「・・・まぁ、これくらいならば平気でしょう? 艦のデータは無事なんですから」



まだ、生温いお仕置きですよ?
ですが、ラクスたちと合流できるのでしたら、この程度にしておくべきでしょうね。
・・・データを少し弄っただけでは、
僕たちの大切な幼馴染の力を利用した方たちへのお仕置きになりませんからね。




いつもは温厚な少年にも見える青年は、愛用のPCの前で不吉なことを呟いていた・・・・。








Adiantum
    ― 幼馴染たちとの再会 ―











ニコルが『ミネルバ』と『インパルス』にお仕置きをしている頃、
キラ達を乗せたAAは艦に取り付けたマスドライバーで宇宙に上がり、すでに大気圏を越えていた。



「・・・キラ? どうかなさいましたか?」



ラクスは大気圏突入直後から自室に置いてある私物の一つ、
パソコンの前から動かないキラに苦笑いを浮かべながら問いかけた。



「ラクス? ・・・これ、ニコルから送られてきたデータ。 プラントの新議長のデータだよ。
・・・ラクスの替え玉がいるみたいだね。 ・・・名前は、ミーア=キャンベル。
元々はラクスのファンだったみたい。
・・・確かにラクスの発言力は強い力になるけど、戦争の土気をあげるためだけにラクスの名前を使うなんて・・・。
大体なに? この趣味悪い服は。 ラクスがこんなのを着るはずがないじゃない」

「あらあら? ・・・ここまでなさいますのね・・・。
もう少し期待を裏切ってくださればいいですのに・・・。
・・・やはり一部の議員のみの方に私達の関係をお知らせしておいてよかったですわ」

「関係?」



キラはニコルから渡されたデータを見て、
大切な幼馴染の1人であるラクスの替え玉に対して怒りを覚えたが、
当の本人は予想どおりだと呟いていた。



「はい。 私とイザーク、そしてキラとアスランの正式な婚約発表予定ですわ。
もちろん、このことはオーブにもリアルタイムで放送されますわ」

「!!」

「あらあら? ・・・アスランはキラに何も告げずにプラントへ向かわれたのですか?」

「・・・ううん、違う。 『還ってきたら、結婚しようねv』ってだけ///」



キラはラクスの婚約発表ということにも驚いたが、
その後聞かれたプラントに発つ前夜に言われたことを思い出したキラは顔を一気に真っ赤にした。



「キラ・・・。 幸せになってくださいませ。
そのためのお手伝いならば私達はいつでも力になりますわ」



顔を真っ赤にしたキラをラクスは抱き締めながら、キラの幸せを願った。



「・・・ありがとう、ラクス。 でも、僕は十分幸せだよ?
アスランやラクス、それに皆も一緒にいられるから。 ・・・僕、プラントに永住するのでしょう?」

「もちろんですわ。 ・・・向こうでのIDの心配は無用ですわよ?
いつかはこうなると思いまして、すでにIDを発行しておりますの」



ラクスはニッコリと微笑みサラリと怖い言葉を呟いた。
キラのID発行の裏にはイザーク、ディアッカはもちろん、ニコルも一番関わっていた。



「・・・まさか、こんな形で【プラント】に行くとは思わなかったよ。 ・・・でも、ラクスは大丈夫なの?」

「・・・キラ、キラがこのお人形さんの心配はなさらなくてよろしいですわよ?
(・・・あちらに着き次第、お仕置きは決定事項ですがvv)」



キラは儚げではあったがニッコリと微笑を浮かべ、『ラクス』が映し出されているモニターを見ていた菫の瞳を揺らした。
そんなキラに対してラクスは、優しげに微笑を浮かべていた。




――――ラクスの最後発した言葉は彼女の胸の中で呟かれた。







その頃プラントでは、
イザークとディアッカが長期休暇をとり、ピアニストもかねているニコルは『新曲のため』と言って休暇をとっていた。

ニコルは自分で即興によって作った曲などをラクスやキラに贈っていたため、
それらの曲をアレンジしてみようかと考えていた。



「イザーク、そんなに慌てなくとも姫たちは来るから・・・。
わざわざこの艦を出さなくともよかったんじゃねーの? ・・・心配なのは分かるがな」



ディアッカはイザークに言われるまま、彼らの母艦である『セシリア』を動かしていた。



「・・・しょうがないだろう。 AAは識別番号がない。 下手をすれば打ち落とそうとするだろう?
だったら、こっちから迎えにいったほうが早い。 『セシリア』は俺の艦だからな」

