「キラをクサナギから連れて帰りました。 ・・・ラクス、もう俺は黙ってはいませんよ? これでも今まで我慢をしてきたんですから。
その俺を怒らせたのは・・・あの愚か者なんですからね?」



俺の最愛を拉致したことだけでも十分、許されることじゃない。
・・・俺は、あの愚か者に忠告をしていた。
その忠告を聞かなかったのは、あの愚か者・・・・。
他のことには興味はないが・・キラを傷つける者は、誰であろうと許さない。







目覚めた獅子。
獅子の呼びかけに、妖精もまた目覚めた。
獅子の最愛な姫を大切に思う彼の者たちが・・・目覚めた。
愚か者の末路は・・・まだ、誰にも分からない・・・。








INVOKE
  ― 逆鱗 ―








アスランとの通信を切ったラクスはアスランの予想通り、にこやかな笑み・・・だが、
その表情とは反対にどこまでも冷たい色を瞳に宿らせたラクスの姿があった。彼女はすぐさまディアッカに通信を開いた。



「こちら、ラクス=クラインですわ」



《・・・・歌姫か。 ・・姫は見つかったのか?》



「えぇ。 ・・・アスランの予測どおり、クサナギにおられましたわ」



《・・・あのじゃじゃ馬か。・・・・あいつ、完全に切れたな・・・・》




通信に出たディアッカはラクスの言葉だけで今のアスランの心情を正確に把握した。
彼は人の心に敏く、1〜10まで言わずに断片的に言えば正確に状況を把握することができる。

ディアッカはラクスのことを〔歌姫〕と呼び、キラのことを〔姫〕と呼んでいた。
彼はキラの性別が〔女〕だと言うことを知らないはずだが、
天性ともいえる“第6感”によって何かを感じていた。
それにより、キラを〔姫〕と呼んでいた。
それに対し、カガリに対しては〔じゃじゃ馬〕としか呼んでいなかった。
彼女は一応にも今は壊滅状態とはいえ【オーブ】の獅子であるウズミの一人娘(養女だが)であるため、
〔姫〕なのだろうがディアッカはその愛称を呼ぶことがない。
彼は元々敵だったが素直な性格の持ち主でありザフトにいた頃に
“氷の貴公子”と影で呼ばれていたアスランが唯一表情を変えるキラを大変気に入っており、
そのキラを傷つけることしかしないカガリに対しては非友好的な態度をとっていた。



「そうですの。 ・・・そこで、ディアッカにも手伝っていただきたいと思いましたの」



《俺に? ・・・あのじゃじゃ馬にちょっとしたお灸をするのか?》



「・・えぇ。 それしか方法はありませんわ。
一度、私だけでなくアスランからも忠告があったようですが・・・
それでもこのような騒動を起こされましたからには、それなりに・・・・・と。
それに、忠告を聞かなかった方に、お灸を据えてでも聞かせなくてはならないでしょう?」



通信機越しだが冷笑を浮かべたラクスの冷たい空気を感じたディアッカは
軽く背中に悪寒を感じながら了承の意をラクスに伝えた。




(・・・歌姫も姫が好きだからな・・・。 これは、想像以上に凄いことになりそうだ。
・・・・まぁ、相手はあの女ならば同情する余地はないが・・・てか、自業自得だろ?)




ラクスとの通信を切ったディアッカは心の中だけでカガリに対して毒をついた。

こうして、アスランを始めとするキラ至上であるラクス・ディアッカの協力を得て
今回の騒動を起こした愚か者に対し、キツイお灸を与えることとなったのである。







一方、クサナギではエターナル・AA間でそのようなことになっているとは知らない・・・
ある意味おめでたい思考回路を持っている【オーブ】の獅子の娘はキラだけではなく
アスランを導いたペットロボであるトリィに対しても憎しみを募らせていた。




(・・・あの鳥が邪魔をしなければ、この計画はうまくいった!
・・なぜ、私の邪魔をする!! たかが、ペットロボの分際で!!)




・・・・まったく反省の色を見せない救いようのない馬鹿は、自分の行おうとした行為を棚に上げ、
その計画を邪魔した存在に恨みを募らせていた。
彼女の思考回路に‘反省’と言う文字はないに等しかった・・・・・。






エターナルではアスランによって救出されたキラは彼女たちに与えられた部屋で
アスランに抱き締められながら安らかな眠りの中にいた。
本来、キラ1人で眠るはずだったのだが先ほどのこともあり不安に思ったキラを痛々しく思い、
添い寝と言う形で同じベッドに寝ていた。
守るように抱き締めるアスランに安心感を抱いたキラは、
悪夢に魘されることなく安らかな笑みを浮かべながら深い眠りについていた。
そんなキラを優しい眼差しで見つめていたアスランは、
キラの睡眠の邪魔にならないように心がけながら優しくウイッグの外された美しい長い栗色の髪を撫でた。

