「私がカガリさんに見つかるようにすると思いますか?
あの方はいわば今まで自分の責任を果たそうとなさらなかった只のお人形さんと同じです」



・・・私、始めからあの方が好きではありませんでしたわ。
私が知り合った頃のあの方は既に今とあまり変わりがありませんでしたもの。
ですが、キラがあの方のことを気になさっていたので私も一緒に過ごしていた以外なんでもありません。
けれども、今回はお遊びが過ぎましたわね?
今回のことは、アスランにとって一番性質の悪い地雷ですわ。




大切な幼馴染を今まで傷つけてきた者に対して、〔歌姫〕は静かに怒りのオーラを放出していった・・・・。








Adiantum
    ― 大魔神の暗躍 ―











カガリが行政府の中心核で愚かな発言をしている頃、
キラたちを乗せたAAはオーブ海域を抜け、先の大戦で一度は連合の支配下となっていた
スカンジナビア王国の海域へと航海をしていた。
既にラクスがプラントからこの王国へ手回しをしているため、領海へ入ったとしても攻撃を受けることがない。


彼女たちの計画では、ここから直接宇宙へ飛び立つつもりである。



「このまま、領海へ行ってくださいませ。 アチラ側には既に連絡をしてありますわ。
ここから最短で行ける中立国はスカンザナビア王国・・・だけですわ。
マスドライバーなしでもこの艦でしたら、宇宙へ単身で行けます。
マリューさん、発射の号令はお任せいたしますわ」



ラクスはニッコリと微笑みながらマリューを見た。
そんなラクスの微笑を見たマリューは、2年前と同じような表情をしながら頷いた。





クルーたちがブリッチにいるその頃、キラは1人自室に戻っていた。

この部屋は、AAを改装する際に共闘する前に与えられた部屋を模様替えしたものである。



もちろん、キラがリラックスできるようにしたものだった。



「・・・僕とアスランが共同で造ったこのPCなら、アスランがどこにいるか分かるはず・・・。 どこに行ったの? アス・・・」



キラは私物で持ちこんだPCの前に座り込み、3週間ほど前からプラントへと行った最愛の恋人の消息をたどっていった。



「・・・危険なことになっていなければいいけど・・・!! あった!!」



キラはプラントのマザーにハッキングをして、アスランと会談した議長の部屋にあるPCデータを見つけた。


その内容とは、アスランがザフトに復帰して『FAITH』の称号を与えられたという記録が残っていた。



「・・・これ、どういうこと? アスラン、また僕の敵になるつもりなの?」



キラはその内容を見て呆然としながら残りのデータを見ていた。
アスランのほかに、彼と一緒に降下してきた戦艦・・・『ミネルバ』に乗艦している
“紅”を纏うザフトのエース・パイロットたちの成績と志願動機などが書いてあるデータであった。



「レイ=ザ=バレル、ルナマリア=ホーク、そして・・・シン=アスカ。 この3人だけ?
・・・僕が言うことではないけど、よくこんな成績で“紅”を纏えたね・・・。
総合成績で優秀なの、レイしかいないじゃない。
シン=アスカは2年前まではオーブのIDを持っていたみたいだけど、たった2年でエース・パイロット?
・・・イザークがいたら、癇癪を起こしていたね・・・絶対」



キラは、今はプラントにいる1つ上の幼馴染を思い浮かべながら苦笑いをこぼした。
銀髪とサファイアの瞳を持つ綺麗な顔を思い出した。



そんな時、キラの特に親しい人しか知らないアドレスに送られてきた通信が届いた。



「はい。 こちらキラ=ヤマト」


《キラさんですか? ニコルです。 ・・・イザークから状況は聞きました。
僕のほうでもアスランに連絡を入れようとしましたが、彼とんでもないことをラクスから頼まれたみたいですよ》


