「そうですわね。 ・・・最後の戦闘の折には出てこられると思いますわ?
・・・死なない程度に痛い目にあわれないとなりませんわね。
・・・ですが、いい機会だと思いますわ?
MSのコックピット内がどれほど孤独かと言うことを・・・
どれほどの恐怖が心に宿ると言うことを存分に体験していただかなくては」



コックピットの孤独・・・・。
キラはその孤独をずっと耐えてこられましたわ。
彼らのように軍事訓練をやっておられないキラにとって、
精神的にも・・・肉体的にも辛い思いをなされたはずですわ。
そんな、キラの気持ちも分からず、守られることを前提にしか考えない彼女の考えには、
到底同意はできませんわね。
それ以前に、彼女は私の大切なお友達であるキラを傷つけましたわ。
・・・キラを大切に思っているのは、何もアスランだけではありませんのよ?







賽は投げられた。
後に残すのは、今目の前にある戦局のみ。
その戦局は・・・誰もが最終戦だということを感じ取っている。
《核》を使用した地球軍。
《核》と同じほどの威力を保持する《ジェネシス》を発射したザフト。
彼らは、この2つの大量破壊兵器を完全に破壊することができるのだろうか?
・・・戦場に出るパイロットの中に、邪な事を考える者が果たして・・・。
全てが思い通りにならないことを・・・身をもって、知ることになるとはこの時、
ごく一部の真実を知る者しか知るよしがなかった・・・・・。








INVOKE
  ― それぞれの道 ―








一方、クサナギのドッグにいたカガリは目の前にある機体を眺めていた。




(・・・・この機体が私の・・・・。あの化け物が乗っていた“STRIKE”のパーツで作り出したこの機体。
OSも【オーブ】でナチュラル用に作られたOSが搭載されている。
奴に操縦できて、選ばれた私が操縦できないはずがない。
・・・それに、いざ戦闘に出て危険な目にあったとしても婚約者であるあいつが
私を守らないなんてことはありえないからな




相変わらずのおめでたい思考回路でこれから起こるであろう未来に胸を躍らせていた。
カガリにはもう一つ今回目の前にある機体で戦闘に出る切欠となったことを思い出し、
一瞬にしてキラとそっくりな顔を醜く歪めた。




(・・・戦闘に“FREEDOM”を狙っても敵と入り乱れているから、アスランたちが気付くはずがない。
・・・あの化け物の背後にいればいつでもコックピットを狙える)




カガリの真の目的・・・それは、戦闘にまぎれてのキラ抹殺であった。
しかし、カガリの思考回路はアスランには読めており、
その企みが成功するかどうかは記するまでもないだろう。





それぞれの思考が交差する中、最終局面が開始された。
カガリの企みはアスランには予測できていたと言うこともあり、カガリをクサナギの近くに置き、
キラと2人で『ジェネシス』と『ヤキンドゥーエ』に向かった。
もちろん、AA、エターナルの近くにはディアッカ、フラガのほかに今では
クルーゼ隊ただ1人となっているイザークの姿もあった。
彼は自分を盾にしてエターナルを守るかのようにしているため、
その点に関して敏感に察するディアッカは
以前ラクスの言っていた本来付き合っている人がイザークだということに気付いた。

ディアッカはエターナルのブリッジで宣言したとおり、カガリを守らず、
カガリの近くに来た敵をピンポイントでは狙わずに機体を一緒に攻撃していた。
もちろん、その攻撃を味方にわからない程度にピンポイントで狙っているため、その攻撃の正確さからやはり、
彼はエリートの隊に所属していたと言う事実を彼の宣言を聞いていたクルーたちは感心していた。





コックピット内では見えないところから来る攻撃によってパニック状態を起こしていた。




(なぜ、アスランは婚約者である私を助けてはくれない!?
なぜ、シュミレーション通りに敵に当たらないんだ!)



カガリはこの期に及んでまだアスランが自分の婚約者だと勘違いをしていた。
クサナギで彼女はシモンズによってMSの基本操縦を教えられていた。
しかし、それは所詮シュミレーションでしかない。
本当の戦闘をゲーム感覚としか思っていなかったカガリに対して現実はそう甘くはない。
因みに、キラは教えられてはおらずほとんど自己流である。
・・・基本的な部分はキラに対してのみ心配性を発揮するアスランによって教えられた。

恐怖によって逃げまわるピンクに近い機体を横目で見ていたディアッカは止めと言わんばかりに機体が再起不能となる場所を狙い、
超高インパルス長射程狙撃ライフル』を発射させた。
ディアッカの攻撃がピンポイントにヒットし、
ディアッカと事情を聞いていたイザークが侮蔑を込めた視線を送っている中、
死の恐怖を存分に味わったカガリはクサナギの援護によって帰還した。




