「・・もちろん、俺もな? ラクスは俺の最愛の人だ。 アスランはどうでもいいが、それだとキラが悲しむ。
・・・キラは俺にとっては妹のような存在だ」



純粋に育ててきたのはアスランだが・・・俺たちも可愛がっていたからな。
ラクスは、俺が母上以外に守ると決めた女性だ。
キラは・・・家族愛のようなものだからな。
ディアッカやニコルは一応大切な幼馴染だし、アスランも・・・ムカつくやつだがいいやつだと分かっている。





・・・・幼い頃から共に過ごしてきたラクスたちを利用したり、亡き者にしようと企んだその罪、俺は許さない。








Adiantum
    ― 大切な者への想い ―











アスランとキラが別室にいる頃、
アスランに頼まれたディアッカはニコルを呼ぶために再び会場へと戻った。



「・・ニコル! アスランがお前を要請しているぞ? ・・・例のところからの強制的な通信だ。
こっちは、イザークとラクスに任せればいいだろう?」

「・・・あぁ、例のところからですか。 分かりました。 ラクス、こちらはお預けいたしますね」

「えぇ。 ・・・あちらもおバカさんですものね。 ・・・私の分までよろしくお願いいたしますわ」



ニコルの言葉にラクスは反応し、
会場のほうを預かると強制的な通信・・・・【オーブ】からの通信をニコルに預けた。



「分かりました。 ・・・ディアッカ。 アスランは別室に?」

「あぁ。 姫と一緒にいる。 ・・・俺はあいつから姫の傍にいることって言われているからな。
・・・癇癪をもつだろうなぁ、あの女は」



ディアッカはこれから起こるであろう内容を予測していた。



「・・・仕方ありませんよ。 あの人はアレしか才能がないのですから。
・・・僕たちの幼馴染に害した時点で知ったことではありませんが?」



ディアッカの苦笑いにニコルはスッパリと言い切った。
彼ら幼馴染達の間でアスランの次に怒らせてはいけない人物とも言われているニコルは微笑んではいるが、
その微笑に多少の毒を含んでいた。



「ニコルの言うとおりですわ、ディアッカ。 彼女にはそれなりの報復をしなくてはなりませんわ。
・・アスランはキラのものです。 もちろん、キラはアスランのものですわ。
・・・彼らは幼い頃から相思相愛でしたもの。
・・・何人たりとも彼らの邪魔をする者には私、容赦はいたしませんわよ?」



ラクスもニコルと同じく、ニッコリと微笑んでいるが言葉には毒を含ませていた。
そのことにより、よほどラクスが怒っているということを傍にいたイザークは身をもって知った。



ニコルはディアッカと共にアスランたちのいる部屋へ向かっている頃、
別室ではホテルの支配人がアスランを訪ねてやってきた。



「・・・アスラン様。 例の方が通信を開いてきました。
こちらへ移されますか? それとも、別室へ?」



このホテルはザラ家がオーナーを務めているため、
支配人は幼い頃からのアスランと幼馴染であるキラたちをよく知っていた。


そのため、アスランたちはこのホテルを発表の場と選んだのだ。



「別室へ。 ・・・準備は大丈夫なのか?」



幼い頃からの顔見知りのため、アスランはニッコリと微笑みながら支配人に尋ねた。



「もちろんです、アスラン様。 仰せられましたとおり、準備をいたしました」

「もうすぐ、ディアッカがニコルを連れて戻ってくる。 それまで長引かせていてくれ。
・・・俺自身、あの女には会いたくはない」

「ご命令のままに。 ・・・ニコル様方がこちらに着きましたら、お越しくださいませ」



支配人は深々と頭を下げると、静かに扉を閉じていった。

小さな物音ではキラが起きないとわかっていながらも彼なりの心遣いであった。



「・・・キラ、また暫く傍にいられないけど・・・。 ディアッカが一緒だから。
・・・でも、キラが目覚める頃には傍にいられるからね?」



アスランはベッドで眠るキラに微笑みながら離しかけ、
額と頬、唇に触れるだけの優しいキスを落とした。



「アスラン? そろそろ行きましょうか。
・・・僕たちの幼馴染を傷つけた者が通信を強制的に開いてきたのでしょう?」



アスランがキラの髪を優しく撫でていると扉からニコルの声が聞こえてきた。
それ以前に、軍で鍛え上げられた気配を読むことに優れているアスランには気付かれていたため、
ノックもせずに声をかけた。



