「キラ・・・父から呼び出しがあった。 ごめんね?
・・・でも、休暇中に戻れればまた、ここに帰ってくるから。
・・・・キラと母上、それに・・・小父さんたちを奪った戦争が終わったら、【月】に帰ろうか・・・。
あの、桜がよく見えるあの場所に」
・・・キラ・・・待っていてくれるよね・・?
全てを終わらせて、そこに逝くまでの間・・・。
俺がトリィと一緒に行動するから、
その代わり・・じゃないけどキラと一緒に待っていてくれる子を創らないといけないね。
・・・・キラ、昔から寂しがり屋だったからね?
お願い、キラ。
俺がそっちに逝くまでの間・・・・俺のことを待っていて?
心の均等が崩壊した彼は、無自覚のまま彼女の願いを叶えるべく再び戦場を舞う。
全ては・・・彼が愛した唯一無二の存在である彼女のために・・・・。
Belive
― 片翼の復讐 ―
軍本部に着いたアスランは、父のいる部屋へ向かった。
「クルーゼ隊、アスラン=ザラ。 ただいま到着いたしました」
「急な呼び出しですまない。 ・・・着いて来い」
パトリックはそれだけ言うと、グフなどが保管されている格納庫へとアスランを連れて行った。
アスランはそんな父に何も言わずについて行き、目の前に広がる光景に絶句していた。
「・・・父上、これは・・・我々が奪取した『Gシリーズ』と似たような機体ですが・・・」
「似ているはずだよ。 これは『ジャスティス』。
お前の新しい機体だ。 起動時はお前が今乗っている『イージス』と同じ赤となる。
・・・・極秘事項だが・・これには〔核〕が積まれている」
「・・・〔核〕・・・ですか。 そんな危ない機体を俺に?」
アスランは機体に向けていた視線を父に戻し、〔核〕が積まれていることに驚きの表情を見せた。
「今のお前に必要な力だろう?」
「・・・キラを苦しめた『ナチュラル』共にそれなりの苦痛を。
・・・父上にはご報告しておきましょう。 キラのご両親が地球軍の手によって殺されました」
「何!? ハルマたちが!? ・・・・彼らは地球軍と同じ『ナチュラル』だろう? なのに、なぜ!?」
パトリックは息子から聞かされた友人たちの死を嘆き、同じ『ナチュラル』がなぜ殺したかアスランに聞いた。
「・・・キラの身柄を地球軍に置くための抹殺でしょう。
・・・人質として捕らえられていたらしいのですが・・・小父さんたちが抵抗し、銃殺されたそうです。
・・・詳しくは、この中に入っているデータにあります」
「・・・そうか」
アスランは自分がハッキングして調べたことを父に伝え、そのことに関して纏められたデータを渡した。
「・・・この機体、今度の出撃から一緒にもって行きます。 ・・・『足付き』の討伐でしょう?今度の任務は」
「そうだ。 ・・・キラちゃんのことはクルーゼから報告を受けている。
今回の任務はアスランに任せることにした」
「ありがとうございます、父上」
アスランはパトリックに一礼するとその場を後にし、キラの元へ戻っていった・・・・。
それから数日間、アスランは外に出ることもなく一日の殆どをキラのいる部屋で過ごした。
食事を取るために一度キッチンに向かうがトレイを持って再び部屋へと戻る。
そんな毎日が続いた。
食事以外はキラの眠るカプセルの近くで趣味であるペットロボットなどを工具道具で作ったりしている。
数日間かけて漸く一体のペットロボを作り上げた。
「・・・できた。 キラ、これはね『ハロ』って言うんだよ?」
アスランは手のひらサイズの緑色の塊を眠っているキラに見せた。
『ハロッ! ハロ、ハロ〜。 キィ〜ラァ?』
『ハロ』と呼ばれた緑色のロボットはキラの名前を呼びながらカプセルの周りを飛んだ。
「・・・トリィは俺が連れて行くから、このハロと一緒にここで待っていて?