(・・・さて・・と。 邪魔な奴はいなくなったな。
・・・まぁ、アレだけコックピットを掠めれば嫌でも恐怖を感じるだろうよ)




ディアッカは淡々として今まで見ていた戦闘の評価をすると
AAとエターナルに近づくザフト・連合のMS部隊に容赦なく攻撃を仕掛けていった。

そのことをディアッカから通信を受けたアスランは、コックピット内に黒いオーラを充満させていたが、
キラとの通信時にはその黒いオーラを綺麗に引っ込めていた。

【プラント】が地球に向けて放とうとした『ジェネシス』を“JUSTICE”と“FREEDOM”によって破壊され、
『ジェネシス』と『核攻撃』によって両軍の戦闘が不可能となった。
・・・それ以前に、両軍のトップが戦死したため、
それぞれの軍人たちは長きに渡っての戦闘に疲れていたということもあった・・・・。

【プラント】でのアイリーン=カナーバによってクーデターを起こした最高評議会の停戦協定に連合も同意し、
1年にも及んだ地上・宇宙を巻き込む『コーディネーター』と『ナチュラル』の間での戦争は、
双方の疲れによって歩む道を選んだ・・・・・・。

終戦の放送をそれぞれコックピット内で聴いていたアスランたちはそれぞれの艦に戻り、
パイロットスーツから普段着として着用している軍服を身に纏い、艦内で一番広い食堂へと向かった。




食堂にはそれぞれの艦の重要人物の姿もあり、クサナギからはキサカ、シモンズ、カガリ。
AAからはマリュー、フラガ、ディアッカ。
食堂に集まったエターナルのメンバーはラクス、バルトフェルド、キラ、アスラン。
そして・・・最終戦争の折にエターナルと
“BUSTER”を守った“DUEL”のパイロットであるイザークの姿があった。



「イザーク!? ・・・ラクスの護衛か・・・」


「この艦が本国に向かっているからな。 ・・・・危険人物もいるようだからな・・・?」



アスランはイザークの存在に驚いたが
彼の本来の婚約者であるラクスがエターナルの艦長を勤めていたのでイザークがラクスの護衛をして当然であろう。
イザークが目敏く視線を送ったのは先ほどの戦闘で無様な姿を晒したカガリである。
彼は詳しい事情をラクスから聞く以前にカガリが纏っている不穏なオーラを敏感に感じ取り、即座に敵と認定していた。

クサナギからは本来、キサカとシモンズの2名しかエターナルに行かない予定だったが
やっぱり例のごとくカガリが我侭を言い、無理やりついてきた結果である。



「・・・皆様に集まっていただいたのは今後のことについてですわ。
長きに渡ったこの戦争も終結を迎えましたわ。
今、あなた方の目の前に2つの道がございますわ」


2つの道?」



ラクスはAA側であるマリューたちに視線を向けると彼女たちの目の前に2つの道を提示した。



「えぇ。・・・この艦、エターナルは本国に向かいますわ。
私たちを含める『コーディネーター』は本国に帰還いたします。
・・・クサナギのクルーの方たちは地球へ降りられるのでしょう?」


「そうね・・・。 地球に降下する予定よ」


「AAの方々には選ぶ道がございますわ。
私たちと一緒に本国へと向かうかクサナギの皆様と一緒に地球へ降りられるか・・・」



シモンズの言葉を聞きながら提示を続けたラクスは一度、そこで言葉を止めた。



「・・・ない。 ・・・とめない。 私は、認めないからな!!」


「・・・何がですの?」


「キラは私の弟だ! アスハに連なる者だ。 そんな者が【プラント】に行くことを私は認めない!
・・・それに、アスランは私の婚約者だ。 アスランも私と一緒に地球に降下するべきだ!」



カガリは自分の発言が正しいかのように宣言し、
アスランに守られるように抱き締められていたキラにキツイ視線を浴びせた。



「・・・・いつ、俺がお前の婚約者になった?
先ほどから好き勝手な言葉を言っているが・・・俺はお前と婚約した覚えはないぞ?
キラがお前の弟? 俺は、お前と俺の愛おしいキラが血の繋がりがあるということを認めてはいない。
キラは列記としたカリダさんたちの大切な一人娘(・・・)だ」

「・・・ん? アスラン・・今、娘って言わなかったか?」



アスランの言葉に引っかかりを覚えたのはディアッカである。
彼は元々いろんな方面で聡く、なんとなくキラに違和感を感じていたが接触する機会があまりないこともあり、
自分の感が感知しているかどうかを確かめることができなかった。