「・・・イザーク、それは威張って言えることではありませんよ?
・・・まさか僕までこれに乗るとは思いませんでしたが」



ニコルは呆れた顔をしながら、2つ上の幼馴染の顔を見つめた。



「・・・ニコルは、キラたちの迎えには行きたくなかったのか?」

「誰もそのようなことは言っていません。 ・・・アスランは予想どおりでしたが」



イザークの不機嫌そうな質問に即答で答えたが、
先ほどから五月蝿いほど騒いでいるのにまったく気にしていないアスランに視線を向けた。



「・・・計画のためとはいえ、キラを地球に残してきたからな。
・・・キラ、先の戦いで眠りが浅くなったみたいだ。
俺やラクスがいる時は何とか大丈夫みたいだが・・・。
キラ、俺の時が熟睡できるって言っていたから。 ・・・あまり寝ていないかもしれない」



アスランは昔からキラ一筋なため、彼女のことならば大体分かる。

アスランの言うとおりキラの睡眠時間はあまりなかった。



「・・・姫は合流したら速攻で寝室に連れて行って休ませよう。
・・・姫、今回のことは結構ショックだっただろうし」



ディアッカは、彼らしくない表情をして形のいい眉を寄せた。



「・・・そうですね・・・。 アスラン、頼みましたよ!?
僕らは先にラクスから事情を聞いておきますから。
・・・僕もキラさんにはいつでも笑顔でいてもらいたいですからね」



ニコルはアスランに向かってニッコリと微笑みながら、口では辛辣なことを言った。



「・・・あぁ。 そのために俺は再びプラントに来た。
・・・どっかの馬鹿たちが再び戦争を開戦させたばっかりに。
・・・ユニウスセブンが落ちてきた時、あいつ今にも泣きそうな顔をして我慢していたから」

「・・・ア、アスラン? どっかの馬鹿って議長も入っています?」

「・・・当然だろう? 守ると言っておきながら2年前の地球軍と同じ。 モビルスーツ・・・『ガンダム』を作った。
で、あの『スペース・コロニー』を『ヘリオポリス』と同じ道に進んだ。 ・・・まぁ、完全崩壊ではないが」



アスランの表情は変わらないが、全身に漆黒のオーラを纏っていた。





(((アスラン、本気で怒っているな〔ますね〕)))





イザークを始めとする幼馴染たちは、無表情のアスランから己の身を守るようにして大きく一歩下がった。




(アスラン、本気ですよ!?)

(・・・姫が関わったらあいつの地雷だからな〜)

(・・・フン。 この分だと徹底的に叩くだろうな)




ニコルたちはアスランが横を向いた隙に小声で話し始めた。
もちろん、アスランには聞こえない音量でだが。



「・・・なにをしている? もうすぐ、キラ達・・・AAがこの領域に着く。 ・・・いいのか?」
身を引いていたニコル達に関心がないようにアスランが宇宙地図を見ていた。



「・・・そうか。 クルーたちに伝達。 先の大戦時での“浮沈艦”、『アークエンジェル』。
これには大事な者たちが乗っている。 もちろん、同胞の民間人もいる。 一切攻撃を仕掛けないよう!!」



イザークは『セシリア』のクルーたちに対して艦内放送をかけた。
一部の者でも聞き逃しがないようにというのが目的なためである。
今、AAには彼の婚約者であるラクスと妹のように大事にしてきた幼馴染、キラが乗っているからである。

