「迷惑なんか、ならないよ? キラだからなってほしいんだ。 それに・・一緒に帰るだろう? キラは1人にしておくと危ないからね? いくら、ここが俺たち以外入れないとしても。 ・・・それとも、キラは俺と一緒にいたくない?」



俺にとって、キラは全てだから。
キラが副会長になってくれると嬉しいと思う。
・・・この学園でも、あの場所にいた頃のようにまだ【ザラ】の名前が付いてくる。
この名を欲して、キラを傷つける奴らが現れるかもしれない。
・・・そんなこと、阻止したいんだ・・・・・。
キラは、俺の大切なたった一人の大切な女性だから・・・・・。


















Everlastingly
         ― ハッキング騒動 ―

















それから数日が経ち、普通クラスの間である噂が立っていた。





―――― “Zクラスに編入してきた子はあのラクス様に匹敵するほどの美人らしい。頭もよく、この学園の編入試験の過去最高得点を超えたらしい” ――――





この噂は、もちろん彼らの耳にも入っていた・・・。



「まぁ、このような噂が流れているのですか?」


「えぇ。 ラクスは僕の情報網をよくご存知でしょう?」


「もちろんですわv 私たちの中で情報網に強いのは、ニコルですもの」



ニコルの定期報告にラクスは口元を両手で隠すようにしながら、「あらあら」と呟いた。
そんなラクスの様子に苦笑いを浮かべたニコルは自分のPC を元に戻した。



「・・・こんなこと、アスランの耳に入ったら・・・」


「何が?」



ミゲルの言葉に重なるように聞こえてきたのはこのクラスで万年トップをキープしており、生徒会長でもあるアスランの姿があった。
その隣には、噂になっている転入生・・・キラの姿もあった。



「おはようございます、キラ」


「おはよう、ラクス。 ・・・ミゲル、どうしたの?」



キラは2人の登場によって固まってしまったミゲルの姿に驚き、首をかしげた。

そんなキラの様子にアスランは気にしなくてもいいよと伝えると、キラの手を引いて自分たちの席へと向かった。



「・・・今日中にでも、執行部からの連絡を掲示板に張るぞ。 普通科のやつらが煩い」



アスランは不機嫌そうに言いながら、キラを抱き締めた。



「Σ ・・・アス・・・」



アスランの突然な行動に驚いたキラだったが、幼年時代には日常茶飯事だったためか、
苦笑いを浮かべながらもアスランの好きにさせていた。

アスランは昔から嫌なことがあると無意識のうちにキラに抱きつく癖を持っていた。だが、
多少の対人恐怖症気味のあるアスランは、自分から触れられるのは家族以外ではキラだけであった。
キラが近くにいるおかげか、キラの両親にはその反応を示すことがなかったのだが、
キラがいなかったこの3年間のうちに拍車がかかっていた。



「キラは、俺のものだ。 ・・・誰にも譲る気も渡す気もない!」


「・・・アスラン、僕は離れないよ? もう・・・1人になるのはいやだから・・・・・」



キラを抱き締める腕にさらに力を入れたアスランは誓うように・・自分たちの近くにいる者たちに見せ付けるかのようにキラの首元に顔を埋めた。




そんなアスランにキラは甘えるように身体を反転させると、自分からアスランにしがみつくようにアスランの腕の中へ飛び込んだ。



「私は、キラの味方ですわ? キラにお会いして、まだ間もないですが私はキラの笑顔が大好きですわv」


「僕も、キラさんたちの味方ですよ? 情報操作は、僕にお任せください」



ラクスはキラたちの様子に微笑み、自分の気持ちをキラたちに伝えた。
その言葉に、ニコルも賛同し、教室にいたメンバーも同時に頷いていた。





・・・2人の関係は、彼らから簡単に説明されていた。
幼い頃、お隣に暮らしていた彼らは、母親同士が友人だったためかよく一緒にいることが多く、彼らも幼馴染としていつも一緒にいた。
次第に大きくなるにつれ、その感情が‘初恋’と言うものだと自覚し、
そのことを互いに話したところ、相手も同じ気持ちだったのだと知った。
その時から彼らは幼馴染と言う立場から‘恋人同士’となり、幸せな毎日を送っていた。
その様子を見ていた彼らの両親は、娘をアスランに託すことを決意し、両家の同意の下、アスランとキラは婚約者同士となった。
反対するであろうアスランの父であるパトリックは初対面であるキラに対して親馬鹿を披露し、
キラが相手ならばという条件付でアスランの婚約に賛成を表した。
もちろん、アスラン自身キラ以外を自分のお嫁にする気は毛頭ないので、その条件を心から受け入れた。
その時から、彼らは‘婚約者’となったのだ。





