「そうですよ、キラ様。 ここは我々に任せて、早くお部屋へお戻りください。
アスラン様が首を長くしてお待ちですよ?」


「大丈夫です。 きっとラクス様のご命令で、一度はここへ寄ると思いますから。
・・その時、無理やりにでも強制送還させていただきます」


「我々は【オーブ】国民ではありませんから。 ・・・あの人にそのようなことをしても正当な理由がありますし。
・・・非はあちらにありますからね」



私たちは貴方様たちの味方ですよ。
我々は、ラクス様のご意思で戦場に向かわれると聞いた時、
私たちは自分の命をかけてでもラクス様をお守りしようと考えました。
そんな時、キラ様が何を想い、戦っておられるのかをラクス様が我々にお教えくださいました。

そして・・・・何よりザフトで〔氷の貴公子〕と呼ばれていたアスラン様が
年相応の表情をなされるので我々は安心しました。

キラ様がお傍におられる時、周りの雰囲気だけではなくアスラン様の雰囲気も変わられますから・・・・。

そんなお2人を邪魔される方はたとえ【オーブ】の次期首長殿でも容赦はいたしませんよ。






――――― エターナルのクルーたちは誰もがアスランとキラのことを見守っていた・・・・・・・。







INVOKE
  ― 静かなる歌姫の怒り ―








整備士に口で負けたカガリは不機嫌を隠そうともせずにラクスのいる部屋へと向かっていた。




(なぜ、この私があのようなクルーたちに言われなければならない!?
私はアスランの彼女だぞ!! 自分の恋人を心配して何が悪い!!)




先ほど言われたことをぜんぜん理解していない彼女は怒りの矛先を自然とキラに向けていた。




(キラもキラだ! 私の恋人に当然のように傍にいるだなんて!
アスランはこんなところにいるべきじゃない。 クサナギに・・・私の傍にいるべきだ)




そのようなことを考えているうちに、不本意ながらの目的地である艦長室の前まで来ていた。



「ラクス、入るぞ」



ノックもしないまま勝手にドアを開けてラクスの部屋の中へ入ってきたカガリに対して、
怒りを含ませた微笑をラクスは浮かべた。
どんなに親しい間柄であっても相手の部屋に入るときにノックと確認をするのは礼儀である。
しかし、カガリはそんな常識も持っておらず、常に自分の意思を突き通してきた。
長所と思われがちな彼女の性格は、
限度というものを越しているために短所と思われているという事実に当の本人は気付いてはいない。


「・・・カガリさん。
 私は何度も言いました記憶がありますが・・・部屋に入室してくる際、一度ノックをしてくださいね?」


「? なぜだ? 私の艦ではノックなど要らない」


「・・それは、あなただけでしょう? エリカ様やキサカ様はノックなされるでしょうに」


「だからと言って、私までしなくてはならないことはないだろう?」



カガリはラクスの言うことが本当に理解できていないのか、自分の主張を通そうとした。
しかし、そんなカガリを見ていたラクスは内心、呆れ返っていた。




(・・・アスランも以前、ウズミ様がカガリさんの育て方を間違えているとおっしゃっていましたが・・・これほどまでに酷いとは。
・・・・親しい間柄でも入室する際、ノックをするのは常識というもの。 ・・・・やはり、クサナギへ戻っていただきましょう)




「・・・・カガリさん、もう一度礼儀というものを学んでくださいな。
礼儀を理解しておられないあなたをこの艦に滞在させることは許しませんわ」


「!! 礼儀くらいある! ・・・・私がクサナギへ戻るとしたら、アスランも連れて行く!
私はアスランの彼女だ。 私がアスランの看病をするさ。 なぜ、キラがする?」



ラクスの言葉に反論したカガリは先ほど考えていたことをラクスに叫んだ。
キラのことを出したら、無意識にだろうが肉親を思ってのことではなく、憎しみを持っての言い方であった。



「・・・何をおっしゃっておりますの? キラがアスランの看病をするということは、
彼がそう望んだからですわ。 ・・・・そして、アスランはあなたとは恋人同士ではありませんのよ?
 彼は幼い頃からただ1人のみを愛していらっしゃいますもの」



自分勝手のように言うカガリに怒りを感じているラクスは話すのもいやだというような表情を見せ始めた。
アスランはエターナルにキラと共にAAから移動した際、艦長であるラクスに頼み込み、
傷が治るまでの間キラが傍にいることを認めさせた結果である。
もちろん、そのことにラクスを始めとするエターナルクルーたちも同意し、
キラを呼ぶときには必ずアスランも同行することに誰も疑問を感じることなく、
逆に当然だと思っていた。

