「いや、これだけで十分だ。
・・・少し、こちらで製造された新型2機と戦闘があるかもしれないが・・・遠慮しなくてもいいぞ」




新たな剣。
この剣にて、俺が求めていた世界を必ず守る。
守りたい世界。
それは、俺自身が求めて止まない・・・・彼のいる世界。
彼がいなければ、この世界を守る価値など・・・ないのだから。






純白の『自由』と共に2年前の戦場を駆けた真紅の『正義』。
『正義』が目覚めの時を向かえ、『正義』の剣を手に取った者は、騎士の様に再び『自由』を守る・・・・・。









堕天使、降臨
         ― 比翼、飛来 ―









そんなビームを少し離れたところから見ていた白き天使・・・キラはコックピット内で
アスランと通信回線を開いたままの状態でクスリと黒い笑みを浮かべた。




《キラ? さっき何かプログラムを構築していたみたいだけど・・・・。 アレは一体なんなんだ?》


「アレ? ただの時間稼ぎだよ。 ・・・最も、撃ち抜いてくるだろうと思ったけど。
そうそう、こっち来るまでの間に暇だったからザフトのマザーに侵入して、面白いものを見つけたんだ。
役に立つと思うから、このデータ、OSに組み込んでおくといいよ」


《これは・・・・あの2機の製造データか?》




アスランの元へ転送されたデータを見て驚きの声を上げ、目の前に映るキラに問いかけた。



「そう。 もちろん、まだ製造段階のやつだったけど。 脆い部分はそう簡単に直らないからね」


《それもそうだな。 ・・・・もう、追いついたのか》


「・・・こっちがわざと遅く飛行していたからね。 ・・・・あのままだと、AAまで着いてきそうだったし」



コックピット内に響く警告音に眉を顰めたアスランは、嫌そうに後ろを振り返った。

そんなアスランに苦笑いを浮かべながらも背後には真っ黒いオーラを背負っているキラは、にこやかに目的を話した。




《・・・・・『DESTINY』はキラに任せた。 『LEGEND』は、俺が始末しておく》


「よろしく」



キラはアスランにニッコリと微笑むと自分たちに迫ってきた2機に視線を走らせ、そのままロックした。



ロックされていることに気付かないレイたちは、そのまま攻撃態勢に入り、
シンは自分が撃破したと思っている『FREEDOM』が目の前にあること動揺し、ピンポイントで狙えない。

誤差の大きすぎる攻撃に、
内心哀れみを抱きながらも愛機である『FREEDOM』を撃破されたことに少々怒りをあわらにしていたキラは、
何の躊躇いもなく引き金を引いた。




もっとも、キラが狙ったのは先ほどアスランに渡した製造データにも記されていた脆い部分だが。



「・・・その状態でもこの僕に挑んでくるなんて・・・・・。 よっぽどのバカなんだね」



キラはため息をつきながらも攻撃の手を休めることなく、辛辣に攻撃を仕掛けた。




一方、『LEGEND』の相手を引き受けたアスランは、
いつになく感情的に攻撃を仕掛けてくるレイに対して、ザフトでの戦いでは見せなかった・・・
2年前の第3勢力でキラとコンビを組んでいた頃に見せていた攻撃スタイルを思い出したのか
キラと同じように容赦なく、攻撃を仕掛けた。



