「君は、俺の大切な半身。 君は俺が守る。
例え、俺と相反する力を持っていたとしても、この気持ちに変わりはない。
・・・心配は要らない。 君のもつ力は、元々俺も持っていた力なのだから」

「私たちは、貴女を歓迎いたしますわ。
彼が、唯一感情を見せた方ですもの。
長い付き合いである私たちにすら、滅多に感情をお見せにならないのですわよ?」

「安心しろ。 この世界にお前を拒絶する者はいない。 誰も、お前を異端だとは思っていないからな」

「俺は、姫のことを仲間だと思ってるぜ? あいつが自ら傍に置くことを望んだんだからなっ」

「純白の羽よりもこちらの羽のほうが貴女にはお似合いです。 もちろん、褒めていますよ?」



僕の生まれた世界では、《力》の弱い僕は『異端』だと呼ばれていた・・・。
そんな僕の友達は幼い頃、入ってはいけないと言われていた森で見つけた小さな小鳥。
この小鳥を僕に渡してくれたあの人が、僕に生きる勇気を与えてくれた・・・・・。











比翼連理
  ― 共鳴しあう魂 ―











自然を壊すことなく、人間と自然が共存する都市・・・【コペルニクス】。
この都市に、1人の少女が暮らしていた。この少女はこの都市に来た時から1人で屋敷に住み、
近くのカレッジに通っている。
美しい長いブラウンの髪にアメジストのような瞳を持つ少女。
誰も、この少女がどこから来たかを知らない。
尤も、この都市に住む者たちは個人のことを尊重し、
話したくはないと思ったことに対して何も聞かないのがこの都市の少し変わった風習であった。
そのことにより、誰も少女に対して何の詮索もせずに受け入れた・・・・・。





少女には人には告げられない秘密を持っている。
満月の夜、少女は白い光に包まれることがある。

その光がなくなる時、それまで何もなかった少女の背に美しく、
それでいてどこか悲しみを帯びた純白の羽が付いているのだ。


そう・・・少女の本当の姿は『天使』。
地上にはいないはずの存在。

しかし、少女は今、『天使』の住まう場所である《天界》ではなく、
人間たちの住む《人界》に降り立っている。
少女の美しいアメジストの瞳は、時折悲しみを宿している。

『天使』たちの〔力〕の源である〔聖力〕が弱いばかりに少女は実の姉の手によって《人界》に追放されたのだ。

月の力によって若干〔力〕は戻るが元々他の者たちよりも微力だったため、
自分の力で《天界》へ戻ることが不可能なのだ。



少女と一緒に屋敷に住まう住人はもう一つあった。
しかし、それは人間でもなければ少女と同属というわけでもなかった。
彼女が幼い時、
禁じられていた森に迷い込んでしまった時にローブに包まれた者に貰ったメタルグリーンの可愛い小鳥である。
この小鳥は鳴き声なのか〈トリィ〉と鳴き、その鳴き声から少女はこの小鳥に『トリィ』と名付けた。
それ以来、どこに行くにも『トリィ』と行動を共にし、可愛がっていた。



桜が散り始め、春の気配から夏の気配へと移り変わる季節、《人界》に一つの影が舞い降りた。




その影は新月の夜に漆黒のコートを羽織ながら足音を立てることなく、
【コペルニクス】の地へと降り立った。



「・・・・ココが《人界》。 ・・・この格好だと、怪しまれるな。
ただの人間ならば心配せずとも構わないが・・・万が一にも“エクソシスト”なんかにあったら面倒だな。
・・・・そう、だな。 あのカレッジに侵入するか」



真っ黒いコートを身に纏っている影・・青年の域に達していない少年は、
ポツリと呟くと人の気配のない古い屋敷に視線を向け、片手を上げるとそのまま真新しい屋敷を出現させた。

真新しい屋敷に、少年が住むようになってから数週間、【コペルニクス】は平穏に日々が過ぎていた。






その日、少女の通うカレッジに、1人の少年が編入してきた。

彼の成績は少女が編入してきた際に叩き出したカレッジの最高得点と同点であり、
その容姿に女子生徒たちが興味を示したが本人は気にした様子もなく、割り当てられた教室に静かに入った。



