀に見る双子の様子を見に来ていた神は、一目でカガリを欲した。
そのことにより、自分の後継者としてカガリを選び、養子とした。
神はカガリを可愛がり、甘い態度を取るようになった。
そのため、我侭放題の癇癪もちの子どもに育った。
対するキラは、そのまま両親に育てられることとなりスクスクと素直な性格の子どもに成長した。


2人が双子だということは、カガリが幼い頃に神自ら告げていた。
自分とはまったく正反対の妹に、苛立つカガリは他人の目がないところで幾度となくキラを虐めていた。
神には筒抜けであったこの行為は、神自ら黙認していたこともあり、長い時に渡って繰り返されていた。




顔を歪ませていたカガリは苦虫を潰したような表情になり、奥歯をかみ締めた。
そして、先ほどと同じように光の玉を掌に出現させると、再びアスランたちに向けて放った。
放つと同時に再び出現させ、連続で放った。
二つの光の玉はアスランたちに届くことなく、見えない壁によって阻まれた。
同じような攻撃に、アスランは興味がないかのようにカガリから視線を外し、腕の中にいるキラの顔を覗き込んだ。
覗き込まれたキラは先ほどよりも呼吸を荒くさせ、肩で呼吸を繰り返していた。
キラの変化に対して不審に思いながら、アスランは再び腕を翳して軽く振った。
頭に血が上っている状態のカガリは気付かないが、
2人の周りにドームのような円形が創り出され、周りから遮断された。
自分の攻撃を尽く弾き返されたカガリは再び掌に光を出現させたが、
先ほどとは違い、その光はごく僅かなものですぐに消滅した。



「ッ!! クソッ!! 次こそは、必ずその出来損ないを抹消してやる!」



消滅した光の玉を見つめていたカガリは苦虫を潰したような表情を見せ、
捨て台詞を吐くと背中に純白の翼を出現させ、『天界門』に向かって飛び立って行った・・・・・・。







閉じられる『天界門』を静かに見つめていたアスランは、
周りに創り出していたモノを解くと腕の中にいるキラの様子を窺った。
先ほどよりは顔色が回復しているキラの表情に、アスランはホッとした様子を見せた。
どこか呆然とした様子で、閉じられて今は見えない『天界門』をジッと見つめていたキラだったが、
先ほど感じた気配の正体を探るべく、自分を見つめる美しいエメラルドの瞳を見つめ返した。



「・・・アスラン・・・君は、一体・・・何者なの?」

「キラ・・・・。 俺は、君に嘘をつきたくない。 薄々、気付いているのだろう?
俺は・・・本来ならば、《天界》の住人と敵対している魔族だ」



まっすぐ見つめてくるアメジストの瞳に、一瞬だけエメラルドの瞳に困惑が宿ったがゆっくりと息を吐いたアスランは、
苦笑いを浮かべながら自らの正体をキラに告げた。



「アスランが・・・魔族? けれど・・・」

「・・・君が《天界》で何を教えられたかは、なんとなく予測はついている。
だが、俺たちは血に飢えてもいなければ、好んでもいない」

「ッ!! そんなこと・・・思っていない!!」



アメジストの瞳に宿った困惑と驚愕の色を見逃さなかったアスランは、自嘲的な笑みを浮かべた。
そんなアスランに、彼の美しい瞳に微かに宿る悲しみに気付いたキラは、
自分を守っていた両腕を無意識に握り直しながら勢いよく首を左右に振った。



「ありがとう・・・キラ。 キラ、教えてくれないか? なぜ・・・天使である君がここにいる?
そしてなぜ、同じ一族であるあの者が君を狙っているのかを」



必死に否定するキラに、驚きと嬉しさの混じった色を瞳に宿したアスランは、ニッコリと微笑を浮かべた。
暫くキラを見つめていたアスランは、
カガリのキラに対しての発言と本来ならばこの地にいないはずの『天使』であるキラに問いかけた。