「キラを殺そうとしたお前たちを、俺は許さない!」



キラが生きて、尚且つ今自分の近くにいることが彼にとって本来の力を思い出す切欠となったのだろう・・・・。




《アスッ! 何遊んでいるの?》

「キラか。 ・・・・追って来れないようにこの機体、破壊していこうか?」


《そう・・・だね。 でも、コックピットは狙ったらダメだ。
こんなひよこちゃんたちのためにアスランの手を汚すことはないんだから》




キラは画面越しにニッコリと微笑んではいるが、長年の付き合いでアスランには黒い笑みにしか見えなかった。



最も、彼はそんなことを気にすることもないが・・・・・。



「だな。 ・・・・キラ、少し離れていてくれ」


《・・・・僕がしたほうが早いよ。 ・・・AAがいるポイントはココ。 先に行っていてくれる? すぐに追いつくから》



キラの微笑みに逆らうことの出来ないアスランは、
心配そうにキラを見つめたが、大丈夫だと判断したのかそのままAAのいるポイントへ向かった。



「・・・・さて、僕もそろそろ行こうかな?」



キラは徐にキーボードを取り出すと驚くほどのスピードでキーを叩き、コックピット以外の急所にロックを掛けた。


全てのところにロックをかけ終わったキラは、
愛機に装備されている高エネルギービームライフル・“カリドゥス”複相ビーム砲・“クスィフィアス3”レール砲・・・そして、
“スーパードラグーン”起動兵装ウイングの全門を開き、一気に射出させた。

この攻撃は、多くの敵をロックした時に便利な攻撃方法で、
全ての砲門がたった2機にしか攻撃目標とされていないため、そのダメージは相当なものである。



綺麗にコックピット以外の急所を狙ったため、飛行することすら不可能までに破壊された2機は、
そのまま重力にしたがって降下し、海へと落ちた。
その様子を無感情に、冷たい瞳のまま見ていたキラだったが、
興味が失せたのか一度も振り返ることなくアスランが向かったポイントへ向けて、全速力を上げて追いかけた。





ザフトセカンドシリーズのMSを撃破したキラたちは、
その後追っ手の心配をすることなくAAに辿り着き、
マードックの支持の元格納庫へ頑丈にロックし終えてマリューたちのいるブリッジへ向かった。



「坊主! あのじゃじゃ馬はあの後、艦長の命令によってオーブの軍人たちと一緒に強制送還しておいたぞ」

「ありがとうございます、マードックさん」



格納庫でいつもは五月蝿いカガリが来なかったことに内心首を傾げていたアスランだったが、
マードックとキラの会話に納得いったようで満足そうに微笑んだ。
その笑みにキラも嬉しそうに微笑み、そんな2人の笑みを優しく見守る整備士たちの姿が見られた。



「マリューさん、カガリを強制送還してくださり、ありがとうございます」

「気にしないで、キラ君。 私たちも彼女がここにいても仕方がないと判断していたの。
・・・・あの騒がしさは、クルーたちの土気を下げるだけよ」

「そうですね。 ・・・・さぞかし国で・・・いや、あのクサナギで甘やかされていたのでしょう」

キラとアスランの黒い微笑みに対し、マリューもまた気にした様子もなくニッコリと微笑を浮かべた。



「そうね。 一番大変だったのはミリアリアさんだと思うわ。 彼女を部屋に拘束してもらっていたから」

「気にしないでください、艦長。 ・・・自国の代表ですけど・・私は認めたつもりはありませんから。
キラに助けてもらってあの言い草にはムカついていましたし」



マリューは申し訳なさそうに通信士シートに座っていたミリアリアを見たが、本人はニッコリと微笑みながら答えた。



「ありがとう。 ・・・・それにしても、部屋に向かわずにこちらに来たということは・・・何か考えがあるのかしら?」

「・・・・マリューさんには解ってしまうみたいですね。 えぇ。 あの狸、まだあの基地にいるみたいなんですよね」

「キラの予測は確かですよ。 議長・・・・狸は数日間、あの基地に滞在する予定です。 もちろん、偽者と一緒に」



キラの黒い笑みにアスランは気にした様子を見せることなく、一応自分の上司でもあったはずの議長を“狸”と名称を変えた。
アスランにとって唯一無二の存在であるキラを亡き者にしようと企んだ瞬間、
議長もそして・・・・・かつての所属艦であるミネルバに対して守るという意識はなく、敵と認定された。



「アスラン君が断言するのならその情報は信じられるわね。 ・・・どうするの?」

「やることは決まっていますよ。 この際だから、黙らせましょう」



マリューの言葉にニッコリと微笑みながらキラは爆弾発言を落とした。

キラの言葉に冷たい者が落ちてきたと思われる空気の中、
正常に動いているのは発言を落としたキラ以外にはアスランだけであろう・・・・・。



「そうだな。 ついでに、この地点も一緒に潰しておこう」

「この地点?」

「そうだ。 此処は、連合のトップがいるとされている【ヘブンズ=ベース】。
此処とあの基地を潰せばこの戦争は終わる」



アスランは映し出された地図のあるポイントを抑えた。



「そうだね・・・・。 此処で潰しておけば、後は宇宙にある巨大殺戮兵器をどうにかすれば良いし。
連合のいる場所は、僕に任せて。 此処にある基地にハッキングして、自爆装置をセットしておくから。
もちろん、相手にわからないくらいにしておくよ。 ・・・・・警報装置を切ってしまえば、分からないだろうし」