「・・・ニコルか。 ディアッカもいるな? キラを頼む」



「キラさんは大丈夫なんですか?」

「あぁ。 眠っているだけだ。
しかし、これから起こることには寝ていたほうが幸せかもしれないな。 ・・・キラは優しいから・・・」



ニコルは心配そうにアスランと部屋の中で寝ているキラの心配をした。
そんなニコルに苦笑いを浮かべながらも頷いたアスランの瞳には、多少であるが怒りが込められていた。



「・・・・あぁ、あの方からですからね・・・。
まぁ、キラさんを苦しめてきたツケを利子付きで払っていただきましょう」



アスランの表情を見て、何か思いあったニコルは天使のような微笑で物騒なことを呟いた。



支配人に用意させた別室には、
通信機材のほかには明らかにメディア関係と思われる機材もあった。
ニコルは伊達に情報通ではない。
キラやアスランに劣るものの、彼自身ハッキングとプログラミング能力は優れており、
モルゲンレーテのセキュリティーが優秀だと有名なオーブのマザーにも簡単に入ることが可能である。


戦後、オーブの実権を握ってきた者たちを一掃できるくらいの情報を彼は入手していた。



「・・・お待ちしておりました。 アスラン様、ニコル様。
・・・・この方は本当に戦前【オーブ連合首長国】を治めていたウズミ様の御息女なのですか?
・・・・私どもは【オーブ】国民に深く同情を見せましたよ・・・」



ホテルのスタッフはアスランたちの姿を見ると、すぐさま座っていた席をアスランたちに譲っていた。



「・・・・やはり、ウズミ様は育て方を間違えたようだな」

「僕は初めからあの人に代表は合わないと確信しておりましたよ。
真っ直ぐな心を悪くは思いませんが、限度というものがるでしょう? あの人は行きすぎです。
一応、代表の娘として育てられたのですから、僕たちのようにある程度のことを学んでいるはずです。
・・・『人のモノを横取りしない』今時、幼い子どもでも理解できることですよね?
そのことを犯している時点で、あの人に人の上に立つ資格はありませんよ」



ニコルは通信がつながるまでの間、辛辣な言葉を吐いた。



「まぁ、俺はあの女がどうなろうと知ったことではないが・・・。
だが、俺の最愛なキラを亡き者にしようとしたことについては、許さないさ。
俺自身に関してならもう少し我慢できただろうが・・・・・」

「アスラン様、ニコル様。 通信、繋がります」



アスランの言葉に通信を繋いでいたスタッフの声がかさなった。
一時、切断された状態にしていたため、多少時間がかかっていた。



「端末をこっちに。 ・・・各メディアには繋がっているな?」



アスランは通信の端末を受け取りながら、後ろのほうに控えていたスタッフに声をかけた。



「こちらの準備は万全です。
【オーブ】全域と【プラント】全域・・・残りはこちらの技術で入る範囲全域の設定となっています」



スタッフの言葉にアスランは無言で頷き、ニコルに視線を送った。


ニコルはアスランの視線の意味を即座に解読し、
目の前にあったPCに自分が入手したデータをPCのデスクトップ上に次々と映し出していた。



「よし。 準備は整った。 通信をこっちにまわしてくれ」



アスランの命令により、
それまで待たせていたオーブの現代表・・・カガリ=ユラ=アスハのアポなしの通信は現実となった。



その間、ニコルによって今までオーブ政府が隠してきた裏記録
―カガリが代表になってからの悪事。そのほとんどはキラ暗殺未遂についての記録―
をリアルタイムで流していた。


このことは【プラント】はもちろんのこと、メディアと通信回線を利用しているため、【オーブ】に流れていった。




《早く、アスランを出せ!》




スタッフから受け取った端末からは、とても代表とは思えない怒鳴り声が聞こえてきた。



「・・・・もう少し、静かにしたらどうなんだ?」



そんな怒鳴り声に多少、呆れた顔をしながら通信を繋げたアスランは通信機越しでもいやそうな表情をした。

彼にとって、この通信は予測していたとはいえ、本当に不本意なことであった。
本来、会見を速やかに終わらせ、キラをザラ家本宅へとお持ち帰る予定だったのだ。
しかし、突然の議長たちの乱入と今回の通信のせいで元々機嫌の悪かったアスランは、
流石に静かに怒っていた。


