「えぇ。 家のほうへ着きましたら、改めてお茶会でもしましょう。
母がキラさんのためにおいしいクッキーを焼いてくれたんです」



『お茶会』は、僕たち幼馴染の間でとても大切で、幸せな時間でした。
母さんたちがリビングなどでお話ししている最中など、晴れていた時に必ずテラスに出て、
ラクスの入れた紅茶と母さんたちの作ってくれたお菓子を食べながら色々と話しましたよね?
・・・カリダさんやレノアさんはもう、いらっしゃらないけど・・・・僕たちにはかけがえのない、優しい一時でした。




―――――― 色あせることのない、幸せの象徴だったあの時代。
喪われた人が戻ることはないけれど、それでも彼らの中で生き続ける・・・・・。








Adiantum
    ― 5年ぶりの茶会 ―











数時間後、ディアッカの運転するエレカがザラ家に到着し、昔からいる執事たちに出迎えられた。
同時に別行動を取っていたマリューもアスランたちに合流した。





エレカ内で目覚めたキラは5年ぶりに再会する執事たちに微笑み、再会を喜んでいた。
キラは昔から人懐っこい性格が幸いしてか、大抵の人間と仲良くなることが多かった。
そのため、何度か訪れたとのあったアスランの実家である【プラント】の屋敷に、
長年勤めている執事に懐いていた。



「お帰りなさいませ、アスラン様。 キラ様とのご婚約、まことにおめでとうございます」

「ありがとう。 ・・・すまないが、しばらくの間、庭のほうにいる。 みんなで5年ぶりに『茶会』を開く」

「『茶会』ですか? ・・以前、開かれましてもうそんなに過ぎましたか・・・」



執事は懐かしむように目を細め、ニッコリと微笑んだ。




その微笑に頷いたアスランは、『茶会』の場所となる庭へ向かった。



「アスラン様、みな様がお好きな紅茶をお持ちいたしました」



執事はニッコリと微笑みながら、紅茶の入った箱を見せた。
箱に入っているものはどれも。幼い頃にキラたちが好んで飲んでいた紅茶ばかりであった。



キラ、アスランは“アールグレイ”。
ラクス、イザークは“セロイン”。
ニコルは“ダーリジン”。
ディアッカは“アッサム”。
レイ、クルーゼ、マリューは“オレンジペコー”。



それぞれの葉を選び、近くに待機していたメイドを呼んだ。
メイドはティーカップとお湯をアスランたちの囲むテーブルに置くと、その場を離れていった。



「久しぶりに私が用意いたしますわ。 少々お待ちになってくださいなv」



ラクスはニッコリと微笑み、一つ一つ丁寧に葉を濡らしていった。
ラクスが紅茶を準備している間、2年ぶりに再会したクルーゼに対し、
キラは嬉しさを隠しきれない表情を見せながらクルーゼに抱きついた。
彼らの中で一番クルーゼに懐いているのはキラである。
クルーゼ自身、キラとアスランの出生の秘密を知っているため、
複雑な心境であったが純粋に自分を慕う彼らとともに時間を過ごすうちに彼らを本当の弟妹のように可愛がった。



「ラゥ兄様!! お久しぶりです、兄様」

「キラ、今回はアスランとの婚約おめでとう。 私も兄として喜んでいるよ」



クルーゼは自分に抱きついているキラにニッコリと微笑むと優しく頭を撫でた。
独占欲の強いアスランであるが、自分も兄として慕っているクルーゼに対しては兄妹のようだと感じていた。
クルーゼもまた、キラやラクスに恋愛感情ではなく、
兄妹愛のようなものを抱いているため万が一と言う考えはない。



「ありがとう、兄様。 レイも一緒に来てくれて、ありがとうv」

「俺も、キラ姉様たちが幸せを願っています」



キラはクルーゼの隣に座っていたレイにニッコリと微笑むと、レイもまたキラにつられたように微笑んだ。



「・・・しっかし、あの議長怪しいと睨んではいたがここまでだったとはな」

「あぁ。 ・・・偽者のラクスまで作って、何を企んでいるんだ?」

「・・・俺が、オーブからこちらへ来たのは本当に【プラント】の情勢が気になったからでもあるんだ。
・・しかし、あの狸議長は俺を『フェイス』としてザフトに複隊しろと言ってきた。
ラクスが表舞台に出てこないことをいい事に、自分の都合のいい人形まで用意して」

「ラクスの言葉は国民にとって絶対的な力を持っていますからね。
姿・形が一緒であれば誰も分かりませんし・・・。
まぁ、僕らにしてみれば茶番もいいところですが。
・・・あの偽者は、違和感がありすぎますから」



ニコルはニッコリと微笑んでいたが、その笑顔には十分な怒りが込められていたために周りが冷たい空気となっていた。



「・・・俺も軍に所属していますが、ラクスさんにそっくりな方をいつも傍に置いている議長は信用していません。
・・・先ほど、ディアッカさんが俺に近々所属の隊が移動となっていましたが・・・」

「・・・まだ、内緒だったんだが。 まぁ、いいさ」



レイは苦笑いを浮かべながら自分の感じたことを素直に話した。
ホテルでキラの部屋にてディアッカから伝えられたことをそのままイザークに話すと、
ディアッカが小さなうめき声を出した。



