「兄さま、ニコルさんからの定期連絡です。 読み上げますね。 『月と歌姫は無事。狩人捕縛』」
「そうか。
あちらはニコルがいるからあまり心配はしなくてすんだが・・・・俺たちが帰還する頃には、終わっているな」
漸く、君をこの腕に抱けるよ・・・キラ。
俺たちが任務で本国を離れている間、あの狸が何かを仕掛けてくるとは予測していたが・・・。
しかし、万が一の為にニコルを彼女たちの傍で待機させおいてよかった。
ラゥ兄様もきっと、キラを守ってくれたのだろう。
キラ・・・・。
早く、君を抱き締めたい・・・・・・。
Adiantum
― 騎士たちの帰還 ―
「すぐさま、デュランダル議長・・・・いいえ、元議長を議会への出頭をするように、命令を発令いたします!」
「議長を!?」
「・・・彼は、もう議長などではない!! 貴殿らはまだ、この情報を見ても彼を議長だと思われるのか!?」
この放送は、議会にも繋がっており議員であるアイリーン=カナーバを始めとする者たちは、
すぐさま自分たちの議長であったデュランダルに議会への出頭命令を発令させた。
この放送で流れてきた情報は、全て本物であることを彼女たちは知ったのである。
この情報を入手した人物こそ、
自分たちのよく知るニコル=アマルフィだということは、クライン派であるアイリーンには分かっていた。
「し、しかし・・・・。 では、誰がこの議会の議長を務めるのか!」
「私は、ラクス=クライン嬢をこの議会の議長へ推薦しますが?」
議員たちの言葉に静かな声が響いた。
その声の持ち主は、宇宙へ任務のために行っているディアッカの父であるダット=エルスマンであった。
「あんな小娘に議長が務まるのか!」
「務まりますよ。 この事態を把握し、尚且つそのための証拠をこれだけ揃えた。
なにより、彼女は国民たちに絶対的信頼を寄せられている。
2年前の戦争時、彼女たち第3勢力の活躍があってこそ、このように我々は生きているのですぞ」
ダットの言葉に反論できない議員たちであった・・・・・。
その言葉を聞いたアイリーンはすぐさま、
情報を提示し続けているニコルのPCにメールの行くように議会に備えられているPCから、
ラクスを議長にすることが決定したと流した・・・・。
その頃、PC画面にとあるところからの通信が来たと連絡を受けたニコルは、
届けられたメールに備えられている内容を開くとすぐさま、ステージに立つラクスへ通信を開いた。
「ラクス、アイリーン殿からの連絡です。 議会は、我々の予想通り貴女を議長へ推薦したみたいですよ。
推薦者は、ダット小父さんみたいですね」
《分かりましたわ。 こちらの放送が終了次第、議会へ向かいましょう。
イザークたちからの定期連絡のほうは、如何ですの?》
「こちらも問題ないみたいですよ。 今、本国に帰還しているところみたいですね」
ラクスの言葉に頷いたニコルはそのまま先ほど送られてきた定期連絡を開き、現在地を把握した。
その事に安心した様子を見せたラクスは、キラにも伝えるように頼み、通信を切った。
一方、連合の艦を捕らえた『アセリア』は【プラント】の港へ着いていた。
ニコルからの連絡を受けたキラは、二人の代わりにクルーゼと共に港へ行き、
『アセリア』到着をそわそわしながらゲートで待っていた。
そんなキラの様子を苦笑いしながらも見守っているのはクルーゼであり、
彼自身あまり外さない仮面を外していた。
仮面を被ったままだと、面が割れるためである。
2年前の戦争時、彼は何度か仮面をつけたままメディアに出たことがあるためである。
そのため、仮面を着けたまま外に出ると騒がれ、一緒にいるキラにも被害が及ぶ。
最も、彼女もアスランともにメディアに出たのだが、彼女だけにマイクを当てられることはない。
その行為をすることは、アスランたちに禁止事項とされているためであった。
彼らを敵に回してまで報道をするような愚か者は、この【プラント】内にはいなかった・・・・。
《『アセリア』、到着いたします》
アナウンスで知らされた内容に、
キラはそれまで座っていた席から立つと慌てた様子で彼らが出てくると思われるゲートへ向かった。
「キラ、少しは落ち着きなさい。 アスランたちは、無事だから」
キラの様子に苦笑いを浮かべたクルーゼだったが、
自分にとって弟も思える存在のレイも彼らと共に戻ってくるため、
