「・・・ラクス、落ち着け。 貴様らそれ以上余計なことは慎め。 質問は後ほど受ける。 ・・・一つ宣言しておく。 このの会見以外においての俺たちへの質問は全て無効とする。 貴様らの仕事だろうが俺たちを追い回すのはやめていただこうか。 非常に不愉快だからな」



この者たちに追い回されるのは御免被る。
この場でも既に不機嫌になっている者が1人いるからな。
俺たち自身、奴らに慣れていないキラが質問攻めになっていることに寛大な気持ちにならないからな。

キラは俺にとって、可愛い妹のような存在だ。
ラクスとキラの笑みが曇る前に、釘を指しておかないと・・・な?








Adiantum
    ― 招かれざる者 ―











それから30分くらいが過ぎ、ようやく質問できる時間となった。



「アスラン様はオーブの姫・・・現在は首長となられているカガリ=ユラ=アスハ殿と
恋人の噂が流れていましたが、その真意は!?」

「・・・馬鹿にしているんですか?
・・・私が愛することの出来る女性はここにいるキラだけですので。 そのほかの女性には興味もありません」



1人の記者から出てきた質問にアスランは形の良い眉を顰めながら淡々と答えた。
その時、彼の周りの空気が冷えたのは気のせいではないだろう。



「・・・まぁ。 お馬鹿な質問がやはり出ましたか。
・・・アスランは少々女性嫌いなところがありますの。 唯一自ら触れるのがキラですのよ」



ラクスがあきれたように記者の愚かさを哀れんだ。



「ラクス様、ラクス様がお持ちになられているペットロボが少し違うように思うのですが・・・?」



ラクスの近くにいた記者の1人が、ラクスの持っているピンクハロを見て、驚いた。



「あらあら? 今頃気づいたのですか?」

「・・・キラ、俺から離れないでね」

「? うん」



ラクスはやっと気づいたのかと驚き、アスランは持ち前の気配の察知能力をいかし、隣にいたキラを庇った。



「勝手なまねをしないで頂きたいね、アスラン=ザラ君?
君の婚約者はそこにいる小娘ではなく、この『ラクス=クライン』だろう?」

「そうですわよ、アスラン。 あなたは私の婚約者ではありませんの」



突如扉が開き、評議会の議員のみが着ることの許される正装な格好をした男と
頭に星の形をしたものをつけた少女が会場へ乱入してきた。



「何を言ってらっしゃるのか分かりませんね。 私とラクスとの婚約は戦時中に白紙になりました。
そのことは父もクライン氏も承諾済みです。
ただ・・・世間に知られていないのは当時、そのことによって【プラント】全体の土気に関わりますからね。
発表を見合わせていたんですよ。
・・・あなたは私を・・・俺を手の内に引き込んだように思われているみたいですが
・・・・とんだ勘違いをなさっていますね。 あと、何を隠れているんだい? ・・・レイ、出ておいで?」



アスランは議長の出現に予想通りの行動に対して嘲るような笑みを浮かべ、
彼の目の前にある扉に向かって声を放った。



「やっぱり、アスラン兄様にはばれてしまうんですね。 お久しぶりですね。 アスラン兄様、キラ姉様」

「レイ!? 久しぶりだね!! ラゥ兄様と一緒なの?」



扉から出てきたのは2年前までアスラン達が身に纏っていた‘紅’の軍服を身に纏い、金髪で長髪の少年だった。
少年・・・レイ=ザ=バレルである。


レイとアスラン・キラは面識がある。
もちろん、アスランたちを通してラクスたちも面識があった。
レイはキラたちが兄と呼ぶ存在・・・‘ラゥ=ル=クルーゼ’と同じ存在で、彼に育てられた人物でもある。



「はい。 今日はアスラン兄様たちの大事な式典ですから、二人で来ました。
一応、正式な場なので軍服を着ましたが・・・・。 よろしかったでしょうか?」

「問題ない。 やはり、レイは‘紅’が良く似合うな」

「こちらから、連絡を差し上げようかと思っておりましたのよ?
ラゥお兄様もいらっしゃるのなら、手間が省けましたわ」



レイの言葉にキラだけではなく、イザークトラクスも加わった。
その間、先に現れた議長達の存在は完全に無視しをして・・・。



「・・・我々がいるというのに、無視かい? とにかく、君はもう少し己の価値を知るべきだ。 ・・・こんな小娘のためにここにいるラクスをも無視するとは・・・・」
「・・・・・・・」



議長の発言で、それまで全て無視してきたアスランの怒りが、MAXに近づいていた。




(・・・なんか、空気冷えてないか? ・・・俺、この空気知っている・・・。 アスランのやつ、絶対零度だ・・・)

