「キラと・・・カガリ?」

「・・・これをお父様から渡された時、こう言われたんだ。
『父とは別れるが、お前は1人じゃない・・・。 きょうだいもいる』って・・・! どうゆうこと・・だ?」



あいつが何を考えているのか・・・。
その浅はかな考えは、手に取るように分かる。
俺が、お前に同情するとでも?
何も、この戦争で家族を失ったのはお前だけじゃない。
お前と愛おしいキラが“きょうだい”・・だと?
遺伝子上、それが事実でも俺たちは認めていない。
あいつは、キラがその事実を幼い頃に知っているとは知るはずがない。
こんな状況でそれを見せるとは・・・やつは、自分から寄せ集め見たいな勢力の同盟を不意にするつもりか?
キラを含めた俺たちは、この勢力では重要なポジション。
パイロットの心理状況を悪化させるとは・・・考えなしにもほどがある。
さっさと引導を渡したいが・・・まだ、そんな時期じゃない。
精々、醜態を晒すんだな?








唯愛しくて・・・
    ― 進路決定 ―

















――――― プシューンッ






ブリッジでは数名のクルーたちが最終チェックを行なっていた。
ドッキング作業は滞りなく終了したものの、宇宙での任に就くのは彼らは不慣れであった。
そのため、戦闘のない今を有効活用し、万が一に備えてのチェックを行なっているのだ。



「・・・AAと似ているわ・・・」

「AAが、似ているのだ。 親は同じ、モルゲンレーテだからな。 宙域地図を出してもらえるか」



キサカに続き、クサナギのブリッジに入ったマリューは、
自分たちが乗艦している母艦のブリッジと似ていることに驚きを隠せず、ポツリと小さく呟いた。



そんなマリューの言葉を聞いたキサカは苦笑いを浮かべ、似ていて当然だと頷いた。


製造からいえば、クサナギが先である。
その後、
「【ヘリオポリス】の支社は本国の本社に報告することなく連合軍と手を結び、AAやGシリーズの製造に当たっていた」・・とは、
今は亡きウズミ=ナラ=アスハの当時全世界に向けて発信されたコメントである。
それ故に、AAとクサナギの造りが似ていてもなんら不思議は無い。
キサカはオペレーター席に座っている女性に視線を向け、
前方の巨大スクリーンに地図を出すように指示を出した。



「はい」

「エリカ=シモンズ主任?」

「こんにちは、少佐? 慣れない宇宙空間でのMS運用ですもの。 私がいなくちゃ、しょうがないでしょう?」



キサカの言葉に頷いた女性・・・エリカ=シモンズは、
ニッコリと微笑みながら指示されたようにメインモニターに宙域地図を出した。



「現在、我々がいるのはここだ。
知ってのとおり、L5には【プラント】。 L3には【アルテミス】・・・。
どちらの宙域に向かっても、戦闘は免れんだろう。
だが、いつまでもこのようにただ漂っていては我々の目指す世界には程遠い。
だからこそ、ここに陣をおくことを私は提案する」



出された地図を見ながら、キサカは自分たちの現在地を示した。
キサカの示した先には赤い点滅があり、その地点に自分たちがいることを知らせている。
また、地球を中心とした全体の地図だったため、大まかではあるがそのほかの重要ポイントが記されていた。



「L4のコロニー群に?」

「クサナギもAAも当面物資に不安は無いが・・・、無限ではない。
特に水は、すぐに問題になる。
L4のコロニー群は開戦の頃から破損し、次々と放棄されて今では無人だが・・・。 水場としては使えよう」



キサカが拠点を置くと示した場所・・・L4について、その実態を知るものは少ない。
だが、地球の軌道上で月を挟んで【プラント】と対極に位置する場所。
そして、【プラント】ほどではないにしても多くのコロニーが密集する場所であることは分かっていた。



「・・・なんだか思い出しちゃうわね」

「大丈夫さ。 ユニウスセブンとは違うよ」



キサカの「無人」という言葉に反応したマリューは、
かつて『墓荒らし』紛いなことを行なったことに対して今でも彼女の心に重くのしかかっている。
そんなマリューの心情を知っているフラガは、いつもの飄々とした表情を浮かべながら大丈夫だと頷いた。



「・・・L4にはまだ、稼動しているコロニーがいくつかある。
大分前だが、不審な一団がここを根城にいているという情報があって、ザフトは調査したことがあるんだ。
住人はいないが・・・設備の生きているコロニーもまだ、数基あるはずだ」

「じゃあ、決まりですね」



マリューたちの言葉を静かに聞いていたアスランは、
宙域地図に映し出される場所・・・母や多くの同胞たちが眠るユニウスセブンを
痛々しげな表情を浮かべながら見つめた。

そんなアスランの微妙な変化に気付いたキラは、
アスランが安心するように彼を自身に寄せ、キュッと彼の腕に触れた。


腕から伝わる温もりに、アスランは安心した表情を浮かべるとジッと前を見つめ、
淡々と自身の知る情報を提示した。
アスランの言葉に大人たちが呆然としている中、
キラだけはニッコリと微笑みながら今後の進路は決まりだと頷いた。



「・・・本当にいいのか・・・君は。 無論、君だけじゃない。 もう1人の彼もだが・・・」

「・・・少佐」

「【オーブ】での戦闘は、俺だって見てるし・・・。 状況が状況だしな。
俺だって、着ている軍服に拘る気はないが・・・。
だが俺たちはこの先、状況次第ではザフトと戦闘になることだってあるんだぜ。
【オーブ】の時とは違う。 君は、パトリック=ザラの息子なんだろう?
正規の軍人で・・・その上そのトップが肉親。 ・・・肉親に刃を向ける、その覚悟はあるのか」



