「トリィ、アスランがね、トリィをメンテしてくれるんだって。 ・・・だから、おとなしくするんだよ?」



トリィはアスランが創ってくれた僕の大切なお友達。
アスランと離れて、母様たちと一緒に中立のコロニーである【ヘリオポリス】に移住したけど・・・
やっぱり、アスランみたいに無防備に甘えられる友達なんか、できなかった。
ミリーも大切なお友達だけど・・・つらい時はトリィがいつも傍にいてくれた。
まるで、アスランが心配しているかのように首を傾げて・・・僕に擦り寄って来るんだよ?

だから、トリィはアスランの次に僕にとって大切なお友達なんだ・・・・・。








一時の平和だと、誰もがわかっている中で、
彼らの時間はかつて平和の象徴であった【月】での一時を彼らは感じていた・・・・。






つかの間の平和だろうと、彼らには必要な時間である・・・・。







INVOKE
  ― 天使の不安 ―








そのことを思い出していたのはキラだけではなく、
視線をトリィに合わせていたアスラン自身もそのことを思い出していた。
・・・・アスランはトリィのメンテナンスと一緒に今まで備え付けていた機能の出力を上げていたのだが。
キラの周りの騒動やその首謀者に関しての情報はアスランの耳に入っており、
その対策もかねてのメンテナンスであった。
幼年時代に保険として備えていた機能・・
特に『対人用ビームキャノン』と『追跡・探索機能』のレベルを重点的に上げた。
もちろん、キラには内緒である。
それに付け加え、キラからの要望でトリィと意思疎通のできる機能も新に追加された。
オプションとして、キラの音声とアスランの音声、
一定の距離を離れたら自動的についてくる機能も搭載させた。



「キラ、メンテ終わったよ? そろそろ夕食の時間だから・・・・そろそろ食堂に行こうか」


「うん!」



キラは以前まであまり食事を取ることがなかったのだが、
アスランと行動を共にすることになって徐々に食事をするようになっていた。
それと同じように睡眠に関しても彼と共にならば眠ることができるまで回復していた。




アスランはキラをエスコートするかのように動く腕をキラの腰に回し、
恥ずかしがるキラにニッコリとキラ限定の笑みを浮かべて拒否の言葉を封じ込んで食堂へと向かった。
その様子を見ていたエターナルのクルーたちは2人の仲のよい様子を見て安心し、
彼らの邪魔をすることなく自分たちの業務をこなした。



「キラ様、アスラン様。 AAより協力要請が来ておりますが・・。
どうもあちらに移っているディアッカさんがOSの改良で困っているとか」



食事を取っていた2人に遠慮がちなクルーが話しかけた。
その内容とは今はAAに移っているディアッカからの要請だった。
彼の戦闘能力は高いのだがアスランとキラに比べて情報処理が苦手分野となっていた。
そのため、ソフト面に強いキラを要請していたが今の状態でアスランと離すのは酷という事を
エターナルはもちろんAAもそのことを承知していた。



「ご飯食べてからでいいな? ・・この後、ちゃんとAAに行くとディアッカに通信で伝えてくれ」


「承知いたしました」



アスランは伝言を伝えてきたクルーに食事の後だと伝え、
そのことを聞いたクルーは2人に一礼をすると彼らの食事の邪魔をしないためにその場から離れた。





そうして、2人は急がずに食事を済ませてAA・・ディアッカの要請を受けるために
エターナルからシャトルを使って移動した。








それから数分後AAに一機のシャトルが到着し、中からキラとアスランが姿を現した。



「すまんな、お2人さん。 どうしても分からない部分があってさ」


「大丈夫だよ、ディアッカ。 ・・どこが分からないの?」



すまなそうにディアッカが謝るとキラは苦笑いを浮かべながら“BUSTER”の下までやってきた。
アスランは自分たちが乗ってきたシャトルの隣にあるオーブ製のシャトルを見ると
僅かに眉をひそめながら近くにいたマードックに話しかけた。



