「・・・・貴方方が今まで隠されてきた事実、私たちが皆様にお教えいたしますわ。
これを見ても尚、戦争を続けますか? 皆様は、先の大戦時に大事なモノを感じられなかったのですか?
双方がいがみ合っていたとしても、先にあるのは・・・真の平和ではございませんわ。
先にあるのは・・・・滅びだけです。 貴方方は、それを望まれておられるのでしょうか。
真の平和とは・・・我らコーディネイターと貴方方ナチュラルが真に理解した時だと、私は思いますわ」



私たちが望むのは、ただ1つ。
『変わりある、明日』ですわ。

そして、その中でいがみ合うのではなく・・・共に生きていくことこそ、私たちの望む未来ですわ。


生まれが違っても、私たちコーディネイターと地球に住まうナチュラルは同じ『人間』ですわ。

幼い頃から、レノア小母様とカリダ小母様が仰っておりましたわ。
コーディネイターはただ、記憶を収納する『器』が大きくなっただけだと。
それでも、努力することに変わりはないと。

例え、『器』が大きくても・・・覚えようと努力をしなければ、宝の持ち腐れですわ。
そんな簡単なことを・・・私たちは、一体どこに置き忘れていたのでしょうか。



今からでも、遅くはないはずです。
私たちが、理解しあうのは・・・・きっと。








Adiantum
    ― 愚かなピエロ ―











そんな彼女たちの冷戦ともいえる腹の探りあいに突如その場にいた部下の声が室内に響いた。



「ラクス様、オーブから緊急回線が送られておりますが・・・・如何なさいますか?」

「まぁ・・・。 そろそろ来ることだとは思っておりましたけど・・・アスラン、キラを別室へ」



部下の言葉にラクスは、クスクスと先ほどよりも黒いオーラを全身に纏いながらも大切な幼馴染の顔色を心配し、
先ほどのことで彼女が頑張ってくれたことを知るラクスは、彼女に対していつもの慈愛に満ちた笑みを見せた。



「分かっていますよ。 キラ、レイと一緒に隣の部屋で待っていてくれるかい?」

「・・・・うん。 今は、カガリに会いたくないから。 レイと一緒に別室で待っているね」



ラクスの言葉に異存がないアスランは、キラ限定の笑みを浮かべてキラの両頬を優しく包み込んだ。
アスランの両手から与えられる僅かな熱に、ウットリとしたキラは小さく頷いた。
その様子を見ていたレイは、柱に立ったままの体勢から静かに彼らの傍に歩み寄った。
レイの気配に気づいたアスランは、キラの右頬に触れるだけのキスを施し、レイに視線を合わせて頷いた。
そんなアスランの行動に慣れているレイはアスランの送ってきた視線の意味を正確に理解し、
了承の意を込めて頷いた。






レイに連れられてキラは会議室から退室し、
部屋に残ったのは先ほどの報告によって若干空気を凍らせた原因である3人と
その被害に遭う部下の数名・・・そして、傍観者に徹している幼馴染の2名であった。
クルーゼもまた、キラとレイが退室したと同時に会議室から出ており、
彼が向かったのはキラたちのいる別室だということは戦後、長く暮らしていたアスランくらいであろう。



「・・・通信、こちらに回していただけますか?」

「了解いたしました。 通信、こちらに回します」



ラクスの言葉にそれまでこちらと繋がる音声をシャットダウンしていた通信士の一般兵はラクスの言葉に従い、
オンにした瞬間、部屋中に騒音とも言える怒声が響き渡った。




《なにをしている! 早く、アスラン=ザラを出せ!》


「・・・・・あのバカ女、何を言っていやがる? 開口一番に叫ぶのは・・・そのことかよ」

「・・・しょうがないだろ、バカなんだから。 ・・・・それこそ、今更だ」



金髪の少女の発言に、それまで傍観者に徹していたディアッカとイザークは小声で呆れたように呟いた。



「お久しぶりですわね、カガリさん。 今回は、何の御用でしょうか?」


《先ほどの放送を見た。 お前たちは何を考えているんだ!》


「何を・・・とは? 私たちは、皆様に真実を知っていただきたいだけですわ。
ご自分たちに都合の言い情報だけ見せて、戦争に向かわせるほど人道から外れた覚えはございません。
・・・今回のことで戦争が回避されることを私たちコーディネイターは望んでおりますの。
一部の方々のために、我らを再び戦争に巻き込んでいただかないように」


《お前たちがしているのは、むやみに人民を混乱させるだけだ! それすら分からないのか!》


「・・・皆様には、お考えになっていただきたいことですもの。
お偉方がおっしゃるとおりに戦場へ向かいますの?
先の大戦時に味わった失う恐怖や憎しみの連鎖を、再び繰り返すべきだと貴女は申されますの?」



ラクスはどこか呆れたかのような声を出したが、表情は変わることなくニコニコと微笑んでいた。



しかし、その微笑を裏切るかのように、アクアマリンの瞳には冷気が宿っていた。




《ッ! それよりも、アスランとキラをこちらに返せ! あいつらのIDはまだこちらにあるんだろう!?
アスランの本当の婚約者は私だし、キラはアスハの者だ。
アスハの当主である私に断りもなくプラントに向かうことは断じて許さない! ラクス、お前もだ!
お前はオーブに亡命してきたのだろう? なぜ、プラント最高評議会議長になっているんだ!》