「ニコル? ・・・ラクスがアスランに? とんでもないことって?」



通信の画面に出てきたのは1つ下の幼馴染だった。
彼は若草色の髪とトバーズの瞳を持つ少年だった。




《詳しいことは判りませんが、彼『FAITH』に任命されたみたいですが、
アスランは本気で復帰する気はないようです。
・・・アスランのことと一緒に新議長であるギュエンダル新議長のことも調べてみました。
・・・このことは、イザークとディアッカにはすでに知らせています。
このデータ、ラクスにも見せてくださいね》


「ありがと、ニコル。 ・・・こっちで調べたデータ、送るね。
あと、僕が言うのもなんだけどザフト、大丈夫なの? あれだけの成績でよく“紅”を纏えたねって思う人たちが何人かいるけど・・・」



キラはニコルからデータを転送してもらいながら先ほどまで見ていたデータの感想を話した。




《・・・そうですね。 その点においては、キラさんたちがこちらに着いてからお話いたしましょうか。
・・・アスラン、まだプラントにいますよ。 彼の所属艦、どうも問題の『ミネルバ』のようですからね。
その艦が戻るまで本国にいるようです》


「ありがとう、ニコル。 そのデータ、イザークたちにも見せてね」


《はい。・・・彼らの反応が楽しみですねvv》




ニコルは黒い笑みを浮かべたが、キラは‘超’の付く鈍感なためにニコルの黒さは分からなかった。





キラから連絡が入る数時間前、ニコルはある人物と通信機を通して話をしていた。

「お久しぶりですね、アスラン」


《・・・そうだな。 俺は今プラントにいる。 ・・・キラたちも時期に上がってくる》




ニコルが通信をしていた相手とは、キラが一番好きな紺瑠璃色の髪とエメラルドの瞳を持つキラの最愛の人であるアスラン=ザラであった。



「キラさんたちが? ・・・どうしてです? キラさんたちは、今はオーブでしょう?」


《・・・オーブはしばらくすると、連合と手を組む。 同盟を結ぶんだ。
・・・彼ら・・・オーブの結ぶ条件がキラの暗殺。 ・・・連合の条件もまたキラの暗殺だ。
・・・あとは、元AAのクルーたちの暗殺だろうな》




アスランは、何かを核心もって断言した。
ニコルは1つ上の幼馴染が一度も嘘を付いたことがないのを知っているため、
アスランの言うこと全面的に信用することにした。



「・・・もう一ついいですか?
貴方がそこにいるということは、既にギュエンダル新議長にはお会いしたのでしょう?
彼の感想を聞かせていただけますか?」


《・・・いい方だと思うよ。 まぁ、表だけを見ただけは。 ・・・あの人は何か裏がある。
だから、彼の言ったことを信じたふりをしてザフトに戻った。
・・・ラクスも彼が黒だと断言していた。 ・・・俺の復帰は彼女の指示だよ》




アスランは苦笑いを浮かべながら自分の復帰したわけを話した。



「そう・・・ですか。 ラクスの指示ならば貴方が本気ではないということですね。
・・・アスラン、キラさんを悲しませたら貴方は僕らから一生恨まれているところですよ!?
特に、妹のように可愛がっているイザークには永遠に嫌味を言われるでしょうね」


《ニコル、俺がキラを悲しませるはずがないだろう?
・・・キラの泣き顔は先の大戦の時に嫌というほど見たからな。
・・・俺としても今回のことに関して怒りを感じているからな。
・・・ニコルはあいつらよりも冷静な判断ができる。
・・・お前だけは俺たちの計画を話そう。その代わり、協力しろよ?》


