「大丈夫ですよ、キラさん。 僕たちが絶対に守りますから。
キラさんは僕たちの大切な幼馴染ですよ? 苦しい時があったら、僕たちに相談してくださいね?」



幼い時、僕たちはある事を決意しました。僕らの中で一番人の心に敏感で、
自分を犠牲にしてまで他人を守ってしまう優しい心の持ち主を僕らは知っています。

そんな彼女を僕たちは幼いながらも守りたいと思いました。
心の優しい彼女が傷つく姿を見たくはないから・・・。




それ故に、彼女を傷つけた愚か者を僕たちは許すことはできないでしょう・・・・・・・・。








Adiantum
    ― 2人の姫 ―











それからしばらくすると、艦内放送が流れた。


最新鋭宇宙専用戦闘艦・『セシリア』がプラントの港に無事着陸したのである。



プラントの最高評議会の一部―クライン派、イザークら込み―
がAAの入国を許可したのは交換条件つきであった。

彼らはイザークが認めるように、『ナチュラル』でも『コーディネイター』並みの能力を持っている。
それ以前に、
先の大戦時に『ナチュラル』でありながらプラントを核攻撃から守っていた御礼もかねてのことであった。




このことも兼ねて、彼らに対しての交換条件とは、軍事的な技術面での協力であった。

彼らはあくまでプラントを守ることであって、地球を支配しようという考えを持ってはいない。
しかし、彼らの上にいるデュランダルは違う考えだが、彼らはそれに従う気はなかった。




彼らが唯一願うのは平和な世界であって、戦争や地球の支配ではない。



「・・・港に母上たちが迎えに出向いていると連絡が入った。
・・・母上はラクスとキラが好きだからな」

「まぁ、エザリア様がお出迎えを? きっと、パトリック様もご一緒なのでしょうね」

「でしょうね・・・。 あの方もアスランと同じようにキラさんを溺愛していましたから・・・」



艦と港の橋かけを行っている最中に艦へ連絡が入り、イザークが通信を取っていた。




その内容とは、彼の母であるエザリアがラクスとキラを迎えに来たということであった。
彼女たちは2年前の戦争が終結した時に息子たちへその地位を譲り、
彼女たちは政治の表舞台から姿を消したのである。



「・・・ラクス、メディアのほうには連絡しておいたぜ。 ・・・港のほうに集まってくる」



ディアッカはラクスが頼んでいた通り、メディアに連絡を入れ、港に来るよう要請をした。



これは婚約発表の予兆に過ぎない。
一度、メディアにキラの姿をアスランと共に見せ、彼らの関係に興味を持たせることが必要なのである。
あとは、ニコルが作成した資料を配ることとなる。
これには、キラが危険になるようなことは一切書かれてはおらず、
書かれているとしてもそれは全て市民たちが同情するものであった。



「・・・準備は整いましたわね。 アスランたちを呼んで、艦から出ましょうか」



ラクスはイザークたちにニッコリと微笑むとアスランが持っていった端末の片割れを取り出した。



「・・・アスラン? 本国に着きましたから、一度キラを起こして格納庫へお急ぎくださいな。
・・・・あと、メディアがおりますがアスランはキラを本宅へお連れしてください。
発表のことはこちらから連絡を入れますから」