キラはニッコリと黒い微笑を浮かべながらどこかウキウキとした表情を見せた。



「ハッキングするのは良いが・・・・ほどほどにしておけよ?」

「分かっているよ、アスラン。
ちょうど、試したいプログラムも出来上がっていて、どこかで試す機会をうかがっていたところなんだ♪」



幼馴染である2人の会話になんだか突っ込みを入れたい衝動に駆られるブリッジクルーたちであったが、
誰も突っ込みを入れることが出来なかった。


正常に会話しているアスランもまた、
幼い頃からハッキングを趣味としているキラに苦笑いを浮かべながら念のために釘を指すことだけしか注意しなかった・・・・・。



それから、彼らの行動は早かった。キラとアスランはすぐさま格納庫へ向かい、
自分たちの機体の整備をし、簡単にしか構築していなかったOSの性能を最大限に生かすプログラムを構築し、
整備にも念を入れていた。


ブリッジにある感知システムもキラが手を加え、従来よりも性能の良いプログラムが載せられ、
マザーのOSもまたメモリ増幅と共に全てにおいて円滑に行えるよう、キラのプログラミングが加えられた。



「・・・ちょっと、バグがあったので直しておきますね。 ・・・・よく、こんなもので今まで持ちましたよね・・・・。
2年前にはなかったようですけど、再び目覚めさせた時にどなたかOS弄りましたか?」

「あぁ・・・ちょっと修復部分があったから」

「・・・・でしたら、その時にバグも混じったみたいですね。
一応、それの除去と新に僕の構築させたプログラムを組み込んでおきました。
これで、感知システムもですけど発射距離も少しは伸びているはずですよ」



キラは可愛らしく首を傾げながらクルーたちに尋ね、1人の整備士が右手を上げた。
その様子を片目で確認したキラは、納得したように頷き、見つかったバグを修正させた。



「マリューさん、こっちは大丈夫ですよ」


《分かりました。 ・・・・AA、発進してください!》




キラがマザーのOSを構築終えるとブリッジに直接繋がっている回線を開き、マリューに合図した。
その合図を聞いたマリューは、ノイマンに発進命令をだした。






―――― 大天使は再び赤き『正義』と白き『自由』を乗せて、地上に降臨した・・・・・・。






AAが発進し、パイロットであるキラたちは自室での待機となり、
アスランはキラと一時も離れたくないのか二人同じ部屋で待機していた。





「お疲れ様、キラ。 第一戦闘配備になるまでの間、睡眠をとっておけ。
・・・あまり、寝ていないのだろう?」

「・・・・うん。 アスランは、ここにいるよね?」



部屋に入るなり、キラは後ろにいたアスランに抱きついた。

そんなキラの行動を予測していたのか、急に抱きつかれてもバランスを崩すことなくいつものように抱き締めた。
アスランの体温に安心した表情を見せるキラに、触れるだけのキスを額と頬に落とし、優しく抱き上げた。



「当然だろう? ・・・あの時、俺が何を望んでいたのかをはっきり自覚したからな。
もう二度と、キラの傍を離れない」

「・・・・うん。 ねぇ、これから何もすることがないんなら、一緒に寝よう?
この状況が、夢じゃないか怖くなるんだ。
・・・アスが傍にいる夢、今までに何度も見てきたから・・・・。
目覚めていなかったら、今度こそ頭がおかしくなりそう・・・・・」



抱き上げられた体勢のまま、アスランを離さないよう、しっかりとアスランの纏う軍服を握り締めた。
そんな必死の様子を見せるキラに、苦笑いを浮かべながらもキラを見つめる瞳は痛々しさと後悔の念が込められていた。



