「やつの気配を感じるのは何も私だけじゃない。 ここにいるレイもやつの気配を感じることができる。
・・私は当分、表舞台に立つ予定はない。 ・・この子に頼んでみるんだな。
貴女には戦時中、キラがお世話になった人物だからな」



貴女の指揮する“浮沈艦”を、最後まで我々は撃沈させることが出来なかった。
あの時、撃沈に成功したのならば私はとても苦い思いをしなければならなかっただろう。
妹も同然である、キラをこの手で・・・弟も同然であるアスランの手で殺させていたのかもしれないのだから。
キラが、なぜあんな物に乗っていたのかは、戦後まもなくして本人の口から聞くことが出来た。
最も、最初はその内容に唖然としたが・・・。
だが、彼女たちの思惑は何であれ、最初にキラを保護したのは紛れもないマリュー=ラミアス・・・貴女だ。








Adiantum
    ― つかの間の休息 ―











それから数週間後、アスランと婚約したキラはディセンベル市にあるザラ本宅に住むことになり、
これからの生活に必要なものを購入するためにアスランと共に街に出かけるなど、
【オーブ】でひっそりと暮らしていた頃よりも明るい表情を見せるようになった。


住んでいるコロニーは違うが、頻繁に幼馴染たちにも会うことが出来ることもキラが明るくなった要因であろう。
なにせ、【オーブ】では一緒に暮らしていたラクス以外、通信での会話しか成り立たなかった。
アスランに関しては、カガリによって尽く接触を拒まれたため、それ以上に少なかった。



その頃に比べれば、【プラント】での生活は有意義に過ごせている。
婚約発表後、キラは自分の能力を生かすため、自宅でのフリープログラマーをしている。
実際、アスランやラクスたち以外の人々に自ら進んで接触することを拒絶しているため、自宅での仕事を選んだ。
そのことについてはアスランも大いに喜び、キラのプログラミング能力は最高評議会でも大いに歓迎させた。



評議会では、ダット=エルスマン、ユーリ=アマルフィ、アイリーン=カナーバの支持によってラクスが議員に選ばれた。
2年間の不在にも関わらず、彼女を支持する国民の声は大きく、
その影響で最年少の議員が誕生することになった。



アスランは、〔FAITH〕の権限を使い、ミネルバ所属からセシリア所属へと母艦及び隊を変更した。
その際、ミネルバ所属のレイ=ザ=バレルも共にセシリア所属へと所属艦変更届を提出し、
数日後にはそれは受理された。
セシリア・・・すなわちジュール隊である。
プラントはもちろん、ザフト内でも有名な隊であった。
その名は、2年前、ザフトの花形とも言われたクルーゼ隊に匹敵する。


レイの所属変更願いには、イザーク直筆のサインが記されており、
それは即ちイザークがレイを引き抜きしたということを意味した。



そのことによって、議長であるデュランダルは渋ったが他の議員メンバーが賛成をし、受理が決定した。



「レイが・・・ジュール隊へ!? ・・・了解・・・いたしました。
本艦のクルーたちには私から伝えます」



女性は自宅の通信機前で上官から伝えられた内容に驚きながらも敬礼し、上官との通信を切った。
女性はそのまま、伝えられたことをクルーたちに伝えるべく通信をし始めた。







一方、ザラ家では一室にてカタカタという音を響かせていた。そ
の音を響かせている人物とはキラであるが、キラはあるプログラムを作成していた。


そのすぐ近くでは、いつもキラの肩に乗っている緑のロボット鳥の電源を切り、
愛おしい彼女のために、念入りなメンテナンスをしているアスランの姿があった。



「・・・キラ。 セシリアが3日後に【プラント】を出発する。それから何週間かここに戻れない」

「・・・うん。 ・・・できたっ!!」



アスランの言葉に寂しそうな声色を滲ませたキラだったが、
今まで作っていたプログラムができたのか、一瞬にして嬉しそうな声を出した。



「? キラ?」

「・・アス。 このプログラムも一緒に持って行って?」



一瞬、キラの言葉に疑問を感じたアスランは、
メンテナンスしていた緑のロボット鳥・・トリィから視線をキラに向けて尋ねた。
キラはそんなアスランの様子に何も言わず、
近くにあったCD-Rに作ったばかりのプログラムを焼いてアスランに渡した。



「このプログラム? ・・今度は何を作ったんだ?」

「・・どんな場所にいても、通信できるプログラム。
アスのPC、僕が開発したOSが乗ってるでしょう?」



焼かれたCD-Rを見つめつつ、いろいろなプログラムをこれまでにも作っていたキラに、
プログラムの中身を知るべく尋ねた。
キラは、そんなアスランに気まずそうに答えた。



