「・・・キラ・・・。 よっぽど辛かったんだね? ・・・でも、これからは俺がキラを守るよ?
・・・さぁ、俺はキラの傍にずっといるから安心してお休み?
・・・ずっと、こうやって手を握っておくからね?」
「・・・うん。 お休み・・・アスラン・・・」
もう二度と、君の傍を離れたりしない。この無益な戦争を早く終わらせて、本当の〔平和〕を君に捧げるよ。
そのために、俺は複隊したのだから。
俺の望みはただ一つ。それは、キラが静かに・・あの時のように〔平和〕に暮らせる世界。君の泣き顔しか映そうとしない世界など、俺が壊す。
だから、キラはもう悲しまなくてもいいんだ。
2年前に誰よりも〔平和〕を望み、運命という名のレールに一番逆らった彼の左翼は、再び彼の元へと舞い降りた・・・・・・・。
Adiantum
― 後輩たちの実力 ―
キラがアスランの手を握って安心した顔を見せていた頃、
オーブの行政府にいるカガリに信じられない話が飛んできた。
『ユウナ=ロマ=セイラン』との結婚である。
ユウナとは幼い頃親同士が決めた婚約者で、当時はすんなりと受けていた。
2年前、アスランに出会う前までは。
カガリは一瞬にしてアスランに一目ぼれをしていたのだ。
しかし、彼の中にはすでにキラだけであった。
カガリの中で、醜い嫉妬が育っていったのはメンデルでのことがあってからである。
(冗談じゃない。ユウナとの結婚だと!? やつよりもきれいな・・・アスランが好きなのに!!
大体、キラは私と違って母体から生まれてないただの化け物だろう?
私はちゃんと母体から生まれた。 『ナチュラル』だが、それなりに強い。
私は子宮に戻された。 キラが実験体となったんだ。 私は選ばれたんだ。
化け物としてではなく、人間としての道を!!)
キラの悲しそうな顔を見ながらカガリは、そんなことを考えていた。
「・・・アスランからこの指輪を貰ったのに・・・・。 ・・・なんだ? この溝は」
カガリは自室でアスランがプラントに発つ際、渡して行った指輪を眺めていた。
しかし、よく覗いてみるとルビーと思っていたものはレプリカであった。
「レプリカ? ・・・!! まさかっ!! ・・・キサカ!!」
カガリは指輪を外すと側近であるキサカを呼んだ。
「なんです、カガリ」
「・・・この指輪を今すぐ調べろ。 ・・・うまくすれば、あいつ等の行方が分かるかもしれないからな」
カガリはキサカにアスランから貰った指輪を渡しながらもしかすると、
キラ達に繋がるやも知れないと考えていた。
カガリがようやく指輪に仕掛けてある盗聴器に気が付いた頃、
プラントへ向かっていた『セシリア』とAAは順調な飛行を続けていた。
アスランはキラが目覚めるまでの間、キラの傍にいると約束したため、片時も離れずにいた。
そんな彼らを知っているイザークたちはアスランを抜かしてラクスから詳しい情報を聞こうとしていた。
「あ、イザーク、ディアッカ。 ラクスの話を聞く前にこのデータを見てください。
このデータはキラさんがザフトの地球基地である『黒海沿岸都市・ディオキア』経由で、
プラントの最高議会のマザーをハッキングした際に入手したものだそうです。
僕らの後輩である‘紅’を纏う人たちのデータらしいですよ?」
ニコルはすでに見ていたキラからのお土産をイザークたちに手渡した。
「・・・これは本当か、ニコル!?」
「・・・あらら。 こいつら、よくこれでベスト5に入れたな。
銃撃戦やナイフ戦、爆弾処理に情報処理・・・・。 俺たちの時ってもっと総合が高かったよな?」
イザークはニコルに渡されたFDを自分の持っている端末に接続すると驚愕の声を上げた。
そんなイザークを見ながらディアッカはイザークの癇癪を収めながら自業自得と考えていた。
「僕らの時はアスランとイザークが争っていましたからね・・・。 必然的に総合が高いです。
・・・ですが、これは低すぎるでしょう・・・・」
ニコルもまた、呆れ顔で呟いた。
「・・・私の話をしてもよろしいですか?」
「どうぞ、ラクス。 ・・・・あれから何か情報を?」
ラクスはオーブへ移住していたが、プラントにはまだ『クライン派』がおり、
秘密回線で定期的に連絡を取り合っていた。
その情報部からのデータなどである。
「・・・私がプラントを離れていた間に、議長は私の替え玉をお創りになられたみたいですわ?
替え玉のお名前は『ミーア=キャンベル』。
もともと私と体型が似ていたらしく、顔を整形して私に成りすましております。
・・・しかし、彼は重要なことを知らないみたいですわね。
私はアスランとの婚約を解消して、イザークと婚約をしましたのに・・・」
「知らなくて当然だと思いますよ?