「あら。何を勘違いなさっておりますの? アスランとキラのIDはこちらにございますわよ?
因みに、私とアスランのIDはここプラントから公式に移行したことはございませんわ。
私、亡命した覚えはございませんわ? あちらにあるIDは私の名ではございませんもの。
【ラクス=クライン】は、ずっとプラントにございましてよ? もちろん、アスランもですわ。
オーブのIDは【アレックス=ディノ】でございますわよね? 【アスラン=ザラ】は、こちらにございますから。
公式にも【アレックス=ディノ】の名しかないと思いますわ。
したがって、アスランはそちらに亡命してはおりません。 2年前のあの時以降もプラント国民ですわ」



憤慨するカガリに対し、ラクスはあくまでも冷静に対処していた。


カガリの言い分は正論に聞こえて、実は都合のいい部分だけを解釈する言い方であり、
ラクスの言い分のほうが遙かに正論である。



カガリは、2年前アスラン・・・アスランたちがオーブに降りる際、彼らのIDを製作している。
その際、アスランとラクスはそれぞれ本来の名ではなく、偽名を使用した。

その事に対し、アスランに問いただしたカガリだったが、アスランの言葉に深く考えることなく納得したのである。
もちろん、アスランは嘘を言った覚えはない。
嘘をつくことなく、重大なことを黙っていただけである。
アスランはキラの頼みで二年の間カガリのSPをしていたが、その際に使用した名もこの時申請した偽名である。
そのため、公式にも非公式にもアスラン=ザラではなく、アレックス=ディノとして記録上残っている。

カガリはそのことも調べることなく、
本人が自分の傍にいたことから「アスランは我が国に亡命したんだ」と勝手に解釈し、思い込んでいたのだ。


だが、記録上ではアスランのIDはプラントから移動しておらず、
同時に降りたラクスもまたプラントからIDは移動してはいない。



キラのIDに関しては、
元々アスランを手に入れるためにキラを暗殺するつもりであったのか、
カガリの手によってオーブにあったキラのIDは失効されている。



「・・・ラクス、あの時にこの方が辞職なされなかった理由、分かりましたよ。
ご丁寧に、今回は暗殺された方が記録を残していたみたいです」
「あら。 ・・・・この方も無念だったのでしょう。
隠された秘密を知っていたばかりに口封じとして暗殺されたと思われますわ」



ニコルは前回・・・アスランとキラ、イザークとラクスの合同婚約発表の際に
無理矢理通信を開いてきた今回の騒動の原因でもあるカガリであったが、
その際に今まで溜めてきたオーブに隠される裏工作や代表となっているカガリが
これまで行ってきた悪事などを暴露したのだがこうして平然と通信を開いてきた辺り、
辞職などを行っていないのであろう。




ニコルが抽出してきたデータはそのままアスランに渡り、
アスランもまた別のルートから新にデータを出した。



「・・・・・ウズミ様・・・政治家にしては偉大だと誰かが言っていたが、やはりカガリの育ての親だな。
こんなものを造っていたとは」

「おや。
確か、あの方はあの時Gシリーズを製作したのは一部の過激な者って、
プラントに表明していませんでしたっけ? なのに、ご自身で造っておられたとは」



アスランから見せられたデータに、ニコルは呆れた表情を見せた。
そんなニコルに対し、苦笑いを浮かべたアスランだが、ニコルと同意見だったために何も言わなかった。



アスランがニコルに見せたデータとは、
2年前連合とザフトとの間で戦渦が広がってからすぐに、
オーブが秘密裏に製造していた1機のMSデータであった。
そのデータには登場する予定だった者の名もあり、
製造にあたっての最高責任者が誰であるかも明確に明記されていた。



「・・・・まぁ、今となってはそれが仇となったというわけさ。 ・・・・オーブ、この際だから潰す」

「その考え、異存はありませんよ。 ・・・・あの人だから、オーブがだめになったのかもしれませんね。
と言いますか、あの方は矛盾が多すぎる。
その矛盾している行動、前言撤回しているのならばまだましでしょうけど・・・
それを正論だと言い張りながら、行動がまったく逆なことをしていらっしゃりますからね」



アスランは自分とニコルのはじき出したデータを見ながら、ニコルやラクス以上の黒い笑みを浮かべた。
そんなアスランの変貌振りに苦笑いを浮かべながらも止めることのないニコルは、
彼に劣らずのオーラを振りまいた。






――――― 今一番哀れなのは、この部屋にいる常識人(部下+一般兵)であろう。











2007/12/30













狸と偽者、バカ、赤髪姉を終わらせた今、あと残っているのは・・・某のみ。
とは言っても、忘れていましたけどね(爆)
某はやっぱり、こんな役割ですw
某父に関しては・・最初はいい印象でした。
いや、マジで。
・・・しかし、某にあの写真を見せた時点で・・・一気に急降下。
「ヤマト夫妻との約束はどうした!」な心境でしたよ;
某の勝手な言い分、次回に続きます(ぇ)
アスランたちが言っていることは、ほぼ私が思っていたことです。
よって、他の作品と被っている点があると思いますが・・・・笑って流してください(ォィ)