先の大戦時にはいろいろな感情を持っていたが、
終戦して冷静に考えると『ナチュラル』以上の能力をAAのクルー達は持っていたことがわかる。

そのことは『セシリア』のクルーたちも分かっており、イザークの考えに異議を唱える者はいなかった。






それからしばらくすると、AAと『セシリア』は合流を果たし、
AAからキラとラクス、そしてマリューとバルトフェルドが『セシリア』へときた。



キラとアスランにとっては、3週間前にオーブからプラントへアスランが向かってから、
初めての生身での再会となった・・・・・。






『セシリア』に渡ったラクスたちは、一目散にイザークのいるブリッジに行こうとした。
しかし、ブリッジがある方向から4人の人影を見つけ、思わずその場に立ち止まった。



「キラ!!」



キラの名前を呼びながらキラを抱き締めたのはこの世でただ1人のみである。

それは、紺瑠璃色の髪を持ち、翠の瞳を持つ青年。
先の大戦ではザフトのクルーゼ隊のエース・パイロットであり、
特務隊まで上り詰めたがその地位をあっさり放棄して愛する者を守るために第3勢力に就いた。
その勢力では『正義』という名の機体に乗り、今ではプラント中が知る英雄である。



「アスラン!!」



キラはその青年の声が聞こえると今までにないくらいの笑みをその表情に作り、迷わず抱きついた。



「・・・よっぽど寂しかったのでしょうね、キラさんがアスランに抱きつくのは滅多にないことですから」

「そうだな。 姫、何だかんだ言って人の目を気にするからな」

「・・・仕方がないだろう。
姉だが妹だが知らないが、肉親と一応思っていた者が自分と幼馴染を暗殺しようとしてるのが分かったのならば、
誰だって恐怖に陥る」

「・・・イザーク、キラを寝室へお連れしてもよろしいですか?
キラ、オーブを出てから一睡もしておりませんの。 ・・・だいぶ前から不眠症になられたみたいで・・・・」



上から、ニコル、ディアッカ、イザーク、ラクスである。ラクスの最後の一言に一同がその動きを止めた。



「ラクス、それは本当ですか!?」

「・・・えぇ・・・。 本当ですわ。
アスランがプラントに発ってしばらくの間私、
毎日キラが安心してお休みになられるようにと歌を歌ってはいたのですが・・・・。
それでも、眠りが浅いみたいで・・・・。
それでも最初はお休みになられていましたわ。 けど、オーブを脱出した頃から一睡もしてはおりませんわ・・・」



ラクスは悲しそうな表情をしながらイザ−ク達にキラの現状を知らせた。

そんなラクスの言葉にイザークを始めとする幼馴染たちは眉を顰めていた。
彼らにはキラが不眠症になった原因が分かったからである。



「・・・分かった。 アスラン!!
キラを寝室に連れて行って、プラントに着くまでの間、寝かせてやれ!!」

「分かった。 ・・・キラ、行こう? 大丈夫、俺も一緒にいるからね?」



イザークの言葉に同意したアスランは自分の腕の中にいるキラにやさしく微笑むと、
不安がっているキラの表情が見えた。
そんなキラに対して彼女のみにしか見せない微笑でキラの髪を優しく梳きながら、安心するように背中を撫でた。



「・・・うん」



そんなアスランにようやく安心したキラは、素直にアスランの手によって導かれるままになり、
アスランと共に彼が使っている部屋へと案内されていった。



「・・・姫のことはあいつに任せるしかないだろう。 ・・・ラクス、大丈夫か?」



キラを連れて行くアスランの後姿を見ていたディアッカは、イザークに抱き寄せられたラクスを見た。



「・・・大丈夫ですわ。 ただ、なぜキラがこんなに傷つかなければならないのかと思いましたの。
キラたちは相思相愛ですわよ? キラがアスランを奪ったのではありません。
ましてや、アスランがカガリの彼でもありませんわ。 ・・・それ以前に彼はキラ一途ですが。
そんな彼らをカガリが自分の思いを強制的に押し付けるやり方がどうかと思いますの。
・・・『アスランが自分を見ないからキラを消す』そんなの、理由になりませんわ。
彼女の主張はただの駄々っ子と同じですわ。
自分の好きなおもちゃが手に入らないから回りを巻き込んで無理やり自分のものにする・・・ということと。
実際、キラがこの世に存在しないとしてもアスランはキラだけを愛するでしょうね」



ディアッカに答えたラクスは、これまでにためていた怒りをにじませたオーラを放っていた。



「・・・お仕置きが必要だな。 少しは変わったかとは思ったが、変わっていないみたいだな?
先の大戦時、大変だったんだろう?」

「・・・定期的の連絡では彼女に対しての苦情が多かったからですからね・・・。
大体、なんです? 『顔は同じだから、キラさえいなければアスランは自分を好きになる』ですって?
本気でそのように思っているのでしょうか? アスランは顔ではなく、『キラ』さん自身を好きになったのですよ?」



