《搭乗者確認。 カタパルト開放。 『STRIKE FREEDOM』、『INFINITE JUSTICE』、発進どうぞ!》
蒼穹に飛び立つ、純白と真紅の機体。
自分たちの思いをその胸に、諸刃の剣を持つ。
その剣を手にした比翼は、真の平和を望む。
2年前に手にした平和は、仮初であったのだと、身を持って知ったのだから・・・・。
――――― 愛しき者・親しき者を再び、目の前で喪うことがないようにと・・・・・。
堕天使、降臨
― 決戦の時 ―
一方、キラの構築されたプログラムによって火器系統が使用負荷の状態に追い込まれていたミネルバは、
早急の修復作業に追われており、『STRIKE FREEDOM』によってコックピット以外を破壊された
『DESTINY』と『LEGEND』の修復作業はほぼ不可能の状態となっていた。
ちゃんと残っているパーツは2機ともコックピット周辺だけであるため、その他は綺麗に深海に沈んでいた。
そのため、すぐに修復できる段階ではなく、2機のパイロットたちは艦内にて待機との命令が上から下っていた。
ジブタルラル基地内も騒然としており、
誰もが沈黙を保つ感知システムに異常があるということは気付いてはいなかった・・・・・・。
基地の感知システムにちょっとした細工を施したのはキラだということを知る人物はそれを実行した本人のほかに、
彼が唯一無二とするアスランだけであろう。
もちろん、基地に近づいているAAに対して、何の反応を見せないミネルバはもちろんだが、
他の艦も一切動いていないことから物事に対して聡いとキラたちから思われている
マリューや一部のクルーたちもまた、キラが基地にハッキングして細工したと悟った。
キラたちは、基地の上空に移るとそのまま照準を指令塔本部に定め、
2機に装備されている火器を全て一点に集中させた。
その攻撃によって、彼らは漸く感知システムの異常と既に敵が接近していることを悟り、
基地に集まる全ての艦に発進準備の命令を下した。
しかし、司令塔の連絡系統が先ほどの攻撃によって分断された箇所もあり、
全ての艦に連絡が行き届くことなく、届いたのは半数にも満たなかった。
「ミネルバが出てきたわ。 艦橋後部ミサイル発射管、全門ウォンバット装填。
ゴットフリート、バリアント照準ミネルバ!」
マリューは目の前にあるクスリーンに映し出される因縁の戦艦・・・ミネルバを見据えた・・・・。
一方、ミネルバの艦内では滞っていた命令が下された時、ブリッジはもちろんのこと艦内は騒然とした。
当たり前だろう。
自艦所属だった2年前の英雄にして今はフェイスのエースパイロットであった
アスラン=ザラが新型と思われる機体に乗って逃走を図ってからあまり時間が経っていない上に
こちらに向かってくる艦は上からの命令で撃墜命令が下された艦であるのだから。
もちろん、彼らはアスランが密にハッキングしてその情報を得たということに気づいておらず、
本人たちはその計画を極秘だと信じて疑っていない。
「アレは・・・・アークエンジェル!? ッ! ブリッジ遮蔽。 コンデションレッド発令。
本艦は只今より戦闘を開始する。 対艦戦闘用意!」
「コンデションレッド発令。 『IMPULSE』のパイロットは所定の位置にて待機してください。
搭乗者が確認され次第、発進準備!」
タリアの言葉にオペレーターのメイリン=ホークは館内放送を流し、クルーたちに戦闘準備を促した。
この艦に残っている機体は『IMPULSE』のみ。
他の2機は未だ修復のめどが立っていない。
「ランチャーワン、テン、デスパール装填。 トリスタン、リゾルデ・・・・照準、アークエンジェル!」
基地から離脱したミネルバは、漸く修復の完了させた火器系統の命令プログラムを正常にし、全ての砲門を開いた。
艦長席に座っているタリアもまた、因縁の相手ともいえるAAを見据えた・・・・・。
双方の艦長が敵艦を見据えている頃、キラたちはそのまま基地へと突入を開始していた。
尤も、彼らの戦闘スタイルは地上戦でも空中に浮くことが可能な機体の性能を十分生かすものであり、
相手は量産型であり、グゥル無しでは空中戦が出来ない。
そのことを理解しているキラたちは、
ザクファントムやグフイグナイテッドを空中からコックピットの急所のみを狙って攻撃を仕掛けた。
ピンポイントでの攻撃であり、
尚且つ一発も致命傷であるコックピットを狙わない戦い方をする未確認飛行物体扱いを受ける謎のMS・・・かつて、