「・・・一つだけ。 その協力は、キラさんのためになりますか?」


《当然だ。 元々キラの笑顔を守るためだからな。
そのためには泣き顔の根源である戦争の元を叩かないといけないだろう?》




ニコルの問いかけにアスランは当然のようにきっぱりと即答した。


彼は今も昔もキラを中心に彼の中の世界は回っている。


昔と変わらないアスランに安心したように微笑むと了承とばかりにニコルは頷いた。



「分かりました。 キラさんのためとならば僕は喜んでお手伝いをさせていただきますよ。
・・・どうせ、最後にはイザークたちも巻き込むのでしょう?
しかし、彼らの場合何も言わなくとも必然的に仲間になっているでしょうが」


《そうだな。 ・・・あちらのほうはラクスが説得する予定だ。
俺からよりも婚約者であるラクスからの言葉のほうがイザークもあっさりと陥落するだろう。
・・・ニコルもハッキングできたよな》


「えぇ。 できますよ? 貴方やキラさんほどではないのですが」



アスランは何かを思いついたようだが、ニコルはいきなり言われたことで首を傾げつつもアスランの質問に答えた。




《・・・ギュエンダル議長のPCにハッキングしてみろ。 面白いデータがあるぞ》




アスランが口にしたのは少し声に怒りを交えた言葉だった。



彼はめったなことがない限りは怒らない。

しかし、そんな彼でもキラが関係していることに関してはそのこと自体が地雷となる。


彼はすでにオーブ・・・カガリの考えが分かり、隙を見せるためにプラントへと発った。
彼はラクスに信頼を寄せているため、彼女がキラの傍にいることが分かっている以上、
その点に関して心配は要らない。



彼女を崇拝するクライン派はいまだに活動を続けており、
キラの付き添いでオーブにいるラクスにもプラント内での情報が行くように手配されていた。


そのデータを元にして、アスランにプラントへ渡ってザフトへ復帰するように伝えた。




元々、アスランはキラのためにしか動かないと決めていたため最初は渋っていたが、
ラクスから渡されたデータを見て彼女の要請に答えた。



「面白いデータ・・・ですか。 あの人は貴方の地雷を思いっきり踏んだみたいですね。
分かりました。後ほど見ておきます。
・・・では、イザークには貴方は姫君たちがこちらに来るまでプラント内にいるということをお伝えしましょうか?」



ニコルはアスランが静かに怒りを感じていることを通信越しに感じ取り、
その場にいないことを本気で良かったと思いながらもそれを表情に出さずにアスランに問い返した。




《頼む。 ・・・いくら心配だからって彼は先の大戦時が拡大した理由を知っているはずだ。
守るためとは言え、再び『ガンダム』を創るとわな。 俺が乗る機体、『セイバー』という名前らしい》


「・・・そうですか。 アスラン、ディアッカからの新しい情報です。
僕らの後輩に当たる‘紅’を纏う者でエース・パイロットである“シン=アスカ”が『インパルス』に乗るそうです。
この機体、メインシステムに以前キラさんが『ストライク』にて書き換えたOSが無理やり応用しているらしいですよ。
そのおかげで、少し動きが鈍いようです」



ニコルは今朝届いたイザークの補佐をしているディアッカの情報をアスランに伝えた。




《キラの創ったOSを!? ・・・無茶苦茶だな。 大体、そんなものいつの間に?
あいつは一度も軍事協力はしていないはずだ》


「・・・ですよね。 僕もその辺が気になりましたので、ディアッカに協力してもらって調べたんです。
・・・先の大戦時でオーブと連合との間で戦闘が行われたでしょう?
その時の避難民の中にモルゲンレーテで働いていた人がいたみたいです。
その人が例のOSデータを持っていたらしく・・・」



ニコルもまた幼馴染であるキラを大切に思う1人で、
アスランまで過激にはならないがラクスと同じように黒いオーラを出すので、恐ろしい結果となっていた。




《・・・そのパイロット、キラのOSを載せているのなら完全な動きではないな。
・・・ザフトも落ちたものだな。 自分たちが理解できないデータを載せるとは。
そのデータ、キラ本人か俺たちじゃないと理解できないぞ》


