「・・・私から話そう。 このことは、当時艦長を務めたラミアス女史から聞いたことだ。
ここにいるキラは、
かつてナチュラルの友人を守るために我らコーディネイターの軍であるザフトと幾度となく戦った。
そんな時、人道的立場で民間人であるラクス嬢を保護したと言い、
我らの攻撃から逃れるためにラクス嬢を人質とした。
そんなやり方に対して疑問をもったキラは、連合軍の軍人に黙って無断で我らにラクス嬢を返還した。
そして、連合の艦に戻った彼女を待っていたのは簡易な軍法会議。
・・・・人質を無断で返還したとして、会議の結果彼女は銃殺刑と言われたそうだ。
しかし、それを実行しては自艦を守る要がいないということで軟禁という形になったとのことだったが・・・・・」
当時、キラが民間人だからというのは、地球軍にとって建前に過ぎない。
「民間人だから」で済ませるのならば、なぜその「民間人」を重要機密の塊であるMSに乗せる?
その時点で、矛盾が生じる。
何の訓練も受けないまま、戦場に放り込まれたら・・・キラでなくとも精神崩壊を起こしていただろう。
今、キラが立っていられるのは・・・誰よりもキラのことを、
本人以上に理解しているアスランが傍にいるからこそだ。
彼女から彼という心の支えを奪ったのなら・・・今度こそ、
ギリギリで保っている均衡が完全に崩れるだろうな・・・・・・。
Adiantum
― 終戦宣言 ―
「・・・・・漸く静かになったな。 ところで・・・ニコルはどうした? ラクスとこちらに向かったのではないのか?」
「ニコルはやることがあるとのことで、こちらにこられてからは別室におりますわ。
・・・・なんでも、重要な証拠を集められているとか・・・?」
シンたちが強制的に退室させられた後、
イザークはいまだに眉を寄せながらもホッとしたようにため息をついた。
ふと周りを見渡し、この場にいない幼馴染がどこにいるかをラクスに尋ねた。
ラクスは首を傾げながら議会まで一緒に来たニコルの所在を伝えた。
その頃、別室にいたニコルはラクスと共に来て以来、
持ち込んだPCを利用し、どこかにかアクセスしていた。
「クスッ。 ・・・・やはり、こちらにありましたか・・・。
このデータがあれば、思った以上に戦争は早期解決しそうですね」
ニコルは、バックに真っ黒いオーラを纏いながら黒い笑みを浮かべた。
ニコルが視線を向けているデータは全て、
連合のマザー・・・彼らのトップとなっているブルーコスモスの盟主であったムルタ=アズラエルの後釜となった、
ロード=ジブリールの個人PCで頑丈なセキュリティーで守られていたデータであった。
しかし、ニコルにとってそのセキュリティー自分たちで作ったプログラムよりも単純すぎたため、
簡単に突破していた。
「ニコル、ここにいたのか」
「お帰りなさい、イザーク。 ディアッカもアスランもお疲れ様です。
レイも移動して初の任務でしたけど・・・お怪我がないようで安心しました」
背後の扉が静かに開いたのを感じたニコルは、
自分がよく知る気配だということで驚いた様子を見せずに振り向いた。
振り向いた先には先ほどプラントに戻ってきたばかりの幼馴染たちの姿と、
先ほど議長に任命されたラクス、そして彼らが共通して大切に思うキラの姿もあった。
「ニコル、何していたの?」
「あぁ・・・あちらを黙らせる証拠を集めていたんです。
ココからだと直接アクセスするのは無理でしたから、月基地を経由してみました。
最も、マザーではなく、ブルーコスモスの盟主と呼ばれているロード=ジブリール氏の個人PCですけど」
キラの言葉に頷きながら、今まで見ていたデータをキラたちに見せた。
そのデータを見ていたキラたちの表情が段々強張っていくのが見えたが、
ニコルにとって目の前にあるデータは全て連合を黙らせる切り札となる証拠品であった。
「・・・あら。 ニコル、お手柄ですわ。
こちらの方たちを生け捕りにすれば、全ての証拠が集まりますし、
ダッド小父様にお預けになったあちらの艦におられた3人の治療もできますわね」
ラクスはどこか楽しそうに微笑みながら、ニコルの提示したデータを眺めていた・・・・。
ニコルがまとめた情報を観察していたラクスは、何かを思いついたかのように微笑を深くした。
キラ以外の幼馴染たちは、
その微笑に目の前にいるニコルと同じくらいの真っ黒いオーラをその身に纏っていることに気付いた。
「良い案がありますわ。 そのデータ、民衆の皆様にもお見せしてはいかがです?」
「民衆にですか?」
「はいv そうすれば、彼らが本当は何を望んでいるのかを改めて自覚させることが出来ますわ。
先の大戦時、最も苦しんだのは軍人さんたちではありませんもの。
巻き込まれてしまう民間人の方々ですわ。
自分たちのトップの皆様が情報操作をしているからこそ、現時点をキープしておりますのよ?