「本日付でこのクラスに編入してきた転校生を紹介する。
こちらに来るまで、海外にいたそうだ。 まだ、学園に馴染んでいないから協力するように。
席は・・・そうだな。 ヤマトの隣がいいだろう」

「アスラン=ザラです。 皆さん、よろしくお願いしますね」



担任の言葉にクラスは一瞬騒然とするが当の本人たちは気にした様子もなく、
エメラルドの瞳を持つ少年は静かにアメジストの瞳を持つ少女の傍によるとニッコリと微笑を浮かべた。



「よろしく。 君、名前は・・・?」

「キラ。 キラ=ヤマト。 よろしく、アスラン君」

「呼び捨てでていいよ。 俺も、キラと呼ぶから」



エメラルドの瞳を持つ少年・・・アスラン=ザラは、
自分でも目の前にいるアメジストの瞳を持つ少女にどこか興味を持ったことに驚きながらも、
表情に出すことなくそのまま席に着いた。

そんなアスランの言葉にキョトンとしたアメジストの瞳を持つ少女・・・キラ=ヤマトは、
彼の言葉を漸く理解できたのか、小さく頷きを返した。



お互いが不思議な感覚で互いを見つめ、
互いが興味を持ち始めてから自然と行動を共にするようになった2人に、
学生たちは妬ましそうに眺めていたが美男美女の取り合わせに、
次第にその眼差しが羨望へと変化していった。

それほどまでに彼らのつーショットは自然であり、壊してはならない聖域だと思われるほど美しいのだった。




そんな2人の姿は、なにもカレッジ内だけではなかった。


キラを《天界》から追放した張本人であり、彼女の姉でもあるカガリ=ユラ=アスハもまた、
《天界》から《地上》を見ることのできる水鏡に映し出されたアスランの姿に、
今までにない衝撃を受けていた。



「何の力も持たない出来損ないのあの女に、これほどまで美しいのは勿体無い。
《天界》にて、尤も力のある私にこそ相応しいじゃないか」



カガリは水鏡に映るキラとアスランの姿に琥珀の瞳には嫉妬の炎を宿していた。

元々キラの容姿や人望に嫉妬し、無断でキラを《天界》から追い出したカガリだったが、
戻ることのできないキラを嘲笑っていた。


満月の夜、キラはいつも月を眺めて悲しみにその美しい顔を歪ませていたが、
アスランと共に行動するようになると以前以上に愛らしい微笑を度々見せるようになった。



その事に対してもイラつくカガリは、
笑顔になる原因であり自分が欲しいと思ったアスランをキラから奪おうと決心した。




本来、『天使』とは慈悲深く他人のものなどを決して欲したりはしない。

しかしカガリはそれらの心がなく、自分のほしいままに今まで振舞ってきた。


カガリこそ、《天界》から追放されるのだがカガリの力には敵わず、
神もまたそんなカガリの行動に注意することがなかった。






夏の暑い日差しが僅かながらも和らぎ、涼しい風が僅かに開いている窓から入り込んでくる。

真夏とは違う、少々過ごしやすくなった季節。



アスランが【コペルニクス】にて生活するようになって早くも3ヶ月の月日が過ぎようとしていた。

その間、常にキラと行動を共にしていたアスランは、
初日の挨拶の時なぜかキラから視線を外せなかった理由を漸く理解していた。





(・・・アレが、“一目惚れ”ってやつか。
今まで、女性に対してそんな感情抱いたことがなかったからな。
理解するまでにこんなに時間がかかってしまった)





授業中、ぼんやりと窓の外を眺めていたアスランは、
自分自身の不審な行動をしていたことを冷静に判断していた。



彼には少々人間不信というよりも女性不信であった。
そのため、相手から近づいてくる分はキッパリではないものの相手が解らない程度に一線を引くが、
決して自身から近づくことがなかった。