・・・イザークがテーブルの下から蹴ったのである。



「レイは、俺の隊にアスランと一緒に移動だ。お前の士官学校での成績を見せてもらった。
と言っても、今期の‘紅’を身に纏う者たちの成績を全員見た。
・・・お前は俺の目から見てもそれなりに全てが一定のラインを超えている。
・・・しかし、ほかの者たちははっきり言ってよくそんな成績で‘紅’を身に纏えたなと感心する。
俺たちの時には考えられん成績だからな。
確かに、ずば抜けているものがあったとしても、全体的に活かさなければそれは意味がない。
そんな隊にお前の実力はもったいない。
・・・まぁ、『ミネルバ』でエース・パイロットと呼ばれて天狗になっているやつは、
あの狸議長にとっていい手駒だろうがな」

「イザークの言うことに反論はないさ。 ・・確かに、シン=アスカは‘紅’を纏う資格がない。
やつの前にあるのはただ、“復讐”という2文字のみ。
・・・己にとって、何が必要かは失ってからしか気付かないだろう」



アスランは静かにイザークの言葉に同意し、レイを見つめた。
一瞬驚いたレイに対し、安心させるように微笑んだ。



「レイの移動はちゃんと評議会を通している。
議長は渋っていたらしいが、そのほかの議員たちが賛同してな。 移動が決定された。
アスランに関しては、『フェイス』らしいから無理を言ってでも来るらしいが・・・」

「・・・当たり前だ。 あの艦にいるよりはこちらにいるほうがいい。
・・・この艦のほうが実力を出せるとでも言えば、どうにでもなる」



アスランは嫌そうにイザークへ言葉を投げかけると、心配そうに自分を覘いているキラに微笑んだ。



「オーブはその力を失いました。 今後は、自国の復興を優先させられると考えられます。
なにせ、アスハ家とセイラン家の両家が政治はもちろんのこと、
一族が経営していた組織などは全て解体されましたからね。
戦争どころじゃありませんよ」



ニコルはニッコリと微笑みながら、彼の母が持たせたクッキーの包まれている袋を解き、
先ほどのことをアスランたちに報告した。
アスランが彼に後の処理を任せた後、何をしたのかは聞かないほうが身のためであるということは、
彼らは身をもって知っているために何も言わなかった。



「皆様、紅茶の用意ができましたわ。 ・・・はい、イザーク」

「ありがとう、ラクス」

「アスラン、はい。 ・・・ストレートでいいんだよね?」

「あぁ。 キラ、あまりお砂糖を入れすぎないように気をつけてね」



ラクスからキラ、イザークへと手渡された。
キラはアスランに手渡し、アスランからお砂糖の入ったカップをとってもらっていた。




そんなほのぼのとした空気の中、戦時中は一度も仮面を外さなかったクルーゼは、
キラ・アスラン・レイ以外に初めてその素顔を見せた。



「兄さまの素顔、6年ぶりだね。 ずっと隠していたのは、ムゥ兄さまと区別するため?」



キラは久しぶりに兄と慕っているクルーゼの素顔を見れたことが嬉しいのか、ニッコリと微笑んだ。
しかし、すぐにその愛らしい顔を歪めながらクルーゼに尋ねた。



「やつとは同じ顔だからね。 ほかに、他意はないよ?」



クルーゼはそんなキラに微笑むと、レイの隣にいたマリューに視線を向けた。



「貴方は私に何か聞きたいのでは?『足付き』の艦長殿・・いや、マリュー=ラミアス」

「!!・・・・・貴方とムゥは何かを感じることができると戦時中、ムゥから聞いたわ。 そして・・・貴方と彼の関係も。
・・・私は、どうしても彼が死んだとは思えないの。 ・・・貴方と彼のその不思議な力で彼を見つけてほしいの」



クルーゼの言葉にそれまで会話に参加しなかったマリューの表情は一瞬固まったが、
すぐにいつもの表情に戻ると戦時中にフラガから伝えられた言葉を思い出し、クルーゼに尋ねた。



「やつの気配を感じるのは何も私だけじゃない。 ここにいるレイもやつの気配を感じることができる。
・・私は当分、表舞台に立つ予定はない。 ・・この子に頼んでみるんだな。
貴女には戦時中、キラがお世話になった人物だからな」



クルーゼは隣にいるレイの頭を優しく撫でながらマリューを見た。
マリューのことは戦後、キラとアスランを通してどのような人物か知っていたため、
何を質問されるかをあらかじめ予測を立てていた。


マリューはかつての宿命ともいえる元敵に対して、呆気にとられたかのような表情を見せたが、
消して悪い話でないことに緊張していた空気が多少柔らかいものとなった。





マリューが一番聞きたがっていたことは聞けたため、
その後は5年ぶりとなる幼馴染たちとのちょっとした休暇ともいえる『茶会』が楽しげに、
そして現役の軍人となってるイザークたちのひと時の休息は、静かに過ぎていった・・・・。











2006/12/10

再up
2007/08/01













久しぶりに、ほのぼの感がでています・・・よね?(不安)
Gパイロットsが幼馴染な時点で捏造しておりますが
・・・最大から二番目の捏造は、レイと某仮面隊長でしょう;

最大の捏造は、アスキラにエヴィデンス01の一部が、
組み込まれていることですかね?
アニメの方でアスキラ以外にラクスと某も種割れしておりますが、
此処ではアスキラしか種割れしませんv

キラとアスランは、メンデル出身です。
人工子宮で生まれたことをキラとアスランは知っております。
因みに、それによって生み出されたのは、アニメと同じキラのみ。
アスランはレノアさんの胎内で育てられましたが、
遺伝子組み換え時にキラと同様、
エヴィデンス01の一部が組み込まれています。
それにより、ラクスと対の遺伝子を持ちながら
キラとは完全に一致する遺伝子を持っていることになりますv(多分)