この怒りを即座に理解したのは幼馴染たちである。
幼い頃の殆どを共に育っているというのは伊達ではない。


その次に気付いたのはこのホテルのスタッフたちである。
もちろん、アスランたちを幼い頃から知っているベテランたちであるが。




《!! ・・・アスラン、あの会見は本当なのか!?
なぜ、我が国にいた私の妹が【プラント】にいる?
アスハの長として、我が一族が勝手に【オーブ】から出ることを許した覚えはない!
即刻、婚約を破棄してキラをこちらへ返還してもらおう!!
大体、お前は私のSPであり、恋人ではなかったのか!?》




そんなアスランの機嫌も分かっていないカガリは悪までも自分の主張を言い張った。



「・・・その、アスハ一族の長としてのあなたにお尋ねしたいのですが・・。
・・・先ほど、マザーにお邪魔しましたところキラさんのIDがどこにもありませんでしたが?
・・・消された跡がありましたから。
それでしたら、キラさんのIDは既に【オーブ】にはありませんよね?」



ニコルはニッコリと微笑んでいるが、
彼をよく知る者たちが見れば十分怒っているということがその表情によって分かる。


アスランは機嫌が最悪になるといつも以上に無表情となるが、
ニコルの場合、常に微笑みを見ているので大抵は騙されることがある。




《!! しかし、【プラント】でのIDもないはずだ!》


「そのことなら既に更新されている。 キラは本来、【プラント】に移住する予定があった。
そのため、既にIDは更新されている」



アスランは淡々と事実を口にした。

そんなアスランに悔しそうに見ていたカガリは先ほどの質問をもう一度アスランに問いかけた。



《お前は私の恋人だろう!? それなのになぜ、私との婚約を進めずにあんな女を!!
・・・お前は、私を愛していたんじゃないのか!!?》


「世迷言を。 俺は、キラ以外誰も愛さない。
・・・いや、キラ以外は女に見えないさ。 まぁ・・・母上、カリダ小母さんとラクスや知人は例外だが」



アスランはカガリの言葉に一瞬だけ表情を変えたが、
そのことに気付いたのは長年一緒にいるニコルくらいだろう。

長年共にいないと分からないくらいの一瞬だったため、出会って日の浅いカガリにはもちろん気付かなかった。




(・・・アスラン、先ほどの言葉で一気に機嫌が低下しましたね・・・。
やはり、予定より早く切り上げたほうが身のため・・・ですか)




アスランは先ほどの会場でも機嫌が低下しており、
一時期とはいえキラの傍にいたから少しは改善されていた。

しかし、先ほどのカガリの言葉は彼にとっては地雷原だったらしく
、会場にいた時よりもさらに低下していた。
彼が完全に怒る時、ラクスやニコルの比ではない。


幼年学校時代、何度か彼が完全に怒りをあらわにした時があり、
その恐ろしさからキラに直接危害が加わった時、彼にキラを任せてニコルたちが制裁を加えていた。




・・・・アスランに任せるといつかは殺してしまうと考えたからである・・・・。




《あの女がお前を唆したんだな!? 私の恋人であるアスランをあの女が!!》


「・・・・先ほどから、黙って聞いていれば言いたいこと三昧ですね・・? 『オーブ代表』殿?」


《なんだ、お前は!? 私はアスランと話しているんだ。 横から口出しをしないでいただこうか!》




カガリの発言により、その場を穏便に済ませようとしていたニコルの勘に触ったらしく、
今まで以上に黒いオーラを纏いながら通信越しにだがカガリを見つめた。
キラの幼馴染である彼らはキラ至上な部分があり、
彼らの前でキラの悪口・・いや、範囲内では言ってはいけないという暗黙の了解が存在していた。


しかし、カガリはそんな彼らの前でそれを口にし、今まで一応“キラの姉”という認識があったが、
この発言により“自分たちの敵”と認定された。



「無関係ではありませんよ。
キラさんとここにいるアスランの幼馴染ですし、今は評議会議員を務めていますから。
・・・一応、初めまして? 僕は、ニコル=アマルフィ。
2年前はクルーゼ隊所属で‘紅’をその身に纏い、【ブリッツ】に乗っていました」



