「あぁ。 ・・・落ち着いてきたらになるだろうが」
漸く・・・漸くこの手に君を取り戻せる。君の居場所は、俺の傍だけだよ?
君の大切な友達・・・トリィと一緒にその鳥籠から助けてあげるから・・・。
だから・・・俺のところに帰っておいで・・・・?
運命によって引き離された自身の半身とも言える者たちは、
目の前に導かれる悲しき定めの歯車が彼らを永遠に引き離そうとしていた・・・・・。
Belive
― 天使の最期 ―
AAが月基地へ向かっているころ、静かなブリッジに突然、警報が鳴り出した。
「艦長、6時の方向にモビルスーツ4機と戦艦2隻を捕捉! 照合します!」
「照合の結果、『デュエル』、『バスター』、『ブリッヅ』・・・『イージス』です!
『イージス』の後方にローラシア級とナスカ級! その距離、500!!」
CICにいるミリアリアとサイは画面を見つめつつ、上にいるマリューに伝えた。
「いつの間にそんな近く!? ・・・・大尉とキラ君に出撃を!! 総員、第一戦闘配備!」
マリューは唇をかみ締めながら戦闘配備をするように伝えた。
《総員、第一戦闘配備! キラ=ヤマトとフラガ大尉は格納庫へ!!》
艦内放送は部屋に閉じこもっているキラの耳にも聞こえ、
少しは落ち着いてきた身体に再び振るえが戻ってきた。
しかし、先ほどのアスランとの会話があったおかげか、キラを心配そうに覗いたトリィに小さな笑みを見せた。
「・・・トリィ。 今日は一緒に行ってくれる?
・・・さっきね、アスランがお迎えに来てくれるって言っていたんだ。 ・・だから、トリィも一緒に行こう?」
キラは儚い笑顔を自分の肩に止まっているトリィに見せた。
そんなキラの言葉に同意するように『トリィ』と一声鳴き、飛び立たずに肩の上で羽を広げた。
「・・・アスラン。 漸く、一緒にいられるんだよね・・・?」
この時、悲劇の歯車はその刃を彼らに向けていた・・・・。
アスランたちが出撃してから数分後、
AAからフラガの乗る『メビウス』とキラの乗る『ストライク』が出撃した。
戦闘区域である場所まで来た『ストライク』にGシリーズ専用の通信回線を開いたアスランは、
画面越しにキラに向かって微笑んだ。
《キラ。 約束通り、迎えに来たよ》
「・・・アス?」
キラはアスランからの通信により、無意識に微笑を返していた。
《今から、俺の所属する艦に連れて行くから。 ・・大丈夫。俺も一緒にいるからね?》
「・・・うん」
2人が通信機越しで話している間、
AAの足止めを任されたイザークとディアッカはそれぞれその役目を果たしていた。
本来、この艦を落としたい気持ちが大きいが同胞と民間人がいるためそれも出来ず、
それでも着実にAAの防御力を落としていった。
「・・・っ! 艦長!」
「えぇ。 『ローエングリーン』起動。 照準・『イージス』後方、『ナスカ級』!!」
ナタルの声に頷いたマリューは主砲を『イージス』と『ストライク』へと向けさせた。
「艦長!? このままでは『ストライク』に直撃します! キラに避難命令を!」
「何を言っている!? ここで避難をさせたら敵にこちらの考えを教えることになるだろう! ・・・てー!!」
ミリアリアは照準目標にキラが入っていることに気付き、
避難させるようにナタルに申し出たがナタルはその言葉を無視してそのまま発射させた。
AAのブリッジ内でこのようなことが起こっていると知らないアスランたちは、
『ストライク』を連れて行こうとキラに指示を出そうとした瞬間、コックピット内で警報が鳴り響いた。
(これは・・・・主砲か!? くっ、避けきれない!!
ここで避ければ、ヴェサリウスはもちろん、キラにも当たってしまう)
その場を動かない『イージス』に不審を感じたのかキラは周りを調べた。
その時、AAから主砲の発射された形跡を見つけた。
(アスラン!! ・・だめッ! アスランだけは・・・・アスランだけは、僕が守る!!)
キラは頭で考えるよりも先に身体が『イージス』を力強く押しのけ、射線上から機体を遠ざけた。
その時、押した衝撃か、射線上の中心に『ストライク』がロックされた。
戦闘が一時的に停止し、アスランが衝撃で失っていた意識を取り戻した時には何も動いていなかった。
(・・・生きてる? あの時、完全に死んだと思ったのに・・・・。
あの時、何かに押された衝撃を感じた・・・!! キラっ!!)
