「・・・俺は、キラを巻き込んだ貴方方や
何の罪もない民間人のいるコロニー・・・ユニウスセブンを撃った地球軍を憎む気持ちは、今でもあります。
ですが、【プラント】や地球で様々なものを見て・聞いて・・・その上で思ったことはいろいろあります。
それが間違っているのか、正しいのか・・・・何が分かって、分かっていないのか・・・・。
それすら、今の俺にはよく分かりません。
ただ、自分が願っている世界は、貴方方と同じだと・・・今はそう感じています」
「アスラン・・・」
アスランの気持ちは、凄く嬉しい。
僕も、小母様や多くの同胞たちをたった一発の核で殺した地球軍が憎い。
けれど・・・憎いからといって、同じことを繰り返すのはそれこそ、愚かな事。
『憎いから殺す』・・・それは、誰もが持つ負の感情。
その感情を抑えず、その想いのままに行動するのならば、いつまで経ってもこの戦争は終わらない。
この負の連鎖を、どこかで食い止めなければ。
アスランは、そのことに気付いた。
だからこそ、こうして一緒に行動をしてくれる。
僕らが望むのは、コーディネイターもナチュラルも共存できる世界。
互いがいがみ合うのではなく、それぞれの考えを深く理解しあう世界・・・・・・。
唯愛しくて・・・
― 愚か者の主張 ―
今後の進路が決定し、直接格納庫へ向かうマリューたちと別れたキラたちは、両親の待つ居住区へ向かった。
カリダたちはすでに移動の準備を整えており、
キラたちが迎えに来るとすぐさま部屋を後にし、格納庫へ向かった。
ブリッジから連絡が来ていたのか、シャトルの準備は完了していた。
アスランは先に夫妻を乗せ、キラの手を取るとエスコートするように乗せた。
4人の搭乗を確認し、整備主任のクルーの合図と共に射出され、
アスランの操縦の元AAへと帰還していった・・・・・・。
AAでは整備主任であるマードックが受け入れの準備を整えており、着艦と同時に空気が満たされた。
慣れない無重力に戸惑う夫妻に、キラとアスランはうまく彼らを誘導し、彼らを居住区へ案内した。
居住区には、大きく分けると3つの区域となる。
士官・下士官・民間人である。
現在は軍から離反した形となったAAであるが、部屋は以前のままの状態で使用している。
そのため、パイロットであるために『少尉』という地位を与えられたキラは、士官区域に充てられている。
また基本的に部屋は2人部屋のため、アスランもキラと同じ部屋の割り振りとなっていた。
一方その頃、ブリッジにはクサナギからの通信が送られてきていた。
先ほどクサナギに向かったマリューは、その通信に不思議そうに首を傾げた。
「・・・何か、あったのかしら・・・?」
「艦長、回線が無理やり開かれます!」
不思議そうな声で呟くマリューに、
CIC担当の軍人・・・・ダリダ・ローラハ・チャンドラII世は僅かに慌てた様子で告げた。
――――― ザッ!ザッーーーー!!
《こちら、クサナギ。 聞こえているか、AA!
次期オーブ首長であるカガリ=ユラ=アスハの名において、アスラン=ザラのクサナギへの移動を要求する!