これ以上、話すことが無いとばかりに室内にある通信機を手に取り、クルーを3,4人ほど来るように要請した。



「ラクス!! まだ話は終わっていない!!」


「そのことについては、前に申し上げましたわよね? 彼は“JUSTICE”の搭乗者。
この艦・・・『エターナル』は“JUSTICE”と“FREEDOM”の専用運用艦ですわ。
専用機体とそのパイロットを割くことは不可能ですわ。
・・・あなたの考えだけでこの戦争は終わりませんのよ?」



ラクスはニッコリと微笑むとタイミングよく部屋に到着したクルーたちに先ほどよりも柔らかい表情で微笑んだ。



「この方をシャトルへ。 お帰りなさるようですわ。
・・・今度から、この艦に近づいてくる『クサナギ』のシャトルは中の方を確認していただけますか?
この方の場合、カタパルトを開かなくても結構ですわ」


「「「「了解いたしました。 ラクス様」」」」



ラクスの言葉にクルーたちは敬礼し、喚くカガリを五月蝿そうに顔をしかめながらシャトルのある格納庫へと運んでいった。



「・・・・こちら、エターナルのラクス=クラインですわ。 ・・・・キサカ様ですか?」



《こちら、キサカです。 ・・・どうなされましたか、ラクス様。
・・・先ほど、こちらのカガリがそちらへ向かったとの報告を受けましたが・・・》




ラクスは部屋にある通信機から外部・・・隣艦であるクサナギに繋げた。
ちょうどブリッジには事実上の責任者であるレドニル=キサカへの直接通信であった。



「カガリさんでしたら、先ほどそちらへ強制的に送還させていただきましたわ?
・・・このようなこと、私も言いたくはないのですが・・・。
ウズミ様は政治的には偉大な方だと父から聞いておりました。
しかし・・・カガリさんの育て方は間違っていたようですわね。
礼儀や常識を知らない方はこの艦に入ることは許可いたしませんわ。
・・・再度、このようなことがありましたら宇宙空間を漂っていただきますから。
・・・私は忠告いたしましたわよ?」



《わかった。 カガリのことは私たちが見張っていよう。 ・・・勝手にそちらへ行かないように》




通信機を通してだが、キサカはラクスが本気だということを背筋に悪寒がするくらい理解した。
ラクス自身、表情はにこやかだが先ほどの会話によって低下していた。
それほど怒っていたのだ。
カガリほど鈍感ではないキサカは硬直した表情を見せながら、ただ頷いた。

ラクスはキサカに言いたい事を言った後、すぐに通信を切り、
常に一緒にいる『ピンクハロ』にニッコリと微笑んだ。



「・・・キラが女の子だと知っているのは、私とアスラン・・・。
あとは、AAの艦長さんであるマリューさんとフラガさんだけですわね」



アスランと一緒に部屋にいるであろうキラの本当の性別は“女の子”である。
しかし、AAにいた際、〔男〕とIDを偽装していたために今でも〔男〕のフリをしていた。
アスランが知っているのは幼馴染だからである。
彼の母であるレノアはキラの母であるカリダと親友同士だったため、兄弟のように育った仲である。
そんな2人を微笑ましそうに見ていたカリダがキラに向かって
“アスラン君には秘密にしなくてもいいわよ”と言っていた為に今に至る。
彼女らは別の意味で企んでいたことがあった。
アスランはキラがキラ自身である限り、男であろうが女であろうが関係なくキラに執着していた。
そのため、将来的にこの2人が結婚することを母たちは望んでいたのだ。

ラクスが本来の性別を知っているのはそれなりの理由がある。
オーブ近海での“AEGIS”と“
STRIKE”の死闘で
負傷していたキラを助けたのは近くに戦争孤児の子供たちと暮らしていたマルキオ導師である。
彼はクライン家とは関係が深く、キラが『コーディネイター』だということを悟ると共に【プラント】まで行き、
キラの身柄をクライン家に渡した人物である。
キラが目覚めるまで看病をしていた人物はその家の一人娘であるラクスである。
着替え関係の際にキラの本当の性別を知り、その時から協力者となったのだ。