「・・・でしょうね。 まぁ、そのせいでその機体が落ちても知ったことではありませんが。
勝手にキラさんのデータを載せた方が悪いのですから」



ニコルは微笑みながらきついことを言った。
しかし、そんな彼のバックはこれ以上無いと思うくらいの黒いオーラが立ち上っていた。




《・・・仕返しするのもいいが、ほどほどにしろよ?》


「いやだなぁ〜、アスラン。 いくら僕でも以前お世話になった軍ですから、手加減はしますよ。
・・・アチラとの連絡はまかせてください」


《あぁ。 ・・・じゃ、キラたちが来る頃にもう一度連絡を入れる》


「分かりました。 ・・・では」



ニコルはアスランとの通信を切り、先を読んで釘を刺したアスランを思い出しながら苦笑いを浮かべ、
キラの創ったOSを利用しているザフトとそのOSを載せている機体の所属艦である『ミネルバ』と
『インパルス』にハッキングをかけようと企むニコルだった。



この場に幼馴染達がいれば彼を止められたかもしれないが、生憎この場にはニコル以外おらず、
必然的に彼を止める人材がいないということとなる。



「・・・『ミネルバ』と『インパルス』へのお仕置きは議長のPCをハッキングした後でもいいでしょう。
・・・さて、あの方はどのようなことをお考えなのでしょうね?」



ニコルは彼のいる部屋全体に何か黒いもので隠れてしまいそうな勢いで黒いオーラを出していた。





――――――カタ、カタ。・・カタ、カタカタ。





ニコルのタイピングはキラやアスランには劣るが、それでもプラントにはいないとされているほどの腕前の持ち主である。
ただ単に、キラやアスランのレベルは到底『コーディネイター』であろうが、ありえない速さということとなる。



「・・・これですね? ・・・ラクスの暗殺計画!? ・・・ラクス、オーブにいることになっていましたからね。
ミーア=キャンベル。 これがラクスの代わり? とんだお人形さんですね。
・・・やはり彼はキラさんのことを知っているみたいですね。
・・・これは、『ミネルバ』のクルーたちのプロフィールでしょうか?
・・・シン=アスカ?元のIDはオーブ。 ・・・『フリーダム』を怨んでいる?
・・・ラクスに頼んで2年前のデータを持ってきてもらいましょう」



ニコルは自分の見たいデータを見終えると、何事もなかったかのように跡も残さず、メインシステムから戻った。





―――――――カタ、カタカタ。カタッ、カタカタカタッ。





ニコルは再びパソコンに向かい、システムを作り始めた。

そのデータとは、『ミネルバ』と『インパルス』のOSに進入させていたずらをするウイルスであった。



もちろん、戦闘にあまり支障をきたさない場合だが。



「・・・まぁ、これくらいならば平気でしょう? 艦のデータは無事なんですから」



ニコルの言うとおり、彼がウイルスを流したのは『インパルス』と『ミネルバ』のごく一部のデータのみである。


ニコルの宣言どおり、『ミネルバ』と『インパルス』のOSが無茶苦茶な状態になっていた。





しかし、『ミネルバ』のクルーたちはそのことにまだ気が付いてはいなかった・・・・・。











2005/06/05

加筆・修正
2006/02/05

再up
2007/03/19













少し、直しました。
議長の名前、間違って覚えてた・・・・(呆然
この人、嫌いです。
議長の名前を調べている時に、今回分のTV予告が書かれていましたが、
やっぱりシンは好きにはなれませんと実感しただけでした・・・・。
ニコルによって第一弾の『ミネルバ』制裁終わりvv
この話では、『ミネルバ』はまだ宇宙にいますv
『インパルス』やザクの出番は日記のほうでもまだまだ先・・・(滝汗)
一応、この話で布石は置いておきましたw
今度『ミネルバ』クルーが出るとしたら・・・。
シン好きさんやクルー好きさんの警告発令と同時でしょうねw