「・・・キラ。 キラが俺の居場所になって? 俺が、キラの居場所になるから。
そうしたら、寂しくないだろう?」

「俺たちを頼れ。 お前は俺たちにとって大切な幼馴染なのだからな」

「・・・キラ。 落ち着かれるまで、小母様たちがいらした【オーブ】で住みませんか?
私とアスランが一緒ですわ」

「姫。 あんまり無茶をするなよ? 倒れる前に、俺たちに頼めばいいんだからさ」

「キラさん、謝らないでください。 あなたのお役に立てて、僕たちは本当に嬉しいんですから。
・・・ですから、「ごめんなさい」よりも「ありがとう」のほうがいいですね」



・・・僕の大切な幼馴染たち。
5年前のあの時まで永遠に続くと思っていたあの頃。
けど、運命は残酷なもので僕たちの世界は崩壊し、戦争に巻き込まれた。
・・・・たくさんの涙と一緒に、2年前に両軍が停戦を発表し、偽りと分かっている〔平和〕が訪れた。
頭では理解しているこの〔平和〕の中で、僕はあの頃のようにみんなで暮らせることを夢見る・・・・。




だが、運命とはどこまでも残酷で、この儚い願いを1人の愚か者が犯した罪によって引き離された・・・・・・・・・。








Adiantum
    ― 姫たちの行動 ―











地球にユニウスセブンの欠片が落ちてきて早くも1ヶ月の月日が過ぎようとしていた・・・・・・。
オーブの郊外に住む導師の元に一部の人間のみが知っている人物が2人一緒に住んでいた。



「・・・キラ、私たちもそろそろ動いた方がよろしいのでは?」



桃色の髪をした少女が通信機の横にいた茶色の髪をした少年の格好をした少女に微笑みかけた。



「・・・うん。 そう・・・だね・・・。 僕はもう少し信じたかったけど・・・」



茶色の髪の少女・・・キラ=ヤマトは桃色の髪をした少女に儚く微笑むと
通信機から出ているヘッドホンを自分の頭から取った。



「まぁ。 ・・・私は最初から彼女を信頼はいたしておりませんわ。 彼女より彼らを信じます」

「・・・そうだね、ラクス。
父様たちが死んでしまって、僕を助けてくれているのは彼女ではなくてラクスたちだったもの。
いきなり、実の姉って言ってきても何も感じない」



桃色の髪をした少女・・・2年前までは〈プラントの歌姫〉と呼ばれていたラクス=クラインは
微笑みながら棘を含むような言葉をはいた。
そんなラクスに苦笑いを浮かべたキラは、
今オーブの行政部の中心にいる血の繋がった姉であるカガリ=ユラ=アスハらが出席する
地球軍との秘密裏に行われた会談内容を盗聴した記録が送られてきたとことであった。



「では、いますぐ〈アチラ〉と連絡を取りますわ。 そうですわね・・・。
マリューさんたちにもいらしてもらいましょうか。 あの方々にもここは危険ですわ。
・・・ピンクちゃん? 識別番号・068をお願いいたしますわvv」



ラクスは今まで座っていた椅子に座りなおすと、隣で遊んでいたピンクの『ハロ』を呼んだ。



『ハロ、ハロ!! ・・・ラクス〜。 0・6・8?了解〜!!』



『ハロ』はラクスの掌に乗るとポーンと一回飛び、再び着地する時には両目が赤く光っていた。




《こちら、イザーク=ジュール。 ラクス=クライン?》


「そうですわ、イザーク。 ラクス=クラインです。 もちろん、キラもいらっしゃいますわ」



『ハロ』の瞳の色が消える頃にはノイズが少し混じっていたが声が聞こえてきた。
ラクスの言った『068』とは、彼女達の間で使われる通信の暗証番号であった。




《脱出するのだろう? オーブを。 俺達が港まで迎えに行く。
あいつは、もう少しこっちにいるみたいだからな。 どうにかして引きとめておこう。
・・・そっちはニコルがやるだろう》




イザークはラクスがなぜこの通信を使った理由が分かっているみたいであった。



「・・・ごめんね、イザーク。 また、君たちに迷惑をかけてしまう」



キラは『ハロ』から声だけ聞こえているイザークに申し訳なさそうに謝った。




《気にするな、キラ。 大切な幼馴染みのお前が困っているのなら、それを助けるのが俺たちだ。
・・・そう、約束したはずだぞ?》


「・・・うん。 ありがとう、イザーク。 迎えにはディアッカたちも来る?」



イザークはキラを心配させないようにと咎めるような口調でキラに話しかけた。
そんなイザークのことが分かったのか、キラも苦笑いを浮かべ、
その場にはいない残り2人の幼馴染みのことを聞いた。