しかし、彼の中に渦巻いているのはキラを傷つけようと企んだ金色のじゃじゃ馬・・・
カガリに対しての深い憎しみだった。




アスランは元々カガリの存在自体好きではなかった。
以前に地球の無人島にて初対面で馴れ馴れしい部分もあり、
そんなカガリの性格はアスランにとって一番嫌いに分類されるものだった。
その後、【オーブ】での地球連合との攻防戦の折、
無意識にキラを援護する形になったアスランはキラと生身で話すために地上に降りた。
キラと話してアスランもこの戦争の無意味さを知り、
アスラン自身自分が本当に望むものは誰なのかを再確認した時でもあった。

しかし、そんなアスランに何を勘違いしたのか
アスランと自分が出会ったのは何かの運命だと信じ込み、尽くキラとの時間を邪魔されていた。
その様子を近くで見ていた彼らとともに行動するMSパイロット2人組は、
アスランが不機嫌なオーラを出しているのに気付き、
キラ自身も最初の辺りは彼女の性質なのか、
我慢をしていた点もあったがそれに気を良くしたカガリが頻繁に邪魔をするようになり、
流石のキラも2人っきりの時間を邪魔されて多少なり不安に瞳を揺らすようになった。
そのことにより、2人は仲裁に入って・・・2人の時間を確保するようになった。
2
人は近くで見ていたこともあり、どちらに非があるかを正確に見抜き、
アスランがキラとの時間を取れるようにカガリに対して先制攻撃を仕掛けていた。
フラガにいたっては最近までのキラの様子を同じパイロットだったために他のクルーたちよりも
接する時間が多かったためなのかただ単にキラを気に入っているためなのかは定かではないが、
一番不安定な時期のキラの様子を知っているため・・・そして、
その不安を唯一解決できる人物を知っているためにカガリを2人から遠ざけた。

ディアッカは同じ場所で所属していた“氷の貴公子”ことアスランのやわらかい雰囲気を
気に入っていたディアッカもまた、フラガと一緒にカガリを遠ざけた。

彼らの協力により、不安定な状態であったキラの精神状態も宇宙に上がるころには
僅かながらも安定してAAのクルーたちもそのことに安堵していた。

しかし、【オーブ】の崩壊と同時にキラに突きつけられた真実によって再び不安な色を瞳に宿すこととなった。
崩壊の際、クサナギに乗せられたカガリにウズミによって渡された一枚の写真がその原因である。
・・・ウズミはキラたちが一度【オーブ】に来た際、キラの育ての親であるヤマト夫妻に会っていた。
その時、子どもたちには事実を隠し通すと言っていたが、やはり1人の親だったのかその約束を違え、
キラの心情も省みずに養女の心配だけをしてまだ生まれたばかりのキラとカガリの写った写真を手渡した。
その写真を宇宙に上がったばかりの頃カガリによってキラとアスランに見せ、
親を失ったばかりということでクルーたちの同情を受け、嘆き悲しんだ。

そんなカガリに対し、どこまでも他人を優先するキラは自分が混乱しているにも拘らずカガリを慰めていた。

悲しみによって嘆き、優しくするキラに当り散らし、
アスランに少しだけカガリに優しくしていたため踏ん切りをつけたと同時に大きな勘違いをした。





――――――― アスランはキラではなく自分を選んだ ―――――――― と。





【プラント】に一度戻り、自分の父である議長のパトリックと決別して尚且つ父に銃を向けられたアスランもまた、
その事実をクルーたちには告げず、彼が唯一嘘のつけないキラだけに告げていた。
アスランもまた、キラの中で生まれた葛藤に気付き、
ヤマト夫妻に本当に愛されていたキラを隣で見ていたアスランだからこそ
言える事実をキラに諭すように語っていた。
ラクスもまた、自分の最愛の父を失った点ではカガリと同じだが彼女の場合、
周りのことを一番に気遣い、一滴の涙をクルーたちに見せることなくエターナルの指揮を執っていた。
そのことに不憫に思ったバルトフェルドにより、
一時の休息として彼女が一番気に入っているキラとの時間を設けたりしていた。
その際はアスランの姿もあり、穏やかな色を瞳に宿しながら彼女たちの様子を見ていた。
ラクスはキラやアスランの前と最愛の彼の前だけで“歌姫”や“エターナルの艦長”
などの肩書きなしの“ラクス=クライン”に戻れるのだ
(ラクスが付き合っている人物はクルーゼ隊所属であるが、決してアスランではない)。

彼らとカガリの違うところはこういうところである。
彼らは第一に周りや今の状態を優先的に考え、
個人である自分たちの心の問題などは全て自分の心に溜めてしまう傾向がある。
だが、カガリは彼らとは正反対である。周りの状況や迷惑を顧みず、
自分の意思を他人をも巻き込んでまで通そうとする。同情され、慰められることを当然に思い、
尚且つ自分の都合のいい解釈しかしない。

クサナギで起こった騒動から数日が経ち、
最終戦に向けて全艦で最後の修正を行っていた時にパイロットたちは
最も危険な戦闘区域に行くために自分の機体の最終チェックをするだけで
格納庫から整備士たちに追い出される形となって
自室で警報がなるまでの僅かな休息の時間を与えられた。