2年前プラントを地球連合の核攻撃から守ったとされる
『FREEDOM』と『JUSTICE』の姿に類似する2機の姿に
落とされたパイロットたちは呆然と空中を自由に駆け巡る2機を見つめていた・・・・・。
「「てー!」」
純白と漆黒の巨大戦艦の艦長は、同時に全ての火器を起動させ、相手にぶつけた。
双方の攻撃は、それぞれの火器系統を狙っており、どれもピンポイントの地点であった。
しかし、AAでは先の大戦時に元はCIC担当として配属されてきた
操縦士・アーノルド=ノイマンは見事な舵捌きで様々な危機を乗り越えてきた。
それらの戦闘経験からか全てをかわすことは出来ないにしても被害を最小限に抑えることは出来る。
一方、戦闘経験の浅いミネルバの操縦士はAAからの攻撃を避けることが出来ずに命中し、艦内がひどく揺れた。
「左30度解凍。 タンホイザー、起動!」
揺れる艦を何とか保たせたタリアはミネルバの主砲であるタンホイザーは起動し、AAを照準した体勢を整えた。
「艦長、前方ミネルバ陽電子砲発射準備態勢です」
「え? ・・・・アレをここで撃つ気? 何としてでも止めるわよ!」
チャンドラの言葉にマリューは呆れた様子を見せるもののすぐさま頭を切り替えた。
陽電子砲・・・その破壊力がすさまじいものの大きなリスクを背負っている。
その射撃時に、放射能汚染を引き起こす恐れがある殺戮兵器でもあるのだ。
それを地上で射撃するとは、地球に住むものたちをなんとも思っていない証拠とも思え、
マリューの瞳には図りきれないほどの怒りが宿っていた。
「了解いたしました!」
「ゴットフリート照準、主砲発射官!
破壊できなくても陽電子砲を撃たせないように出来ればいいわ!」
マリューの言葉と共に、発射準備態勢だったミネルバの主砲発射官にピンポイントでAAの攻撃が命中した。
攻撃を受けたミネルバは、チャージの準備中だったにも拘らず切り札でもある主砲が破壊され、
クルーたちの顔色に絶望が彩られていることに対し、タリアは無意識に下唇を強くかみ締めていた。
「くっ! メイリン、被害状況はどうなっているの!」
「は、はい! 危険域がレベル3に上昇! 消化班、急いでください!」
「私たちは議長からアレを沈めるように命令が出されているのよ! この場で弱気になっても仕方がないでしょう!」
「し、しかし艦長! アレでなくてはあの艦を沈めることが出来ませんよ!?
なにせ、あの艦は先の大戦時最も過酷だったといわれる第二次ヤキン戦でも生き残った艦。
我らザフトの中で“浮沈艦”と呼ばれた艦です!」
タリアの言葉に呆け状態だったオペレーター席に着くメイリンは慌てて艦内の被害状況を確認し、
いまだに消化の続く区間を告げながら艦の被害状況をタリアに伝えた。
未だ呆然とするクルーたちに対して怒りを見せるタリアは、
早朝に伝えられた任務を言い聞かせるように大声で怒鳴ったが、
オロオロとしだした副官であるアーサーは恐怖に顔を引きつらせながら
かつて“浮沈艦”とその名を知らしめた大天使に視線を送った。
“浮沈艦”・・・・。
それは、ザフトに所属するものを始め、
先の大戦時に生き残った者たちがよく耳にするプラント・地球を守った第3勢力の主力艦の一つ。
当時、AAは地球軍の最新鋭宇宙用戦闘艦であった。
先の大戦が拡大化としたヘリオポリスが崩壊した原因であるザフトからの襲撃の際、
ザフトはこの艦の破壊と当時の最新式であるGシリーズの奪取が目的であった。
しかし、意外にも頑丈だったAAは破壊されることなく、ザフトの襲撃を幾度となく乗り切った。
もちろん、艦の性能だけではなく度重なる戦闘によって技術能力の上がってゆくノイマンの実力を始めとするクルーたちの成長。
そして、一番の要因は民間人であるがそれでも戦闘能力
・・・戦闘センスでその他をカバーしてきた【ヘリオポリス】の某学生がいたからであろう。
そのこともあり、AAは激戦と思われた戦局を乗り越え、第3勢力でもその力を発揮した。
そんな死闘を繰り返してきたAAのクルーたちが、
配属されたばかりの人材が多いミネルバに負けることなどありえない。
ミネルバの艦長は、それなりの訓練を受けたものである。
しかし、その艦長自ら地上で放って民間レベル以下で
危険視される陽電子砲・・・・タンホイザーをなんの躊躇いもなく幾度となく放ってきた。