ニコルはニッコリ微笑みを見せたが、その瞳は微笑んではおらず、ただ冷たい眼差しを送っていた。


そんなニコルに怯んだのか、言葉に詰まったカガリは興奮して立っていた席に座りなおし、
体勢を整えようとしていた。



「・・・ニコル、例のことはどうなった? 順調か?」



アスランは不機嫌な声を直すことなく、隣にいたニコルに話しかけた。



「えぇ。 もちろん、準備は万端ですよ。
生憎、こちらの目的には気付いていないようですからね。
・・・コレでよく、代表をいう立場を維持できましたよね」



ニコルは自分のPCに繋いでいる端末を触りつつ、カガリに対して皮肉を言った。



「だがそのおかげで、やつを奈落の底へ突き落とせるんだ。
・・・俺のキラに対して、暴言だけでなく危害まで加えようとした愚か者にはそれなりの制裁を加えないとな」

「ですよね。 ・・・やはり、あの時にこちらへ移住していたほうがよかったのかもしれません」



ニコルは悔しそうに2年前の出来事を思い出していた。
カガリの暴挙がなければキラとアスランはとっくに結婚を果たしていた。
実際、婚約期間はあまり長くはない。
彼らは幼年学校時代からの付き合いで、彼らの両親も2人が結婚することを既に承諾しているためである。


しかし、アスランの立場上、そのようなこともできないために今回のことが起こった
―もちろん、イザークとラクスの付き合いも親公認である―。



「・・・ニコル、いい加減あの女の相手をするのは嫌だな・・。
予定より早いが、さっさと済ませようか」

「・・・ですね。 では、少しの間ですからお相手をなさっていてください。
このデータをこちらに繋ぎますから」



ニコルはアスランが何を言いたいのかを正確に理解し、
自分もそのことを考えていたために反論をせずに作業に没頭していった。



「あぁ。 ・・・キラが止めていたから今まで言えないこともあったからな。
・・・大体、俺はあの時キラたちを一緒にマルキオ導師のところに厄介になる予定だった。
だが、そのことを知っていたはずのカガリはキラに俺を貸してくれと言ったらしい。
・・・・突然、涙を瞳に溜めながら“僕は大丈夫だからオーブの・・カガリの力になってあげて”と言ってきた。
・・・伊達に長年一緒にいたわけじゃないからな」


《!! ・・私はそんなこと、あいつに頼んでなどいない!》


「・・・・・お前は、何もキラのことを知らないだろう? 己のことしか考えていないお前が。
・・・あいつは、誰よりも自己犠牲をしてしまうんだ。
・・・お前の場合、「俺を貸してくれ」ではなく、自分のものと言い張ったようだな?」



アスランのこの言葉は図星だったらしく、言葉に詰まったカガリは悔しそうに強く唇を噛んだ。




《そうだろう!? 私が好きだから、あんなことを言ったんだろう!?》


「・・・あのこと? ・・・・・あぁ、あれか? キラが悲しむからに決まっているだろう?
仮にもお前はキラと血の繋がった存在。 そんなお前をあいつがほっとくと思うのか?
・・・まぁ、キラの場合、他人だったとしても助けただろうが」



アスランは2年前の行動を思い出したらしく、淡々と話していった。
その間、アスランの隣にいるニコルはカガリの勝手な言い草に怒りを覚えながらも自分の作業に集中していた。




(あのアスランがたった3年でキラさんのことを諦めるとでも?
昔から、キラさん一筋だったんですよ?
彼の行動力は全てキラさんに繋がっているんですから・・・)




ニコルの怒りを隣にいたアスランには感じられたのか、
モニターには見えないようにしながらニコルに振り向き、苦笑いを浮かべた。


そんなアスランの様子にニコルは微笑みで返し、最後の仕上げとばかりにエンターを押した。



「アスラン。 こっちの準備は整いましたよ? いつでも始められます」

「そうか。 ・・・・カガリ、オーブはお前の育て方を間違えたようだな?
自国を破滅へと導く指導者を育てたのだから・・・」



ニコルはニッコリと微笑みながらアスランに作業が終わったことを伝えた。
表情はにこやかだが彼をよく知る者たちから見れば彼がどれだけ怒っているかということが分かる。


しかし、モニター越しであり彼をまったく知らないカガリは、そんなことには気付かなかった。











2006/07/19

再up
2007/05/18













運命本編でもアスランは確か、
複隊すると言ってないと思うのですが・・・・どうでしょう?
こちらでは、一定ないという設定で行きます!
・・それでも再び紅服を身に纏ったのは、キラを守るためですv
ここでのアスランは狸議長ことデュランダルを
本編のように盲目的に信じておりませんv
彼が信じているのは、絶対無二の存在であるキラだけです。
他の幼馴染は信用していますv
私は、“信じる”と“信用”は同意義ではないと考えておりますのでv