その日の放課後、彼ら生徒会執行部に新しいメンバーが彼らによって発表された。
その注意事項には、このメンバーたちに対して騒ぎを起こさないことを書かれていた。
そのため、キラにインタビューをと企んでいた放送及び新聞部にアスランたちは先制攻撃を仕掛けた。
この学園は、執行部に逆らえる部活などなく、彼らに逆らおうと企む馬鹿な者もいなかった。



成績を常にトップをキープする彼らに反論するものはいないだろう・・・。



「・・・これで、少しは静かになるだろう・・・・。 今朝は本当に煩かったからな」



本館の掲示板に執行部からの連絡であるプリントを貼り付けたアスランはウンザリした表情で隣にいるキラに抱きついた。




今朝は、アスランとキラが一緒にザラ家のエレカで学園の正門に来た時、
普通科の女子が群がり、キラに対して悪意的な視線を浴びせていた。
そのことを隣にいたアスランはキラを守るようにしながら教室へ向かっていたのだが、
そのことに対しても過激なアスランのファンにとって許されることではなかった。
だが、当の本人であるキラは元々天然である故に女子たちから発せられた悪意に気づくことはなかった。

だが、アスランには明らかにキラに対しての悪意を発していた人物たちのことを覚えており、
彼の中ではブラックリストに載せられていた。
彼は幼い頃からこのようにしてキラを傷つけると断定・・又は傷つけた者に対して寛大な心を持っていなかった。
その件に対して男や女の区別はなく、彼にとってはキラを傷つけるか傷つけないかで判断されているのだ。
そして、彼は自分のファンクラブに所属している女子たちにいい感情を持っていなかった。
一部の人間は純粋にアスランに憧れている無害に属する者たちもいるのだが、それを超える過激な者たちもいた。
この者たちはアスランの人権を無視して近くのものたちに危害を加えようと企む者たちでもある。
自分たちがアスランの近くにいられないからと言い、それを正当化にして近くにいる者たちに危害を加えようとするのだ。
その標的になったのがキラである。

彼女はアスランたちと同じ“紅”を纏う者にも拘らず、1人になった隙を付いてキラに危害を加えようとした。
しかし、その場合にはキラと一緒に行動をしているトリィのおかげで今まで無事にいたのだ。
このトリィにはアスランが昔から変質者に狙われやすいキラに対してアスランが作った対人用の撃退兵器でもある。
威力は失神する程度に抑えられているため、死人は出さないがこれによって何人ものの失神者が続出した時期があった。

もちろん、常に行動を一緒にするアスランの目を盗んでキラに危害を加えようとした過激なファンたちはこのトリィによって撃退されてきた。
しかし、その数が半端ないことをアスランは必然的に知っているために、その先手を打ったのだ。



「この連絡を入れて、まだ僕たちに手を出そうとする者たちがいれば・・・アスランは徹底に潰すでしょうね・・・」


「当然だ。 俺は、警告を出したのだからな」



ニコルは苦笑いを浮かべながら未だにキラに抱きついているアスランを見たが、
アスランは平然としながらニコルに対して冷たい視線を送った。

掲示板に生徒会からの連絡が張り出されたこの日から、キラに対する周りの目が次第に治まっていった・・・・・。






放課後、キラはアスランたちに連れられて彼らのみしか入ることのできない生徒会室へとキラを案内した。
その部屋にはすでに1人の青年が立っており、アスランたちの姿を確認するとこちらへと歩いてきた。



