「・・・・キィラ。 大丈夫だよ。 キラは決して『裏切り者』でも『化け物』でもない。
キラはキラだろう? それに・・・俺はキラがキラだから一緒にいるんだよ?
キラは1人じゃないよ? ・・・大体、俺はあいつと付き合っていない。
俺が好きなのは、今も昔もキラだけだからね」
俺が好きなのは、昔からキラだけだもの。
あの女のことは、好きでもない。
キラが『化け物』?
何を言っているんだ。
ただ、生まれ方が特殊なだけだろう?
どんな生まれ方をしようと、キラがキラであることを否定することは許さない。
・・・・『裏切り者』なんかじゃないよ、キラは。
他人から、そういわれたとしても・・・その原因を作ったのはAAのクルーたち。
・・・・まぁ、今ではそのことを反省して味方・・・いや、キラの性格に惹かれてか。
共に戦っているようだが・・・・。
・・・・まだ、気付かない。
自分が、眠っていた獅子を起こしてしまったという事に。
愚か者は、自らその地雷へ足を踏み入れ・・・獅子を起こした。
決して、起こしてはならない獅子を・・・・・。
INVOKE
― 愚か者の愚行 ―
その日を境に、アスランは何事にもキラを優先するようになった。
アスランが怪我をしているにも拘らず、クサナギに呼び出そうとしたカガリに対し、
アスランはAAに行ってもクサナギには協力をしないとはっきりとした口調で答えた。
アスランの発言により、クサナギにはディアッカが向かうこととなった。
そのことに対し、烈火のごとく怒りだしたのはアスランをクサナギに呼んだ張本人・・・カガリであった。
AAとエターナルはアスランに協力していたため、カガリがAAに来る際、
アスランたちは時間をずらしていた。
そのことによってカガリはクサナギのクルーに八つ当たりをするようになったが、
そんな我侭に育てたのは【オーブ】であったために彼らは
AAとエターナルを責めることができなかった。
その中でもキサカやエリカを始めとする【オーブ】の中でも重役にいた者たちには
ラクスとアスランの言葉に頷くしかなかった。
彼らには自分たちの主君がアスランの地雷を踏んだことに気付いていた。
クサナギの一部のクルー(カガリを崇拝しているメンバー)以外には
アスランが誰を想っているのかは一目瞭然であり、
カガリがアスランにとって眼中にないということも認識していた。
そして、そのことをカガリが可愛いために教えなかったことを後悔したとしても全ては〔後の祭り〕である。
そのおかげなのか、情緒不安定気味だったキラの精神的にも余裕ができ、
僅かではあるがアスラン以外・・・特にAAのクルーたちにも笑みを見せるようになった
(エターナルクルーたちにはアスランが傍にいたため)。
そのことに喜んだのはラクスを始めとする両艦のクルーたちであった。
しかし、完全にカガリを2人から隔離できたわけではないため、
彼らは常にカガリと彼らの接触を危惧していた。
そして・・・・その予感が的中することをこの時、
先見の眼があるラクスでさえ予想は出来てはいなかった・・・・・・・・・・。
ザフト、連合からの敵襲がなく一時的ではあるが穏やかな時間の過ぎるAAに
とんでもない騒動が起こった。
クサナギのクルーがAAのクルーとアスランの眼を盗んでキラを自艦である
クサナギに拉致したのである。
そのことにアスランが気付いたのはAAにあるキラの自室でキラの不在を訴える
トリィの声と聞いてからであった。
アスランは最初にエターナルに連絡し、キラの帰還を確かめた。
だがエターナルに戻った事実はなく、AAのクルーたちに聞いたところ
整備士がキラを連れたクサナギのクルーの姿を目撃したとの目撃情報を得た。
そのことについての伝言をクルーに託し、アスランは単独でクサナギへと向かった。
一方その頃、クルーに連れさらわれたキラは狭い部屋の一室に押し込められていた。
連れさらったクルー・・彼らはカガリの崇拝者であり、
カガリの恋路の邪魔をするキラに対して敵視を向けていた者たちであった。
「カガリ様、ご命令どおり連れてまいりました」
クルーの1人が部屋の奥にいた金髪の女性・・・カガリに話しかけた。
・・・正確には連れてきたではなく拉致してきたというのが正しい。
「ご苦労。 ・・・・誰にもばれていないだろうな?」
「もちろんです。 わざわざ人気のない場所を選んで移動をしておりましたので」
「・・・そうか。 ・・・ふん。 いい様だな、キラ・・・いや『化け物』と言ったほうがいいか?」
クルーの言葉に頷いたカガリは厭らしい笑みを浮かべながら縛られているキラに話しかけた。
しかし、その瞳にはかつての優しさはなく憎しみと妬み・・・負の感情を込めた色が瞳の奥で光っていた。
「・・・お前たち、コイツを好きにしていいぞ?」
「俺たちでコイツを犯してもいいんですか? カガリ様の弟と聞いておりましたが?」
「私の弟? 私はコイツを認めない。 私のアスランを横から盗ろうとする奴が?