意識を失う以前のことを瞬時に思い出し、先ほどまで近くにいた『ストライク』を探した。
『ストライク』はすぐに見つかったが、下半身が消え去り、ところどころ焼けた後があった。
『ストライク』は主砲に完全に当たる前に少しだけ位置をずらしたからか、
その場で崩壊せずに原型をとどめていた。
しかし、胸元辺りにあるコックピット内にいるキラが無事だという確証はなく、
アスランはすぐさま『イージス』をMAに変形させると、
あまり原型をとどめていない『ストライク』を掴み、
機体の最大出力を使って『ストライク』のおかげで助かった母艦へと急いだ。
その様子を見ていた『ブリッツ』は本来彼の役目である『イージス』の援護をし、
無事に母艦へ着くことができた。
『イージス』が被弾した『ストライク』を母艦に連れ帰っている頃、
攻撃を中断していたイザークとディアッカは『ストライク』を囮とした攻撃に憤り、今まで以上に攻撃を加えた。
《ディアッカ! この艦、絶対に落とすぞ!!》
《あぁ。 ・・・せっかく、幸せになれると思った矢先にこの攻撃か? ・・・絶対に許されるもんじゃないぞ》
2人はこれ以上にないくらいに怒り、AAに容赦なく攻撃を加えていった・・・・。
一方、『ストライク』を持ち帰ったアスランはヴェサリウスに自分の機体と『ストライク』を固定し、
急いでコックピットから抜け出すと『ストライク』のコックピットを外側から強制的に開けた。
アスランは慎重に中からキラを連れ出したが、コックピット内で何かの破片が刺さったのか、
胸付近とお腹付近から大量の血が流れ出していた。
紅のパイロットスーツである“真紅”の服だが、キラの血によってより黒いシミを作り出していた。
キラの傷は、誰もが助からないと分かる位置であった。
そのことは、本人であるキラ自身も分かっていることであったため、
すぐに医務室に連れて行きそうなアスランに対して振るえる手で制した。
「・・・アス・・。 僕・・・・アス、守れ・・・・た・・・・? 痛い・・・・とこ・・・ろ、な・・・・い・・・・・・・?」
「!! キラっ!! ・・キラ、喋るな。 今、医務室に連れて行くから」
「・・・・行か・・・・なく・・・・・・ても・・・・・・・、大丈・・・・・夫・・・・・・。
・・・・ごめ・・・んね? 約・・・束・・・・・守れな・・・くて・・・ご・・・・・めん・・・・ね?」
キラは痛みで歪んだ顔で、アスランに心配かけまいと微笑んだ。
そんなキラの儚い笑顔を見たアスランは、涙で滲む視界ながらもキラに心配をかけまいと涙をこらえた。
キラが「ごめん」と謝る度、アスランは力なく首を振った。
「キラは、悪くない。 ・・・もっと、早く助けるべきだった。
キラが、こんなに苦しむ前にもっと早く!!」
「・・アス、僕・・は・・・・アス・・・に会えて・・・嬉し・・・・・・かった・・・・。
最期・・・・に、アスを・・・・守れ・・・・て、・・・・・よか・・・・った・・・・・」
自身を責めるアスランに対し、
本当に嬉しそうに微笑んだキラは力が既に入らない腕を懸命にアスランの左手へ向けて伸ばした。
その様子に気付いたアスランはとっさにキラの右手を受け取り、力強く握り締めた。
「・・・キラ。 俺も、すぐにそっちに逝くから。 ・・だから、待っていてくれる?」
「・・・アス・・・・、この・・・・戦争・・・・を、終わらせ・・・・て・・・・・?
母様・・・たちを・・小母様・・・・を奪った・・・・・、この・・・・・戦争・・・・を。
僕・・・は、ずっと・・・・・アスを・・・・・・待って・・・・・い・・・る。
・・・僕の幸せ・・・・・・は、アスと・・・・・・・・・一緒に・・・・・いること・・・・・・だか・・・・ら・・・・」
アスランの願いにキラは嬉しそうにコクンッと小さく頷き、最期の願いをアスランに伝えた。
この願いは、両親が連合軍に殺されたと知った時からキラの心にあったたった一つの願いだった。
それ以外も願っていたが、こうしてアスランの近くにいることでその願いが叶った。
「・・・あぁ。 必ず、終わらせるよ。 母上や小母さんたち。
そして・・・お前の平和な世界を奪ったあいつらに。 ・・・ずっと、一緒にいるから。
だから、もう休め。 ・・・・疲れただろう? 今は、ゆっくり休め。
キラ、頑張ってきたからね。 だから・・・目覚めた時、昔のような笑顔を見せて?」
「・・・うん。 ・・・・トリィ、一緒に・・・・・連れて・・・・きたん・・・・だ。
・・・この・・・・子、アスランの・・・・傍に・・・・・・置いても・・・・・いい?
