「あぁ。 まぁ、その後強制的に置いていかれたな・・・」



アレは・・・置いていかれたというよりも、故意的に放り投げたというんだろうな。
・・・まぁ、結果的には置いていったほうが奴らの命をとどめた・・・なんだろうが。
あのまま、艦にいたらアスランが止めを刺していただろうし・・・。








記憶のかけら 4











2年ほど前、当時中立を保っていた【オーブ】に、
連合のトップでありブルーコスモスの盟主でもあるムルタ=アズラエルの指揮の元、
攻撃を仕掛けてきたのだ。
第一波の襲撃にアラスカから逃れてきたAAも共に戦い、防衛を凌いだ。





この中で一番危険な目に遭っていたのはMSで唯一空中を飛べる『ZGMF-X10A FREEDOM』であろう。
連合によって新に開発された3機のMSを相手にしており、
敵の連携によって体制を崩してしまった『FREEDOM』の危機を救ったのはどこにも属していない赤い機体だった・・・・。




赤い機体・・・『ZGMF-X09A JUSTICE』は自らの盾で敵の攻撃を回避し、
背後に兄弟機である『FREEDOM』を庇っていた。
JUSTICE』のパイロットであるアスランはこの時、
ザフトから奪取された『FREEDOM』の奪還あるいは破壊という命令を本国から受けていたが、彼本人にその意思はなかった。
それ以前に、『FREEDOM』のパイロットであり彼の幼馴染でもあるキラと再び剣を交えることを躊躇ったこともあるが、
一番の要因はキラが彼にとって最も守るべき存在だったからであろう。
頭で考えるよりも先に、身体が反応してとっさに庇ったのだ。





彼の登場によって形勢は一気に逆転し、今まで見たことのない連携によって新型3機を撤退させることに成功した。






アスランたちは生身で話し合うべく、機体を寄せて地上に降り立った。
その様子を遠くから見守っていたのはAAの主なクルーたちを始め、
捕虜だったがAAを守ったアスランの同僚であるディアッカ=エルスマンやキラが以前乗っていた『GAT-X105 STRIKE』に搭乗したムゥ=ラ=フラガ。
その他にもオーブ軍のMS部隊が彼らの着陸を見守っていた。
そんな大勢が見守る中、先ほどまで空中にて戦っていた2機の巨体が沈黙し、
コックピットから姿を現した2人はそのまま歩み寄り、もう一歩のところで同時に立ち止った。
双方が沈黙しながらも見つめていると主人と製作者を感知したのかAAからハッチの隙間を潜り抜けて飛び出してきた緑の物体・・キラが一番大切にしているメタルグリーンのペットロボであるトリィの一鳴きによって止まっていた時間が動いた。






キラが小さくぎこちない笑みを浮かべながら「アスラン・・」と呟いたのを聞いたアスランは、
一瞬にしてキラを抱き締めた。アスランに抱き締められたキラも抵抗することなく3年前よりもたくましくなった胸に抱かれ、
安心しきったように全身の力を抜いた・・・。





突如目の前で繰り広げられる光景にギャラリーと化していた周りは呆気に取られ、
無表情しか見たことのない元ザフト兵はもちろん、
今まで弱いところを見たことのなかったAAのクルー及びオーブの軍人は彼らの行動について行けず、
顔中にキスをしていたアスランが満足したのか再び抱き締め、漸く回りを認めた。
アスランが回りを認めたと同時にキラもまた現実に戻ったが自分を優しく包み込むアスランの腕の中から抜け出すことなく、
よりいっそう彼のパイロットスーツを握り締めた。





そんな彼らに何かを感じ取ったのかオーブ軍であるキサカは彼らに部屋を与え、
エヌジャマーキャンセラー・・核を搭載している2機の巨体に一切手を触れないことを彼らに約束した。
その言葉を信じたアスランたちはキサカの言う部屋へと向かった。