「遅かったな」


「申し訳ありません。 ・・・文句は我々の担任に言っていただけますか? 今日はHRが長引いたので」



アスランの言葉に苦笑いを浮かべたのは部屋の中にいた青年だった。アスランの隣にいたキラは青年の顔を見たまま驚いてしまったためかそのまま固まってしまった。



「おや? この子が新しくこの生徒会に入ったメンバーか?」


「はい。 彼女はキラ=Y=ザラ。 私の婚約者でもあります」



青年はキラの存在に気付いたのか、キラを見ながらアスランに尋ねた。

アスランは青年の言葉に頷き、未だ固まっているキラに苦笑いを浮かべながら青年の問いに答えた。



「・・・・キラ、正気にお戻りくださいませ。 この方は私たちの担任であるフラガ先生の実のお兄様ですわ」


「姫が驚くことも仕方がないと思うぞ? 初対面の奴は絶対センセと似すぎて固まるから」



ラクスは固まったままのキラを心配してキラに話しかけ、
その様子を見ていたディアッカは苦笑いを浮かべながら自分の担任と目の前の青年の顔を比べた。
目の前にいる青年・・・ラゥ=ル=クルーゼと彼らの担任であるフラガは列記とした実の双子である。
しかし、クルーゼが幼い時に養子に出ているために苗字が違っている。
だが、彼らは一卵性双生児のためかややこしいくらい同じ顔である。
普段クルーゼはサングラスなどをして区別が付くようにしているがこの時、ちょうどサングラスを外していたため、
アスランの隣にいたキラは真正面から彼の顔を見たことになる。



「Σ す、すみませんでした。 初めまして、キラ=Y= ザラです」


「いや、こちらこそすまなかったね。 私は生徒会の顧問をしているラゥ=ル=クルーゼだ。
まぁ、ほとんどこの学園は生徒に任せているから私がいなくともいいのだがね」



キラは慌てたようにクルーゼに挨拶をし、クルーゼは苦笑いを浮かべながら挨拶を交わした。



「クルーゼ先生。 キラにはこの学園のPCの管理を任せたいと思うのですが・・・・」


「この学園のPCを? その仕事は君が受け持っていなかったか?」


「確かに、私が受け持っていた仕事です。 しかし、私よりもキラのほうがPCに対しては優秀ですよ?」



アスランはクルーゼとキラの挨拶が終わったのを見届けると今日この場に来た本題を伝えるため、クルーゼが何かを問いかける前に話した。


PCの管理は彼ら生徒会の中でもPCに強いものでなくてはならなかった。適任者ではアスランとニコルであったが、ニコルにはすでに別の仕事があったためこのことを頼めなかったのだ。そして、ニコルよりもアスランの方がメカ関連に強かったこともそれに影響していた。

そのアスランがキラを認めていたのだ。彼としては幼い頃から近くで見てきたため、彼女の能力を誰よりも理解していた。
幼い頃からずば抜けていたアスランに唯一媚びたりせずにそのままのアスランとして接し、
尚且つキラ自身も優秀なためにアスランが煩うこともなかった。



「アスランがそこまで言うのなら、優秀だろう。 では、理事会のほうではそのように伝えておこう。
今のところ、何も依頼を受けていないから、残る必要はない。
4大イベントである入学式はこの間終えたからな」



彼ら生徒会は4大イベント・・・『入学式』『体育祭』『文化祭』『卒業式』を主に取り締まるが
大人たちの中でのトップである『理事会』からの依頼などが時々あることがあるのだ。
彼らは生徒会役員でもあると同時にスペシャリストたちでもあった。



「・・・あの、お話中で申し訳ないのですが・・・・」


「どうした? キラ」



クルーゼの話を聞きながら早速PCの電源を入れていたキラは、アスランの言っていた内容を見ているうちにある部分に気がついた。

キラの呼びかけに瞬時に反応したのはアスランで、クルーゼとの話を折ってキラの傍に寄った。



「このPC、ハッキングを受けていますよ?」


「え!? ・・・このPCの中には生徒の個人情報が入っている!!」



キラの言葉に慌てたのは傍にいるアスランではなく遠くからキラの言葉を聞いたミゲルだった。
当の本人とアスランは目の前の画面を覗いてた。



「キラ、今すぐロックとハッキング元を調べられるかい?」


「今やってるよ。 ・・・このハッカー、まだ未熟・・と言うかあまりにも無謀だね。 これじゃ、追跡されるに決まってるのに・・・・」



キラは呆れを含む声でありながら指先は流れるようにキーボードの上を叩いていた。
その速さは並大抵ではなく、見慣れていたアスラン以上にタイピング能力が高かった。

目の前で構築されたプログラムは彼らには理解できないプログラムだったがその性能は思っていた以上の代物でハッキング部分と遮断され、
そのプログラムが作動すると同時にキラの指が止まった。