キラやアスラン、レイしか分からないくらいに優しい色を瞳に宿した。
「アスラン!! お帰りなさい!!」
キラはアスランの姿を見つけると、すぐさま抱きつくようにアスランの腕の中に飛び込んだ。
「ただいま、キラ。 危ないだろう?」
「・・・・ごめんなさい。 でも、アスランたちが無事に帰ってきてくれて嬉しかったから」
飛び込んできたキラを危なくないよう受け止めたアスランだったが、
苦笑いを浮かべながら自分の腕の中に納まっているキラを覗き込んだ。
「みんな無事だせ、姫」
「俺たちがお前の願いを叶えないわけがないだろう」
「ただいま戻りました。 キラ姉様、ラゥ」
「お帰り。 アスラン、イザーク、ディアッカ。 レイもお疲れ様」
キラに苦笑いを浮かべながらも、
それぞれの挨拶の仕方でキラとクルーゼに帰ったことを伝えるイザークたち。
彼らの姿は、ゲート付近にいた警備員はもちろん、民間人たちもまた微笑ましそうに見ていた・・・・。
彼らと共に【プラント】へとやってきた地球連合の最新鋭・・・『ガーティー・ルー』も共に港へ寄せられ、
捕虜となったクルーたちはザフトの兵に連れられるようにそれぞれの場所へと連れられた。
「マリューさんとダット小父様?」
「久しぶりだね、キラちゃん。 ディアッカたちも無事に戻ってきたみたいで・・・安心したよ」
キラはアスランに抱きついたまま、驚いた様子を見せながらゲート付近から近づく2人の姿を見つめた。
男性は幼馴染の父であり、議員を務めているダット=エルスマン。
もう1人の女性は、キラやラクスたちと共に【プラント】へ移住したマリュー=ラミアスであった。
「ラミアス女史にご報告です。 彼らしき者を発見したので連れてきました。
最も、敵艦の最高指揮官だったので、捕虜という形ですが・・・・。
彼は連合の研究である記憶操作を人為的にされている可能性が極めて高い。
ラゥ兄様に確かめてもらってからダット小父上の病院にて治療を施してもらいたい」
アスランの言葉と同時に、
ベッドに乗せられたままのネオ=ノアロークと奪取した3機のパイロットたちであった。
「親父、奴らの治療よろしくな。 念のため、あちらで入手したデータは持ってきた。
これでも分からない場合、ニコルに頼んでハッキングしてもらおう」
彼らを見送ったディアッカは目の前にいる父親に託し、『ガーティー・ルー』内にて入手したデータを渡した。
いつもは飄々としている息子がいつになく真剣な表情をしていたため、ダットもまた何も言わずに頷いた。
「アスラン、ラミアス殿。 アレはムゥに変わりはない。 私の直感がそう教えている。
レイにも感じたんだろう? なんとなくだが、彼と関係していると。 彼の存在を強く」
「はい。 ・・始めはなぜかと思ったんですけど。
・・・・徐々に慣れるうちに何処となく安心していたっていう感じです」
クルーゼの言葉に頷きを返したレイであったが、
その表情はなぜかと今にも首を傾げるような表情を見せた。
「お前たちはそのまま議会へ向かいなさい。 もちろん、キラちゃんも一緒にね」
「? 何かあるんですか?」
「あぁ。 議会は元デュランダル議長の出頭命令と次期議長にラクス=クラインを指名した。
あのデータの信憑性はあるが、本人の口から聞きたいという議員も多くてね。
その当事者である彼らも議会へ向かっている。 後は、君たちだけだからね」
『了解』
ダットの言葉に頷きを返した彼らは港から出て、クルーゼたちを乗せてきたエレカに乗り込み、
軍服を身に纏ったままの状態で議会へと向かった・・・・。
「・・・ちょっと待ってくれ」
「アスラン兄様?」
エレカから降り、
議会室へ向かおうとした彼らは後ろから聞こえるアスランの停止声に首を傾げながらも素直に止まり、
後ろを振り返った。
「・・・・そこにいるのは分かっている。 出てこい」
レイの言葉を遮るようにアスランは冷たい視線を背後に向けたまま、
キラやレイがあまり聞いたことのないような視線と同じように冷たい声を発した。
((・・・・アスランの不機嫌さがましたな))
アスランの二面性をよく知るイザークたちは、
知り合いではない気配に向けて、少しだけ同情の念を送った。
「っ! 何で分かったんだよ」
「分かるさ。 お前たちの気配は独特だ。 ・・・・アカデミーで何を学んだ?