アスランが・・・・くれ・・・・た、大切な・・・・・僕の・・・・・友達・・・・・だから」
キラをコックピットから連れ出した時に外へ出てしまっていたトリィが心配そうにキラを覗き込み、
小さく『トリィ』と鳴いた。
そんな『トリィ』に視線を送ったアスランは了承とばかりに頷いた。
「もちろんだよ。 俺が、そっちに逝くまで一緒にいる。 ・・・・ちゃんと、持ってくるから。
・・・だから、安心して眠れ。 俺も、ずっと傍にいるから。 ・・・・キラ、愛しているよ。 誰よりも」
「・・・・う・・・・ん・・・。 アスを・・・・見な・・・がら・・眠るの・・・・嬉しい・・・・。 アス・・・・、愛・・・して・・・」
アスランの言葉と近くで感じるトリィの鳴き声に微笑んだキラは、
最期にニッコリと微笑みながらその意識を手放していった。
最後まで言わずに空気へ溶け込んだ言葉は、しっかりとアスランの心に届いていた。
めったに彼女の口から言われたことのなかった「愛している」と言う言葉を。
その様子を遠くで見つめていた者たちがいた。
アスランがヴェサリウスへ帰還して間もない頃、イザークたちはAAを捕獲していた。
そのままヴェサリウスに戻ってくると、キラが息を引き取る瞬間に出くわした。
ヴェサリウスの格納庫には、
AAの主だったクルーたちに加えて【ヘリオポリス】の学生組とMAの搭乗者であるムゥ=ラ=フラガの姿があった。
「・・・もう、辛い思いをしなくてもいいんだ。 すぐ、俺も逝くから。
・・その前に、ちゃんとお前の望みを叶えてあげる。
・・・『トリィ』、俺がキラの元へ逝くまで一緒にいような。 ・・・大丈夫。
キラのところへ逝く時は、ちゃんと一緒に連れて逝くから」
『トリィ!』
アスランは周りの視線などを一切無視して自分の腕の中で静かに眠るキラを見つめ、
そんなキラを心配そうに突っつく『トリィ』に視線を向けた。
そんなアスランの言葉が分かったかのように『トリィ』はキラの肩で一鳴きすると、アスランの肩へと移った。
そんな『トリィ』の行動に微笑んだアスランは、
微笑んだように見えるキラに触れるだけのキスを送ると静かに抱えた。
まるで、キラの傷に触らないようにと注意を払いながら慎重に・・・・・。
「・・・キ・・・・・ラ?」
この言葉によって、キラ以外に視界に収めていなかったアスランは漸く周りに視線を走らせた。
「・・・キラの平穏を奪ったお前たちが気安くキラの名を口にしないでいただこうか。
・・・隊長、彼女を部屋へ連れて行ってもよろしいでしょうか?
・・これ以上、キラに薄汚いモノを見せたくはないのです」
「・・・いいだろう。 許可する」
アスランはキラの名を口にした連合の女性用軍服を身に纏っていた少女ともいえる者に鋭い視線を送ったが、
視界に入れるだけでもいやだと言うかのようにすぐさま背けた。
その際、クルーゼと視線が合ったアスランは報告を後回しにしてキラを優先していいかと尋ねた。
クルーゼ自身、彼らの関係はアスランから全て話されていたためにすぐに了承した。
そのことがなかったとしても今までの彼の行動を見る限り、
キラがアスランにとって最も大切な者だったということが分かったからなのかもしれない。
アスランはキラを抱えたまま落とさないように注意を払いながらクルーゼに礼をし、
まるでキラが生きているかのように静かな足取りで自分たちの部屋のある居住区へと飛んで行った・・・・・。
2006/02/05
修正
2007/03/31
・・・とうとうこの時がやってきましたね(T-T)
キラが・・・キラが・・・アスランを庇って!!
この時から、アスランは自分自身でも気付かないうちに心が壊れ始めています。
アスランにとって、キラは自分の世界の全てと言えるほどの大切な者。
それを目の前で失って、正気な人はこの世にいるのでしょうか?
今、彼を動かしているのはキラを奪った『ナチュラル』に対しての
怨み・憎しみと言う負の感情です。
そして、原動力となっているのは“戦争を終わらせて”と言うキラの言葉・・・。
今後、アスランは壊れ始めますが・・・大丈夫な方はこのままお進みくださいv
この話をリクした方である乃亜以外はお持ち帰り禁止です。
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