「・・・僕は、異端だから。 聖力が、僅かしかないの。
双子として生まれた姉様・・・カガリの半分にも満たない。
ある日、カガリに連れられて行った池に落とされて・・・気付いたらここにいたの。
何度も《天界》に戻ろうと、頑張ったけど・・・『天界門』の開く満月の夜でも、
聖力が微力しかない僕には、到底戻れない・・・・・。
カガリが、なぜ僕を狙うのかは、僕にも解らない・・・・・・」

「キラ・・・・・・」



アスランの言葉に、自分が《天界》の住人で『天使』だという事がばれていることを悟った。
しかし、自分が彼の気配に気付いたように、彼もまた自分の気配に違和感を感じたのかと思い直した。


静かに、自分がなぜ《天界》ではなく、《人界》にいるのかを話した。
話している内に心の奥にあった寂しさと哀しさを思い出したのか、アメジストの瞳に哀しみの色を僅かに宿した。
そのことを敏感に察したアスランは、自分の腕を握り締めるキラの手を優しく解き、
傷ついた表情を見せるキラを抱き締めた。



「アスラン・・・は? アスランはなぜ、ここに?」

「俺は、魔界で俺個人としてを認めてくれる者は、幼馴染たちと両親以外いない。
ほかの者たちは、俺の事を俺自身ではなく『次期魔王』としての肩書きしか見ない。
そんな者たちの中から妻を選ぶなど、到底無理だ。 だから、父上の許可の下ここに来た」



アスランに抱き締められたキラは、彼の広い胸元に顔を埋めると小さな声で尋ねた。
キラの言葉を聞き逃さないアスランは、キラを抱き締める腕に力を込めながら静かに告げた。



「・・・そう・・・・・・・」

「キラ・・・。 キラ、俺と一緒に《魔界》に行かないか? 俺は、君のその力ではなく君自身が欲しい。
君の存在自体が、俺にいろいろな感情を教えてくれる。
君に出会って、初めて人を心から愛することを知ったんだ」



アスランの「妻」という単語に傷ついた表情を見せたが、アスランにはその表情を見られることがなかった。
だが、彼女の纏う気配と声音での雰囲気からキラが傷ついたと、アスランは感じ取った。

そんなキラの耳元に、今まで隠し通してきた自分の感情を告げた。



「アス・・・ラン? 僕で・・・いいの? 何の力もない・・・僕を、選んでくれるの?」

「力がない? そんなもの、関係ないさ。 俺は、君自身を欲するのだから」



耳元に告げられた言葉に、キラは驚きを隠せない様子で目を瞠り、
顔を上げながら震える声で自分の中に宿る僅かな闇の部分を尋ねた。

そんなキラに対し、僅かに首を傾げながらもキラにしか見せたことのない穏やかな微笑を浮かべ、
愛おしいと思うままに彼女の長い髪を優しく撫でた。



「・・・連れて行って。 僕も、アスランの傍にいたい。
アスランと出会ってから、アスランの傍にいるとすごく安心できたの。
毎日、《天界》に帰りたいと思っていたのに・・・アスランの傍にいるほうが、安心できるの。
アスランが、魔族でも構わない。 だって・・・僕はアスランが、好きだから」



再び抱き締められたキラは、ゆっくりと瞳を閉じながら彼と出会って感じていた感情を告げた。
告げられた言葉に、アスランは嬉しそうな微笑を見せると左手を宙に掲げ、勢いよく水平線に空を切った。





闇が全体を包み込み、再び月光が辺りを照らす頃には2人の姿はどこにもなかった・・・・・・。








2007/12/14















・・・半年以上、放っていたみたいですね;
某の出番は、ひとまず終わりです。
次回からは、魔界編なのでv
漸く、アスラン以外のメンバーも出すことができそうですv
キラや某の能力に関しては、現在は明かされていませんが
次第に明かされていくことでしょうv
・・・次回はもう少し早めに更新できるようにします;
リク者である桜ちゃん以外、お持ち帰りは不可です。
桜ちゃんに限り、加筆・苦情を受け付けます。
お持ち帰りの際は、必ず【水晶】と管理人の名前をよろしくお願いしますねv