「・・・・マードックさん。 このシャトルは?」


「あ? あぁ・・・そのシャトルはクサナギの姫さんが乗ってきたぞ?
・・・こっちとしては向こうから何の連絡もきちゃいない・・・」



アスランの言葉にマードックはどこか疲れているかのようにため息をつきながらアスランの言葉に答え、
自分の持ち場へと戻っていった。



「アスラン!!」



格納庫に耳障りな声が響いた。
怒鳴り声とも思える声の持ち主はアスランの姿を見つけるとすぐさま駆け寄り、
アスランに抱きつこうとした。
しかし、触れる寸前でアスランが避けたため、そのままの体勢で工具道具に突っ込みそうになった。



「・・・・・あっちゃー」



キラに“BUSTER”のコックピット席を譲り、
メイン画面が見えるように外で画面を見ていたディアッカは下のほうでの騒動を感知し、
視線だけを下に向けて騒動の元を見つけた。
彼はAAにいるからなのかザフトでは見せない表情を今のアスランが見せるからなのか多分後者だろうが
キラとアスランの仲を応援する1人だった。
そのため、彼らの邪魔をするカガリは彼にとってもAAやエターナルにとっても邪魔な存在だった。



「・・なぜ避ける!? 私はお前の彼女だろう?」


「・・・お前が俺の彼女? そんなこと・・・いつ決まった? 俺一度もお前を彼女だと思ったことはない。 ・・・逆に、迷惑だ」



アスランはカガリに冷たい視線を送ると、
下の騒動に漸く気付いたキラが心配そうに下を覗いているのがアスランの視界に入り、
キラを安心させるように先ほどとは正反対に微笑んだ。
その様子を目の前で見せ付けられたカガリは醜い嫉妬をキラにぶつけるように下からキラを睨んだ。
だが、その視線を受ける前にディアッカによって再びコックピット内に入っていたため、
キラには気付かれることはなかった。
しかし、カガリの隣にいたアスランには見られていたらしく、
彼の中でカガリの立場が次第にキラの肉親から敵と断定されつつあった。
彼は元々キラ以外の人間にはあまり興味も関心も寄せたことがない。
それでも共に戦うディアッカやフラガなどは信頼をしているが決してプライベートに入れようとはしない。
そんなアスランのテリトリーに入れるのは今も昔もキラだけであった。
キラだけは別であり、アスランが唯一執着する人物でもあった。




そんなキラに対し、目の前のカガリは明らかに憎悪とも思える視線をキラに向けたため、
彼の中で敵と認定され始めたのである。
彼自身、自分とキラの仲を邪魔するカガリに対し、いい感情は持ち合わせておらず、
宇宙に上がったころ優しくしていたのはあくまでもキラの肉親だと発覚したからである。
それ以上の感情はアスランの中では生まれておらず、
そのことで自分が彼女だと勘違いしている時点でアスランにとって敵と認定される要素は
十分持ち合わせていた。




隣で喚くカガリをおいてアスランはキラの元へと半重力を生かしてキラの元へ飛んだ。
“BUSTER”のコックピット付近にいたディアッカはアスランの気配が近づくと自然にその場を譲り、
今までいた場所と逆側に移った。



「・・・・あの女・・ここも出入り禁止を強いたほうがいいんじゃねーの?
毎回この調子だと整備士たちの土気も落ちるぞ」



ディアッカはキラに聞こえない程度に音量を落とし、アスランに自分の考えを落とした。
相変わらず、視線は下で喚いているカガリに向けながら。
下の騒動の原因であるカガリは自分のしていることに気付かずにアスランがキラの所に行った為に
近くにいた整備士たちに当り散らしていた。
その姿はまるで手に入らなかったおもちゃを駄々こねてねだる幼い子どものような姿で
ディアッカには露骨に見えた。



