「俺の“特別”は、今も昔もキラだけだ」



「彼が、あなたを好きになることは例えこの世界が崩壊してもありえないことですわ?」



「あんたさ、今まで何を学んできたわけ?
一応、それなりのことを教えられてきたんだろ?
あの国の次期元首になるんだったらさ」



何も、彼の言葉を信じなかったわけじゃない・・・。
彼はいつも優しくしてくれた。彼と同期の人に聞いても、
その人の知る彼と僕の知る彼はまったく別人だと思うくらい違うと気付いた時、本当に驚いた。

だって・・・僕には本当に優しかったから。

彼と戦ってしまったけど・・・・だけど、また一緒にいられる。

だから、気付かなかったのかな・・・?
今まででは考えられないくらい、本当に幸せだったから・・・・・。







INVOKE
   ― 整備士たちの想い ―









再び宇宙へと旅立った彼らは連合、ザフトの両軍からの追撃を避けながら
今は廃墟と化したコロニー“メンデル”に向かった。
このコロニーに着くまでに新たに1隻の艦が彼らと合流した。
艦全体をピンク色に染め、ザフトから機体とその専用艦である艦を奪取してきた人物は
【プラント】では“歌姫”と呼ばれていた少女である。
彼女達を乗せた艦が【プラント】から脱出する際、1人の元軍人も乗せていた。


彼は地球・・・【オーブ】から共に行動していた人物である。
しかし、一度自分の所属していた地であり、
己の父が命令を出しているザフトへ自らの答えを求めて一度戻り、
父との対面を果たそうとした。
しかし、息子の言葉に耳を貸さなかった父は、
息子へ銃を向け彼らの絆は完全に途切れてしまった・・・。


一度、死をも覚悟したがこの地に着くまで共にいた最愛の人物の言葉を思い出し、
その地から無事彼女の元へ帰還するべく脱走を図った。
その際、“歌姫”の派閥に所属するものから助けられ、
無事に彼女の元へと帰還を果たした。







右肩に、痛々しい銃痕を残しながら・・・・・・・・・。








「キラ? アスランのご様子はいかがですの?」



艦長室から出てきた“歌姫”の視界に入ったのは彼女の友人でもあり、
この艦の専属パイロットの姿だった。



「うん。 大丈夫みたいだよ、ラクス。
あまり無理をしないで右を使わない限りは大丈夫って軍医さんが言っていたんだ。
・・・でも、本人はここ最近工具道具に触れてないせいか、不機嫌なんだよね。
・・・アスラン、昔から嫌なことがあると必ず何かを作っていたんだ。
・・・今回は多分・・・小父様と何かあったんだと思うよ」



“歌姫”・・・ラクス=クラインに呼び止められた少年・・・キラ=ヤマトは
ラクスにニッコリと微笑みながら彼女の質問に答えた。
昔を思い出したのか、
時折苦笑いを浮かべていたが彼の右肩に残る銃痕を思い出したのか、
痛々しそうな表情を一瞬見せた。



「・・・キラ、アスランに伝えていただけます?」


「? いいよ?」


「ありがとうございます、キラ。 ・・・無理をなさらない程度でしたら、
工具道具をお貸しいたしますとお伝えください。
・・・その際、キラもご一緒なさってくださいね?」



ニッコリと微笑まれながら伝えられた言葉は部屋で
彼の帰りを大人しく待つ彼にとって救いとも言える伝言であった。
最後の言葉は少し、悪戯をしたみたいな子どもっぽい表情をしながらだが、
キラにとっては嬉しいことに変わりはなかった。



「うん。 伝えるね? あ! じゃ、格納庫から何か道具を借りていかなきゃ!!
ふふっ、きっとアスランも喜ぶよv ・・・ラクス、ハロたちのメンテも一緒に頼む?
僕もトリィをメンテしてもらおうって思っているんだけど・・・・」