マリューとフラガが知っているのはキラが再び宇宙からAAへ舞い降りた時に
キラ自身から語られた(他のクルーたちには未だオフレコ)。

そのため、カガリは本来の性別を知らずにキラのことを弟だと公言していた。

ただ、彼女が自分を姉だと思い込んでいるだけであって、実際どちらが姉となるのかは定かではない。



「・・・キラたちの幸せを邪魔する者たちは誰であろうと許しませんわ。
あの方たちは一番幸せにならなくてはいけませんから・・・」



ラクスは誰に言うわけでもなく、呟いた。その場に数分ほど立っていたが、
どこかにか連絡を入れるために通信機を取り出した。



「・・・こちら、ラクス=クラインですわ」



《ラクスさん?・・・どうか、なさったの?》




ラクスが通信を入れたのはもう一つの同盟艦であるAAであった。
AAのブリッジにはマリューを始めとする主なブリッジクルーたちに加え、
本来ならばその場にいないはずの人物であるフラガの姿があった。



「フラガさんもご一緒でしたのね。 ・・・先ほど、この艦にカガリさんが来られましたわ。
もちろん、すぐに強制送還させていただきましたが。
あの人は自分が‘アスランの彼女’だと思い込んでいるようですわね。
そのため、常にアスランの傍にいるキラが憎いとそのように思っておられるようですわ」



《・・・身勝手にもほどがあるわね。
キラ君がアスラン君の傍にいるのはアスラン君がそれを望んだから。
彼、どう見てもキラ君に執着しているのに・・・・》




ラクスの言葉にマリューは呆れながらそう呟いた。
そのことにブリッジのクルーたちは何も言わない。
彼ら自身、そのように思っているからである。



「・・・そこで、皆様にお願いがありますの。 私はあのお2人の幸せを守りたいと思いますわ。
今まで、苦しい思いをなされたお2人ですもの。 そんなお2人が漸く幸せになれると思いましたわ。
・・・・そんなお2人を私はお守りしたいと思います。 ・・・皆様にも、ご協力をしていただきたいのです」



《私たちは全面的に協力するわ。 ・・・キラ君には辛い思いをさせてしまった・・・。
あの子には幸せになる権利を持っているの。
アスラン君が来てから、私たちにも心からの笑顔を見せてくれるようになったの。
そんな笑顔を私たちは守りたいわ》




ラクスの言葉にマリューは賛同し、クルーたちを見渡した。
クルーたちもまた、マリューの言葉に頷くことで合意を示した。

こうして、密かにエターナル・AAの間で“アスランとキラの仲を邪魔するものに容赦なし”とういう同盟が発足した。







エターナルとAAの間で同盟が発足されている頃、彼らに心配されている2人はキラの部屋にいた。



「アスラン、ラクスからの伝言だよ。
無理をなさらない程度でしたら、工具道具をお貸しいたします”って。
その時は僕が傍にいればいいんだって。 ・・・だから、工具道具を整備士さんたちから借りてきたんだ」


「ラクスが? ・・・ありがとう、キラ。 キラ、トリィを貸してくれるかい?」


「うん。 ・・・トリィ、メンテしてくれる?」


「あぁ。 ・・・キラ、昔からメンテ関係は苦手だっただろう?
何かを作りたいと思ったんだが・・あいにく、こんな調子だとね」



アスランはキラから受け取った工具道具を開けながら2人の上を旋回していたトリィを呼んだ。



『トリィ?』



「トリィ、アスランがね、トリィをメンテしてくれるんだって。 ・・・だから、おとなしくするんだよ?」



キラは自分の左指に舞い降りたトリィにニッコリと微笑み、まるで生きているかのように接した。
そんなキラの様子に微笑みながら見ていたアスランは、
キラの指に止まっていたトリィを呼ぶと内側にある電源を切った。





しばらく2人は部屋に閉じこもってアスランはトリィのメンテナンスを行っていた。
その様子を近くで見つめていたキラは3年前まで日常だった頃を思い出していた。




アスランは昔からハード面に強く、キラもまたソフト面が強かった。
それ故にキラの持つ機械類は全て2人の作品といっても過言ではなかった。
それらは2人しか使わないため、
キラのプログラムも全て2人がわかれば良いという代物だったためでもあったが。




そのためか、月に一度のメンテナンスを全てアスランが担っていた。
その際、暇をもてあましているキラであるが、
その時はいつもアスランの邪魔にならない程度に距離を置き、その様子を見ていた。








2006/01/29















第2話目です。
ラクスを始めとするエターナルのクルーたちは某姫に対して容赦がありません。
そして、アスラン、キラ、ラクス至上の集団でもあります(笑)
それ故に、アスランとキラを引き離そうとする某姫に遠慮というものがありません。
もちろん、それはAAのクルーも言えることですが(笑)
因みに、キラとアスラン、そしてディアッカに非友好的だったクルーたちは
オーブを脱出する際、避難民としてAAから降りておりますので・・・
彼らが一緒にいることに非難の目を見せるのはクサナギの一部のクルー
(過激な某姫の崇拝者)たちだけです。