「ラミアス艦長に言ってみるか。
・・・・はやり、〔オーブの獅子〕は政治的にはよき人だったが・・〔獅子の娘〕の育て方は間違っていたな。
・・あの調子だと、【オーブ】は滅びる。 ・・まぁ、俺にとってはどうでもいいんだが・・・。
しかし、本気で国の再建を願うのならあの女を代表ではなく民主的に選挙などで
国民から選んだほうがいいのかもしれないな」



アスランはディアッカの言葉を否定することなく・・・・逆に肯定し、【オーブ】の行く末を予言していた。
確かに、この調子だとカガリが代表になったとしてもその国はすぐに滅びの道を歩むことは
今のカガリを見ていて火を見るよりも明らかなことである。




ふいに、険悪なオーラが立ち込めていたアスランの雰囲気が柔らかいものに変わった。
その正体はキラがOSの改良を終えたらしく、アスランに抱きついたのが原因といえよう。



「アスラン? どうしたの? ディアッカ、僕が気になった部分のOS、一緒に構築しておいたよ?
多分、これでいいと思うから。 ・・・あとは、自分で構築してね?
これ以上僕がするとこの機体、自分の思うように動かないと思うし・・・」



キラはアスランに抱きついたまま、
隣にいるディアッカに苦笑いを浮かべながらもOSの改良を終えたことを伝えた。
ディアッカは「サンキュー」と呟きながらキラの頭を軽く撫で、
今までキラが座っていたコックピットに収まるとキラほどではないが『コーディネーター』の中では
早いほうに分類されると思われるプログラミング能力を使い、
自分の使いやすいようにプログラムを構築していった。



「キラ、お腹が空いただろう? 朝からずっと働き詰めだったし・・・。
フラガさんがAAで食べていけって言っていたけど・・・どうする?」


「こっちで食べて行こう? この時間帯なら多分空いているはずだよ?
・・・戻ってからじゃ、多分食べられないと思う」



アスランは朝食をあまり食べなかったキラを気付かってか、
昼食をAAで取るここと薦めた。
そんなアスランの気づかいにうれしそうに微笑を見せたキラは
アスランにエスコートをされるように格納庫を後にし、食堂へと向かった。

その様子を遠くから見ていたカガリは憎悪の視線をキラに向け、ブツブツと小さな声で呟いた。
その声は周りの整備士には聞こえてはいなかったが、
『コーディネーター』であり耳のいいアスランには聞こえていたらしく、さりげなくキラの耳を塞ぎ、
急なことに不安を感じたキラにニッコリと微笑みながら格納庫を出て行った・・・・。





(化け物のくせに、私のアスランに近づくな。 ・・・そうだ。あいつをここで始末すればいいんだ。
そうすれば、わざわざエターナルに行かずともあいつがここにいる間に終わらせればいいんだ・・・)





物騒な考えと裏腹に、整備士たちに当るだけ当たったカガリもまた、食堂へと向かった・・・・・。







食堂に入ると、キラの予想通りちょうどいい人数がおり、食堂に自分たちの座る席を確保できた。



「キラ、取ってきてあげるから席の確保しておいて?」


「うん。 わかった」



アスランに言われたキラはニッコリと微笑みながら了承し、アスランから離れて席の確保のため、周りを見渡した。





・・・・アスランはこの時、大きなミスを犯した。
精神状態が不安定であるキラは、今は通常通りだがふとしたことでその精神は揺らいでしまう。
その点に気付かなかったアスランは、後に大きな後悔をすることとなる・・・・・・。






アスランとキラが離れたのを扉付近で見ていたカガリは、その隙を突いてキラに近づいた。



「・・・お前も図々しいよな? 『裏切り者のコーディネーター』で、『化け物』のお前が、
アスランの傍にいられるとでも思っているのか?」


「!?」


「アスランは私のだ。 ・・・・勘違いしているようだが・・・私は一度もお前を肉親だと思ったことはない。
誰が、『化け物』のお前を肉親だと思う?」



カガリはキラにだけ聞こえるくらい小さな声でキラを攻撃した。
キラはカガリの言葉を信じられないとでも言うかのように
微かに震える身体を抱き締めるように両肩を抱き締めた。
そんなキラを見ていたカガリは満足したかのようにその場を離れた。