戦闘に勝つためならば放射能を一体に撒き散らすことになるとも分かっていながら・・・・いや、
深くは理解していないのかも知れない。
だからこそ、何の躊躇いもなく「タンホイザー起動」など言えるのであろう。
しかし、AAの艦長は本来マリューではない。
【ヘリオポリス】の襲撃の際、AAの艦長に任命されていた者を含め、AAに配属された上司たちが戦死し、
脱出する際に生き残った者たちでマリューとフラガが大尉の地位であり、
彼女たち以外は中尉などであったためである。
フラガが艦長にならなかったのはただ単に彼はブリッジクルーの要員ではなく、
戦闘要員・・・・MAのパイロットだったからである。
そんな成り行きで艦長席に就任したマリューだったが地上戦で一度も陽電子砲である主砲・・・・『ローエングリーン』の使用をせず、クルーたちにも主砲の使用を禁じていた。
成り行きの艦長であるマリューにも理解できる一帯の放射能汚染。
その事実を艦長として訓練を受けているはずのタリアが知らないはずがない。
「再起不能レベルまで落とすわよ。 バリアント起動。 ・・・・てー!!」
ミネルバが動揺している隙を逃さないマリューは、全門を開かせてミネルバのエンジン部分を狙った。
マリューの狙い通りバリアントはミネルバのエンジン部分を直撃し、走行不可能まで追い込んだ・・・・・・。
「・・・・さすが、先の大戦時に生き残っただけあるわね・・・・。 当艦は投降します。
メイリン、『IMPULSE』に帰還するように伝えて。 ・・・・私たちに、勝ち目はないわ。
今の攻撃、この艦を沈めることが出来たのにそれをしなかった・・・・。
そのことが、私たちに残された・・・最後のチャンスよ」
「しかし、艦長!」
「・・・それでも、まだ戦うの? タンホイザーが使えない今・・私たちに勝ち目はないわ。
そして、この艦に乗艦するクルーたちの命を無駄にすることも出来ない」
焦るアーサーに対してもいつものように静かな声を発するタリアに対し、誰も反論する言葉が出ない。
そんな中、タリアは成り行きを見守っていたクルーに投降信号を出すよう、命令した。
AAと因縁めいた艦は、自ら招いた隙によって大天使の元へと下りていった・・・・・。
ミネルバのクルーの命優先で投降した様子は空中で戦いの真っ只中にいるキラたちからもよく見ることができ、
タリアの懸命な判断に満足そうな笑みを浮かべたキラと
どこか不服そうな表情を隠しきれないアスランの姿があったがそれらは彼らしか知らない事実。
今回の戦局が幕を開けたと同時に、キラとアスランは互いにしか通信回線を接続しておらず、
AAとの通信は一切途絶えている。
AAのクルーたちもまた、
彼らが自ら通信回線を開いてきた時が危険な時であることを先の大戦で十二分に理解しているためか、
何の疑問もなければ必死に通信回線を開こうともしない。
大体の戦局は搭載されているカメラからも確認できるし何より彼らは信頼関係・・・絆が強い。
ナチュラル・コーディネイターと隔てなく理解できるクルーたちが多いAAにおいて、
アスランとキラは2年も経つのだが彼らの中心人物と認識されているためでもあった。
最も、アスランにしてみれば近くにキラがいて、
堂々とキラを守ることが出来る今のポジションで今まで眠っていた本来の力が覚醒されている。
そんな2人は通信画面を接続していても具体的な内容は一切話してはおらず、
ただ接続したままの状態であった。
2人にとっては本来画面を接続していなくともいいのだ。
しかし、キラが不安定になっていることもだが、
アスランもまたキラを失うかもしれないという恐怖を僅かな時間であったが味わったためか、
話しをしなくとも画面が接続された状態は彼らにとって、安心感を与えた。
最も、キラが不安定になる要因は全てアスランにあるため、
彼がキラの傍にいるだけでその不安要素は改善される。
純白と真紅の機体は、基地を守る量産型の機体やその他の戦艦を再起不能にしていき、
機体の性能を利用して基地で最も脆いとされている指令本部の特定を急いだ。
最も、アスランはこの基地にキラが迎えに来るまでおり、
そして自力で脱出を試みようと計画を立てていたため、何処が指令本部かは見当が付いた。
《キラ、本部の場所が分かった。 ・・・そこを叩くのか?》
「うん。 ・・・ちょっと待っていて? ココの破壊と一緒に・・・・アッチのほうも爆発させるから」
