「念のため、僕名義で借りている場所ですよ。
このお屋敷やアスランたちのお屋敷だと、キラさんが悲しむと思って・・・ココと同じほどの広さを買い取りました。
もちろん、セキュリティーを弄っていろいろとトラップを仕掛けましたけどね?」

せっかくの新居を無粋な方々の為に穢したくはありませんからね。
あの場所でしたら、穢れたとしても新しく作り直す予定ですから。
プログラミングはキラさんやアスランに劣るものの、お2人以外に劣っているとは思いません。
何より、トラップに関しては僕のプログラムだけではなく、
アスランのプログラムも一緒に組み込まれていますから。


ラクスやキラさんたちに害を加える者に対して、
僕たち幼馴染は一切の手加減をしないことをあの頃から決めているんです。
ですから・・・たとえ、狸さんのご命令でもキラさんたちには指一本、触れさせませんよ?








Adiantum
    ― 狩人、捕獲計画 ―











キラがクルーゼと共に屋敷に戻る頃、全ての準備を整え終えていたラクスたちは、
詳しい事情をクルーゼに話し、キラにはマスコミを避けるためと説明した。
もちろん、その言葉を信じたわけではないキラだが、
幼馴染たちを信じるキラは、ニッコリと微笑みながらラクスたちと一緒に移動した。



ニコル名義の屋敷に移ったラクスたちはこちらの屋敷に来るよう、
自分たちの所在地を議長個人の情報網に引っかかるように流した。
もちろん、流したのは居場所だけで匿名として流し、
その他の個人情報などはニコルが改ざんした名前で流していた。



「・・・あとは、餌に食いつくのを待つだけですね。 最も、近日中にはお客様たちが来ることでしょう」

「そうですわね。 ・・・・・あのデータはお客様をお迎えしてからですの?」

「えぇ。 そのデータと今回のデータを一緒に流しましょう。
その時、2年前のようにラクスが声明を出していただけますか?
今回、不安要素であるお客様たちを迎えてからですから、映像を出しても大丈夫でしょう」

「分かりましたわ。 ・・・・あちらも手段を選ばないというのならば、こちらも遠慮は要りませんわ」



ニコルとラクスは互いに黒い笑みを見せたが、ココに彼らを止める人材はおらず、
また・・・他の幼馴染たちがいたとしても彼らを止める者は誰一人、いないだろう・・・・・。




ニコルが情報を流してからの数日間は平和そのものであった。
最も、ニコルたちからにすればその平和は“嵐の前の静けさ”であったが。



「・・・・明日辺りに来ると思います。
一応、トラップ関係も仕掛けてありますから大体はしとめられると思います。
・・・何人か取り逃がした場合、ここに入ってくると思うんですよね。
ラクスは僕と一緒に行動してください。 隊長は、キラさんをよろしくお願いいたします」

「分かった。 ・・・ニコル、私はもう軍をやめた。 隊長ではないぞ」

「・・・・すみません。 ですが、僕にとっての隊長はクルーゼ隊長だけですから」



ニコルは情報収集していたPCから顔を上げ、先ほどまで見ていた情報を元に分析した結果、
この家に招かれたお客が明日あたりに来ると予測したニコルは、屋敷にいるメンバーに最終確認を取った。
アスランとキラから絶対の信頼を得ているクルーゼに対し、
2年前まで部下であった名残なのか未だに隊長と呼んでしまうニコルに苦笑いを浮かべた。



「? 隊長と呼ばれたくはないの? ラゥ兄様」

「そうだね。 もう、軍人ではないから・・・・二コルたちの上司でもないからね」



キラは首を傾げながら隣にいる兄を見た。
そんなキラの可愛い仕草に苦笑いを浮かべながら理由を述べたが、
キラはあまり理解していないのかポカンとした表情を見せた。



「その件に関しては、すべてが終わってからにいたしませんか?
まずは、キラさんとラクスに害をなそうとする方たちを盛大に歓迎しなくては」



ニコルはニッコリと微笑んではいるものの瞳はその笑みを裏切っており、瞳はとても冷たいものを宿していた。





翌日、キラは昨日言われたとおりクルーゼと行動を共にし、あまり外に出ないようにしていた。
元々、アスランのいない間は自発的に外へ出ようとしないキラであったため、
室内でクルーゼがキラの話し相手になって予定時刻まで時間を潰していた。