ディアッカの言葉に頷いたアスランは優しくキラの頭を撫でると無言のまま
キラの本来の長い髪を止めているウィッグの金具に手をかけた。

アスランによって外された偽者の髪の下には癖毛のない美しいブラウンの髪が
1Gに逆らうことなく靡きながら青の軍服の上にと落ちていった。



「キラは列記とした女だ。 そして、キラこそが俺の本当の婚約者。
俺は、キラ以外を一生愛することはない」



アスランはカガリに冷たい視線を浴びせると不安そうに見つめていたキラに対して
カガリに見せた表情と180度態度を変えた様子に再び叫びそうになったカガリを
すかさずイザークが腹部を強く打ち、気絶させた。



「・・・これで話を戻せますわね。・・・マリューさんたちはいかがなさいますの?」


「私たちは受け入れられるのならば【プラント】に行くわ。
・・・・キサカさんたちの前で言うことじゃないと解っているのだけど・・・・
カガリさんが治める国に行きたいとは思わないもの・・・・」



マリューはキッパリとした口調で自分たちの意思をラクスに伝えた。



「解りましたわ。 ・・・キサカ様、先ほど最高評議会から通信が入りましたの。
クサナギの一時入国を許可されるそうですわ。・・私から一つだけ守っていただきたいことがございますの」


「・・・なんでしょう」



ラクスがニッコリと微笑みながらキサカに話しかけ、キサカは内心ラクスの微笑みに冷や汗をかいていた。



「今後一切、カガリさんとアスランたちの接触を私たちは許しませんわ?
・・万が一、キラを傷つける行為をなさったら【オーブ】国民の方々の入国・移住を一切許可いたしませんわ」



キサカは目の前にいるラクスが本気だと言うことを彼女のバックにある黒いオーラを感じて即座に頷いた。
彼にしてみても1人の主君の我侭のせいで国民全体が迷惑を被ることを
いつまでもさせておくことではないということをしっかりと感じていた。

未だに気絶しているカガリを抱きかかえたキサカはシモンズと共に自分たちの艦であるクサナギに戻り、
マリューたちもまた留守にしているAAに戻った。

自室に戻ったアスランとキラはエターナルが【プラント】に着くまでの間、
今までできなかったゆっくりとした時間が過ぎ、
必要最低限以外部屋の外にでることがなかったがそのことを誰も咎めたりしなかった。



「・・・キラ、【プラント】で一緒に暮らそう? もう少し情勢が落ち着いてきたら俺たちの故郷である【月】に還ろうね?」


「・・・僕、アスの傍を離れたくないの。 ・・・戦後の処理をする時は、僕も一緒に働くからね?」


「・・・・あまり、無理をしてはだめだよ? ちゃんと、睡眠をとること」


「アスが傍にいればちゃんと寝られるもの。 ・・・・もう、アスと離れたくないの」



キラは弱々しくアスランの袖を掴むと放さないとばかりに力を込めた。

そんなキラの様子に苦笑いを浮かべたアスランはキラを安心させるように頭を優しくなで、了承とばかりに頷いた。

アスランの頷きを見たキラは、
【月】でアスランと離れて以来見せることのなかった心からの笑みを自然と表情に出していた。
キラの笑顔に笑顔で返したアスランは心のうちでキラが微笑んでいることに対して安堵の息をついていた。

【プラント】の港に着いたアスランたちはそれぞれ与えられた場所へと移動して行った・・・・。







ラクスとの制約どおり、キサカはカガリとアスランたちの接触を一切させず、
かつての悲劇の場所となった【ユニウスセブン】にて連合との調印会に出席し、
それ以来【オーブ】の復興のために事実上【オーブ】に捕らえた。
キラたちもまた、自ら【オーブ】に渡ることを拒み、アスランと共に【プラント】で過ごすこととなった・・・・・。





このことにより、彼らは再び会うことがなく、
彼らの居場所においてはラクスやイザーク、ディアッカの力によって様々なものから隠れ、
アスハの力を使って探し出そうとしたカガリに対してため息をつきながらも
社会的制裁の方法で【オーブ】を沈黙させることとなった。






彼女たちの〔平和〕は、彼女たちを大切に思う者たちによって守られ、
徐々に戦争によって傷ついた心を癒していった・・・・・・・。









END.








2006/04/15















完結です!
一応、某姫は生きております。
ですが・・・今後一切、アスランたちの前に姿を表すことはないでしょう。
ディアッカはイザークのように成績関係に闘志を燃やさないので、
あまりアカデミー時代の成績は他の“紅服”(アスランたち)よりは低いです。
ですがそれでも、2年後の“紅服”(シンたち)よりは遙かに高いですが;
この後、ラクスはカナーバから議長の座を渡され、ラクスが議長に就任いたします。
アスランとキラは戦後、
しばらくの間は世界の平和のために【プラント】で生活をしますが
世界の情勢が安定してきたら隠居し、
彼らの故郷である【コペルニクス】に引っ越す予定ですv