呆然とアスランたちの言葉を聞いていたフラガだが、ジッとアスランを見つめながら問いかけた。
フラガが何を問いかけようとしているのか悟ったマリューは、不安そうな表情を浮かべながらフラガを呼んだ。
だが、そんなマリューに視線を向けることなく、フラガはアスランに問いかけ続けた。



彼の言っている事は正論である。
【アラスカ】や【オーブ】などで、双方を止めなければ戦争は終わらない。

そのことを理解しても、正規の軍人が軍を離反する行為について、彼は重々承知である。
己の信念が足元から崩れ去るほどのものであり、ましてアスランの場合、軍のトップにいるのは彼の肉親。
軍・・・ひいては肉親に刃を向けるその覚悟が彼にあるのか、それをフラガは問いかけているのだ。



「・・・俺は、キラを巻き込んだ貴方方や
何の罪もない民間人のいるコロニー・・・ユニウスセブンを撃った地球軍を憎む気持ちは、今でもあります。
ですが、【プラント】や地球で様々なものを見て・聞いて・・・その上で思ったことはいろいろあります。
それが間違っているのか、正しいのか・・・・何が分かって、分かっていないのか・・・・。
それすら、今の俺にはよく分かりません。
ただ、自分が願っている世界は、貴方方と同じだと・・・今はそう感じています」

「アスラン・・・」



アスランは自身の腕に触れているキラの手を優しく包み込むと、
真剣な色を宿したエメラルドを逸らすことなくフラガに向けた。
これから行動を共にするためには建前を捨て、自らが思っている本音を相手に伝える。
それが、アスランの考える誠実な想いだった。



最初に告げた言葉は、これからも彼の胸に強く残るであろう。
だが、それでも己が求める世界・・・願って、叶えるために力を得た本来の理由は、
彼らの願いとなんら代わりがないことをアスランは理解していた。




アスランの真剣な言葉と本音を聞いたキラは、静かに彼の名を呼ぶと彼の肩に自身の頭を乗せた。



「しっかりしているなー、君は」

「彼がしっかりしているのは、昔からです」



アスランの回答が満足のいくものだったのか、
フラガは真剣な表情から一転、いつもの飄々とした表情に戻った。



そんなフラガに唖然としたアスランに変わり、
頭を上げたキラは苦笑いを浮かべながら昔と変わらない彼の性分だと告げた。



「・・・【オーブ】から託された想いは、大きいぜ? たった二隻で・・・はっきり言って、不可能に近い」

「・・そうね」

「信じましょう・・・。 『小さくても、強い火は消えない』のでしょう?」



寄り添いあう2人に笑みを見せたフラガは、真剣な表情に戻ると改めて託された想いの強さを口にした。
彼らが今から行なおうとしていることは、大軍勢を率いる二つの勢力を真っ向から立ち向かおうとしているのだ。
勢力図としては、第三勢力と名乗りを上げることは可能であろう。
だが、現実問題としてたった二隻で倍以上の勢力を誇る連合・ザフトに対抗するのは、
不可能といっても過言ではない。


だが、
その二つの勢力を止め、終わりのない戦争に終止符を打つことが彼らの目的であり、
彼らが求める世界である。


キラはこれまで出会い、また平和を求めてきた人々を思い出しながらマリューたちに微笑を向けた。



キラの口から告げられた言葉に目を見張ったマリューは、微笑を浮かべるキラに微笑を返し、頷いた。



「・・・【オーブ】でウズミ氏があのようなことを告げていたから・・・何か誤解をしているようだから、
今伝えますが・・・。 ・・・父は、ナチュラルを全て滅ぼそうとは思っておりません。
そのようなことを唱えているのは、一部の過激派です。
確かに、父は過激派ですが・・・その者たちを止めようとしているのです。
父は唯、唯一の存在であった母を奪った地球軍を一掃したかった・・・唯、それだけです」



戦艦に似合わずほのぼの空気がキラたちを中心に広がったが、
静かに―キラにしか分からないほどの変化のため―聞いていたアスランは、ふと思い出ように告げた。



その内容は、【オーブ】が崩壊する寸前・・・キサカ以外の者にとってはウズミの最後の言葉・・・
「コーディネイターこそが新たな種とするパトリック=ザラの手の内だ」
・・・この言葉に対して、異を唱えた。


彼の父、パトリック=ザラは確かにザフトのトップ・・・国防委員長である。
そして、武力による抵抗を推し進める過激派の1人には変わりない。

だが、そこまで彼を動かすのは2年前に起こった核攻撃・・・『血のバレンタイン』において
最愛の妻であるレノア=ザラを失ってしまったからである。
そのため、同胞であるコーディネイターを脅かすブルーコスモスや
核攻撃を行なった地球軍に報復するために、武力による抵抗を推し進めてきた。


【プラント】も一枚岩ではない。
対話による解決を推薦する穏健派、あくまで武力行使を推薦する過激派の二つの派閥がある。


過激派は当初報復という目的であったが、一部の過激派―軍部の人間―が暴走し、
「コーディネイターこそが新たな種」だと唱えている。



告げた人間が軍部の者であったために、パトリックがそのように告げていると思われたのだろうが、
息子であるアスランはその言葉を否定した・・・・・・。











2008/10/29













あとがきは、最終話にて。