《キラは民間人だろう?なのに、何で!?》
「・・・この機体を・・・動かせるのは・・・・僕しかいない・・・・から・・・・・だから・・・・・
《おい!キラ=ヤマト!!貴様、何をぐずぐずしているんだ!!早く目の前の敵を落とさないか!!
お前の友人たちが死んでもいいのか!?》・・・」
MSの訓練どころか、軍の訓練をまったく受けていないキラに、
操縦させるだけじゃなく、こんな最も危険な宇宙へ放り出すだなんて・・・・。
俺は、絶対貴様たちを許さない・・・・・。
俺の唯一無二であり、俺の全てであるキラを穢すお前たちを、絶対に・・・・・・・・・・・。
Belive
― 鉄籠の中の天使 ―
《・・・・・・『ナチュラル』如きが!! キラ? 大丈夫だよ。
俺が、そんなところから助けてあげるからね? ・・・・だから、もう泣かなくてもいいよ?》
アスランはキラが安心できるように優しく微笑んだ。
「・・・うん。アスラン、あのね? ・・・・父様たちももう、いないんだ・・。
月にいた頃に、テロで死んでしまったの・・・・。 犯人は、ブルーコスモス。
彼らの標的は僕だった・・・・」
《!? キラ、その情報どこから調べたんだい?》
「・・・さっきだよ? 1人になれたから、PCで遊んでいたんだ。
そうしていたら、地球軍のマザーの情報が入ってきたの。 ・・・多分、AA経由だと思うけど・・・。
極秘ってこところにあったの」
キラは今にも泣きそうな表情を我慢しながらアスランに話しかけた。
そんなキラを見ていたアスランは今までに感じたことのないほどの憎しみを感じていた。
確かに、アスランが軍に属する切欠は彼の母であるレノアが“血のバレンタイン”において
『ユニウスセブン』に落とされた核によって無差別に多くの同胞を亡くしたことだが、
一番の理由が月にいた頃・・・キラの傍にいたころの世界を守りたい一心だったのだ。
しかし、現実にはキラの両親は同じ『ナチュラル』であるブルーコスモスによってその命を散らした。
アスランにとって彼らはもう一つの両親とも呼べる人たちであった。
《キラ!! こっちへ来い! ・・・俺と【プラント】へ行こう? 【プラント】には父上がいる。
あそこに行って、ザラの屋敷で俺の帰りを待っていて? ・・・それだけで、俺は強くなれるから。
俺が軍に入ったのは確かに母上の死が・・・多くの同胞の死を目の当たりにしたから・・・。
だが、俺はそれ以上にお前との平和だった・・・俺の中にある幸せの象徴であるキラを守りたかったからなんだ!
決して、自分の手でキラを殺すためなんかじゃない!》
アスランはキラの今にも泣きそうな表情をモニター越しに見ながら、自分の中にあった思いをキラに伝えた。
そんなアスランの思いに嬉しそうに・・・しかし、何処か苦しそうな表情を見せた。
「・・・僕だって、アスランの元へ行きたいっ!! けど・・・っ、あそこには!!
何の罪もない平和に暮らしていた友達が乗っているんだっ!!
そんな彼らを置いて、自分だけ逃げるなんてそんなこと、僕にはできないよーぉ!!」
キラは苦しそうな・・・・それでいて何処か悲しそうな、何とも言えない表情をアスランに見せた。
その表情からアスランは、正確にキラの心情を読み取ることが出来たのだ。
《・・・友達!? キラ、本当なのか!?
『ナチュラル』は・・・その艦は民間人を乗せたまま戦闘を繰り返しているのか!?》
アスランはキラの最後に言った民間人という言葉に驚いた。
本来、戦闘を行うものは軍人でなければならない。
それなのに、民間人であるキラを軍事機密である機体に乗せ、
戦わせている・・・この時点ですでにそのことを違反しているのだが、
それ以上にこの戦闘に関係のない民間人を乗せたままザフトと戦闘を行っていると聞いたアスランは
ますますキラを捕らえている地球軍に憎しみを覚えた。
「・・・僕のほかに友達が5人。 僕があの時コレに乗ったから・・・・軍事機密って言われて拘束されたの。
・・・友達の2人は軍に志願した・・・。 理由が、僕だけ戦わせるわけにはいかないからって・・・・・」
そんなアスランを知ってか知らずキラはとうとう我慢しきれなかったのか、
キラの無意識のままポロポロと涙を流していた。
《!? キラ、自ら志願したのか? その機体に乗るって??》
「違う!! 僕は志願なんてしてない! 嫌だってちゃんと言ったもんっ!
けど・・・あの人たちは僕を無理やりこの機体に乗せた!