《分かった。・・・今、キラも起きたからあと5分くらいで合流する。・・・先に行っていてくれ》




アスランはラクスからの通信に答えながらキラの様子を見ていた。
覚醒しかかったキラを見るなり、ラクスにこちらの状況を知らせて一方的に通信を切った。



「・・・だそうですわ。 きっと私たちが格納庫に着く頃にはアスラン達たち来ているでしょう。
・・・行きましょうか」



アスランから一方的に通信を切られたのにも拘らずいつも通りの反応を返した。

アスランは基本的にキラを中心に彼の世界が回っているため、
キラに意識がある時はキラ以外には無関心になる傾向があった。






ラクスたちがブリッジから格納庫へ向かっている頃、
アスランに与えられた部屋にキラがついさっき覚醒したようにアスランをただボーっと見つめてた。

キラは幼い頃から低血圧なため、覚醒しても脳が本格的に稼動するのに時間がかかっていた。



「キ〜ラ? 大丈夫かい?」

「・・・アス? ・・・・『プラント』、着いたの?」



どこか遠くを見つめるキラに対してアスランは、月時代を思い出していた。
そんなアスランに、キラは小さく首を傾げながら尋ねた。



「うん、着いたよ? キラ、これから行くところは俺の家だから心配しなくてもいいよ?
・・・ゲートには父上やエザリアさんがいるだろうね・・・」



アスランはどこか困ったかのように苦笑いを浮かべながら、いつもは渋い顔をした父を思い出していた。



「小父様たちが? ・・・・ゲートの方は大変な騒ぎになってなきゃいいけど・・・」



キラもまた、これからあるであろう騒ぎを簡単に創造できる辺りで苦笑いを浮かべた。







その頃、ゲートのある施設ではちょっとした騒動になっていた。



それもそのはず、
彼らの目の前には2年前まで最高評議会の国防長を務めていたパトリック=ザラと
議員を務めていたエザリア=ジュールが仁王立ちしていた。



「・・・パトリック、あの子たちが乗っている艦はまだ着かないのですか?」

「・・・もう少しだ。 先ほど、管制室から肉眼でも見れる範囲に到達したと連絡が入った」

「・・・そう・・・。 ・・・パトリック、今度こそキラちゃんを守るのよ!?
・・・カリダたちの忘れ形見なのですから・・・。
イザークたちの話だと、一応オーブに血の繋がる姉がいるとの報告でしたが、
彼女はキラちゃんを暗殺させようと企んでいたみたいなのです。
・・・ラクスちゃんのおかげで本国に着くことができたのでよかったと思うのですが・・・・」



エザリアは複雑そうな顔をしながら、美しい顔を悲痛に歪められた。
エザリアはキラの母であるカリダとは大変仲がよく、
『ナチュラル』嫌いで有名だった彼女が唯一友人と認めた『ナチュラル』でもあった。

彼女の娘であるキラに対しても今までにない純粋さがキラにはあり、
キラをラクスと一緒に着せ替え人形にしていた。



エザリアはラクスが未来の嫁とは知っていた。
彼の愛息子であるイザークが愛した女性はラクスしかいないからである。
彼にとってのキラとはあくまで可愛い妹的存在であった。



「・・・わかっておる。 キラちゃんは馬鹿息子の婚約者だからな。
・・・私自身、キラちゃんは気に入っておる。
キラちゃんなら、レノアもアスランの婚約者としても何も言うまい?
・・・一時期とはいえ、ラクスちゃんを婚約者とした時はアスランだけではなく
ラクスちゃんとイザークくんから恨み言を言われたわ」



パトリックは2年前に独断で―といってももう1人の共犯者はラクスの父であるシーゲル―
アスランとラクスを婚約者にした。
あとから本人によって種あかしをされたが、当時はパトリックに会うたびにラクスは笑顔で脅していた。



「・・・・何も言わずに勝手なことをするからですよ、父上」

「そうですわ? ・・・私は数年前からイザークとお付き合いをしておりましたのに・・・・」

「・・・それ以前に、アスランはキラしか愛さないだろう。
昔から、キラにだけ感情を出すのだから・・・」



パトリックの後ろから3人の声が聞こえてきた。
上から順にアスラン、ラクス、イザークの順番である。
エザリアたちは驚き、後ろを振り向いた。



「イザーク!?」

「・・・ただいま戻りました、母上」



母の驚いた顔に苦笑いを浮かべながらイザークは母に帰還の挨拶をした。



「・・・キ〜ラ? 大丈夫だよ? ・・・5年ぶりかな? 父上たちに直接会うのは」



アスランは自分の後ろに恥ずかしそうに隠れているキラに、
彼女限定の微笑を見せながらキラの右手を優しく包み込んだ。



エザリアは本当に心配したようにキラに視線を合わせながら話した。



「キラちゃんの住まいは我が屋敷ということになっている。 アスラン、案内は頼むぞ?」
「・・・わかっております、父上。 では、会場のほうに先に行っております」



パトリックの言葉に頷いたアスランはキラに安心するように微笑みながら、
手を引いてエレカが止めてあるゲートへ向かった。



「・・・ラクスちゃんも大変だったな。
・・・しかし、まさかあのオーブが大西洋連邦と同盟を結ぶとはな。
・・・オーブの獅子と有名だったウズミ=ナラ=アスハの娘である者が
キラちゃんの実の姉ということにも驚いたが・・・・。
その姉が妹の命を狙うとは・・・」