「? ・・・キラ?」



食堂の片隅に固まるようにしながら自身を抱き締めていたキラを見つけたアスランは
僅かに震えているキラに慌てて近寄り、
トレイを机の上に置き、キラを優しく包み込むかのように抱き締めた。



「・・・・・・アス・・・? ・・・・大丈夫・・・だよ?」


「・・・キィラ? 俺に嘘ついたらだめだよ? 俺にキラの嘘は通用しないよ?」



キラは儚い笑みを浮かべ、アスランに心配をかけまいとしたがキラとの付き合いが長いのか、
それともアスランがただキラ馬鹿だけなのか定かではないが・・・・両方という確立もある。

とにかく、キラの両親でさえキラの嘘を見破ることが難しい場合でもアスランには通用しなかった。
そのことをちゃんと理解しているキラは一瞬言葉に詰まったが元々アスランに逆らうこともできないキラは
先ほどカガリに言われたことを小さな・・・震えた声で話した。





キラは話しながらその時に浴びせられたカガリの視線を思い出したのか、
震えが止まったと思っていたキラに再び震えが戻ってきたがその様子を見守っていたアスランは
キラが安心できるようにと優しく抱き締めた。



「・・・・キィラ。 大丈夫だよ。 キラは決して『裏切り者』でも『化け物』でもない。
キラはキラだろう? それに・・・俺はキラがキラだから一緒にいるんだよ? キラは1人じゃないよ?
・・・大体、俺はあいつと付き合っていない。 俺が好きなのは、今も昔もキラだけだからね」


「・・・アスランは、一緒にいてくれるの?」


「あぁ。 当たり前だろう? それに、キラはあの人たちの子どもだよ。
一緒に育ってきた俺が言うのだから。 キラはカリダさんたちに愛されて育っただろう?
キラもカリダさんたちが好きだからそんなに悩んだんだろうし」



アスランに抱き締められて次第に震えの止まりつつあるキラに安心した眼差しを送り、
優しくキラの髪を梳くように撫でていたアスランは涙を溜めていたアメジストの瞳にキスを落としながら涙を拭いた。





アスランの優しい言葉に癒されていったキラは自分を育てた両親のことを思い出した。



「・・・うん。 母様たち大好きだよ? ・・・そう、だよね。
例え血が繋がっていなくても・・・母様たちは僕を育ててくれたもの」


「そうだよ? キラとカリダさんたちはちゃんとした親子だよ。
だから・・・1人と思わないで? 俺は決してキラを1人になんかしないよ」



アスランはキラの耳元で囁き、額にキスを落とした。
キラはそんなアスランに安心した微笑を見せ、まだ少し躊躇いながらもアスランに抱きついた。




(・・・・カガリ? 今まで大目に見てきたけど・・・今回ばかりは俺の地雷を踏んだな?
・・キラを傷つけた以上、完全に敵と断定するしかないだろう・・・?
俺は、前あの女にちゃんと忠告をしていたはずだ)




アスランはキラを抱き締めながら髪を梳いていたが、キラに分からない程度に黒いオーラを放出し、
キラに見られていないと分かっていていつもは優しいエメラルドグリーンに
僅かな怒りが見え隠れしていた・・・・・・・・・。








2006/02/14















第3話です。
AAのクルーたちは某姫に対して、結構辛口ですねv
(エターナルほどではありませんが)
ディアッカは妹のようにキラを可愛がっているため、
キラに侮蔑的な視線を送る某姫には容赦がありません。
某姫の崇拝者・・・彼らは自分たちの保身のためです。
決して、某姫自身を崇拝してはいません(所詮、権力に弱い人たち)
AAの食堂の一件でアスランは某姫を敵と認定いたしました〜v
多分、次回からザラ様が降臨なされますv
・・・いや・・・まだ黒アスでしょうか・・?(笑)