・・・・アスラン、もう嫌だよ・・・。 ここは真っ暗で怖いもの・・・」
アスランはキラからの拒否を事実として受け取った。
キラは昔から嘘が付けないのだ。
そのことを一番良く知っているのはアスランである。
そんなアスランはキラが志願してないという言葉を素直に信じた。
《信じるよ・・・? キラ、嘘が付けないからね。 それ以前に、キラだから俺は信じるんだ》
アスランはキラが安心できるように微笑んだ。
その微笑を見ていたキラは徐々に落ち着くのを感じていた・・・・。
《・・・そろそろ、戻らなきゃいけないみたいだな・・・・。 キラ、一度艦に戻って父上と交渉してみるよ。
・・・キラの乗っている艦を撃破しないですむようにね。・・・だから、もう少しの辛抱だからね?》
「・・・・うん。 トリィと一緒に待ってるね?」
《あぁ。 わかっているよ、キラ。 ちゃんと迎えに来るからね?
つらいことがあったらトリィに話しかけて? アレにはちょっとした仕掛けがあるんだ。
トリィの後ろを弄ってみて。 俺の個人用PCの端末に繋がるようになってるからね》
キラはアスランに幼い子どものように何度も頷いた。
・・・この時、
2人はもう少しすれば昔のような平和が・・・お互い一緒にいられると疑いもせずに信じていた・・・・。
まさか、あのような悲劇が起きようとはこの時、
当事者である彼らにですら感知されてはいなかった・・・・・。
彼らの知らないうちにこの狂った運命の歯車は確実に悲劇へと回っていたのだ・・・・・・・。
イージスが帰還していったのを切欠に、残りの3機も帰還していった。
それを見届けたメビウスに乗るフラガは、キラに通信を開いてきた。
《敵は帰ったな。 俺たちも戻るぞ? ・・・万が一のために機体の整備は自分でしろ。 いいな?》
「・・・・・・・はい・・・・・・(・・・・アスラン・・・・・早く僕をここから連れ出して・・・・・・)」
メビウスに連れられるようにキラは再び居心地の悪い鳥籠へと戻された・・・・・。
AAに戻ってきたキラはフラガに言われた通りにストライクの整備をしていた。
苦痛を感じながらの整備で唯一の救いはパイロットスーツから手渡された軍服に着替え、
一旦宛がわれた部屋に帰って以来付いてきた【トリィ】の存在であろう。
「・・・トリィ、アスランが僕たちをここから連れ出してくれるって。
また、アスランの傍にいられるのかなぁ? ここは・・・いやだ。
ヘリオポリスでも感じていたいやな視線を強く感じるんだ。 母様たちが言っていた視線と同じ。
・・・トリィは僕を置いて行ったりしないよね?」
『トリィ?』
キラの言葉にトリィは首をかしげながら答え、肯定とばかりにキラに頬を寄せた。
「ありがとう、トリィ」
キラはそんなトリィに安心したように微笑み、
『ストライク』のコックピットから無重力の慣性を利用しながら自室へと向かった。
出撃の際、帰ってきたら食堂へとサイたちから呼ばれていたがキラ自身誰とも会いたくないと考えていたため、
食堂には向かわなかった。
キラが自室へ向かっていた頃、
食堂ではキラを抜くヘリオポリスの学生組みが集まっていた。
本来、ブリッジに入っている時間帯だが艦長であるマリューより
ブリッジから出るように命令されたために全員そろって食堂に集まっていた。
「・・・キラ、遅いわね」
「フラガ大尉がブリッジに来たからキラも戻ってきているはずだけど・・・・。 格納庫にいるのか?」
「・・・・だったら俺たちが迎えに行くわけにはいかないだろう? あそこは俺たちが入ることは禁止されているし」
「そうね・・・。 ここでキラを待つしかないか」
「キラには頑張ってザフトを倒してくれなきゃな。 俺たちが死なないためにも」
彼らはアスランが考えた通り、自分達の保身しか考えてはいなかった。
ここに来なかったキラはある意味この言葉を聴かずに済み、よかったのかよくなかったのか誰にも分からない・・・・。
AAでそのようなことが起こっている間、
アスランの所属する【ヴェサリウス】のブリッジではアスランが隊長に報告していた。
「・・・・以上が、この度の戦闘記録となります。 ・・・『ストライク』との通信データです。
コレを最高評議会のPCにもすでに転送されております。
・・・独断ですが、こちらも一刻の猶予もありませんので」
ブリッジのざわめきを無視してアスランは、近くにあった端末を寄せると徐にディスクを挿入した。
アスランはキラとの会話を『ストライク』捕獲と自体を覆すために録音しておいたのだ。
もちろん、キラに向けられた人権を無視しての脅迫ともいえる命令もバッチリ録音されていた。
「アスラン、この方と面識があるのですか?」
ニコルは戦闘中に敵の機体である『ストライク』との通信をしたアスランに疑問を感じ、
彼なりの予測を立ててアスランに尋ねた。
「・・・・『ストライク』に乗っている民間人であるキラ=ヤマトは俺の幼馴染だ。
それに・・・彼女は俺の恋人でもある」
「「「!!」」」
ニコルはただの知り合いだと思っていたが、アスランからの答えはブリッジにいる全員に衝撃を与えた。
「ちょっとまて? お前、ラクス嬢と婚約していなかったか?」
「・・・・・実際にはしてはいないだろう? 俺はキラ以外を愛することなど無い。
そのことは父上も承諾済みだ。 ・・・父上はキラを大変気に入っているんだ。
そんな父がキラ以外を俺の婚約者に選ぶはずが無い」
アスランはディアッカの疑問をあっさりと即答で答えた。
アスランの表情は本気で嫌がっていたので、彼らはアスランの言葉が本当だと信じるしかなかった。
「・・・・・『ナチュラル』共が!! 民間人を戦闘に出すなどと重罪だぞ?
