「そうだな。 ・・・明日、放課後にこの者と普通科の役員を集めてくれ。
・・・この者の処罰と例の合同会議の話し合いをしなければならないからな」



・・・・合同会議。
これの所為で最近、ゆっくりする暇がない。
あちらからの提案にも拘らず、なぜ俺たちがそのほかの処理をしなければならない。
合同・・と言うのなら、それなりの下準備を終えなくてはならないのに。

・・・・まぁ、どちらにしろ今回があの学園との関わりも最初で最後だ。



教師陣が承諾したとしても・・・・最終的に俺たち執行部が否決したら二度と、このような事態になることはないだろう。


















Everlastingly
         ― キラの過去 ―

















SEED学園は全寮制である。そのため、学園の徒歩圏内にそれぞれ専用の寮がある。
普段女子寮と男子寮に分かれているのだが彼らのクラスであるZAFTには2名の女子しかいない。
そして、その2名とも婚約者が同じクラスにいる。
そのことによって学園側から彼ら・・ZAFT専用の寮・・【プラネット】が提供された。
部屋割りは当然のごとくクラスの席順となっている。
このことに彼らから不満の声はなく、寮だがほとんど新婚のような生活を彼らは送っていた。
寮専用の食堂があるにも拘らずそれぞれの部屋にはキッチンがついているため、
アスランが生徒会の仕事を寮に持ち込んだ際にキラが夜食を作っていた。
昼食も学園の食堂に行かず、キラの手作り弁当を生徒会とクラス、
屋上と時々場所を変えながら2人仲良く昼食を取っているのが最近の彼らの行動であった。
キラは幼い頃から家事などを手伝っており、料理などを進んで作ったりしている。



「・・・アスラン、生徒会室で言っていた‘例の合同会議’って何?」

「あぁ・・・アレか。
この学園の近くにある・・確か俺たちの学園のように能力があれば
『コーディネーター』でも『ナチュラル』でも受け入れるんじゃなくて、
『ナチュラル』しか受け入れない学園・・・オーブ学園の生徒会が言い出した会合だよ」



アスランはキラにウンザリとした表情で明日の日程を伝えた。


彼らの住む地区・・【プラント】と呼ばれるこの地区には『コーディネーター』と『ナチュラル』が一緒に暮らしていた。
彼らは同じ人間なのだが能力の差からこのように名称を変えていた。
生まれる前に人為的によって遺伝子を操作された者たちが『コーディネーター』であり、
遺伝子操作を受けていないものが『ナチュラル』と言われていた。






彼らの通うSEED学園にはこのような人種的差別はなく、
『コーディネーター』であっても『ナチュラル』であっても多彩な能力が認められ、
尚且つ難問といわれる学園の試験に合格すれば通えるシステムになっている。
それにより、普通科には『コーディネーター』と『ナチュラル』が共に学習を行っている。
彼らのクラスが普通科よりも特殊なため、今期のメンバーにいないだけだが歴代のZAFTには『ナチュラル』がいたとされている。




それに引き換え、SEED学園の正反対の位置に建っている学園であり、
【オーブ】と呼ばれる地区には『ナチュラル』しか暮らすことができず、
そんな地区に建つ学園・・オーブ学園は『ナチュラル』しか受け入れない。
ZAFTと同じような学科である連合学科・・・通称・ブルーコスモスは金持ちの生徒しかいない。





オーブと言う言葉を聞いたキラは自分でも気付かないうちに身体を強張らせ、無意識にアスランにしがみついていた。



「・・・・オーブ・・・? カガリ=ユラ=アスハ・・・・?」

「? ・・・カガリ=ユラ=アスハ? あぁ、確かそいつが今期から会長を・・・って、なぜキラがそのことを?」



アスランはオーブ学園の会長の名前がそんな名前だったと書類にあった名義を思い出し、
その名を知っているキラに問いかけようとキラを覗き込んだ時、キラが硬直して僅かに震えていることに気付いた。


「・・・僕、その人に会いたくない!! ・・・・やぁっ!!」

「キラ!? ・・・まさか、前の学校がオーブ学園!?」


「・・・・うん・・・・。 母様の遠い親戚が、オーブ学園の理事であるウズミ=ナラ=アスハ・・・・。
母様たちのお葬式の後、急にあの人が来て・・・・僕をアスハ家に引き取った人だよ・・・・」


「・・・だが、あの学園は『コーディネーター』は入学することができないはずだよ? キラは『コーディネーター』だろう?」



しがみつき、震えるキラを守るように抱き締めたアスランは優しい口調で諭すように・・・
キラの中にある恐怖を煽らないように注意しながらキラの話に耳を傾けた。
アスランの言葉に頷きながら、当時の恐怖を思い出しているのか震えた口調のままゆっくりと話し始めた。