アスランとキラの持つPCは、キラとアスランの共同作品でもある。
ハードの面はアスランが。
ソフトの面をキラが担当した。



それぞれの得意な部分を活かし、
現在【プラント】で出回っている最新のバージョンよりもはるかに上回っていた。


そのため、大抵の通信はどこにいても繋がるのだが、アスランが向かうのは戦場ともいうことがあり、
キラは急いでプログラムの作成に取り掛かっていた。



「・・・分かった。 ちゃんとダウンロードしておく。 ・・今度の休暇まで帰ってこれないけど・・・・。
でも、キラが不安がらないように毎日メールをするからね?」

「・・・うん。 アスランがいるところはイザークたちも一緒だから安心だけど・・。
けど、やっぱり不安だから・・・・・」



CD-Rをキラから受け取ったアスランは、
不安そうに自分を見つめるキラに彼女限定の微笑を見せ、優しく抱き締めた。


キラは自分が安心する唯一の温もりと彼独特の匂いを思いっきり堪能するため、
自ら彼に抱きつくようにアスランの背中に回った腕に力を込めた。



「キラは、その間何をしておくんだい?」

「僕? 僕は、ラクスから頼まれた【プラント】の管理システムの開発だよ?
今のプログラム、古いものだから以上をきたすことが多いって言っていたから」

「ラクスが? ・・・そうか。 まぁ、ニコルは今回戦場には行かないらしいからな」

「ニコル? ・・・軍をやめたって聞いたけど?」

「時々、イザークの艦に乗るらしい。
まぁ、その時はニコルのハッキング能力が必要になった時の場合らしいが・・・。
あいつはピアニストともう一つの肩書きがあるからな。 “『セシリア』直属のプログラマー”らしいから」



アスランは腕の中でおとなしく身体全身の力を抜いて、
自分に全てを預けている姿に小さく微笑みながら、キラの頭をゆっくりと撫でていた。
キラはアスランから撫でられることが昔から好きで、嬉しそうに微笑みながらアスランの言葉を聞いた。



「僕は・・・大丈夫だよ? ラクスもいるもの。 それに・・・ラゥ兄様だっている。
兄様がね、アスランたちと一緒にレイも行くから、その間遊びにおいでって言っていたの」

「・・・兄様が? だったら、安心かな?
・・・でも、外に出る時はちゃんとトリィとハロも一緒に行くんだよ?」

「もちろん。 だって、僕の友達だもんv ・・・港にお見送りに僕もラクスと一緒に行くね?」

「あぁ。 ・・・だが、俺としては一緒に行きたいな? キラは俺と一緒に行くの、嫌?」

「嫌じゃない! ・・・でも、一緒に行っても大丈夫?」

「大丈夫だよ? ・・・というよりも、俺が一緒にいたいんだけどね?」



キラは自分のところに飛んできたハロをキャッチしながらアスランの話を聞いていたが、
アスランたちが艦に乗って再び宇宙へ戻るまでの短い間、一緒にいることを許されたのを認識すると、
今まで以上に嬉しそうな笑みを浮かべるときつくアスランに抱きついた。



「・・僕も、少しでも長く一緒にいたい。 ・・・僕、この家でアスランの無事を祈っているからね?
ちゃんと僕のところに帰ってきてね?」

「あぁ。 俺の居場所は、キラのところだけだからね?
・・キラが平和で静かに暮らせるように俺は軍に戻った。
だから・・・キラには少しだけ辛い思いをさせるだろうけど・・キラがここにいてくれるだけで俺は頑張れる」



アスランもまた、キラをきつく抱き締めると額に触れるだけのキスを落とした。
そんなアスランに嬉しく微笑むと、顔をアスランの大きな胸に埋めた。
キラは昔から甘える時は、アスランの胸に顔を埋めることが多かった。
そのようにしているとキラに聞こえるのは、
アスランの心音だけなので落ち着くと幼い時にキラは今亡き母に、そう答えていた。











2007/09/01













漸く、再更新が終わりました。
・・・最も、原稿を起こしていて気付いた結果、
最終話までまだ折り返し地点ではないということ;
・・・予定も考えずに、だらだらと書いていた結果ですね;

内容的に、ちょっとだけしんみりしちゃいましたが;
次回は・・・多分、大魔神様がご降臨なされる・・・のかな?(うろ覚え)