「・・さっきはありがとう、アスラン」

「いや・・・。 とっさに庇っていたんだ」



アスランから離れないキラはいまだアスランの腕にくっついたまま部屋へ移動しており、
その横にはディアッカとフラガの姿もあった。
フラガは目の前で繰り広げられる会話に驚きの声を上げた。



「なに? お前ら、知り合いか?」

「おっさん・・・さっきのこいつの行動を見てわからなかったのかよ・・・」

「おっさん言うな!」



ディアッカはフラガの言葉に呆れ、フラガはディアッカの言葉に激怒している。
しかし、AAにいた頃に‘坊主’(男装しているため)と呼ばれていたキラは、ただ笑っていた。
与えられた部屋に行くには格納庫を抜けなければならない。
今、格納庫にはオーブ軍だけでなくAAの整備士たちもまた、集まっていた。
フラガはまだAAに用事があるらしく、
すぐにその場を離れたがディアッカはアスランたちと一緒に部屋で休むことを選んだ。







そんな時、彼ら『コーディネーター』だからこそ聞き取れた言葉が聞こえてきた・・・・。



「・・・おい、‘化け物’が増えてるぜ?」

「本当だ。 ・・・奴らの機体も俺たちが整備しないといけないのかぁ?」

「俺は嫌だぜ!? 何でまた’化け物’たちの機体を整備しないといけないんだ。
フラガ少佐の機体しか俺は整備しないぞ」



男たちは小声だが彼らの耳には届いていた。
格納庫に入ったときからどこか緊張をしていたキラに気付いていたアスランだったが、
彼らの声が届いた時しがみついているキラが何かに怯えるように縋る手に力を加えたことによって
キラの怯え方が尋常でない事を感じ取った。



「・・・キラ?」

「な、何でもないよ? 早く行こう?」



アスランの問いかけに首を横に振ったキラは、行動と表情が矛盾している。
そんなキラにニッコリと微笑んだ。



「・・・ディアッカ・・悪いが奴らを引き止めてくれるか?」

「・・・俺に拒否権、ないじゃん・・・。 ・・失神でもしてもらっとくぞ」

「俺はキラを部屋に連れて行く。 ・・・すぐに戻るさ」



小声でディアッカと会話していたアスランは視線で行動開始の合図を送ると
2人の会話が聞こえなかったキラは
キョトンとした表情を見せながらもニッコリと微笑むアスランに何も言うことができず、
促されるままに部屋へ向かった。





そんな2人を見送ったディアッカはアスランの頼まれ事に
これから起きるであろう近い未来に諦めにも似たため息をつくと、
この2年ほど身を潜めていた獅子を目覚めさせてしまった愚か者たちに同情することなく、
気配を消して失神させた。







一方、キラを与えられた部屋に連れて行ったアスランは、
未だに震える身体を守るように抱き締めていた。



「キィ〜ラ? あんな言葉を気にすることはないんだよ?
・・それに、何もキラが1人で抱え込まなくてもいいんだ。 俺がキラを守るよ。
だからキラ? 俺を頼ってもいいんだよ? それに、俺の前で涙を堪えたりしないで?」


「アス〜」

「キラ・・・、これを飲んで?」



アスランは小さい子を宥めるように抱き締める力に力を入れたアスランは
ポンポンと優しく背中を叩いた。
そんなアスランに甘えるように抱き返してきたキラに彼女限定の微笑を見せると
近くに用意していたコップを取り、キラに手渡した。
キラは首を傾げていたがアスランを絶対的に信用していたため何の躊躇いもなく
コップに入っている液体を少しずつだが飲み干した。