もちろん、逝く時はこのハロも一緒に連れて逝くよ」
アスランは飛び跳ねるハロを捕まえるとキラにニッコリと微笑んだ。
工具道具を直し、再び戦場に舞い戻る準備を始めた。
アスランの瞳にはキラを見つめる時に浮かぶ優しい色などどこにもなく、
全てを凍らせることができそうな冷たい色しか浮かべていなかった。
彼に親しい人には、その中に憎しみの色が見え隠れしていることが分かっただろうが、
この場所にはカプセルで眠るキラと冷たい視線を浮かべるアスラン以外の住人はいなかった・・・・・・・。
2ヶ月ぶりにメンバーに会ったイザークたちだが、アスランの変化には気付かなかった。
ニコルも多少雰囲気が変わっていたことに気付いたのは、
相変わらず仮面をつけているクルーゼくらいだろう。
「ヴェサリウスとガモフは『足付き』の討伐へと向かう」
「隊長、『足付き』はこの宇宙領域を逃げ回っています。 そこから探し出すのですか?」
「なに、簡単なことだ。
『足付き』を逃がす際、ノイマンにアスランが製作した『追跡機能』が付いているウイルスを流してもらった。
それをハッキングして探し出せば『足付き』の居場所などすぐに見つかる」
クルーゼはディアッカの言葉に仮面に隠れて見えないが笑みを浮かべながら答えた。
「『足付き』のハッキングは私にお任せください。 あのデータは元々私が製作したもの。
簡単に見つけ出せます」
「もちろん、その任をアスランに任せる」
アスランは右肩にトリィを乗せたままミーティングルームに来ていたが、
そのことに関して誰も何も言わなかった。
それ以前に注意しようとしてもアスランが遠めで睨んだりするので誰も言えないのが正解だったが・・・。
アスランはクルーゼに一礼をするとそのまま振り返ることなく部屋を出て行き、自室へと向かった。
部屋に入るなりそれまで大人しく肩にとまっていたトリィは自由とばかりに部屋の中を旋回したが、
アスランはそれを注意することなく机の上においてあるPCを起動させた。
「・・・『足付き』など、すぐに見つかる。
・・・・なにせ、いつでも起動できるようにあのコマンドを押せばいいだけなのだから・・・」
アスランは冷徹な笑みを浮かべると、
センサーの役割を果たすコマンドを押して内部からヴェサリウスのブリッジへとハッキングを開始した。
彼は戦闘中とミーティングルームに集合しなければならない以外、
部屋を出ることを拒んだために直接ブリッジへと同時転送されるために強引にブリッジにある宇宙地図の拡張を図った。
ブリッジでは、
アスランからハッキングを受けているとの報告を受けながらも書き換えられている宇宙地図を見つめ、
ノイマンがAAにつけたウイルスの位置を確認した。
「隊長、前方『足付き』の反応をキャッチ。 その距離、5000!!」
アスランが宇宙地図のデータと共に機影に感知する範囲を広げたため、
オペレーターが報告する範囲も増えた。
オペレーターからの報告を受けたクルーゼはガモフに連絡を入れるように指示を出した。
「コンデションレッド発令だ。 パイロットたちにはその場で待機」
「コンデションレッド発令。 コンデションレッド発令。 パイロットたちはその場で待機してください」
クルーゼの言葉にオペレーターの言葉が重なり、
ヴェサリウスとガモフはAA討伐のために両艦が高速艦な性能を活かし、最大出力でAAの後を追った。
その頃、自室にこもっていたアスランは、彼によって頑丈にロックされているファイルを取り出し、
中に大切に保存されている幼い頃の自分とキラの写真を眺めていた。
「・・・キラ、もうすぐ君の望んだものが手に入るからね?
・・・母上たちを奪った者たちに復讐して俺たちの勝利でこの戦争を終わらせるから・・・。
それが、俺の『正義』だから・・・・」
アスランの表情は今にも涙を流しそうだが、実際には一滴の涙など流れていなかった。
彼は『血のバレンタイン』でも涙を流さず、キラをヴェサリウスに持ち帰った際、人前で涙を流した。
それっきり、再び感情がないかのように人前に出ており、一部の人間には畏怖を感じられていた・・・・。
しかし、彼に自覚がないのと周りの人間がそれほど親しくないからなのか、
誰も彼が徐々に壊れていることに気付かない。
彼はあの時から心が崩壊し、“憎しみ”とキラを想う“慈しみ”と“愛しさ”以外の感情がなくなっている。
しかし、キラと写っている写真を見ている間だけは“嬉しさ”が戻っているらしいが、
それもまた一時的なものであった。
戦場に出ている時彼の中は“憎しみ”に占められており、
彼らが敵対する地球軍には今まで以上に好戦的で容赦なく攻撃を加えていた。
《『足付き』、攻撃範囲です。その距離、500!!》
《パイロットたちに伝達です。直ちに格納庫へ急いでください。コックピットに乗り次第、発進準備!》
オペレーターの言葉にアスランを始めとするパイロットたちはそれぞれの機体に乗り込んだ。
《4名確認。 カタパルト開放。 『ジャスティス』、『デュエル』、『バスター』、『ブリッツ』発進してください!》
「アスラン=ザラ、『ジャスティス』、発進する!!」
《イザーク=ジュール、『デュエル』、出るぞ!!》
《ディアッカ=エルスマン、『バスター』、行くぜ!!》
《ニコル=アマルフィ、『ブリッツ』、発進します!!》
オペレーターの合図と共に3機の機体と『正義』を冠する天使の右翼が漆黒の闇と舞い上がった・・・・・。
2006/04/01
修正
2007/03/31
サイト新装されての更新です。
当サイトでのザラ親子の仲は他人から見て悪そうでも、
本人たちはいたって仲がよいです。
ザラパパは、キラを大変気に入っており、尚且つ可愛がっているので
キラを傷つけた地球軍をものすごく憎んでいます。
アスランは新しい機体である『ジャスティス』を受け取りましたが、
所属隊はクルーゼ隊です。
特務隊に昇格してはおりません。
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