尤も、初日から気になる存在として無意識に認識されていたキラは別であるが。




そんな無意識の行動に、
本人が一番困惑していたがそのことはアスランが長年培ってきたポーカーフェイスの前において、
誰も気付くことがなかった。



アスランにとって、キラという存在は今までにない者であった。


常にそばにはいるものの、必要以上に近づくことはない。

そして、あまり表情の変化のないアスランの言葉を正確に理解し、
本人さえ気付かない出来事をさり気なく実行する。

そして何より、アスラン自身キラの傍にいることで今までにない安らぎを得ていた。





キラもまた、視線は目の前にあるPCに向けられているもののその思考は別の事で一杯であった。





(・・・・なんでだろう? なんで、彼の・・・アスランの傍はとても心地がいいのかな?
今まで、《天界》に帰りたいとばかり思っていたのに。
アスランの傍にいる時は、そんなの全然思わない。 寧ろ・・・アスランの傍が安心できるだなんて・・・)





キーボードに置かれている指先は何の迷いもなくタイピングしているが、それらは既に義務的であった。


現在キラの頭を占めているのは、
どこか他の者たちに一線を引いていた彼女の心に何の抵抗もなく収まった1人の存在である。



双方、似たような悩みをその身に抱えつつ相手に心配をかけまいと何時もと同じ行動をしているが、
どこかぎこちなかった。


しかし、自身に眠っていた“想い”を自覚したアスランは、
キラの身にも自分と似たようなことが起こっていることをおぼろげながらも悟り、
そんなキラに対してアスランは、冷徹しか今まで宿すことのなかったエメラルドの瞳に、
慈愛に満ちた慈しみを惜しみなくキラに対して注いだ。







雲ひとつない天空に美しく輝く満月の夜、
委員会で遅くなったキラは最近登下校を共にするアスランと共に通いなれた通学路を歩いていた。


今まで1人でこの通学路を通っていたキラだったが、
キラの家が近いということを知ったアスランは帰りにキラを呼び止め、何度か下校を繰り返していた。

キラはクラスで信頼も厚く、委員会なども兼任している為会議などがあった時など、
下校する時間が日が暮れた頃だとキラ本人の口から聞いたアスランは、
時々ではなく委員会がある日でも図書室などで時間を潰しながらキラを待っていることが多くなった。



当初、アスランまで下校時間が遅れることを気にしていたキラだったが、
アスラン本人の説得によりこうして下校だけでなく登校も共にするようになっていた。



「・・・・ん? 誰かいるのか?」

「アスラン? ・・・・・!!! 
・・・か・・・が・・・り・・・・・?



今にも切れそうな街灯の下に人影があることに気付いたアスランは、
内心その者の正体を見極めつつ小さく呟いた。

そんなアスランの声に反応したキラもまた、アスランの視線の先に意識を向けた。


その先には彼女が《地上》にいる原因であり、実の姉であることに気付いた。



その姿を認めたキラは、無意識にも全身をカタカタと振るわせた。





(・・・キラ? あの者を知っているのか? この気配、“天界”に属する者か。
・・・今夜は満月。 ・・・・『天界門』を通ってきたな)





キラの尋常じゃない怯え方に眉を顰めたアスランだったが、
目の前にある気配が敵対する者たちのモノだと感知すると微力だが自分とキラの周りにシールドを施した。



「久しぶりだな、出来損ない。 久々に会った姉に対して何の言葉もないのか?」

「・・・・姉様。 どうしてここに? ウズミ様はこの事をご存知なの?」

「・・・・出来損ないの分際で、姉と呼ぶな。 虫唾が走る。
知っているに決まっているだろう。 私は『天界門』から来たんだ。 あそこは、父様の許可なしでは開かない」



派手ではあるがくすんでいる赤いマントをその身に纏い、
金色の髪と琥珀の瞳を持つ少女はその服装に合わないヒールを鳴らしながら2人に近づいてきた。
琥珀の瞳を持つ少女が歩く度、
僅かな風と共に少女の身につけている香水と体臭が入り混じったキツイ臭いが、
アスランたちのいる場所まで漂ってきていた。



少女はキラの顔を侮蔑と蔑みの色を宿した瞳に映し出し、
キラの言葉に眉を吊り上げながら吐き棄てるように殺気のこもった視線を向けた。

そんな少女に対し、アスランは自身が纏うブリザードを気付かれないように全身を集中させつつ、
2人の関係を冷静になっている頭で整理していた。


少女の言葉に、美しいアメジストの瞳に悲しみの色を宿したキラは先ほどよりも震えが増していた。

そんなキラに、キラが振るえている事をはっきりと見たアスランは、
迷うことなくキラを少女の鋭い視線から守るように自身の腕の中に抱き締めた。



「キラ? 大丈夫だよ。 俺が付いているだろう? ・・・・きさま、いったい何者だ? 何が目的だ」

「いい身分だな、出来損ない。 何の力もなく、父様からも見放されたお前には勿体無いくらいだ。
私は、血筋上不本意だがそいつの姉。 カガリ=ユラ=アスハ。
何も知らないのか、その出来損ないの姿を」