「せっかくですが、まだよろしいですわ。
私は以前、メンテナンスをしていただいたばかりですもの。
キラのトリィちゃんは3年ぶりなのでしょう?」


「・・・・うん。 一応、自分でもやってきたんだけどね。
僕、メンテとかハードの細かい作業は苦手なんだ。
だから、いつも雑になってしまって・・・・。
それでも、トリィは壊したくはないからあまり触らなかったんだ」


「でしたら、私はよろしいですわ。 さぁ、アスランが待っておりますわよ?
以前みたいに、探しに来られる前にお戻りになられたほうがよろしいのでは?」


「!! そうだね。 じゃ、ラクス。 また後でね」



キラは自分のことのように嬉しそうに微笑み、
無重力のためあまり力を入れても代わりのない廊下を時間も惜しいとばかりに飛んでいった。



「・・・キラがお幸せそうで良かったですわ。
やはり、彼らはご一緒でなければなりませんわね。
・・・彼らを邪魔する方は、私が許しませんわ」



キラが向かった方向を見ていたラクスは、
誰に告げるのでもなく自らの意思を無意識に呟いていた。
彼女は彼らの思いを知っていた理解者の一人でもあり、
彼女の願いはこの艦と命運を共にしているアークエンジェル・・・通称AAのクルー達も
同じ気持ちであった。






格納庫へと向かったキラが目にしたのは、本来ならばこの艦にいないはずの人物であった。


金色の髪をなびかせ、初めてキラが会った時よりも変貌した【オーブ】の獅子の娘・・・いや、
義理の娘であるカガリ=ユラ=アスハ。
宇宙へ上がって来た時、
別れの際に父であるウズミから託された写真には“Kira&Kagari”と書かれていた。
その時は混乱してはいたものの、今ではカガリ自身がキラは弟だと公言していた。



「・・・カガリ? なぜ君がエターナルにいるの? クサナギは??」



キラはびっくりしながらカガリに近づいた。



「? なぜって・・・アスランの様子を見に来たんだ。 当然だろう?
アスランの彼女なんだからさ」



カガリは心底不思議な表情をしながら近づいてきたキラの質問に当然のように微笑みながら答えた。



「!? ・・・カガリ、アスランと付き・・・・合っていた・・・の?」



キラはカガリの答えにわずかに声を震わせながら再び問いかけた。
そのことに気付いたのは周りにいてキラたちの様子を見ていた整備士であった。
彼らもまた、ラクスと同じ考えを持っておりザフト内で有名であったアスランの変わりように
密に喜んでいた人たちであった。



「まだ、付き合ってはいないさ。 こんな時期だからな。
けど・・・この戦争が終わればそうなる。 ・・・もっと喜べよな?
結婚でもしたらアスランがお前の義兄になるんだ」



・・・カガリ自身には悪気はないのだろう。
しかし、聞いている回りにはそのように聞こえはしない。
明らかに、キラに対して敵意を持っているような言い方であった。



「カガリさん、ラクス様がお呼びですよ? すぐに艦長室へ来ていただきたいとのことです」



1人の整備士がキラを守るようにしながら2人の間に入った。
彼らはカガリが来た時点でブリッジへ連絡を入れ、
オペレーターを通じて現状を報告していたのだ。
そのこともあってか、ラクスが瞬時にこの艦に来た理由を予測し、
連絡をしてきた整備士に艦長室に来るようにと頼んだのである。



「ラクスがか? ・・・後から行くと伝えてくれ」



カガリは明らかに不満そうな顔をしながら整備士を睨んだ。



「そうは参りません。・・・お忘れですか?ここは“歌姫”の艦です。
あなたの所属する艦ではありませんので、こちらのルールに従っていただきます」



カガリの睨みにも怯まない整備士は淡々とカガリの命令ともいえる頼みを即答で断った。



「!!私は次期【オーブ】の元首になる者だぞ!その私に命令をするな!!」



一介の整備士に口答えされるとは微塵にも思っていなかったカガリは
誰にでも分かるくらいに怒りをあらわにしていた。



「・・・お言葉ですが、そのようなことをおっしゃるのでしたら尚のこと、
従っていただきますよ?・・・よろしいのですか?
自らの我侭で同盟を結んでいるとはいえ一応にも艦長であるあなたが艦を離れて
正式な通達もなしにいきなり来られているということが他の方々にばれてしまわれても」