パトリックは戦後、アスランからの連絡でカガリがキラの姉だということを知った。
カガリの存在はオーブの獅子というもうひとつの顔を持つウズミを通して顔は知っていた。



「・・・私は大丈夫ですわ、小父様。 ・・・私が望むのはキラの幸せですの。
ですから・・・・キラの幸せを脅かすカガリを許しませんわ?
・・・大西洋連邦と手を組んだオーブにはもう、コーディネイターの安全はありません。
ですから・・・AAを使ってオーブに住む同胞達を保護してきましたの。
・・・もちろん、本国は受け入れてくれますわよね?」



ラクスはパトリックとエザリアにニッコリと微笑んだ。
ラクスが言いたいことは2人にも分かっていることでもあった。



「了解しています。 そのことは評議会も保護という方向ですでに決定済みです」
「まぁ、そうでしたの? 分かりましたわ。 ・・・では、私たちも会場へ向かいましょうか」



エザリアの言葉に嬉しそうに答えたラクスは後ろのほうで傍観者に徹していた自分の婚約者に声をかけた。



「話は終わったのか、ラクス。 ・・・では、母上? 我々も会場へ向かいましょう」



イザークはそんな婚約者に対して、苦笑いを浮かべながらラクスの右手を優雅にエスコートして行った。





先に会場へ向かっていたアスラン達は、直接ゲストルームへ向かった。
会見する場所にはすでにディアッカが裏工作していたため、
大勢のメディア関係の人たちでいっぱいになっていた。



「・・・キラ、キラは何も心配しなくても良いよ? 俺の傍にいてね。
・・・何か聞かれても答えたくなければ何も言わなくても良いから。
質問とかには、俺達が適当に答えるし・・・ね?」

「・・・うん・・・・。 アスラン、このドレス、どこか変なところって無い?」

「大丈夫だよ。 やっぱり、キラはドレスがよく似合うね」



アスランの言葉にキラは顔を赤くした。
キラは今回が初めて大勢の中に姿を現す。


今まで一般人として育ったキラは、記者会見などは見る側であった。
しかし、今回はそれを字受ける側である。
そのことについて、緊張しているのを幼馴染であり今日から婚約者でもあるアスランには気付かれていた。




キラが今着ているのは、
会場へと来る前に立ち寄った店でアスランがキラのために購入した淡いエメラルドのドレスである。
キラの体型に合わせて作られた特注品であった。


キラは一度もプラントへは来たことは無いのだが、
アスランは密かにキラの3サイズを事前に調べ、ドレスを頼んでいたのだ。

このドレスは、キラの好みを最優先に考えたものでもある。
キラはあまりスカートなどは好まなかった。
しかし、エザリアやラクス、
今は亡きアスランの母であるレノアがキラを着せ替え人形のようにいろいろな服を着せていた。

それに慣れたのか、最初の頃は嫌がっていたスカートもよく着るようになった。
ドレスに対しても、発表会のたびにラクスが自分のドレスをキラに着せたがるために一緒に着ていた。
その頃のキラたちは大変可愛く、ラクスが着ているのと似ていたために双子の天使役などを劇で演じた。



ドレスの長さは足元までしっかり隠れ、胸元と腰の部分で詰めることができるようになっていた。
後ろにホックがあるため、キラ一人では着替えられないが、ホックはアスランが後から留めてくれた。



「準備はOKだね? ・・・行こうか。 ・・・お手をどうぞ? 姫」



アスランは微笑みながら中世の王子様がお姫様をエスコートするようにキラの目の前に右手を差し出した。

一瞬びっくりした顔を見せたキラだったが、
すぐさま微笑み返して差し出された右手に左手を乗せた。そのまま会場へと向かって行った。





会場にはすでにラクスたちが集合していた。
ラクスはキラを見るなりすぐさま飛んできた。



「まぁ、キラ!! そのドレス、よくお似合いですわっ!!」

「///ありがとう、ラクス。 ラクスも可愛いよ」



キラはラクスのほめ言葉に頬を赤らめ、ラクスの着ているドレスに目をやった。
彼女は2年前まで“プラントの歌姫”とう肩書きを持っていた。



「ラクスちゃん、シーゲルはこちらで保護していた。
後からイザークくんと一緒に顔を見せに行ってくれないか?」



ラクスのすぐ後ろに立ったパトリックはラクスの父であり、
彼やキラの亡き父であるハルマの親友でもあるシーゲルの消息をラクスに話した。



「ありがとうございます、小父様。 では、記者会見を早急に済ませてまいります。
・・・キラは何も心配なさらなくてもいいんですのよ? すべて、私たちにお任せくださいませ」