(・・・どうせ、どこかのお馬鹿さんがアスランの前でキラさんの暴言でも言ったのでしょう?
・・・なんとなく、どなたかわかりますがね)




アスランの不機嫌なオーラは扉前にいたディアッカとニコルの位置まで届いていた・・・・。


彼らはアスランの表情が見えなくとも、さすが幼馴染だけあって、アスランの心情は正確に把握していた。



「お言葉ですが、議長? 自分のパートナーくらい、自分で決めます。
あなたに決められる筋合いはありませんよ? まして、あなたは私の肉親ではありませんよね?
そのあなたが私の婚約に口出しは無用かと思いますが?」



アスランはニッコリと微笑みながら議長の言葉に反論した。

アスランが本当に笑っていないということに気づいているのは隣にいるキラを除くとラクス、
イザーク、ディアッカ、ニコル。


そして・・・彼らの親たちであろう。




(・・・やっぱり、あいつザラ化しているな・・・? ・・・おい、そろそろあの2人には退場してもらおうか?)
(・・・ここで止めたら、こちらまで被害が拡大しますよ? いいんですか?)




ニコルは引き気味の幼馴染を止めようとわずかに黒いオーラを出した。
それに気付いたディアッカは降参とばかりに両手を上に上げた。



「まぁ、アスラン! 私との約束はどうなるのです?」

「・・・私はあなたと何にも約束はしていませんよ?
・・・ちょうどいいです。 ここにラクスもいることですし・・・ね?」



アスランはキラが驚かない程度に黒いオーラを抑えながら議長たちに視線を浴びせた。



「何を言う気だね?」

「・・・ディアッカ!!
悪いが、キラを一度別室へ連れて行ってくれ(じゃないと、俺は抑えられない。 ・・・これ以上は無理だ)」

「・・・了解した(あまり、無理するなよ?)」



ディアッカは頷くと、アスランの腕の中にいたキラを優しく頭を撫でて別室へと案内した。
その間、ラクスの偽者・・・ミーア=キャンベルは仇を見るみたいに睨んでいた。

その視線にイザークは冷ややかな視線を送り、
ラクスとアスランはこれ以上我慢しなくても良いのを承知なため、今まで以上の黒いオーラを放った。



「・・・皆さんにご報告がありますわ。 ここにいるラクスが2人いるとお思いの方がおられるようですが・・・・こちらの方は偽者ですのv まぁ、歌い方で疑問に思っていただきたいものでしたが」



椅子に座るラクスは、ニッコリと微笑みながら目の前の記者たちを見た。



「・・・あんな歌い方でラクスと勘違いする民衆も民衆だ。 ・・・ラクスはあのような歌い方をしないぞ?」



イザークは最愛の少女を侮辱されていたので今まで怒りを抑えていた。
元々、彼は激情家である。そんな彼でも妹のように可愛がっているキラをも一緒に侮辱されたために、
今まで我慢してきたもの全てが爆発した。



「・・・僕が口出ししてもいいのかは疑問ですが・・・。
僕も幼馴染を侮辱されて大人しくしている性質ではありませんし・・・・。
それに、貴方方は招待状も送っては降りませんよ? ・・・議長殿?」



彼らの背後から・・・正確には真後ろの扉から少し低めのアルトが聞こえた。
驚いた記者たちは一斉に発言者を見つめ、共通の疑問を感じた。



「・・・ニコル、そんなところにいないでこっちに来たらどうなんだ?
せっかくの記者会見だったが、部外者に邪魔されたから一時中断だ。
・・・一応、警備は少人数でいいだろう?」

「そうですわv キラのことでしたら安心ですもの。
・・・此方の用事が終わるまで、必ずディアッカがキラを守ってくださいますわv
・・・ですから、この隙を見て勝手にキラのいる別室へ向かわれないことですわね?
・・・そこのお2人さん?」



イザークはニコルに呆れ口調を発しながら暗に周りの警護をしていたSP達に声をかけ、それぞれに休憩をだした。


ラクスもいつも通りに微笑みながら視線が後ろにいるニコルに目もくれず、
ディアッカとキラの去った方向へ向かおうとしていた怪しげな2人組みに声をかけた。



「・・・ディアッカはあれでもザフトのアカデミーでトップ5内に入れる実力の持ち主だ。
ここにいる議長殿に頼まれた軍の者だろうが・・・お前ら如きがあいつに敵うわけないだろう?
仮にもザフトの‘紅’を身に纏っていたのだから。 ・・・レイ、お前もキラの傍にいてくれるか?」



アスランは中途半端に立っている2人組みを冷徹な瞳で見つめながら、近くにいたレイに声をかけた。



「分かりました。 ・・・もう少しでラゥもこちらへ来ると思うので・・・」



アスランの言葉にレイは即座に頷き、彼が何を自分に求めたかを悟った。
しかし、未だに現れない自分の保護者であり、
彼らが兄と慕う者が到着していないことが心配事として残っていた。