このコップに入っている水には少量だが即効性の睡眠薬が入っている。
もちろん、彼らコーディネーター用のである。
この薬は即効性だが後遺症は一切ない。




アスランは薬による強制的な眠りを避けたかったが、
これから起きるだろう出来事にキラの心が傷つくことがないように水に薬を混ぜた。





アスランの心内にそんな葛藤があったとも知らないキラは疑うことなくすべての水を飲み、
アスランの腕の中で強制的な眠りを受けた。




キラはそんな眠りに対しても抵抗はせず、
アスランにニッコリと微笑むとそのまま眠りについた。



「・・・ごめんね、キラ。 でも・・・これから起きることは知らないほうがいいから・・」



アスランは腕の中で眠るキラの額に触れるだけのキスを落とすと
壊れ物を扱うかのように優しく抱き上げ、ベッドの中に入れた。



布団を掛けると一度だけ優しく微笑み、
髪を撫でるように梳くと名残惜しそうに手を静かに引き、音を立てることなく部屋を出た。





部屋から出たアスランの瞳には先ほどまでキラに向けていた優しい色が一切なくなり、
冷たい色のみを残したままディアッカのいる先ほどの場所に戻った・・・。







その頃、愚かな2人を失神させていたディアッカは男たちが目覚める前に場所を移動し、
誰も来ないであろう空いていた部屋に移動していた。





しばらくすると1人の男が目覚め、ディアッカを見るとどこか怯えたように全身を振るわせた。





そんな男を見ていたディアッカだったが怯え・恐怖の色を見せる男に対し、
純粋に怒りが沸いてきた。




(・・・まだ、何もしてねーよ・・・)




男を見る瞳にディアッカは自分でも冷たくなることを感じていたがそのことに対してもどこか他人事のように捉えた。




その時、沈黙を守っていた入り口のロックが解除される音が内部に響き、外の光が内部に進入した。

その光に目覚めていた男の瞳に一瞬だけ希望のような色を見せたが、その色はすぐさま絶望に変化した。





光が遮られて扉が閉まると同時に中に入ってきた人物は
冷たい色のみを宿した瞳に冷気のオーラを撒き散らしているザフトのエリートである証の紅服を身に纏ったアスランだった。




アスランの様子に内心でため息を付いたディアッカは必死にこの場から逃げ出したい気持ちを落ち着けていた。




(・・・逃げ出したいが・・・後がヤバイからな・・・)