・・コイツと同じはずがないだろう。 それに・・・コイツは『裏切り者のコーディネーター』だ」
「それもそうですね。 カガリ様がこのような者とご姉弟なはずがないですよね。
・・・悪く思うなよ? 全ては貴様自身が招いたことなのだから。
カガリ様の想いの方を横から盗もうとするからだということを」
クルーたちはキラに侮蔑の視線を向けるとカガリの命令を遂行しようと
キラの纏う青の軍服に触れようとしていた・・・・・。
キラの身に危険が迫っている頃、アスランの伝言を自艦の艦長を通じてエターナルのクルーたちに伝わっており、
それと同時にアスランが単独でクサナギに向かったことも伝わっていた。
そんな彼の行動にAAのブリッジクルーと一部の整備士、
そしてエターナルのブリッジクルーたちはその伝達がきたことに蒼白になった。
「あらあら。 ・・・クサナギにて、一時的に暗雲が巻き起こりますわね・・・」
唯一平然とその報告を聞いていたピンクの髪をした歌姫・・・
ラクスは微笑みながらこれから起きる出来事を予言した。
しかし、彼女の瞳はその微笑を裏切るような冷たい冷気を伴っていた。
《・・・限界を超えた・・・ということかしら?》
「そうですわ。 ・・・ですから、私が予め忠告を申しましたのに。
・・・その後、彼の口からもちゃんと忠告をなされたそうですわ」
「そして、その忠告を聞かずにあのじゃじゃ馬姫は見事にもあの少年の地雷を踏んだ・・・ということか」
AAの艦長とエターナルの副艦長はため息をつきながらラクスの言葉を聞いた。
彼らはアスランが本気で・・・キラに関しての怒りにおいてどのような被害になったかをその身をもって知っている。
そのため、クサナギの心配をしているが忠告をしたにも拘らず思いっきり
アスランの地雷を踏んだ者たちに同情をするつもりもなかった。
唯一ラクスが平然としていられるのは彼女がアスランに近い考え方を持っているからであろう。
《・・・とにかく、彼がクサナギに向かっているというのなら私たちは行かないほうがいいわね・・・。
協力が必要な時は彼から連絡が来るでしょう。
・・・余計なことをして彼の怒りをこっちに向けたくはないわ》
『ナチュラル』の中でも頭の回転が速いとラクスに思われているマリューがそう決断し、
AA及びエターナルは現状維持となった。
そんなことが両艦のブリッジで会話が成立している頃、
クサナギの一室にて激しい抵抗が繰り広げられていた。
縛られていたとしても所詮『ナチュラル』の力だったので少しの緩みで拘束を解き、
恐怖によって必死に抵抗していた。
(アス以外に触られたくない! ・・・アスラン、助けて・・・・!! アスッ!!)
必死に目の前にいる男たちに抵抗していたキラは心の中で唯一自分が安心できる最愛の名を叫んだ。
しかし、体格の差なのか男たちによって押し倒されたキラは絶体絶命の状況に目を見開いた。
そんなキラに対してまったく正反対な表情をしていたカガリはこれから起こることを心待ちにしていた。
――――― バンッ!!