「分かった。 キラが安心して眠れるようにしっかりと抱き締めているからね?
だから、起きた時は俺が幸せになれるいつもの笑顔を浮かべてくれるかい?」

「?」

「キラの微笑を見ると、元気になれるし幸せな気分になれるんだ。
いつも、俺に見せてくれた笑みをまた見せて?」



アスランはベッドまでキラを運び、片手でスペースを作ってその中にキラを壊れ物のように優しく寝かせ、
自分もラフな格好になってからキラの隣に潜り込んだ。



「うん。 アスの前じゃないと、無防備になれない。
・・・今まで、みんなを守らなきゃと思っていたから笑う暇がなかった・・・・・。
アスが幸せになれるのなら、頑張ってみるね?」

「キラは自然体にしているといい。
これからは、俺がキラの傍にいてキラだけを守るから。
キラがみんなを守りたいのなら、そんなキラは俺が守る。 何でも1人で頑張る必要は、もうない」



無意識のうちにアスランの胸元に擦り寄ったキラを外敵から守るかのように抱き締めた。
もちろん、眠る際に苦しくないように力の制御をしてだが。

そんな細かい気遣いに対して嬉しそうに微笑み、アスランと密着するようにもう一度擦り寄った。


優しく背中と髪を撫でるアスランに安心したのか、
睡眠を欲していたキラは何かに引き込まれるかのように眠りの世界へと旅立った。
その様子を見守っていたアスランは笑みを深くして額にお休みのキスを落として、
自分もまた唯一安心のできる温もりを抱き締めて眠りの世界へと旅立った・・・・・。



戦争中であるが、この空間だけは昔から変わらない空気を部屋中に充満させていた・・・・・。




2人がつかの間の休息を取っている頃、
AAは目標地点であるジブラルタルが攻撃標準範囲に近づいてきたことから、警報が艦内に鳴り響いた。




《総員、第一戦闘配備! パイロットは所定の位置に集合してください。 登場が確認され次第、射出準備!》




放送が鳴り響く半時前に目覚めていたアスランは、自分の腕の中で眠るキラを優しく起こし、額と頬にキスを落とした。



「・・・・キラ、起きて? ・・・・これから彼らを黙らせるんだろう? ・・・・戻ってきてから、また一緒に眠ろう?」

「・・・・うん」



アスランの美声によって紡がれる甘美にも似た言葉にウットリしながら小さく頷いた。
そんなキラの可愛らしい仕草にアスランはニッコリと微笑むと、キラに軍服を渡し、自身も着替えた。


軍服を身に纏った彼らは自分たちの所定の位置である格納庫に向かい、自分たちの愛機に乗り込んだ。

主電源を入れ、瞬時にパスワード入力。
全ての起動を確認した後、下で待機しているマードックに合図を送った。
合図を見たマードックはすぐさまブリッジに連絡を入れ、彼らの出撃準備が完了したということを報告した。




《搭乗者確認。 カタパルト開放。 『STRIKE FREEDOM』、『INFINITE JUSTICE』、発進どうぞ!》


「キラ=ヤマト、『FREEDOM』、行きます!」

「アスラン=ザラ、『JUSTICE』、出る!」



―――― 大天使に眠りし白と紅の色で統一された天使たちは、
自らを捕らえんとする鳥籠に抵抗するべく大天使の懐より、飛び立った。








2006/12/10















漸く、更新が出来ました(滝汗)
思い切り嘘つきですね・・・;
今回だけでは終われませんでした(涙)
次回こそ、本当に終わりますッ!!
え〜、今回はミネルバと基地に向かって発進したところで切れました。
・・・執筆途中、危うく女の子キラになっちゃうところです;
・・・男の子か?と疑問に思いながらも・・・そのまま続けております(滝汗)
基本的に、私の書くキラは女性化しようが仕舞いが、口調が同じなので・・・;
それにより、うっかり“彼”なのに“彼女”って書こうとしちゃって;;
・・・間違えないように、気をつけますorz

大変お待たせしてしまって、申し訳ありません!
亜矢姉様に限り、修正・加筆のコメントを受付!(爆)