イザークは当時第3勢力には就かずに彼らに情報を与えるためにザフトに属していた。
内部からの情報なため、正確ではあるが仮にも軍に属しているので簡単に身動きはできない。


そんなイザークの助けになったのがMIAに認定されていたニコルである。

彼はイザークと彼に連絡を取る第3勢力側の間に入り、パイプの役割をしていた。
そんな彼らの中に、カガリに対しての苦情も入っていたのだ。






そんなことでブリッジに移って黒いオーラを主にラクスとニコルが放っている頃、
アスランによって彼の自室へとお持ち帰りされたキラは彼のベッドに寝かせられていた。



「キラ、俺が傍にいるから安心してお休み? ・・・もう、手放したりしないよ?」

「・・・『FAITH』だから、また戦場に行くでしょう? 『ミネルバ』配属になったってニコルが言っていたよ?」



キラが安心するように優しく髪を梳いていたアスランに、
キラが今までにないくらい心配そうな表情をしながら呟いた。



「・・・キ〜ラ? その『FAITH』って単独行動もOKなんだよ?
イザークたちも評議会の議員をしながら軍に復帰した。 この艦、艦長はイザークだ。
つまり、俺は『ミネルバ』を選ばずにここを選ぶことができるってこと。
それに・・・・ニコル経由で例のデータ、手に入ったから・・・・」



アスランの言う例のデータとは、現最高評議会の議長をしているデュランダルの今までのデータである。
もちろん、その中にはご丁寧にも先日キラたちが暮らしてきた海辺の家に、
コーディネイターの特殊部隊を使っての暗殺計画関係もあったやつである。



「・・・そう。 ・・・僕はもう、あれには乗りたくなかった・・・・。
けど乗らなきゃ、ラクスだけじゃなく導師や子どもたちまで死なせることになっていた。
・・・アスラン、僕間違っていたのかな?」

「・・・キラが間違いっているはずがないだろう? キラは、守りたかったんだろう?
導師やラクスたちを。 ・・・その時、アレはあるけど俺がいないから・・・アレに乗れるのはキラしかいなかった・・・。
だから、アレに乗って皆を守った。 だろう?」



アスランの袖をつかんで起き上がったキラは、
アスランの胸元に顔を寄せて背中に両腕を回して強くしがみついた。

そんなキラに対して、キラ限定の慰め用の声を出しながら優しく撫でた。



「・・・うん。 でも、あれの計画ね? もう一つ裏があったんだね。 ・・・ラクスが教えてくれた。
前に盗聴器を仕掛けた部屋で、カガリが話していた。
・・・キサカさん、このことが分かっていたから盗聴器を仕掛けるって言っていたんだね・・・。
唯一の肉親であるカガリが僕を暗殺しようとすることを・・・」



キラは傷ついたような表情を見せた。

この2年間の間は見ることのなかった戦時中の儚い微笑みをアスランにキラは無意識のうちに見せていた。



「・・・キラ・・・。 よっぽど辛かったんだね? ・・・でも、これからは俺がキラを守るよ?
・・・さぁ、俺はキラの傍にずっといるから安心してお休み? ・・・ずっと、こうやって手を握っておくからね?」

「・・・うん。 お休み・・・アスラン・・・」



アスランはキラに対してもう一度安心させるように微笑むとキラの右手を軽く握った。

この行為はキラが一時期、オーブにいた頃に起こした不眠症の時、
アスランが手を握った夜はよく寝ていたことから始まったことである。





(・・・キラを悲しませた罪は重いぞ? カガリ。
・・・キラの姉だと思って多めに見ておいたが、キラを亡き者にしようとした行為、俺は絶対に許さない)





アスランはキラの寝顔を見ていた表情から一変してキラが起きない程度の黒いオーラを放っていた・・・・。











2005/07/15

加筆・修正
2006/02/05

再up
2007/03/31













ようやく、3話ですね・・・。
日記のほうではすでに30超えたのに・・・。
いつまで続けるのやら・・・(ォィ
アスラン、キラ至上なので・・・黒いです。
キラのほうも、黒くなるかなぁ・・・。