「・・・うん。 全て・・・あの人の一人娘・・カガリが言い出したことなんだ。
あの学園はね、カガリの好きな人間を集めたようなものなんだ。
先生とかも僕に“この学園には入れたのはカガリ様の口ぞえがあってこそだ。
でなければお前のような『コーディネーター』をこの学園に入れることはない”
・・・・いつも、こんなことを言われた。 でも、ちゃんと『僕』を見てくれる友達もちゃんといたよ?
フレイ・・僕のクラスにいた綺麗な女の子だけど、彼女は『コーディネーター』って知っても『僕』として見てくれたんだ。
・・・カガリ、我侭ばかり言っていたからクラスで浮いていたけど・・・親衛隊みたいな人からそれは僕のせいだって・・・」


「・・・もう、言わなくてもいいから。 そんなこと、俺たちのいる学園では一切許さないから。
父上も母上もキラが大好きだから、そんな場所に戻らなくてもいいよ?
それに、キラは俺のお嫁さんになるんだからv」



静かに涙を流すキラに触れるだけのキスをしながら涙をふき取り、語尾にハートマークが付きそうな勢いでキラの顔を優しく自分に向けたアスランは彼女限定の微笑を見せた。



彼らの在籍する学園は実力主義の社会を確立していた。
そのため、遺伝子操作されていた『コーディネーター』とそうでない『ナチュラル』がいたとしてもすべて同じ教室で学んでいる。
いくら遺伝子を操作されているとしても当人の努力無しではその能力が伸びることはない。
そのため、努力次第では別に『コーディネーター』だからと言って優秀と言うことにはならない。
ただ、『ナチュラル』よりも覚える記憶力が優れていると言うことと覚えられる部分が少しだけ多いと言うことである。
それ以外はほとんど変わりがない。
そのため、彼らの学園では双方の間で競争はあったとしても騒動は今までない。
その考えは、彼らがまだ幼い頃に母親たちが良く呟いていたことであり、
SEED学園の創設者も彼らの母親たちと同じ考えの持ち主だということであった。
その点が彼の母であるレノアがSEED学園を選んだ理由となる。



「・・・・会長なのも、本当はフレイがなるはずだったんだ。 ・・・けど、アスハ家に逆らえないから・・・カガリが会長になった」

「・・・キラ、確かにあの学園と会合はするけど・・・多分、これっきりだと思うよ?
俺もだけどね、イザークたちもあの学園のことを良く思っていないから。 イザークはプライドが高いだろう?
そのイザークが学園にいる『ナチュラル』を認めているんだ。 ・・・けど、あの学園の人たちはどうしても認められないんだろうね」



アスランはキラを宥めるように髪を梳いていた手を止めることはせず、
落ち着かせるように軽く抱き締めると今回の会合の話をした時の執行部メンバーの表情を思い出し、苦笑いを浮かべた。
彼自身、オーブ学園のメンバー・・・・特に会長を良く思っていない。







今回の会合はオーブ学園が勝手に進めたと言ってもいい。
本来会合をする時、提案者は相手の都合を考えなくてはいけない。
自分たちの都合にではなく、相手の都合に合わせることが大前提とされているためである。
しかし、今回は全てオーブ学園の都合に合わせられたものであった。
あちらの言い分は、“我が学園と会合ができるのだ。こちらの都合に合わせるのは、当然だろう?”である。
このことに対し、SEED学園を誇りに思い、プライドの高いイザークは生徒会室で烈火のごとく怒り狂ったそうである。
彼は『ナチュラル』に対しては非友好的であるがSEED学園に在籍する『ナチュラル』に対しては友好的である。
学園に入れるだけの能力保持者たちのため、学園を誇りに思う彼にとっては受け入れられる人材である。
しかし、オーブ学園の生徒に対しては明らかに非友好的であった。
SEED学園とは違い、能力でクラス分けをすることなくそれぞれの財閥・・・
生徒の実家別とも言っていいほどの権力分けのクラス分けとなっているからである。






アスランの実家であるザラ家を含む執行部のメンバーの実家も
財界で名前を知らないだろうと言うほどの大きい財閥であるが、彼らは家の力を利用することはなく、
自分たちの力のみで今の地位を確立させた。
その点が彼らとは違う部分である。
そのため、自らの力ではなく家の力によって偉そうにするオーブ学園の者たちを友好的には思わないイザークたちである。



「・・キラ、今日はいろいろとあっただろう? ずっと抱き締めているから・・・・今日はもうお休み?」

「・・・アスも一緒・・・・?」



未だに不安そうな色を瞳の奥に宿しているキラに対してアスランは安心させるように微笑み、
壊れ物を扱うかのように抱きかかえた。
咄嗟のことに驚いたキラは慌てて床に落ちないようにアスランにしがみつき、そのままの格好で寝室へと連れて行かれた。




