「まぁ、そういう事だ。 大体、俺は貴様などに俺の名を呼ぶことを許した覚えはない。
気安く名を呼ばないでもらおうか? ・・・俺の名を呼んでいいのはキラだけだ。
・・・例外はラクスや母上、カリダ小母上だけだが」



・・・俺は昔からキラ以外に触れることができない。
まぁ、触れようとも思わないから別にどうでもいいんだがな。
・・キラ以外、女とも思えないし・・・。
昔から、俺にとってキラや母上・・・後はニコルたちか。
彼ら以外は、信用ができない。
俺の上辺だけで判断するような奴らは・・・・・こちらからお断りだ。





・・・俺の名を呼んでいいのは・・・・呼ばれたいのは、キラだけだ。








Adiantum
    ― ザフトの能力低下 ―











「!!」

「普通、ここまでします? こうまでしてラクスになりたかったのですか?
しかしそれは所詮、悪あがきですよ?
大体、あなた如きがラクスになろうなどと考える時点で無謀です。
・・・・バレバレなのに気づかない軍の方や一般市民の方に対しては・・・・
『あなた方は本当にコーディネイターですか』
と尋ねたいくらいですけどね。
・・・ラクスはあのような馬鹿みたいに歌ったりしません。
ラクスは『アイドル』ではなく『歌姫』。 彼女の歌は癒しです」



目の前の偽者は整形手術を施した人形である。
体格は瓜二つでも顔までは似てはいないのだ。
それ故に、議長はミーアに整形をさせたのだ。



「っ!! それらの資料とデータは何重にもロックがかかっていたはずだ!
それを破ったとでも言うのか!?」
「・・・・あの程度のセキュリティーですか?
・・・・あのようなセキュリティー、今時簡単に突破できますよ?
僕らの屋敷や2年前の『ブリッツ』たちのロックのほうがまだ高度なものでしたが・・・・?」



驚愕の顔をした議長ににっこりと微笑みながら、
ニコルはザフト・・・議長の個人PCのセキュリティーを思い出していた。



「お前やアスラン、キラにとって今のプラントの誇るセキュリティーは何の役にも立たないだろう?
・・・2年前は今よりもマシなセキュリティーだったが・・・・。
議長、『スペース・コロニー』に『ナチュラル』が簡単にMSを奪取したそうですね?
我ら『コーディネイター』のロックも落ちたものだ」



イザークはニコルの言い方に肩を竦ませながら、
2年前から質の落ちたセキュリティーのことを議長に尋ねた。



「・・・あぁ、ザフト自体も落ちましたね。
俺が居合わせた時、アレでよく‘紅’を纏れたものだと感心してしまいました。
・・・新人の‘紅’の中で俺が‘紅’と認められるのはレイくらいなものですよ?
パイロットと言うよりもそれを育成する教官も質が落ちましたね。
・・・まぁ、それは先の大戦時のことも影響を与えたとも思いますが・・・。
当時の‘紅’を纏った俺たちがその場にいれば今期は‘紅’を纏えるのは1人もいなかったでしょうね」

「何!? そんなに悪いのか? ・・・データのほうは先ほど見たが・・・・」

「あぁ。 その場にお前がいたら絶対癇癪を起こしていたと断言できるくらいにな。
俺たちのときはお前がいろいろと勝負を持ちかけたからでもあるが・・・ザフト自体、総合の成績はよかった。
もちろん、‘紅’を纏える5人の成績も。
だが・・・・今期の‘紅’たちは射撃が苦手だの情報処理は遅いだの・・・散々だぞ?
あぁ、戦闘配備といわれても緊張感のなさや時間通りに集まらないことも度々あったな。
・・・命令違反もその他多数あったし。
・・・・一番ひどいのは艦の上空で待機と命じられたのに対して勝手に敵へと突っ込んだ馬鹿もいた。
それのせいで艦や味方の機体も結構な損害を被ったな。
・・・当時、俺も命令違反を何度か起こしたが・・・ここまで酷いものではなかったよな?
・・・しかも、質の悪いことにそれらをしでかしたのは今期のエース・パイロットだぞ?
自分をヒーローと勘違いしている部分もあった。 自分が民間人を守っていると。
・・・・守る代わりに何かを犠牲にしているということを忘れている」