1人の男に両腕を床に押し付けられ、
馬乗りの状態となっていた体勢で急に外の光が部屋の中に大きな音と共に進入してきた。
「キラッ!!」
大きな音・・・扉を蹴り倒したアスランはキラの上に乗っていた男を投げるように壁に叩きつけ、
キラの腕を拘束していた男に手加減をせずに思いっきり蹴りつけた。
半端ない痛さによって煩い叫び声を上げながら拘束していた手を離すと、
放心状態のキラを思いっきり抱き締めた。
「・・・アス・・・?」
「あぁ。 俺だよ、キラ。 ・・・ごめん。 ここには、トリィが連れてきてくれたんだ。
キラの不在もね、トリィが教えてくれたんだよ?」
「・・・トリィが?」
『トリィ!』
部屋を旋回してアスランの肩に止まっていたメタルグリーン・・・
トリィに視線を向けるとトリィは誇らしげに飛び立つことなく羽を広げながら鳴いた。
トリィを見ながら儚く微笑んだキラは恐怖を思い出したのか震えた。
「傍にいるから・・・寝ていろ。 ・・・大丈夫。この手を離したりしないし、どっかに行ったりもしない」
そんなキラに対し耳元で囁き、安心させるように優しく頭を撫でた。
アスランの仕草と言葉に安心したキラは全身の力を抜いて小さく頷くと、
アスランに抱かれたままの状態で深い眠りについた。
安心して自分の腕の中で眠っているキラに優しく微笑みながら額と頬に触れるだけのキスを落とすと
壊れ物を扱うかのようにお姫様抱きのようにキラの身体を抱き上げた。
「!! 待て!!」
「・・・貴様か。 ・・・俺は以前、お前に忠告をしたはずだが? その前にラクスからも忠告を受けているな?」
「!! なぜ、お前はコイツの・・・『化け物』の味方をする? お前だけじゃない。
ラクスもだ! 私は次期【オーブ】の首長だ。 コイツじゃなくて私が人間として認められたんだ。
なぜ、その私が婚約者であるお前にあのようなことを言われなくちゃいけない!」
「・・・俺は貴様と婚約した覚えはない。 キラが『化け物』? キラはキラ自身だ。
それ以外にない。 キラはちゃんと人間だ。 人の痛みを感じる・・優しくて脆い1人の人間だ。
俺にしてみれば、貴様が人間かと聞きたくなる。 この世で・・・最も醜い存在であるお前が」
アスランはキラに見せた表情と打って変わって冷たい・・
それこそ視線だけで人を殺すことのできるような冷たい視線を自分の腕に捕まえようとするカガリに浴びせた。
そんな今まで見たことのない冷たい表情と冷たい視線を浴びせるアスランに一瞬怯んだカガリに対し、
アスラン本人はすでにキラ以外には意識を向けていないのか一瞥することもなくそのままトリィを肩に乗せ、
キラを抱きかかえてクサナギから自艦であるエターナルに帰還した。
「キラをクサナギから連れて帰りました。 ・・・ラクス、もう俺は黙ってはいませんよ?
これでも今まで我慢をしてきたんですから。 その俺を怒らせたのは・・・あの愚か者なんですからね?」
《当然ですわ。 その時は私もお手伝いをさせていただきますわ?
キラは私にとっても大切なお友達ですもの。 ・・・・そうですわね。
ディアッカにも手伝っていただきましょう。 彼もまた、キラを弟のように可愛がっておられますもの》
ラクスの声は通信機越しに聞こえるためにその表情は見えないが、
アスランには彼女が通信機の前で喜んでいるということを声でそのように予測を立てた。
2006/04/01
新装してからの更新となりますv
・・・『クサナギ』のクルーは・・・人間のすることではありませんね!(ぇ)
連れ攫ってくるだけでなく、○○しようとだなんて!(自主規制)
・・・まぁ、未遂ですけどね?
けれど・・・それを平然と命令するのは人間として既に終わっています。
次回、ザラ様が降臨なされますでしょうか・・?
けど、【制裁】ほどではないと思います。
ディアッカは、薄々とですがキラが女の子だということに気付いています。
でも、本人が秘密にしているようなので聞かないようにしているだけで・・・・。
けれども戦友だけれど‘姫’と呼ぶのはキラを可愛がっている証拠です。
ラクスを‘歌姫’と呼ぶのは前からそう呼んでいたため。
某姫のことは・・・‘姫’の名称を付けず、ただのじゃじゃ馬と呼んでいます(爆)
彼は気に入った者にしか‘姫’の名称を付けませんv
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