そこで、私たちがそのことで叩けば民衆の方々は自分たちの望みと反する考えの彼らを許すと思われますか?
血を流さずに、この戦争が早期終結へ向かう道を私は選びます。 ・・・手段など考えませんわ」
ラクスは笑みを深くしてそのまま、部屋に備えられている通信機に回線を繋げた。
すぐに連合のトップであるロード=ジブリールに通信を繋げるよう、
命令すると彼らと共に先ほどまでいた会議室へと向かった。
「ラクス、ニコル。 僕にも何か手伝えることある?」
「キラ?」
「僕だって、こんなこと早く終わってほしいもの。
だって、早く終わればアスランたちが危険な目に遭うこともないでしょう?」
キラはアスランの腕にしがみつきながら、目の前を歩く彼らに声をかけた。
キラにとって、アスランを失うことは彼女の世界が崩壊することと同じ意味である。
2年前の大戦時に負った心の傷は、いまだにキラの心を蝕んでいる。
戦後数ヶ月は姉の策略によって引き離されたことに、依存になってしまうほどの大きな傷となった。
そのため、キラはアスランが自分の傍から離れることを極端に怖がる傾向があった。
そんなキラを痛々しそうに見つめていたアスランは、
キラの動きを邪魔することのないように優しく抱き締めた。
「では・・・キラには私があちらと会談している間に、
出来る範囲内でハッキングしてニコルから渡されるデータを流していただけますか?」
「分かった」
ラクスはそんなキラたちを慈愛に満ちた微笑を浮かべながら見つめ、キラのできることを伝えた。
会議室の扉を開き、既に繋げられる状態になっていることを告げられたラクスは
隣にいるニコルたちにニッコリと微笑んだ。
その微笑こそ、
彼らの中でこれから起こる終戦への近道するための計画が実行される合図でもあった・・・・・・。
「ラクス様、すぐにでもつなげられますか?」
「よろしくお願いいたしますわ。 そうですわね・・・始めはメディアのほうに。
キラ、よろしくお願いいたしますわね」
「ん」
ラクスの言葉にキラは頷くと、手渡されたPCをすごい速度でキーボードを叩きだした。
一分もかからないうちに今まで見つめていた画面からラクスを見て、ニッコリと微笑を見せた。
その微笑こそ、ラクスに頼まれた作業が終わったことを知らせている。
「・・・・・・。 地球の皆様、突然の通信・・・・申し訳ございません。
私は、プラント最高評議会議長・ラクス=クラインですわ。
この度、皆様にお知らせしたいことがありましたので、このような形で通信を開きました」
キラは放送の入る範囲全てにハッキングし、回線を繋げた。
ラクスはそれまでの空気を一転させ、議長としての役目を自覚していた。
「・・・ラクス、例のところからアクセスがありましたよ。 こちらに繋げますね。
キラさん、先ほど渡したデータのほうよろしくお願いいたします」
「うん。 今から繋げる人とラクスが話し出したと同時に流せばいいんだね?」
「はい」
ニコルは、敵の中心地点である場所からの通信許可のための点滅が目の前で発生していることを冷静に伝え、
隣にいるキラに微笑んだ。
彼の微笑みに若干真っ黒いオーラが含まれていたが、少々天然であるキラは気付かず、
自分に与えられた役目を忠実に果たした。
《今すぐ、ハッキングしているこの放送を止めたまえ。
貴様らコーディネイターと我らナチュラルは敵同士だろう!?》
「あら・・・誰がそれを決めましたの? 私たちは、再び起きる戦いなど・・・望んではおりませんわ。
戦いを望まれておいでなのは・・・貴方方“死の商人”ではございませんの?」
《なぜ、それを!?》
「あらあら。 そのようなことは、調べれば一発ですわ」
通信モニターの前でうろたえる連合のトップ・・・ブルーコスモスの盟主でもあるロード=ジブリールに対して、
ニコニコと微笑んでいた。
その間、キラはニコルから渡されたニコルの調べ上げたデータを、
現在ハッキングされているメディアを通して流すための最終段階を踏んでいる。
キラが目を通しているモニターには、連合の最大の弱点であろうデータであった。
『ガーティー・ルー』に搭載されている、ミラージュコロイドのデータ。
その艦所属予定だった“エクステンデッド”と呼ばれる、