「あぁ、分かってる。 兄さまには俺からちゃんと言っておくから」



アスランはレイの心配事を察知し、
それを取り除くように彼に見せるようになった控えめな微笑をしながらレイの頭を撫でた。
レイはそんなアスランに小さく微笑み、
イザークたちに一礼をしながら会場をあとにしてキラたちのいる控え室へと向かった。



「・・・これで、思いっきり出来ますわv ・・・まずは、議長にお伺いをいたしましょうか?」



ラクスはニッコリと微笑むと、ミーアから視線を隣にいるデュランダルに移した。



「・・・なにをだね?」



デュランダルは内心少し冷や汗をかきながらラクスに尋ねた。



「私が言いたいのは一つだけですわv ・・・私を亡き者にしたようですが・・・遅かったですわね?
貴方はお忘れのようですわ? この、ザフトの中にまだ私と関係の深い『クライン派』がおりますのよ?
・・・彼らからの情報により、先手を打ってこちらへ参りましたのv
私を亡き者にして、そちらにおられる私の偽者としては駄作としか言えない偽者さんを本物と思わせ、
アスランと結婚させようなどとお考えのようですが・・・。
あいにく、アスランはキラのことでしか行動を起こしませんの。
・・・それと・・・私の幼馴染に対しての暴言、許せませんわ?」



ラクスの顔は今まで通りニッコリと微笑んではいるが、その言葉は容赦がない。

彼女はマスコミがいる前での発言を控えようとはしてはいない。
先ほどのキラの暴言に最後の線が切れたのはアスランだけではないのだ。



「何のことでしょうかな?」

「・・・とぼけたって無駄ですよ、議長閣下?
この場に、その証言者と必要なデータ・・・証拠品があるのですから。
ラクスを亡き者にしようとした件、後ほどゆっくりと聞かせていただきますね?」



イザークは癇癪を出すわけもなく、ラクスから放たれているオーラに驚くことなく議長と向き合っていた。




(おや? 珍しいですね・・・? イザークが僕たちのオーラに驚かないのは)

(それほど切れているんじゃないのか? やつはラクスを暗殺しようと企んだのだからな)




ニコルは相変わらずニコニコと微笑み、小声で隣にいたアスランに話しかけた。

アスランは何処か冷めたように目の前のやり取りを傍観しており、
その表情は先ほどまでキラに見せていたものとは180度違うものであった。


アスランは基本的にキラにしか微笑まない。

いや、キラ以外を女性と認めてはいないのだろう。
もちろん、その例外は幼馴染のラクス、今は亡き母であるレノア、キラの母であるカリダは別であるが。



「・・・何を知らないフリをしているのです? 貴女も関係していますわよね?
私の替え玉である・・ミーア=キャンベルさん?」



ラクスが微笑んだ先にいたのは、今にも逃げ出しそうな星の形をした留め具をした偽者であった。



「なにがですの?」

「あら? 白を切られますか? それと、その口調をやめていただけますでしょうか・・・。
本来、貴女はそのような丁寧語を話されないのでしょう? バレバレですわw」



ラクスは偽者を見ながら笑みを深くした。
マスコミの記者達は原因不明の寒気を覚えたが、
彼女の幼馴染であり幼い頃から一緒に育ったイザークたちには慣れた空気であった。



「・・・白を切られているのは、貴女ではないんですの?」



偽者・・・ミーアはそれでも往生際の悪くラクスに刃向かった。




(・・・あの女も馬鹿なことをする。 この空気を読めないのか?
あと少しでラクスを中心にブリザードが吹き荒れるぞ)

(・・・氷点下のラインでしょうか? ラクスは微笑みながら冷気を発しますからね・・・・。
その区別がつきにくいんですよ)

(・・・ソレ以前に、この空気を読めない時点でラクスじゃないな)




上からイザーク、ニコル、アスランの順番である。

彼らはラクスと対峙する愚か者をただ何もするわけでもなく、見ていた。
ここで横から入るとラクスの怒りの矛先が回ってくるものあるが、
彼らにそれほどまでして庇う理由がないからでもある。

特に、イザークは最愛の者が暗殺されかけたこともあり、
この中で一番目の前の愚か者に対して憎しみを持っていたりする。











2006/04/15

再up
2007/04/30













偽者さんと狸さん登場。(笑)
レイは、アスランたち側です。
もちろん、某仮面さん’sもv
レイはアスラン・キラと以前から某仮面さんを通して交流があり、
彼らを兄・姉として慕っています。
本編みたいに狸さんを崇拝していません。
偽者さんは、ただのバカです。