イザークがラクスと婚約したという事実を知っているのはここにいるメンバーとアスラン、キラさんだけですからね」
ニコルは、黒いオーラを隠さずにニッコリと微笑んでいた。
「・・・こっちの準備はできている。 後は本人たちの出番を待つだけだ。
・・・クルーゼ隊長には連絡がつかない」
ディアッカはニコルの黒いオーラに苦笑いを浮かべながらラクスからの頼まれたものを伝えた。
ラクスは彼に、彼らの元上司であるラゥ=ル=クルーゼとの接触を試みたが、
彼の居場所が特定できなかったのである。
「まぁ、そうですの? 隊長には、キラからの連絡ですわね。
彼ならあの方・・・鷹さんの居所が分かりますから」
ラクスはディアッカの報告にニッコリと微笑みながら、そう答えた。
キラはハッキングする際、誰にも追跡ができないようなルートを通るため、
たとえディアッカが分からない回線だとしてもキラならばハッキングできる可能性がある。
そのことを利用して、ラクスはキラに連絡を頼もうと考えていた。
「・・・では、プラントに着き次第、メディア関係に連絡を。
私とイザーク、そしてアスランとキラの婚約発表を会見いたしましょう。
・・・この時、私の替え玉が出てきたとしてもその時はアスランがどうにかするでしょうね。
・・・彼が愚痴っていましたもの。私の偽者に馴れ馴れしく腕を絡ませられたことを・・・。
私は一度もそのようなことをしたことがありませんのよ?」
ラクスは嫌そうにイザークたちに話した。
「・・・そうですよね。 アスランは元々女性の方が苦手な人です。
唯一自分から触れるのはキラさんだけ。
まぁ、社交性なこともありましたから強制的に行っていたパーティなどは我慢なさっていたみたいですが・・・・。
ラクスは幼馴染とうことで大丈夫だったみたいですが・・・」
ラクスの言葉に苦笑いを浮かべていたのはニコルである。
彼は、2年前の戦時中にキラの居場所を守るため、あえてアスランの婚約者を演じていた。
元々、彼女の父であるシーゲルはイザークを婿として認めていたため、
戦争が終結次第婚約を破棄することは既に決定事項であった。
アスランに対しては、父のパトリックもキラを溺愛しており、
アスランの相手がキラとして確定の場合のみ婚約の破棄を認めた。
つまり、彼らが戦後に婚約を破棄することは身近なものたちにとっては今さらであり、
すでに決まっていたことである。
「あの方が何をたくらんでいらっしゃるのかは存じませんが、
戦争を再びするために私をお使いになる点において見逃しはいたしませんわ。
・・・どんなに私たちが苦労してあの戦争を止めたかを考えていただかなくては・・・・」
「・・・ラクス、俺らも手伝うからあまり過激になるなよ? いくら、姫さんが関係してくるからって」
ディアッカはラクスから放たれる黒いオーラから逃れるようにイザークの後ろに非難した。
「・・・ディアッカ、どさくさに紛れて俺の後ろに隠れるな。
・・・ラクスとニコル、そしてアスランか。 ・・・ある意味、最恐トリオだな」
イザークの言葉は前半をディアッカに。
後半をラクスたちに向けて放たれた言葉であった。
「・・・まぁ、イザーク。 それはお褒めの言葉ですの?」
最後の言葉は聞こえないように言ったはずだが、ラクスの耳にはしっかりと聞き取れていた。
「・・・もちろん。 お前たちがタッグを組んだが最後。 その恐怖は俺たちが良く知っている。
・・・ごく一部の愚か者たちもな・・・・」
イザークは幼年学校時代を思い出したのか、遠くを見るように過去を振り返っていた。
「その頃は、あなた方もご一緒でしたでしょう?
・・・まぁ、この点においてはアスランも交えなくてはならないでしょうから・・・・。
ですが、アスランは必ず議長とカガリ・・・オーブに対して報復をするでしょうが・・・・」
イザークの様子を見ながらいつもの微笑を見せたラクスは、最後に予言めいたことを言った。
彼女の何気ないこの一言がそんなに遠くない未来を示していたとはこの時、
イザークたちはもちろん、言った本人であるラクスでさえ知らなかった・・・・・・。
2005/07/29
加筆・修正
2006/02/05
再up
2007/03/31
第一章、終わりです。
力関係では、ディアッカが一番下っ端となります。
どうしてか・・・と言われましたら、やはりディアッカはイザークの下僕だからでしょうか(ォィ
ここでのアスランは議長の言葉をまったく信じてはいません。
彼が絶対的に信じるのはキラだけです。
ラクスの頼みごとを受けたのは・・・・彼女の情報が正確だからです。
その点、アスランは自分の幼馴染達を信じています。
次回から、【プラント国内】となります。
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