気配や人の感情に敏感なディアッカは今アスランの身に・・
いや、この部屋を包んでいる空気を瞬時に感じ取り、握り締めている掌に汗を溜めていた。



「すまないな、ディアッカ。 だが、移動してくれて助かる」

「いや・・・。 あの場所にいると、姫に見つかるだろう?」



アスランは冷たい色を残したままディアッカに礼を言うと
興味が失せたかのように一切振り向かずにいまだ昏睡から目覚めていない者たちを一瞥した。



「・・・先ほどの言葉、身をもって後悔するがいい・・・。
俺の愛しいキラを傷つけた罪、しっかり償ってもらうぞ?」



アスランは眼光をさらに細め、身に纏っていた黒いオーラをさらに黒くさせた。







――――― かつて、アカデミーの時に見せた恐怖とは比べられないものである。







アスランの身に纏うオーラに気付いたのか、ディアッカは手を出すことなく傍観者に徹するために壁に背を当てて姿勢を保った。






・・・どこかに支えておかないと姿勢すら保てないほど圧迫した空気が流れているのである・・・・。





今にも逃げ出しそうな男だが、部屋中を包み込む空気にやられたのかその場から一歩も動くことができない。

そんな男に対してアスランは、どこに隠し持っていたのか小型ナイフを取り出すと急所の一部でもある太股を的にして投げた



「ヒィッ!」



アスランの投げたナイフは狂うことなく男の太股に命中し、
小さな悲鳴を上げた男に対して感情が動かされないアスランは気にすることなく2本目を投げた。


2本目は先ほどのナイフと反対の太股に突き刺さり、男は恐怖と痛みに顔を歪めた。


2
本目と同時に先ほどよりも大きな悲鳴を上げた男に気付いたのか、
失神していた男も目覚め、目の前で繰り広げられている光景に息を呑んだ。



「・・・・貴様は暫くそうしていろ。 ・・・・お前もまた、あの者と同じ運命だが・・・な?」

「ば、化け物!!」

「・・・クッ。 化け物か。 俺にしてみればお前たちのほうがよっぽど化け物だと思うが?」



アスランは恐怖に顔を歪めながらも自分を罵倒する男を見下しながら、さらに眼光を鋭くした。
その鋭さと比例するかのようにアスランの纏うオーラもまた一段と冷たさを感じさせ、
男は何も言葉を発することができない。




そんな男にニッコリと微笑んだアスランは訓練の時でさえ見せなかった速度で男たちの懐に入り込み、
イザークの腕を折った時よりも強く捻った。








――――― ボキッ!!





「ぎ、ぎゃーーーー!!!!」

「・・・・五月蝿い。 コレくらいで悲鳴を上げてどうする?
キラが負った心の痛みは、コレくらいじゃないんだ」



男の腕を平然と折ったアスランは冷たい視線のまま腕の折れた男を一瞥すると腹部を思い切り殴った。

加速したまま速度を弱めることなく、しかも容赦なく急所を殴ったために綺麗に拳が入り、
悶絶しようとした男の襟を握って数発同じ場所を殴った。




アスランの攻撃に耐え切れなかった男は再び失神しそうになるがそのことをアスランが許さなかった。
失神しようとした瞬間、隣にある壁に思い切り叩きつけられ、
顔面を叩きつけられた時に男の鼻が砕けた。





先ほどよりも比べ物にならないほどの痛みを全身で感じた。


しかし、アスランはそんな男のことを気にすることなく、襟を握っていた手を離した。

男は重力に逆らうことなく床に倒れこみ、倒れた瞬間にアスランは思いっきり蹴り上げた。
蹴られた男は抵抗する間も無く扉側へと吹っ飛び、意識を失った。





そのまま気を失ったおところを放置したアスランは、
ナイフを指したままの男の元にゆっくりと近寄った。

ナイフの刺された男は失神することすらできずに痛みと
目の前で行われた行為に先ほどよりも恐怖の色で全体が染められていた。


そんな男に対してもアスランは気にした様子を一切見せず、気を失った男に見せた笑みを再び浮かべた。




微笑んだアスランは突き刺さったままの状態にあるナイフに手をかけ、
さらに深く刺した。




刺された男は先ほどよりの痛みよりもさらに刺された痛みによって、絶叫を上げた。

だが、その絶叫にも気にしないアスランはさらにそのナイフを深く刺さるように動かし始め、
大量の血が出血してきた。




その様子を見ていたディアッカでさえ、目の前で行われている光景に眉を顰めたが、
男たちに対して同情の色は見せなかった。







絶叫している男に刺したままのナイフを引き抜き、近くにあった布で血痕を綺麗にふき取ると
近くにあった扉から艦の外へと放り投げた。




出血はしているが、運がよければ艦内にいるよりも外にいた方が生きる可能性があるだろう・・・・・。








男たちにたちして最後まで冷たい色しか宿していないアスランは
外に追い出した男たちに目もくれず、
ナイフを元の場所に直してさっさとその場から出て行った・・・・・・・。














過去編、第2弾です。
多分、ココが皆様が楽しみにしていた部分かと・・・(滝汗)
一応、この愚か者2名は生存しております。
レベル的には・・・本編のザラ様よりも少しだけ低いかと;
想像の豊かな方にとって・・・凄く痛々しい話でもありますね;
まぁ、同情のよし無しですがw
一番ひどいのは・・キラを瀕死に追い込むことですから。
今回は、瀕死ではなく心に傷を与えたということで、
制裁を加えました。
この後、ディアアッカはアスランのお怒りを買うことなく、
そのまま無事に部屋に帰ることができましたv





2006/04/22