《あぁ。 アイツもキラに会えるのを楽しみにしているからな。 ・・・キラ、プラントはお前たちを受け入れる。
そのために、俺たちはがんばったのだからな》


「・・・イザーク、その辺になさいませ。 まだ言いたいことがおありでしょうが。
その辺は生身で再会してからにしてくださいな」


《・・・了解した。 港の方には足つき・・・AAを受け入れるように要請しておく》




イザークはラクスに言われると開いた口を塞ぎ、本来の問題を口にした。



「はい。 ・・・では、また後ほど」


《あぁ。 ・・・無事に俺たちの所へ来い》




そんなイザークにラクスは微笑むと、通信を切断した。
ハロを使っての通信は盗聴される心配はないが、長く使用していると怪しまれることがあるのだ。
キラ、アスラン、ラクス、イザーク、ディアッカ、ニコルの6人は
彼女たちがまだ月の幼年学校に通っていた頃からの幼馴染みであった。
彼らは‘超’のつく天然であるキラを大変可愛がっており、
彼女に告白をしようとしていた者たち・・・害虫共を駆除していた人物たちでもある。



「・・・では、キラ? 私たちも参りましょう? ・・・マルキオ様、私たちはプラントへ発ちますわ。
・・・マルキオ様方もいらしてくださいな。 彼女はここに参りますから、危険です。
子どもたちのことも彼らは知っておりますから安全です」



ラクスは『ハロ』から後ろへ視線を変え、この家の主でもある導師・・・マルキオに微笑みかけた。



「そうですね・・・。 私たちも一緒に参ります。 ここは、オーブはもう安全ではありませんからね」



マルキオの言うとおり、オーブは安全とは言えなくなっていた。
先ほどキラたちが聞いていた会談の内容は、
今まで中立を保っていたオーブが連合と同盟を結ぶという最悪な内容であった。
その内容は、カガリのSPをしていたアレックス=ディノ、
つまりアスラン=ザラの身柄以外の暗殺が条件であった。
ラクスが静かに怒りを感じさせている原因が、
キラの姉と言っているカガリが自らの血を分けた実の妹であるキラを暗殺しろと連合に提示したことである。
ラクスを含むキラの幼馴染たちは揃ってキラ至上主義者たちである。
彼らが今までに見てきた者たちよりも儚く、気高いキラの性格が好きなのである。
時折、天然ゆえに危険なこともあるが、アスランを初めとするナイトたちが純粋無垢に守ってきたのである。



「・・・マリューさんたちもご一緒なさるでしょう? アチラには、あの方の手がかりを持つお方がおられますわ。
バルトフェルド隊長は元々コーディネイターですから、本国へ戻られるでしょう?」



ラクスはマルキオから視線を外すとその隣にいた元AAの艦長であるマリュー=ラミアスと
エターナルの元副艦長、アンドリュー=バルトフェルドに微笑みかけた。

マリューは先の大戦時に行方不明になってしまった恋人、ムゥ=ラ=フラガの行方を探していた。


当時、AAを守るために『ストライク』に装備されている『ビームシールド』で地球軍の新造艦『ドミニオン』の主砲を受け、
そのまま行方不明になった。



その状況からMIAに認定されたが、戦後処理を行ったところ、
『ストライク』が完全に無くなってはいないため、フラガが生きているかもしれないという希望が出てきた。



「・・・もしかして、‘彼’も生きているの?  確かに、彼ならばムゥの居場所も分かるでしょうね・・・。
ここにいても危険ということならば、私たち元AAのクルーも一緒にプラントへ上がるわ」