「・・・そろそろですね。 此処とこの場所にトラップを仕掛けました。
一度引っかかると僕が解除するまで動けない状態になります。
取り逃がしてもそれ専用に仕掛けがありますのでこの場所に誘導してください」

「わかった。 ・・・・二コルのトラップはアカデミーで実践済みだ。 今回も期待しているよ」

「確実に生け捕って見せますよ。 アスランたちとの約束でもありますからね」



クルーゼとニコルの会話はにこやかに交わされているが内容が内容で、
双方の瞳には今からやってくるであろう今回招いたお客様たちに向けての冷たい色が宿っていた。



それからしばらくすると、玄関口方面で爆発音に似た音が響き渡った。



「・・・・・・早速、どなたか引っかかったみたいですね・・・・・。 議長も詰めが甘いんですよ。
僕が流した情報に裏があると読んでいなくてはいけません」

「あら、そのようなことは分かりきっておりますわ。
だからこそ、このようにして幼稚ともいえる罠に嵌ってくださるのですもの」



ニコルは自分の造った罠に早速引っかかった者がいると隠しモニターで確認し、少々呆れ顔を見ていた。
そんなニコルの発言に微笑みながら毒を吐いたのはラクスで、彼女の言葉は的確だったため誰も何も言わない。



「では、作戦通り行動を起こしましょう。 僕たちはこの階にいます。 キラさんたちは上の階へ」

「分かった。 キラ、行こうか」

「はい、ラゥ兄様」



ニコルの言葉に頷いたクルーゼたちは、気配を悟られないようにしながら上へと向かった。



「・・・大丈夫ですの?」

「はい。 この階にいるよりは断然安全ですよ。 ・・・上に行かれる前に、捉えておけばいいですからv」



ラクスの心配そうな声にどす黒いオーラを放ちながらニッコリ微笑んだニコルは、
最終チェックとばかりに手元にある小型銃を念入りに調べていた。



「それもそうですわね。 ピンクちゃん? 遠慮は要りませんわv
キラを傷つける人たちに思いっきり後悔していただかなくては」


『ハロ〜』




ラクスは手元に持っていたピンクハロに微笑みながらサラッと怖い発言をしたが、
隣で聞いていたニコルはニコニコと微笑み、ピンクハロは了解とばかりにハロハロと飛び跳ねた。




一方、玄関前で見事にニコルの仕掛けたトラップに引っかかったザフトの特殊部隊の隊員たちは、
仲間の成れの果てをまじかで目撃したためか数秒の間固まった。
しかし、それでも一応は鍛えられているため、すぐさま自分たちの任務内容を思い出し、
今度は慎重に屋敷内へと侵入しようとした。


しかし、此処はニコル。
彼らの考えを予測しているのか人間の心理というものを利用したのか、
彼らの選んだ場所にもトラップが仕掛けられ、次々と排除システムが作動された。



屋敷に入る当初、人数は20人ほどいた特殊部隊の隊員だったが、
トラップを避けて無事に室内へ侵入できたのはその半数にも満たなかった・・・・・・。


その様子を隠しカメラで確認していたニコルが
「同じコーディネイターですよね・・・」と呟いて呆れた表情をしていたことを知るのは、隣にいたラクスだけであった。
もちろん、ラクス自身ニコルの言葉に異存はないのか、声は出さなくてもその表情は呆れていた・・・・。