「キラ? 見つけたのかい?」


「うん。 このIP・・・個人用だね。 今、特定中だから」



尋ねてきたアスランに対してニッコリと微笑んだキラは、4桁の数字を入力してエンターを押した。





しばらく沈黙の続いた生徒会室だったが、キラの前にあるPCから警報のようなものが鳴り響いた。



「・・・特定、終わったみたいだな」


「うん。 ・・・ここの生徒のようだよ。 個人情報・・・あった。 この人みたい」



キラの示した名前に、彼らの行動を見守っていたイザークたちもキラとアスランの後ろに集まった。
そんな彼らがキラの示した名前に反応を見せ、
他人・・物事に対してあまり関心のなかったアスランと学園内の内情をまだ把握していないキラの視線を浴びた。



「こいつのPCで間違いないのか?」


「当たり前だ。 キラの能力に関しては俺も認めている」



ディアッカの質問にいち早く反応したのはアスランである。
彼の場合、他人には興味を示さないがキラ至上のために彼女のことについてはどのような小さなことにでも反応を示す。



「・・・こいつ、今回のテストで俺たちに負けたやつだ」


「そう言えば・・・自分で“秀才”って言っていたな」


「あら。 自信過剰の方ですの?」



ミゲルとラスティの言葉に反応をしたのはラクスで表情はいつものように微笑んではいるものの、彼女の瞳がその微笑を裏切っていた。



「学園の一環で、生徒と講師全員が対象となって個人PCを持っていたから・・・特定が簡単だったね。
ハッキングの跡を見ると・・・どうも個人情報をコピーした形跡があるよ」


「・・・明日、この人を生徒会に招集する。 キラ、今からこのデータを証拠として集められるかい?」


「もちろん。 ・・・集めたらプリントに印刷するね。 ・・・ついでだから全てに僕が作ったセキュリティーデータを組み込んでおくね」



キラは呟くようにハッキングされたデータを調べた。
学園の方針で全ての生徒・・・いや、学園の関係者に個人のPCを所持することが義務とされていた。
そのことにより、学園内にあるPCは全て生徒会など重要箇所にしかおかれておらず、
授業などでネットを使う際は個人のPCということが原則とされていた。
そのため、全てのIPやアドレスなどは生徒会の中でもセキュリティーが厳しく、
そこまではハッキングをされていないためもれる心配性はない。



「・・・アスランの言うとおり、君にはPCの管理をしてもらおう。 こんなに優秀とは思わなかったよ」


「キラのプログラミング能力は私でさえ勝てませんから。 この学園で最も優れていると思いますよ」



クルーゼでさえ関心させる力を見せたキラはアスランから褒められたこともあり頬を赤くしてはにかんだ。

ハッキングした犯人の動かぬ証拠をプリントアウトしたキラはそのデータをアスランに手渡し、PCの電源を落とした。



「重要データはこのPC以外から開けないようにロックを掛けておきました。 ・・・先生方のIPも明日にでも組み込みますから」


「その必要はない。 私たちは全員分の個人情報を毎年、学園側から受け取っている。
もちろん、そのデータは厳重にロックされているから安心しなさい」



真っ黒になったPCの画面を見つめ、ため息をついたキラは後ろにいたクルーゼに振り返り、
教師陣のデータも組み込むと言い出したが教師陣は予めデータを学園側から受け取っているためにその必要がないとキラに伝えた。



「・・・でしたら安心ですね。 今日はこのあたりで帰ります。 アスラン、帰ろう?」


「そうだな。 ・・・明日、放課後にこの者と普通科の役員を集めてくれ。
・・・この者の処罰と例の合同会議の話し合いをしなければならないからな」



クルーゼの言葉に頷いたキラは一度ニッコリと微笑を浮かべると自分の荷物を持っていたアスランから荷物を受け取り、
自分のすることを終えたとばかりにアスランと一緒に生徒会室から退室した。

アスランの最後の言葉をちゃんと理解しているキラを除くメンバーたちは小さく頷くことで了承の意をアスランに伝えた。








2006/05/27













約1ヶ月ぶりの更新です。
アスランは、キラやキラの両親・自分の両親に触れられることは平気です。
しかし、幼い頃から下心のある大人たちがアスランに取り入ろうとしていたため、
そのトラウマからキラやキラの両親以外の他人に触れられることを拒絶してしまいます。
自分から触れるのはキラだけです(他人の場合)
ハッキング関係は・・・やったことがないので詳しくは知りません。
その辺りはスルーしてくださいv
・・本当にやっていたら、ソレは犯罪ですから;