正規の軍人ならばそのとこを十分に知っているだろう!!」
イザークは通信記録を全て聞き終えると今までの『ストライク』への怒りをどこへやったのか分からなくなるくらい、
AAのクルーたちに怒りを燃やしていた。
「・・・・やつらはキラを殺すかもしれない。 この戦争は『連合』と『ザフト』。
いわば『ナチュラル』と『コーディネーター』の戦争なんだ。
キラは一世代目でも『コーディネーター』には変わりない。
・・・・隊長、『ストライク』の保護要請、受理していただけますよね?
この記録からも分かるように、『ストライク』には民間人の少女が乗せられているのですから」
「あぁ。 許可しよう。 次の戦闘時は『ストライク』の捕獲を第一に優先してくれ」
「「「「はっ! ザフトの為に」」」」
各自、敬礼をして一時の休息のために各自の自室へと向かった。
アスランは自室にある個人用のPCに電源を入れると、
先ほどの戦闘時にキラに教えたトリィの機能を確かめるためにアクセスしていた。
アスランはトリィとキラが『ヘリオポリス』で最悪な再会をした際、
一緒にいるのを目撃したために戦闘中でもAAにいると確信し、
キラが戻るまでの間艦内を偵察に向かわせていたのだ。
その際、昔付けた【盗聴機能】と【盗撮機能】を活かしてキラの言う【友人たち】のことを調べていた。
「・・・・こいつらがキラの言っていた者たちか。
キラの友人と名乗るのならキラをなぜあの機体に乗せる?
・・・・連合のマザーにハッキングするか」
アスランは月にいた頃、
キラと一緒に連合やザフトの軍にあるPC・・・それも最重要視されているマザーに、
幾度と無くハッキングをかけたことがある。
どれもいくつものダミーを用意していたために一度も追跡されたことが無かった。
その際、アスランはいつか必要となるときがくるだろうと思い、
アクセスした場所を保存していたのだ。
アスランが愛用するPCはハード面をアスランが強化し、
ソフト面をキラが強化したこの世に2つしかない彼ら専用のPCであった。
もちろん、彼らは幼い頃からその面に関して大人顔負けだったために
未だに市販されているPCの性能よりも遥かに上回っている。
アスランが自室にこもって連合のマザーにハッキングをかけている頃、
彼の思いの人は彼女に宛がわれた部屋に篭っていた。
一度、襲われかけたので彼女の部屋は頑丈にロックがかけられていた。
「・・・・怖いよ・・・アスラン・・・・・。
トリィがいてくれたから大丈夫だったけど・・・・・怖かった・・・・・・。 トリィ、ありがとう・・・・・」
キラはポロポロと涙を流しながら極度の疲れからか眠りに落ちていった・・・・。
その姿を見届けたトリィは静かにキラから離れると部屋のロックを解除して食堂へと向かった。
もちろん、再び施錠をするのを怠ったりはしない。
食堂へ向かったトリィは人間たちにばれないように静かに近づいた。
トリィには遠隔操作が搭載されており、現在トリィを動かしているのはアスランであった。
食堂に入ったトリィは見つからないように物の隅に隠れ、
周りを見渡してキラを捕らえる『ナチュラル』たちを見つめた。
「あの坊主、『コーディネーター』なんだって? だったら、俺たちを守って死んでもらわないとな」
「そうだな! どうせ、月艦隊と合流するまでの玩具だし。
アレのOSを書き換えられて本当によかったよな〜? 下手すれば俺たちの誰かがアレに乗っていたんだから」
「だな。 ・・・オトモダチたちにも感謝だぜ。
あいつらがあの『化け物』の前で軍に入るって言ったおかげであいつがアレに乗ったんだからさ」
クルーたちは今の会話をトリィに映像付で盗聴されていることを知らずに、自分勝手なことを言い合っていた。
これらは全て、記録としてアスランの愛用するPCへと転送されているのだ。
クルーたちがいなくなるのを見届けたトリィは、
もと来た道を戻ってキラのいる部屋へと帰っていた・・・・・・。
2005/09/27
修正
2007/03/31
第2話です。
前回、前編かもと思っていたんですが・・・・・第2話ですね。
次回は漸くクルーゼ隊が行動を開始します。
この話での学生組は完全にフレイよりです。
結構本編とずれているので学生組がただの手伝いというわけではありません。
この点は、連合にハッキング中のアスランから言われるでしょうねv
この話をリクした方である乃亜以外はお持ち帰り禁止です。
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