アスランは、私のだ。 私のものが、そちらにあるのは可笑しいだろう?》
通信が繋がったことを確認したカガリは、堂々と大声で宣言した。
彼女の言葉には、自分の意思が通って当然だという考えが出ており、
言っていることは既に、要求ではなくただの命令であった。
「・・・何を言っているのかしら、彼女は・・・・。 チャンドラ軍曹、この通信は一方的なの?」
「はい。 コチラから開かれたわけではありませんので・・・・。 電波干渉と同じ、と思われます」
「・・・そう。 強制的に切ってかまわないわ。
彼が今の状況で、こんな個人的なことを告げるような彼女の肩を持つとは思わないし・・・・。
何より、キラ君に申し訳ないわ」
一方的なカガリの命令に呆気に取られていたマリューだったが、
呆れた様子でため息をつきながら、チャンドラに確認した。
マリューと同じ考えを抱いたチャンドラは、電波の状況と通信回線を調べ、
あちらからの一方的なものだと報告した。
そんなチャンドラの報告に、マリューは頷くとすぐさま流れている通信を遮断してかまわないと告げ、
チャンドラはその命令どおり、ブチッとクサナギ・・・カガリからの通信を遮断した。
マリューやフラガを含め、オーブと連合の攻防戦の際にAAに残ったクルーたちは皆、
【ヘリオポリス】崩壊時に巻き込んでしまった民間人であったキラに対し、深い罪悪の念を抱いている。
それでも、アラスカ・・・いや、『ストライク』の大破とキラのMIA―戦闘中行方不明―となった辺りから、
自分たちのしてきたことを振り返るようになった。
彼らが本当の意味で一つになったのは、キラが天使と共に宙から舞い降りた時であろう。
不安定な瞳を見せていたキラの瞳には、嘗て無いほどの強い輝きが宿っていた。
そんな彼に心を打たれ、それまで信じてきたものに裏切られた彼らは、
何のために力を手にしたのか、何を守りたいのか・・・これらをじっくりと考えた。
そして、彼らの願いは、共にあるものだと知り、悟った者だけがそのままクルーとしてAAに残ったのである。
同じ頃、居住区へ移動していたアスランたちの耳にも、カガリの一方的な通信は聞こえていた。
和やかな空気に包まれていた部屋は一瞬にして、絶対零度のブリザードが吹き荒れていた。
「何、ふざけたことを言っているのかなぁ・・・・」
「・・・キラ、言いたいことは分かるが・・・落ち着け」
「これが落ち着いてられるの!? アスラン、君の事なんだからもう少し怒ってよ!!
カガリ、自分の妄想を君に・・・AAに押し付けているんだよ!?」
「だからだろ。 この俺が、お前を平気で傷つける奴をこのまま許すとでも?
・・・もう少しその儚い夢に浸っているがいいさ。 その分、絶望が深くなるから・・・な」
身勝手なカガリの発言に苛立ちを隠せないキラは、備え付けの机に拳を強く叩き付けた。
そんなキラに、アスランは宥めるように自身の胸元に抱き寄せ、赤く腫れた拳を優しく包み込んだ。
アスランの鼓動と優しく宥める彼の仕草に絆されかけたキラだったが、ハッと気付いたように顔を上に上げた。
抱き締められたままアスランに抗議するキラだが、離れる気は毛頭無いようで、逆に自ら密着していった。
「・・・噂以上・・・のようねぇ。 この声の子が、姉さんのもう1人の娘・・・。
私たちは、赤ん坊の頃のことしか分からないから・・・なんとも言いようが無いけれど。
ウズミ様に受け渡したことが、裏目に出たのかしら・・・」
「指導者としては、とても素晴らしい方だったよ。
けれど、子どもの育て方は・・・間違っていたようだね。 これじゃあ、甘やかされて育ったのだろう」
仲睦まじい親友の息子と義娘の姿に、慈愛に満ちた微笑を浮かべながら見つめていたカリダは、
溜息を吐きながら今は亡き姉を思い出していた。
キラは本来、性別は女である。
が、男装をして男して振舞ってきたのには、それなりの理由があった。
ザラ家と連絡が途絶え、通信が困難になってきた際、
元々【オーブ】国籍を持つカリダたちは宇宙資源コロニー・【ヘリオポリス】に移住した。
その際、いくら中立国のコロニーでも女の身では何が起こるかわからない。
そのことを心配したカリダは、キラを男としてIDに登録したのだった。
そのため、AAのクルーを含めて両親と幼馴染であるアスラン以外、キラの性別は男だと思っているのだ。
「・・・母様、僕はカガリがきょうだいなんて・・・認めていないからね。
ウズミ様は、母様たちとの約束を破ったもの。 本人に伝えるのは、僕も聞いたから今更だと思うけれど・・・。
それでも、この状況下で知らないと思っている僕に伝えるかな?