ラクスはパトリックにお礼を述べるとアスランの傍で緊張しているキラに小声で話しかけた。
キラはラクスの微笑とイザークは無言でキラの頭を撫で、
アスランはキラの右手を握っている力を少し加えた。

それらに対して、ようやく安心できたキラは3人に向かって微笑みで返した。



「ニコルたちはすでに会場へと入った。
まぁ、会場で無礼を働いた者達は即刻、強制退去を命じるがな」



イザークは眉を不機嫌そうに少し上げると王子のようにの前に片足を地に付けた。
もちろん、アスランも同じ格好である。



「「お手をどうぞ? お姫様方」」
「「はい」」



4人は微笑みあうと会場へと向かって行った・・・・・。



「・・・さすが、あの2人だな。 あんなセリフと格好が様になっている」
「私の息子とパトリックの息子ですからね。
・・・我々も会場へと向かいましょうか。今頃、ダッドとユーリ達もいるでしょうからね」



取り残された彼らの保護者たちもまた、会場へと向かって行った・・・・・。







本会場にはすでにマスメディアや記者、
カメラマンを入れて1000人は超えるであろう集団が本来ならば余裕があるほどの部屋に詰め込まれていた。



会場と控え室を繋ぐ唯一の通路には、
2年前にその名をプラント中に広めた元エリートパイロット・・・“紅服”を身に纏う者で、
少年の領域をいまだ超えていない年齢の2名のガードが固かった。


戦闘に対して素人であるメディア関係者は、彼らを越えられるわけがないのである。
少年と甘く見ては己らの人生はその場で散ることとなる。



「・・・ここから先は、何人たりとも行けませんよ? 我々がそれを認めませんから。
貴方方が煩いので、今回はこのように記者会見を開いたのです。
・・・質問がしたいのならば、大人しく自分達の場所に戻って、待っていてください。
・・・連絡事項に書かれていましたでしょう?
『無断で控え室又は関係者以外立ち入り禁止区域に足を踏み入れようとした場合、即刻退場命令』と。
・・・まさか、自分は関係者と勘違いしてませんか? この場合の『関係者』とは僕らのことです。
貴方方ではありません。 ・・・さぁ、話は済みましたね。
では、規定通り、貴方方には退場していただきましょう。 ・・・警備員さん、よろしくお願いいたしますねv」



と、まぁ最初はこのように言葉で負けるのであるが、実力行使に出たものはその場で返り討ちに合う。

その様子を遠くから見ていた保護者’sはそんな息子たちを止めようともしていなかった。



「・・・ニコルはちゃんと書いていたのになぁ。
・・・書いていなかったとしてもキラちゃんたちのいる場所には入れないだろうが・・・」

「このことについては、子どもたちは意見が一致するからねぇ。 ディアッカも意義が無いみたいだ」



2人の保護者も小声だが自分たちの息子の姿を見ながら話していた。



「・・・確かに、アレが付いているからキラちゃんたちには危害は加えられないだろうな。
・・・それを実行しようとしたやつらは、アスランたちにその場で抹殺されてしまうのが落ちだ」



彼らの親たちは今まで数々の闇に葬られた愚か者達のことを知っていた。

しかし、彼らはそれを黙認していたのである。



「・・・父さんたち、余計なことを言わないほうが身のためですよ?
それに、今回はそのようなことをしないですむようにこの場を開いたんですよ。
・・・キラさんを傷つけようとしているお馬鹿さんに最も有効なやり方でしょう?
あとは・・・カナーバ議員が選ばれた人選ミスを指摘するためでしょうか」



二コルはニッコリと微笑んでいたが、彼の後ろにはドス黒いオーラが渦巻いていた。
その気配に敏感にも気づいたのはやはりとでも言うべきなのか、ニコルの隣にいたディアッカであった。
二コルは『お馬鹿さん』と言っているが、その時点で彼はすごく怒っているということでもあった。











2006/02/05

再up
2007/04/01













アスラン、プチ・ザラ様が降臨なされています(^-^;)
ドレス関係はあまり詳しくなかったので・・サイトで探しまくりましたv
私の好みとキラに着せてみたいと思ったドレスですv