アスランに護られるように抱き締められたままのキラを目にした少女は先ほどよりも強い殺気を向けたが、
キラに突き刺さる前にアスランによって阻まれた。



その事に気分を害した少女は憎々しげに醜い顔を晒した。





(キラの姉? この醜い女が? ・・・この者、天使独特の気配をまったく隠そうとしないな。
姉ということは・・・・キラも天使?)





アスランは少女の言葉に美しいエメラルドの瞳を細めたが、
驚いた様子を見せることなくキラを抱き締める腕に僅かに力を加えた。

アスランの腕の中に護られているキラは、
暖かいアスランの体温や自身を護るように抱き締める腕に安心したのか徐々に震えを収めていた。



「正体? そんなもの、俺には関係ない。 キラはキラだ。 それ以外、何者でもない。
きさまこそ、さっさと戻るんだな」

「ッ!! 私は、その出来損ないの完全なる抹消とお前を迎えに来たのだ。
美しいお前は、そんな何のとりえもない出来損ないより、父様・・・神に次ぐ力を持つ私にこそ、相応しい」



自身の腕の中にいるキラが徐々に震えを収めていることに安堵したアスランは、
キラに対して先ほどまで纏っていたブリザードを綺麗に消しながらニッコリと優しげな微笑を見せた。

その微笑に対して、キラもまた安心したように微笑を浮かべた。



そんな2人に対して、
より一層苛立ちを覚えた少女・・・カガリはアスランに媚びるような微笑と声で問いかけながらも、
その琥珀の瞳はキラに対しての殺意に燃えていた。



「自ら、その正体をばらすとは・・・・愚かな。 キラを消す?
そんなこと、この俺が許すはずがないだろう。 大体、きさまら天使は平然と同族殺しをするのか?
そのこと、神自ら黙認するとは・・・《天界》も地に堕ちたものだな」

「何か言ったらどうなんだ? 言える訳がないよな?
私の妹として生まれたにも拘らず、私の力の半分も引き出せない貴様に。
何のとりえも・・・何の力も持たない貴様など、早々《天界》に居場所などない。
だからこそ、帰ることも許されないし、迎えなど来ないのだ」



カガリの言葉にアスランは嘲笑い、瞳に宿す冷気を一段と冷たく・・・そして鋭い視線を浴びせた。

そんなアスランに苦虫を潰したような表情を見せたカガリは、
その矛先をアスラン本人にではなく、アスランの腕の中で護られているキラに向けた。



アスランに抱き締められている腕にしがみつくような仕草を見せたキラに、
苛立ちがピークに達したカガリは、右手を空中に翳し掌を握り締めた。
握り締められた掌が徐々に濁った白い光に包まれ、
ある程度大きくなった光を見たカガリは満足気に握っていた掌をゆっくりと広げた。


広げられた掌にフワリと浮かぶ白い光の玉を見たキラは、
驚愕の色を瞳に宿したが、そんなキラとは対照的な表情を見せるアスランだった。






そんな2人の表情を見ていないカガリは、
未だにアスランに護られるようにして抱き締められているキラに向かって、
掌に浮かぶ白い光の玉を投げ飛ばした・・・・・・。








2007/04/01















長らくお待たせいたしました!!
・・・いつ、リクを受けたのか忘れちゃいましたよ;
今回は、リク初の完全パラレルですv
設定はTopに書かれている通り、天使や悪魔系v
本来、天使側が好きですが・・・・アスランは天使よりも悪魔の方が似合うと思いましたのでv
(ザラ様は、魔王様だしv)
よって、魔界寄りとなりますv
リク者である桜ちゃん以外、お持ち帰りは不可です。
桜ちゃんに限り、加筆・苦情を受け付けます。
お持ち帰りの際は、必ず【水晶】と管理人の名前をよろしくお願いしますねv