アスランはこれまで自分が見てきたものをイザーク達に話した。


彼自身、ザフトは自分も2年前に所属していた軍である。
当時はそれを誇りに思い、戦争がなくなれば軍もいらないと考えていた。
しかし、現状を見るとやはり自分達が‘紅’を纏いAAを追っていた頃とどうしても比較してしまうのだ。



「・・・・何の信念もないということか?
命令違反は軍人にとっては何としてでもしてはならないことだ。
・・・まぁ、お前も何度か起こしたが・・・それは今となっては理由がわかったが・・・。
そいつの戦う理由は何なんだ?」


「・・・俺が聞いたには『力がほしい』らしい。
何でも2年前に起こった大戦時、オーブが地球軍と剣を交えただろう?
その時に家族を失い、理念を貫き徹さなかったオーブと偶然に上空を飛んでいた【フリーダム】を怨み、
家族の仇をとるためと1人で生き抜くためだといっていたな。
・・・まぁ、軍に入る動機としてはわかる部分もあるが・・・・それは理由にならない。
オーブは連合・ザフトの両軍に属さなかった。
それはオーブの理念である『中立』という立場を貫き徹したことだ。
【フリーダム】にしても疑問に感じた。 偶然、そこにいたのが【フリーダム】。
・・・マリューさんに頼んで当時の監視カメラを持ち込んでもらった。
・・・さっき、その問題シーンを見た。 俺の予想通りだ。
あいつの言う『家族を殺した大きい緑のビーム』は【フリーダム】から発射されたものではない。
連合の機体である【カラミティ】。 ・・・【フリーダム】には大きな緑の砲弾はないからな。
あの機体と一緒に戦場を駆けていた俺が言うんだ」



2年前、【フリーダム】に乗って戦場を駆けていたのは彼の最愛の女性であるキラだ。
彼にとって唯一の存在とも言えるキラを逆恨みで憎んでいたエース・パイロット・・・シン=アスカに対して
彼が一番憤りを感じているのだろう。



「・・・・確かに。 キラが民間人を見つけられないという失態は起こさないだろうな。
・・・おい、ちょっと待て?
当時オーブは民間人に非難勧告も出さないまま本土で戦闘を開始したということか?」

「いや?
これもマリューさんに聞いた話だが・・・民間人の避難勧告は戦闘が開始される半日前から発令されていたそうだ。
だから、民間人の大半は既に規定のシェルターに避難しているはずだ」

「だったらなぜだ? なぜそいつの家族は早々に避難しなかった? 全土に渡っての放送なのだろう?」

「そこまでは、知らない」



イザークの言葉にアスランは不機嫌そうに答え、キラ達のいる方向に視線を送った。



「・・・アスラン、あなたはキラ達のお部屋へ行っていてください。
ここは、私たちだけで十分ですわ? ・・・あなた、今でも十分抑えているほうでしょう?
・・・それがいつ、切れるとは予測できませんもの」



アスランの視線に気付いたラクスはアスランにそう伝えながら表情には苦笑いを浮かべていた。
彼女はアスランの性格をよく知っており、
ディアッカが別室へ移した彼の最愛の人の容態が気になっていることに気付いた。