気配を消すことくらい、初歩的だろう。 尾行をするのならば」
黒い髪に赤目の少年に対し、アスランは何処までも冷たい視線を送った。
その視線が気に食わないのか、感情丸出しで突っかかってきた。
「ちゃんと消していた! なんなんだよ、あんたたちは。
いきなり現れたかといえば、あんな放送流しやがって。 お前たちのせいで議長が失脚されそうなんだぞ!」
「シン=アスカ・・・・何を勘違いしている? あの放送で流された情報は全て本物だ。
証拠だって、全て揃えてある。 ・・・あの人は、俺たちの地雷を見事に踏んでくれたのさ。
キラに危害を加えようとし、あまつさえキラとラクスを亡き者にしようとしたヤツを俺たちは許さない。
・・・・ニコルから知らされたよ。
お前たちは俺たちが任務のために宇宙へ行く時、軍港へきていたみたいだな?
その時、俺の最愛であるキラに敵意を向けた・・・・・。
なぜ、あったこともない彼女にお前が敵意を向けるんだ」
「っ!! その女のせいだろう! アンタとレイが、俺たちの艦からいなくなったのは!」
「貴方とレイは、私たち『ミネルバ』に配属されたクルーでしょう!?」
「俺たちがお前たちと同じ場所へ配属? 何の世迷言だ。
確かに、俺は『ミネルバ』と任命されたが・・・忘れてはいないだろな? 俺はお前たちとは違う。
『フェイス』には自身で選ぶ権利を持っているんだ。
俺の力は2年前共に戦火を潜り抜けてきたイザークたちと共にあったほうが俺も何かと安心だ。 レイも然り。
お前たちと共にいてはせっかくの才能が無駄になる。 レイの移動は正式なものだ。
お前たちがとやかく言う筋合いはないんだ。 俺たちは軍人だ。
ピクニック気分じゃないし、俺はお前たちのお守りでもない」
アスランは終始、冷たい視線を浴びせながらそれと同じくらいの冷たさのある声を発した。
その声を聞いているのは、
目の前にいるサラブレッド2名・・・今期のレイを除いたザフトのトップたちであった。
しかし、彼らの姿は何処から見てもザフトのトップを誇るサラブレッドの姿ではなく、
園児以下の行動を見せるただの子どもであった。
「アスラン、そいつらに付き合っている暇はない。 早く行くぞ。
・・・・お前たちもザフトと名乗る身ならば、もっと礼儀と常識を持て。
この場にいるのはお前たちと同期であるレイ以外、お前たちの上司だ。
後・・・その軍服を身に纏うのならば、もう少し落ち着きと冷静な判断の出来た時に現れろ。
その軍服を誇りに思わないのならば今すぐ俺たちの前から消えろ。 目障りだ」
イザークもまたアスランよりは露骨ではないものの機嫌はお世辞にも良いとは言えず、
すぐにこの場から離れたい一心であった。
その事に深く同意するディアッカもまた強く頷き、
レイはただ静かにかつて共にアカデミー時代を過ごした二人に視線を向けた。
しかし、それもまた一瞬だけであり、今はもう既に興味が失せたかのように視線を元に戻していた。
2007/12/28
忘れていた頃にやってくるバカ共(ぇ)
バカに対する私の印象は、「いつも叫んでいるなぁ・・・」です。
よって、作品中もよく叫びます;
今回は一段と自己中な考えを叫んでもらいました。
まぁ、バカならこれくらい叫ぶでしょう・・・と言うことで。
今年も残すところあと3日。
3日以内でどこまで更新できるか・・・時間との戦いです(ォィ)
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