《・・・・そうだな。 俺たちがこちらを攻撃したことであちらにも隙が生まれた。
・・・・今仕掛けると、あいつらでも気付かないだろ》
キラはアスランの言葉にニッコリと黒い微笑を見せると、
AAからもってきた自身のPCから連合のトップであり
ブルーコスモスの盟主であるロード=ジブリールの拠点であるヘブンズ=ベースのマザーに侵入して
予め作っていたウイルスを流した。
そして、マザーにある自爆装置プログラムを書き換え、自爆時間を短縮させた。
―――― 因みに、この神業的タイピングでハッキングして書き換えた所要時間は何と、1分弱である。
最後の仕上げが終わったとばかりに、エンターを押して電源を落とし、目の前に佇む基地の司令塔を眺めた。
「・・・・さぁて、派手にぶっ飛ばしますか」
《・・・・ほどほどに・・・といっても止まらないか》
「当然。 こうなったら徹底的に両方潰すよ。
・・・僕らが苦労して作り上げた平和を、たった2年で終わらせたんだからね」
キラの黒い微笑に対し、アスランは苦笑いを浮かべるものの止めようとはせず、
目の前にあるかつて自分たちが守ってきた基地を見据えた。
キラは『STRIKE FREEDOM』の羽根についている『スーパードラグーン』を全て
司令塔の部分で最も脆いと思われる部分を見つけ出し、一点集中させた。それと同時に、
腹部に搭載されている『カリドゥス』複相ビーム砲と腰部に搭載されている『クスィフィアス3』レール砲もまた、
ほぼ同じ部分に集中させ、照準を合わせたと同時に発射させた。
キラと同時にアスランもまた『INFINITE JUSTICE』の背面に搭載されている『ファトゥム-01』をキラと数mの差で
・・・それでもほぼ同じ部分に第2波として時間差を用いて発射させた。
基地の内部・・・特に目の前に純白と真紅の機体があるにも拘らず
攻撃できない状況に追い込まれている防衛するはずの機体もまた、
この2機にとってはかつて戦ってきた者たちよりも実力の落ちた者たちとしか認識していない。
圧倒的な力を見せ付けられた司令室はその事実に震え上がり、
何の命令も出来ないまま自分たちの“死”の瞬間を恐れていた。
第1波の攻撃で司令塔を含めた基地が揺らぎ、第2波の攻撃で司令塔は跡形も残らなかった。
もちろん、その程度でキラの気が済むはずもなく、残りの火力を全て基地全体に集中させた。
「・・・この程度で、僕たちを落とそうと思うのが甘いんだよ。
自分たちの都合が悪いものに対して口封じをしようとしたり、
相手の弱い部分を付いて自分の都合のいいように真実を隠したり」
キラはコックピット内で真っ黒いオーラを出しながら崩壊してゆく塊を見据えた。
そんなキラの言葉が対である『INFINITE JUSTICE』にも聞こえているのだが、
本人はそのことをまったく気にしてはいなかった・・・・・。
『STRIKE FREEDOM』の全ての火力を一斉に噴射させたキラは、
木っ端微塵に滅びていく塊を何の感情も宿していない果てしないほど透き通っているアメジストの瞳に映した。
《キラ、AAから帰還命令だ。 この基地崩壊と同時に、キラの流したウイルスによって、“宙”にあるゴミも排除された。
・・・・戻るぞ》
「・・・了解。 アスラン・・・戻ったら、ギュってしてくれる?」
《分かっているよ、キラ。 早く、お前の身体を抱きしめたいからな。 戻ろう・・・・》
キラの言葉に一瞬驚いた表情を浮かべたアスランだが、
目には見えないキラの微妙な心の不安定さに気付いたアスランは、安心させるようにニッコリと微笑んだ。
その微笑をみたキラは、安心したかのように頷き、もう一度振り返りざまに原形の形を保ってはいない塊を見据え、
目の前を駆け抜ける真紅の機体の後を追った・・・・・・・。
END.
2007/01/01
前回の予告(?)通り、最終話ですv
本当は大晦日に更新しようかと迷ったのですが・・・・お正月になっちゃいましたv
新年早々、リクの更新ですが漸くこのお話も終わることが出来たので・・・ひとまず安心ですv
尾切れみたいな感じですが・・・永遠と続けると、【制裁】のような終わり方になるので;
大変お待たせしてしまって、申し訳ありません!
亜矢姉様、素敵なリクエストありがとうございましたv
亜矢姉様に限り、修正・加筆のコメントを受付!(爆)
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