「・・・そう、ですね。 ・・・では、この場はお任せいたします。・・・ほどほどに」



アスランはため息をつきながら最後の言葉を呟き、ラクスたちに視線を送った。


その視線を受け取ったラクスたちは、了承とばかりにニッコリと微笑み、頷いた。



「・・・彼がいないからって、安心しないでくださいね?
僕らはあなた方を許した覚えはありませんから」



ニコルは無視された形だった議長達の思考が読めたかのように彼らを一睨みすると、
冷笑のごとく口元に笑みを浮かべた。



「そうですわ?
私をアスランの婚約者だなんて思っておられた議長も、
私の替え玉として皆さんを戦いに行くように仕向けた偽者さんも私は許してはおりませんのよ?」

「・・もちろん、俺もな? ラクスは俺の最愛の人だ。ア
スランはどうでもいいが、それだとキラが悲しむ。 ・・・キラは俺にとっては妹のような存在だ」



ニコル、ラクス、イザークは明らかにほっとした顔をする目の前の2人を侮蔑をこめて見つめた。






その頃、別室に移っていたキラたちの元に彼女の最愛の人物がやってきた。



「・・・ディアッカ。 すまなかったな」

「アスラン? 案外早かったな」



アスランはドア付近にいたディアッカに幼馴染にしか見せたことの無い安心した微笑を見せた。
そんなアスランに意外そうな顔をしたディアッカは部屋に備えられている柱時計を見た。



「・・俺が一足先に戻ってきたんだ。 会場にはラクスたちがいるからな。
あれ以上、あの場所にいても俺が不機嫌になるだけだ」



ディアッカの問いかけに不機嫌そうに答えたアスランは、最愛の人が眠るベッドへと近づいていった。



「姫は大丈夫だぞ。・・今までの疲れが一気にでてそれが睡眠ということになっただけだからな。
・・・姫、昔からつらいことがあると睡眠と食欲が低下する傾向があっただろう?
・・それがひどくなっただけだ」



ディアッカは苦笑いしながら、心配そうに眠るキラを見つめていたアスランの考えを先回りして答えた。



「・・・そうか。 まぁ、その原因は分かりきっていることだけどな。
・・・彼らが来るまでにキラのことを発表したから・・・今度はあの女が強引にも通信を開いてくるぞ。
・・・キラはこのまま眠っていたほうが幸せなのかもしれない」



アスランは視線をキラに落としたまま、ドア付近にいるであろう幼馴染に話しかけた。
彼の言う“あの女”とはキラの事を妹といいながらも、
アスランのことでキラを暗殺しようともくろんだ【オーブ】の獅子の娘、カガリ=ユラ=アスハのことである。



「・・・多分、キラが目覚めるのは屋敷に帰ってからだと思うぞ?」

「なぜだ?」

「姫に飲ませた薬、精神安定剤と睡眠薬を調合させたやつなんだ。 もちろん、親父が調合したものだぞ」



アスランを取り巻く雰囲気が黒くなりかけた時、
思い出したかのようにディアッカはアスランに先ほどまでいた己の父のことをアスランに話した。



「・・・そうか。 小父上が調合したものならば安心だな」



ディアッカの父であるダット・エルスマンは医師の免許をもっているため、アスランはその言葉を信じた。




アスランたちがまだ幼い頃、命を狙われていた時期があり、その時に薬を用いての暗殺も多々あった。
それ以来、彼らが風邪などを引いた時に服用する薬は全てダッドが調合したものである。



暫くキラの様子を見ていたアスランだったが、扉付近で人の気配を感じ、
ディアッカに扉を開けるように視線を送った。



「・・・誰かが来ているみたいだな」

「・・あぁ。 気配を隠していないところから、ここの支配人だろう。
・・・大方、あの女から強制的に連絡が入ったんだろう。
その後、連絡を入れるように頼んでおいたからな。
・・・すまないが、会場からニコルを呼んできてくれないか?
・・・会場のほうは・・ラクスとイザークだけで十分だからな」



ディアッカはアスランの言葉に心底会場へ残っていなかったことに対して感謝していた。
ラクスたちの幼馴染である彼はラクスたちを怒らせるとどんなに怖いかということをその身をもって知っているため、
議長たちが事項自得だとはいえ、同情していた。