ニコルたちがモニターで自分たちの苦労(本人たちは)を見ているとは思っていない男たちは、
数箇所に火傷のような痕を負いながらも議長より言い渡された任務を遂行するため、
数人に分かれて屋敷内を捜索した。
もちろん、二階に上がろうとした者たちもいたが、階段付近に仕掛けられたトラップが作動し、
上がることなく、捕縛された。



その様子を柱の影から見ていたクルーゼは、
2年前にアカデミーの教官から聞いたアスランたちの班のトラップ内容を、
目の前で実証されているのか感心した面持ちで傍観者に徹していた。
彼にしてみれば、かつて同じ軍で戦ったと思われる男たちのプライドや生死よりも、
自分たちが守ろうとしているキラや彼女の唯一の存在であるアスラン、
そして彼らの幼馴染たちでこの仕掛けを施したニコルたちが無事であれば良いという考えなのである。


2年前の大戦時、自分の出生関係で世界を滅ぼそうと考えていた彼にとって、
記録上の成功体であるキラを憎んでいた。
しかし、最終決戦でキラによって殺されたと思ったクルーゼはキラによってエターナルの医務室で目覚めたことに驚き、
自分の傍にいたキラとかつての部下であったアスランがいた。
そんな彼らが必死に自分たちの思いを伝え、クルーゼはクルーゼだと断言したことにより、
長年自己否定してきたクルーゼの心は安定の道を導いた。


戦後はクルーゼが引き取っていた自分と同じ境遇・・・クローンであるレイとキラたちを会わせ、
キラたちはレイの出生もクルーゼから知らされていたため出会ってすぐに抱き締めた。
レイ自身、抱き締められるのはクルーゼ以外初めてのため、赤くなったりしたが次第に慣れ、
キラに感じていたコンプレックスや劣等感などを克服し、兄や姉と呼んで慕った。
キラたちもまた、クルーゼを兄と呼んで慕い、レイを弟のように可愛がった。




一階では階段付近でちゃんと作動したことを見届けたニコルは、
最後の仕上げとばかりに下に残っている男たちを一掃するため、
ラクスにハロを彼らに向かって投げるようにラクスに視線を向けた。
ラクスはニコルのやりたいことがわかっているのかニッコリと微笑みながら頷くと、
綺麗な弦を描いて男たちの中心にハロを落とした。




『ハロ〜。 アッカンデ〜』




ピンクハロはハロハロ言いながら目をチカチカさせ、徐に口を開けた。
いきなり現れたハロに驚いていた男たちに向かって、ビームキャノン並の威力を持つ攻撃が開始され、
数人は避けることが出来たがとっさの判断の出来なかった者たちはその場に倒れた。



「・・・・逃がしはしませんよ?」



ニコルはその場に似合わないくらいに微笑んではいたが、その声は冷たく響き、
男たちが振り向いた瞬間にニコルの所持していた銃で急所以外を撃たれた。



「致命的ではありませんもの。 このくらいでは、死にませんわ」



ラクスはニッコリと微笑み、近くにある布を撃たれた部分に巻きつけた。
彼らの生死はあまり関心のないラクスであるが、
これから行う計画に彼らが死んでいてはダメだということを理解しているため、一応応急処置を施したのだ。



自分たちの大切なキラが、彼らの傷を見て悲しむことも予想できるためでもあるが・・・・・。



「さて・・・・彼らにはじっくり聞きましょうかv
証拠品は一応揃っていますけど・・・言質はとっておかないといけませんし。 保険にもなりますからね」



ニコルはニッコリと微笑みながらも、バックには真っ黒いオーラを身に纏っていた。











2007/12/14













哀れな特殊部隊、捕獲編ですv(ぇ)
ニコルの情報操作は、とても優秀なので
野望の為に軍人を“駒”としか思っていない狸は気づきませんv
まんまとニコルの作り出した罠にはまりましたv
ここに出てくるナナシの特殊部隊の方々は、
運命本編にラクス襲撃にこられた方々がモデルですv