「俺も一緒に行きますよ、歌姫。 今の俺は、ここにいる姫たち守るためにいるようなものだからな。
・・・キラ、念のために鍛えておいてよかっただろう?」



マリューとバルトフェルドは同意を示し、バルトフェルドはキラにウインクをつけた。



キラは、彼の指導の下でアスランがプラントに発ってからずっと鍛錬を重ねてきた。

元々民間人でありながらMSに乗れるほどの身体能力があるのであれば、
徹底的に鍛えればそれなりに役に立つと考えたからである。



「・・・そう、ですね。 MSの基本操縦、ナイフ術、口読術、爆弾処理、後は基礎体力でしたか?
・・・まさか、こんなことになるとは思わなかったのですが・・・ね」



キラは苦笑いを浮かべながら指を折って数えた。


確かに、キラのMSの腕はピカ一ではあったが、彼女の場合は独学であった。
基本から学びなおすとまた違う使い方もあり、彼女自身ためになったと感じている。



「では、マリューさん。 あなたがAAの艦長席にお着きくださいな。
やっぱりAAの艦長さんはマリューさんですわ」



ラクスはキラ達を孤児院の地下に連れて行き、『ハロ』の口を開けてカード型の鍵を取り出した。


AAはこの孤児院の地下に隠されており、アスランたちの手によって修理されていた。

もちろん、海中での運転も可能で、マスドライバーなしで宇宙に上がれるようになっていた。

「よく、こんなものをあのお転婆娘にばれないで修理できたな」



バルトフェルドは感心したように、かつての敵艦であり同盟艦となったAAを見つめた。



「私がカガリさんに見つかるようにすると思いますか?
あの方はいわば今まで自分の責任を果たそうとなさらなかった只のお人形さんと同じです」



ラクスはニッコリと微笑みながら口では辛辣なことを言ってのけた。



確かに、カガリは今までウズミの娘・・・獅子の娘として育ったにも関わらず、我儘に育った。
先の大戦においてもキラたちの足手まといになると分かっていながら戦闘へ出撃しようとし、
側近でカガリの世話役をやっていたキサカをいつも困らせていた。



戦争が停戦状態となった今となってもカガリの我儘は直らなかった。
カガリは元首に選ばれたが、自分の役割を完全には理解していなかった。
キラの頼みでアスランはカガリのボディーガード(SP)をやっていたが、


それすらもアスランが自分のことを好きだからと勝手に妄想し、アスランを初めとする面々を困らせた。

カガリが無断で抜け出そうとすれば自動的にアスランたちの仕事が増えることだからである。



「・・・では、『アークエンジェル』発進してください!!」



ラクスの笑みに隠された黒い部分に苦笑いを浮かべたマリューは、
戸惑いながらも2年前まで座っていた席に再び座り、号令をかけた。


操舵席に座っていたのは、2年前にもその席にいたアーノルド=ノイマンである。
彼のほかにも管制官を勤めるジャッキー=トノムラや
CICにて通信傍受・情報分析をするダリダ=ローラハ=チャンドラU世、
整備班長であるコジロー=マードックの懐かしい姿もあった。


彼らもラクスの招集により、このAAへ集まった。



マリューの号令により、再び発進したAAは孤児院の地下から直接海中へ出て、
オーブ海域をオーブ軍に見つかることなく脱出したのである。





キラたちがAAに乗り込んでオーブ海域を脱出した頃、
オーブの行政府内にあるアスハ宮の中心にいたカガリは数ヶ月前から忽然と姿を消した自分の片割れと
〈プラントの歌姫〉を躍起になって探していた。

「何をしている!! 早くキラとラクスを探し出せ!!
あいつらを暗殺して、地球軍に同盟の証を早く見せるんだ!!」



カガリはキラをもう既に可愛い妹とは思ってはいなかった・・・。



「・・・カガリ様。 キラ様は貴方の妹君ではないのですか?」



カガリのその一言を聞いたキサカは自分の耳を疑いたくなった。



それもそのはずだろう。
自分の主君でもあるカガリが血の繋がっているたった1人の妹を暗殺しようとしているのだから・・・。



「何をいまさら言っているんだ。 あいつは私の妹である前に、私としても地球軍としても邪魔な存在・・・。
第一、私はあの泥棒猫を実の妹だと思ったことはない。 あいつをアスランの目の前から消すいい機会だろう?
幸い、アスランもプラントへ言っているから今のうちにキラを消してしまえば分かることのない。
・・・キラさえ消えればあいつは私を見てくれるんだ。 ・・・元々双子だから顔は同じだ」


(そうだ。 アスランにとっても私のほうがあの女よりもいいはずだ。 私には、権力もある。
それに・・・私は選ばれたんだ。 母親から生み出されなかった化け物とは違う。
あの化け物と違って、私は母親の胎児として生まれたのだから。
能力的にはあちらが優れているが、私もナチュラルとしては優れている)




彼女は2年前、キラの自室の近くで彼女がアスランに話した自分の出生の秘密を打ち明けたのを盗み聞きしていたのである。



カガリの言っていることは他人が聞けば彼女の思いは分からないだろう。
しかし、言っている本人はそれが正しいと本気で思い、
自分のために血の繋がった妹を殺してもいいと思っていた・・・。




だが、カガリは分かってはいない。
例え、キラが本当に死んでいたとしてもアスランがカガリを好きになることは永遠にないということを。
彼は、昔からキラ以外の異性に対して冷たい態度しか取ってこなかった。
カガリに少し優しいのは、決して彼女が好きとかではなく、只単にキラの姉であるからに過ぎない。




彼は、キラがこの世にいなくともキラのみを求め続ける。



そのことを知っているのは、彼らと付き合いの長いラクスたちであろう。








2005/05/27

加筆・修正
2006/02/05

再up
2007/03/19













時々、日記のsssもこちらに再録していきます。
一応設定的には本編ベースですが、ニコルは生きています。
この時点で半パラレル世界。
第3勢力にはイザークも関わっていることになっています。
ただ、プラントでの情勢も知りたかったのであえてともに行動をしなかっただけです。
ニコルはそんなイザークを影でサポートしているという役割です。