「・・・ディアッカ、同情をする必要はないぞ? 俺はあの狸に忠告をしていたからな?」



アスランはディアッカの考えが分かったらしく、鋭い視線でディアッカに振り向いた。



「・・・分かっているさ。 ん? 忠告?」



睨んできたアスランに降参とばかりに両腕を挙げたディアッカは、
先ほどのアスランの言葉に疑問を抱き、問いかけた。



「あぁ。 俺はただ、現状が気になって【プラント】へ戻った。
・・だが、どうゆうわけなのかあの狸に勝手に複隊させられる、偽者ラクスと婚約者をさせられる、
その偽者には勝手に本物の婚約者と勘違いされるでいい加減イラついてきたところだった。
・・・その時さ。 ニコルから連絡が来たのは。 ・・・内心、嬉しかったよ。
キラが俺の心配をしてくれているって聞いてね。 ・・・俺は一度も複隊するとは言っていない。
勝手に『フェイス』を渡してきたからな。 ・・・だから、忠告をしたんだ。
『・・・このままだと、彼女は黙っていませんよ?』ってね。
・・・俺もアレくらいで済ませるわけはないが。 ・・しかし、よくあの成績で‘紅’を着られたな・・・」



アスランはそのときのことを思い出しているのか、少しイラついた口調でディアッカに話した。



「確かに。
・・・ニコルがイザークにあの記録を見せた時あいつ、お前と勝負をしていた頃よりもひどい切れ方をしていたぞ?
・・・俺たちの中で一番‘紅’に誇りを持っていたのはイザークだったからな。
・・・よほど、許せなかったんだろう。
・・俺たちと同期のやつが士官学校の教官をやっていたからそいつに聞いたさ。
・・・過去最低の記録だそうだ」



本気で嫌がるアスランを気の毒そうに見ていたディアッカは、
記録を見ていたときのイザークの様子を思い出していた。



ディアッカ本人もイザークの言うことに賛同していたが・・・・。



「・・・まぁ、このことは本人たちに毒舌を吐こうとしようか。 そうだな・・レイがいたから、任務後に会えるだろう」

「レイ? ・・・あぁ、あいつか。 知り合いなのか?」

「あいつはラゥ兄さま・・・クルーゼ隊長の養子なんだ。 雰囲気が似ているだろう?」

「あの隊長の養子? ・・・・確かに、雰囲気がなんとなく似ているな。 そいつもミネルバクルーか」



ディアッカはアスランの言葉に納得が言ったとばかりに頷いた。



「あぁ。 あの艦にはもったいない人材だな。
狙撃の命中率もいいから・・・徹底的に鍛え直すとましな成績にはなるんじゃないか?」

「・・・・そうか。 そう言えば、どこからかは忘れたが・・・、新人がうちの隊にくるって聞いたが」



アスランの言葉を全面的に信頼しているディアッカは納得したように頷き、
最近自分の隊の隊長であるイザークがぼやいていたことをアスランに話した。
彼の所属している隊・・・ジュール隊に1名だけだが転属命令がきており、
そのものがどうも新人だったということである。

ジュール隊はその名のとおり、イザークが隊長のためか特殊部隊となっているため、
新人が転属されることがあまりない。
あるとしてもアカデミーでそれなりの成績を収めなければならないからだ。



「・・・それはレイだな。 俺が推薦した。 ・・レイのことは、父上たちも知っている。
・・・簡単だったぞ? あいつを推薦するのも。 ・・・クルーゼ隊長も父上は信頼していたからな」



ディアッカの言葉に当然のように答えたのは自ら推薦したといっているレイのことであった。
彼自身、ミネルバに所属するようにと議長から言われているが、
本人は『フェイス』権限でその命令を拒否し、ジュール隊への所属希望を独自に評議会へ通していた。



「アスランが? ・・・よほどの成績だったんだな。 ・・今からニコルを呼んでくるぞ。
場所は・・・ここでいいな?」

「あぁ。・・・先に相手をしていてもいいが・・・面倒だからな。
・・ニコルが来るまでの間、俺はここにいるさ。
・・・寝ているとはいえ、外からの感覚でキラが安心するって昔言っていたからな」



ディアッカの言葉にキラを見たまま振り向かずに答えたアスランは、
そのままキラに触れていた手を離し、起こさないように慎重に額にかかっている髪を梳いていた。











2006/06/01

再up
2007/05/02













アニメの放送が終わっても・・・
狸さんが偽者さんに整形させてまでラクスを演じさせたことに憤りを感じております;
まぁ、両方嫌いなので、その辺りも突っ込みまくりますがねw
次回は・・・予想が当たれば、久々に某姫の登場です。