実際、知らなかったとしたら・・・不安定になって、戦闘に支障をきたすよ」
「・・・きょうだいだと言っても・・・唯単に、遺伝子上の問題だろう?
この16年間、他人として育ったのだから・・・気にすることは無い」
アスランに抱き締められた状態のまま、カリダたちの言葉を聞いていたキラは、
彼の腕の中で不機嫌そうな表情を浮かべながら、自身の育ての親―実際の血縁関係では叔母―に抗議した。
そんなキラに、アスランは彼女の髪を飽きることなく撫で続け、諭すように優しい声で囁いた。
「そうね。 彼女は、私たちにとってはもう1人の姪だけれど・・・・。
それでも、貴女たちを傷つけることは、許されないわ」
「私も同意見だ。 なにより、アスラン君の意思を無視して話を進めるような娘など・・・彼らの子ではないよ」
先ほどの一方的な宣言に対してよっぽど呆れたのか、
冷めた色を瞳に宿したカリダは
大切に育ててきた義娘の大切な半身を奪おうとするカガリに、嫌悪感を露にした。
ハルマもまた、カリダの肩を抱きながら同意とばかりに頷き、
不機嫌そうな表情を隠そうともしない義娘に、ニッコリと優しい微笑を浮かべていた。
時は少し遡り、強制的に通信回線を開いたクサナギだったが、AAに突然切断された。
そのことに対し、回線を開いた張本人・・・カガリはCICの通信士に苛立ちを当り散らした。
「カガリッ! 貴女という人は・・・一体、何をなさっているのです!?
貴女は仮にも、この艦の最高責任者ですよ!?
その貴女が、あのような勝手な真似をしてもいいと思っているのですか!」
慌ててブリッジに入ってきたキサカは、カガリの腕を引っ張るとそのまま廊下に出た。
その様子をオペレーター席で見つめていたエリカは溜息を吐き、
呆れた表情を浮かべていたが、誰一人として気づく者はいなかった。
「キサカこそ、何を言っているんだ。 アスランは、私のモノだ。 自分のモノだと、主張して何が悪い?
アスランは、あちらではなく、こちらにいるべきなんだ。 私は、ここにいるのだからな。
大体、この艦を仕切っているのはお前だろう」
「貴女は、ご自身の立場がまだ分からないのですか!
この艦で最も地位の高いのは、貴女なんですよ!?
それ以前に、この状況下で貴女は、こちらの陣営の土気を下げるおつもりですか!!」
キサカの言葉に、カガリは意味が分からないとばかりに不思議そうな表情を浮かべた。
そして、自身の妄想がさも現実とばかりに主張し、自分勝手な発言を繰り返した。
本人の言う「次期オーブ首長であるカガリ=ユラ=アスハの名において」という権力を行使するのならば、
自分勝手な発言は控えるべきである。
権力を使うには、それなりのリスクを伴う。
クサナギのクルーたちは、その権力において命じることは可能であろう。
彼らは元々、【オーブ】軍の人間であるため「次期オーブ首長」を守るのは、義務であるのだから。
しかし、その命令はあくまで【オーブ】国民にとってのものであるため、
【プラント】国籍を持つアスランに、その権限は無効である。
また、【オーブ】国籍を持たないAAの正規クルーたちにも、その権限は無効である。
そのため、彼らの意思でもない限り、アスランがクサナギに移動することなど・・・ありえないのだ。
その事実にキサカは理解しているが、
甘やかされて欲しいものは何でも権力で手に入れてきたカガリはまったく理解していない。
キサカは諭すように告げるが、自分の都合のいいようにしか解釈しないカガリは聞く耳を持たなかった。
キサカに掴まれた腕を乱暴に振りほどくと、
舌打ちをしながら無重力ながらもドスドスとまるで重力のあるように自室へと戻っていった・・・・・・。
2008/12/31

あとがきは、最終話にて。

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