「・・・歌姫によって俺はこっちに呼び出されたが・・・いいのか?」


「大丈夫だ。 ・・・エターナルのブリッジにある宇宙地図、ちょっとだけプログラムを書き換えたんだ。
・・・半径・・・50,000kmならば余裕で感知する。 その時、AAに戻っても何の問題もない」


「・・・書き換えたのは姫か。 ・・・まぁ、早く敵を感知したほうがいらない犠牲を払わずに済むからな」



ディアッカはアスランの発言にため息をつきながらアスランと共に今回招集をかけた人物・・ラクスに会うため、
彼女の自室である艦長室に向かった。



「・・・ラクス? 来ましたよ」


「ロックは解除されておりますわ」



ラクスの言葉にドアを開けようとすると中からピンクの物体が
アスランの顔面めがけて飛んできたがアスランは慌てることなく片手でピンクの物体・・・ハロを受け止め、
平然とした様子で部屋の中にはいった。
その様子を隣で見ていたディアッカは少しの間放心状態を起こしたが
今回自分が来た意味を即座に思いだし、アスランの後を追うように部屋の中に入った。



「キラはいかがなされておりますの?」


「・・・先ほどの戦闘の折、今までの疲れが一気にピークに達したのでしょう。
機体の整備を終えたとたん、俺の腕の中で眠ってしまいましたよ。
・・・この話が終われば俺は自室で待機しております。
・・・あの女がこの艦に来ないとしても・・・心配な種を摘んでいたほうが俺の精神的にもいいので・・・」

「もちろんですわ? ・・・ディアッカ、イザークと連絡が取れました。 ・・・イザークと話されたのですね」



アスランにキッパリとした主張ににこやかな笑みを浮かべながら同意し、
今まで沈黙を守っていたディアッカに話しかけた。



「!? ・・・なぜ、イザークと歌姫が連絡を?」


「・・・ディアッカはご存じなかったのですね。
私、アスランとではなくイザークとお付き合いをしておりますの」



ディアッカが驚いているのにも拘らず、爆弾発言をしたラクスはのほほんとした表情をしていたが、
その発言を聞いたディアッカはあまりのことにそのまま呆然としていた。



「・・・・ディアッカ、驚くのは後だ。 ・・ラクス、本題に入りましょう」



「そうですわね。 ・・クサナギに、今まで見たことのないMSがございますわ。
・・・名前まではわかりませんでしたが・・・その形は
“STRIKE”にそっくりだと報告ではありますの。
・・・・そのことをAAにお伝えしたところ、AAが【オーブ】にいらした時に“STRIKE”の返還の折、
カガリさんはご自分が乗るとおっしゃったそうですわ。
ですから・・・多分、その機体はカガリさんのものかと思いますの


「・・・・よっぽどの自信過剰なのかただの自殺願望?」


「敵によって落とされても俺たちの責任じゃないな。 ・・・大方、本当の目的はキラの暗殺だろう?
・・・はやり、アレだけでは懲りてはいない・・・か」

ラクスの言葉に一番呆れた顔をしているのはディアッカであった。
彼らはザフトに入隊する前にアカデミィーで鍛えられ、MSの操縦関係もきちんと習った軍人である。
MAの操縦とMSの操縦はわけが違う。
もたもたするうちに敵からの攻撃によって墜落する可能性が一番高い戦闘兵器である。
カガリはそのことをあまり理解していない部分があると言うことをラクスの言葉によって再確認された。



「そうですわね。 ・・・最後の戦闘の折には出てこられると思いますわ?
・・・死なない程度に痛い目にあわれないとなりませんわね。
・・・ですが、いい機会だと思いますわ? MSのコックピット内がどれほど孤独かと言うことを・・・
どれほどの恐怖が心に宿ると言うことを存分に体験していただかなくては」



ラクスの言葉に2人は何の反論も見せず、逆に同意とばかりに頷いていた。
そのことによって、カガリがその機体に乗って戦闘に出た際もアスランたちが援護をすることなく、
クサナギの部隊に任せるというかたちで話がついた。



「・・・この戦争が終わったら、この艦は本国に向かうのか?」


「そのつもりですわ。・・・アスランたちはいかがなさいますの?」


「俺はキラを連れて本国に向かいますよ。
・・・【月】に還ろうと考えていますが・・・今はまだ危険な状態ですからね。
・・・【オーブ】や地球の降ろすことは論外ですし」

ディアッカの確認にラクスは頷き、黙って聞いていたアスランに尋ねた。

アスランは少し考えるように左手を顎においていたが、
前々から考えていたことが一つに決定したのかエターナルと共に本国へ帰還することに合意した。








2006/04/15















次回で終われます(多分)
ラクスの口からトップシークレットが出てきましたねv
イザークは今回出番はありませんが・・、当サイトはサブCPはイザラクですのでv
愚か者の末路・・どうなるんでしょう?(ォィ)
最後まで、お付き合いくださいませ。