ベッドに優しく下ろしたキラを守るように抱き締め、一定のリズムでキラの髪を梳いた。



そんなアスランに対してキラは甘えるように抱きつき、未だ残る不安とアスランへの信頼の色を宿す瞳をアスランに向けた。





アスランは基本的にキラに甘い。
キラにとって不利にしかならない常態の場合、沈黙で通すことがあるが、嘘を述べたことは無いのだ。





沈黙と優しい微笑みに了承の意味を受け取ったキラは今までに無いほどの嬉しそうな微笑を見せた。その微笑にホッとしたアスランはいつものように頬と額にキスを落とし、キラを抱き上げると寝室へと向かった。



ベッドでキラを横たえ、自分もまたキラを抱き締めながら眠りにつこうとしてキラの唇にお休みのキスを落とした。



「おやすみ、キラ」

「おやすみなさい。 アスラン」



2人は寝る前の挨拶をちゃんと済ませるとやはり疲れがあったのかすぐに眠りについたキラを
優しい眼差しで見つめるアスランの姿があったが、2人しかいない部屋なので誰もその姿を見ることがなかった。









オーブ学園との会合が無事とは言いがたいが最悪な事態が起こる前に未遂に終わり、
再びSEED学園の生徒会にとって平和な日常が戻ってきた。
しかし、先日行われた会合において執行部メンバーであるイザークは、
未だにオーブ学園の会長であるカガリ=ユラ=アスハのとった行動にご立腹の様子であった。
彼・・・いや、執行部メンバーにとってキラは大切な仲間であり、友人である。
そんなキラに対して逆恨みからくる嫌がらせの数々に元々オーブ学園の人間を快く思っていなかったイザークは、
今回のことでその事に拍車がかかったようである。



「なんなんだ、あの女は! あれでよく、会長の座が務まるな!」

「その事に関して、私も同感ですわ。 あの方、確かオーブ学園理事長の後継者ですわよね?
あの方が理事長になられたらさぞ、評判が悪くなると思いますわ」


「それこそ、自業自得というものですよ。 そんなこと、僕たちが心配する義理などありません。
例え、評判が悪かったとしても、全てはそんな我侭な後継者を作った現理事長であり
我侭会長の父であるウズミ=ナラ=アスハの育て方です」


「・・・・俺、今までどうでもよかったけどさ。 今回のことで、オーブ学園の人間とは付き合いきれないな。
・・・例外もいるみたいだが」



イザークは嫌そうな顔を隠そうともせず美しく整った表情を怒りのあまりに歪ませ、
ラクスやニコルは微笑んではいるものの身に纏うオーラや冷たい輝きを灯す瞳がその表情を裏切っていた。
ディアッカもまた、いつものように飄々とした言い方だが言葉の内容は辛辣であった・・・・。



「・・・・僕たちの大切なキラさんを傷つけてきたその罪、万死に値しますよね。
・・・・そして、僕たち『コーディネーター』やSEED学園に通う『ナチュラル』の生徒たちのプライドも傷つけた。
・・・あの会合であの人に貰ったデータがあります。 このデータを基に僕独自の情報を使って徹底的に調べますよ」



ニコルはニッコリと微笑み、背後にどす黒いオーラを纏いながら個人PCにそのデータを映し出させた。



「・・・・二コルのやつ、完全に切れやがったか・・・・・」

「あら、私も手伝わせてくださいませ、ニコル。 確かに、あの方たちにはお仕置きが必要ですわ」

「・・・・あの2人、止めることは不可能だ。 最も、俺は止める義理はないが」



ディアッカは敏感にニコルの背後にあるオーラを感じ取り、引きつった表情を見せた。
そんなディアッカに気付きながらもニコルと同じ考えを持つラクスは止めることなく自ら参戦を申し出た。
そんな婚約者の性格を熟知しているイザークもまた、ため息をつきながら止めようとはせず軽く肩を落とした。






それから数日間、ニコルは授業がある以外はPCの前から離れることなく、アスハに関する情報を調べていた。
その中でもアスハの経営する会社はもちろんトップシークレットとされているアスハ一族に関する情報も色々と入手していた。







―――― 殆どの入手方法は正当法ではなく、ハッキングによってであるが・・・・。








2006/09/27













・・・・・4ヶ月ぶりの更新ですね;
・・色々と新しい設定や別館更新していたら・・・すっかり忘れていました;
某の暴言やSEED学園執行部メンバーとフレイ嬢の出会いは、
リクエストとして書きますv
・・・元々、そのリクから発生したモノですから;
多分、次くらいで衝撃の事実お知ることになることでしょう;