強化人間の3人と孤児の幼い子どもたちを使っての人体実験データや記憶操作。
そして・・・月基地裏にて、秘密裏に製造されている大量殺戮兵器・『レクイエム』の製造データである。
そんなキラの様子を、キラの集中力の邪魔にならない程度の距離で見守っていたアスランは
静かに近づいて、優しくキラの両肩に優しく手を置いた。
「(大丈夫だ、俺が傍にいる)」
「(・・・・・うん)」
エンターを押すだけの状態で傍から見ているだけでも分かるほどに両手が震えているキラに対して、
ニッコリと微笑みかけた。
アスランが自分の傍にいることが勇気へと繋がったのか、
震える手を何とかエンターに置き、カチッと押した。
キラが押した瞬間、それらのデータはハッキングされている回線を通じて、
ラクスとジブリールの姿が流れている地域へ配信された。
もちろん、それらのターゲットとなっているのは地球上で連合の中心基盤となっている国や企業、
同盟を結ぶ国など連合を壊滅できるほどの国へ配信している。
これらのデータを見た民衆の反応は隠され続けられていた事実に愕然とした。
それは当然であろう。
彼らは先の・・・2年前の大戦時に学習したのだ。
自分たちナチュラルと宇宙に住むコーディネイターは、実際には何の変わりもないことを。
親しい者が殺されれば悲しみ、殺した者を憎むということを。
そして、それらが複雑に絡み合い、先のような悲劇を起こすことを。
先の大戦もまた、小さな争いが大きな火種となった。
停戦協定を結ぶ際、彼らは『ユニウス条約』を結んだ。
この条約により、
一部のコーディネイターとナチュラルは双方の理解を深めるため、様々な活動に取り組んでいた。
そんな彼らを否定するかのように今回の戦渦に巻き込まれようとしていたのだ。
彼らは軍の上層部のやり方に反感を覚え、勇士を募って反対デモに踏み切った。
その活動こそ、血を流さずに戦争を止めようと考えたラクスたちの計画であった。
「・・・・貴方方が今まで隠されてきた事実、私たちが皆様にお教えいたしますわ。
これを見ても尚、戦争を続けますか? 皆様は、先の大戦時に大事なモノを感じられなかったのですか?
双方がいがみ合っていたとしても、先にあるのは・・・真の平和ではございませんわ。
先にあるのは・・・・滅びだけです。 貴方方は、それを望まれておられるのでしょうか。
真の平和とは・・・我らコーディネイターと貴方方ナチュラルが真に理解した時だと、私は思いますわ」
ラクスの凛とした声が響き、民衆の心を動かした。
憎しみによって、再び戦いを起こせばその先にあるのは、滅びのみ。
そのような結末は、彼らは望んではいない。
なにより、彼らは先の大戦において多くの犠牲の元に戻った平和を大切にしていた。
戦争は、自分たちの大切な者を奪うだけのものである。
そのようなものを再び起こすことを、彼らは望んではいなかった。
しかし、連合の上層部たちはそうではない。
上層部は、今も昔もコーディネイターを化け物と罵るブルーコスモスに牛耳られている。
そのため、彼らは停戦協定の条約を違反し、密にミラージュコロイド搭載の最新鋭の戦艦を製造し、
コーディネイターの軍であるザフトに対抗するために強化人間を実験。
そして・・・プラントに住む民間人のコーディネイターを抹殺するために、
月基地の裏に大量殺戮兵器を製造していたのだ。
最も、ザフトとてデュランダル元議長の下、起動要塞『メサイア』を製造していたが、
それは既にキラがハッキングし、ウイルスを流したことによって自爆装置が作動して既にない。
ラクスの言動に集中していたジブリールは、
自分たちにとって最重要機密でもあるデータを送信されてしまっていることに気付かなかった自身の愚かさと
彼らへの憎しみを双方の瞳に宿したが、ラクスはいつものように微笑を浮かべていた。
2007/12/29
・・・・長かった終戦宣言;
色々と脱線しつつ修正を重ねてみてみれば、20話ですか;;
・・・日記からブログに移りましたが・・・すごいカウントになったことでしょう。
今年も残すところあと2日。
このペースだとギリギリ間に合いそうですv
・・・ま、油断は禁物ですが(爆)
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