整備士は呆れ返りながらも表情には出さずに淡々と仕事をこなしていた。
彼の言うとおり、本来ならば己の所属する戦艦をむやみやたらにと離れるべきではないのだ。
離れるにはそれなりの状況と要請がある。
キラや今は休養中であまりないアスラン=ザラとて頻繁に離れることがない。
離れるとしてもそれなりの理由があった。
彼らの乗る機体である“JUSTICE”“FREEDOM”でのOSの性能がいいため、
AAの所属機体である“STRIKE”“BUSTER”のOS改良にも関わっているため、
AAの整備士たちから要請があるからである。



「っ!!・・・・分かった。ラクスのとこから先に寄ろう」



カガリはそう言い捨てるとラクスの待つ艦長室へと急いで向かった。
その様子を呆然と見ていたキラに気の毒そうに見ていた整備士は
キラに頼まれていた工具道具を渡しながら先ほどとは違う優しい声で話しかけた。



「・・・キラ様、大丈夫ですか?
あの人が来られる前にお部屋へ向かわれた方がよろしいかと思いますよ?
・・・お部屋へ入られましたら、厳重にカギをおかけになって誰が来ても
開けないほうがよろしいですね」


「・・・でも、アスランに会いに来たのでしょう? ・・・ドア、壊されなければ良いけど」



整備士の言葉に苦笑いを浮かべながら以前のことを思い出していた。
・・・カガリがこうやっていきなり訪問してくるのは既に日常茶飯事となっていた。
もちろん、彼らが以前行動を共にしていたAAでも変わりなく、
一部のクルーたちからは敵意をも感じるくらいである。



「・・・多分、ラクス様はそのことでお呼びになられたと思いますよ?
いくら同盟を結んでいる艦の艦長殿だとしても、ここは我々の艦です。
自分の艦でもない公共のものを破壊したのですから。・・・我々でも謹慎処分は免れませんよ。
壊したのが我々の部屋にあるドアではなく、キラ様方の部屋のドアなのですから」



キラが以前のことを思い出していることに気付いた整備士は、
己の予測だがキラの心の負担を軽くしようと必死に言葉を並べた。
そのことは、彼らの話を聞いていたほかの整備士達の同意も受け、
みんな作業の手を一時止めながら頷いた。



「そうですよ、キラ様。ここは我々に任せて、早くお部屋へお戻りください。
アスラン様が首を長くしてお待ちですよ?」


「大丈夫です。きっとラクス様のご命令で、一度はここへ寄ると思いますから。
・・その時、無理やりにでも強制送還させていただきます」


「我々は【オーブ】国民ではありませんから。
・・・あの人にそのようなことをしても正当な理由がありますし。
・・・非はあちらにありますからね」



みんな、キラを心配させまいと次々と言葉をかけた。
彼らにとってキラの笑顔はその場を和ます力・・いや癒しを持っていた。
特に、アスランと一緒に整備する姿は彼らのとっても守ってやりたいと思ってしまうくらい美しく、
初めて目にした時はどこかに飾ってあるような絵画のような錯覚さえ感じたほどであった。


整備士たちの言葉に苦笑いを浮かべながらも頷き、
工具道具を受け取ってアスランの待つ部屋へと帰っていった・・・・。








2005/10/17















長らくお待たせいたしました><
SEED本編発生(【たましいの場所】付近)です。
名もない整備士・・・・出張りすぎですね;;
自分で書いていてなんですが、某姫の会話でちょっとムカついてしまい、
整備士に毒を吐いてもらいましたv(え゛、足りない?)
整備士たちにはキラを“キラ様”。アスランを“アスラン様”と呼んでいただきます。
もちろん、ラクスは“ラクス様”ですw
某姫だけは様付けなしということで。
・・・・因みに、私の中では某姫を様付けで呼ぶのはクサナギ内だけだということです。