「俺のキラを傷つける者は、誰であろうと容赦はしない。
例え、世界が敵になったとしたら・・・俺はその世界を滅ぼすだろうからね」



キラは、俺の全て。
キラを守るためなら・・・この世界を敵に回してもいい。
・・・キラのいない世界は・・・・守る価値などないのだから。
俺の原動力は・・・キラなのだから・・・・・・・・。








記憶のかけら 5











「・・・・・・」



戦時中にこの話を聞いていたイザークであるが再び背筋を凍らせていることに
体験者であるディアッカは同情の視線を送り、今回初めて聞くキラたちに視線を向けた。





心優しいキラにとって酷な事だと思っていたディアッカだが、
キラの表情を見て少々呆然としていた。



「・・・・アスラン、また危険なことをしていたの?」

「・・・・キラを傷つけたからね? それなりの制裁は必要だろう?」



キラはどこか困ったかのように眉を顰めたが傷ついているようには見えない。




呆然としているディアッカに多少冷えた紅茶を飲んでいたジョルディがポツリと呟いた。



「・・・・幼年学校時代も似たことをやっていたからな。 ・・・流石に、そこまで残酷ではなかったが・・・。
・・・軍人になったから、残酷さに拍車が掛かったな・・・・」


「まぁ。 アスランは幼年学校へ通っていた頃から似たようなことをなさっていたのですか?」

「えぇ、ラクス嬢。 アスランは・・・昔からキラ至上ですからね。
キラに傷をつける者は誰であろうが容赦がなかったですよ。
もちろん、精神的・肉体的に問わず・・・ね」


「・・・・・・・」

「だから、ジュール隊長はまだ軽いものですよ?
アスランの寝起きによって・・・ですから。 ・・・キラが原因ではない分」



ラクスの問いに答えながら未だ硬直しているイザークに少しだけ同情の色を見せた。



「失礼いたします。 キラ様、そろそろお時間なのでは?」

「そうだねっ。 ありがとう、マイ」



キラは屋敷から出てきたメイドに礼を言うと、
アスランの頬にキスを落として屋敷の中に入って行った。



「アスラン様。 しばらく、キラ様をお借りいたしますね」



キラの頬にキスを返して見送っていたアスランに彼らの行動を微笑ましそうに見ていたメイドは
ニッコリと微笑みながらアスランたちに一礼し、キラの後を追うように屋敷内へと姿を消した。



「キラ、どこに行ったんだ?」

「夕食を作りにね。 キラ、料理上手だぞ?」

「・・・へぇ。 だが、ココにはコックがいるだろう?」

「時々、キラが作っている。
ココで働いている者たちは、殆どが昔からザラ家に使えてきた者たちだからな。
キラの事もよく知っているさ」



ジョルディの問いにアスランは何事もなかったかのように室内へ向かった。
そんな彼の姿を追うこともせずにラクスたちはそのまま庭にあるテラスで
いつの間にか星に覆われている上空を見上げた。



「・・・・長いこと、ここにいたんだな・・・・。
寒さを感じなかったから、全然気付かなかったぜ・・・」


「綺麗な星々ですわね」

「そう・・・だな」

「・・・アスランもだけど、姫も【オーブ】から脱出した頃は、
よく艦の展望台から漆黒の宇宙を眺めていた。
・・・その時、いつも傍にはアスランがいたな・・・・」


「・・・いつも、2人で夜に星を眺めていたらしい・・・。
人口の空だと分かっていても・・・それでも星は綺麗だからな」



それからしばらくの間、テラスから一望できる星空を見ていた彼らの耳に、
キッチンへ行っていたキラの声が聞こえた。



「みんな〜。 用意ができたよ〜」



キラの声が聞こえたラクスたちはテラスから離れると食堂に向かい、
目の前に用意された料理の数々に驚きの声を上げた。



「このお料理、全てキラがお作りに?」

「違うよ? 僕が作ったのは、コレだけだよ。 ・・・本当は、いろいろと作りたかったけど・・・アスがコレだけだって・・・」

「「・・・・・・・・」」



驚きによって声も上げられないイザークをほっといてキラに尋ねたラクスだが、
キラの答えに沈黙を返したのはディアッカとジョルディである。
彼らは目の前にあるキラが作ったと思われる料理・・・“ロールキャベツ”を見ながら同じことを考えていた。




((・・・絶対、俺たちにキラ()の料理を食べさせたくないからだ・・・))



ディアッカとジョルディが固まっているわけを知らないキラは、
首を傾げながらも彼女の定位置であるアスランの横に座ると、
今まで固まっていたイザークを促してそれぞれ空いている席に着いた。




全員が座ったことが確認された後、
後ろのように下がっていたザラ家の使用人たちは
それぞれの前に置かれているグラスに飲み物を注ぎ終わると食堂から姿を消し、
部屋にいるのはアスランたちだけとなった。




目の前にある豪華な夕食会に雑談などを交えながら全ての料理を食べ終えたキラたちは、
ラクス・イザーク・ディアッカ・ジョルディに今夜泊まる部屋をメイドたちに用意させ、それぞれの部屋へ移動した。





アスランたちは寝室にあるテラスから外にでると、
キラがキッチンでコーヒーとカフェオレを注いできたのかカップセットを持ってきていた。



「・・・お疲れ様、キラ」

「アスランも、お疲れ様」



中央にあるテーブルにカップセットを乗せると、
アスランの座る椅子の隣に微笑みながら座り、沈黙と共に人工の夜空を眺めた。



「・・・キラ、もう二度と俺の前から消えないでくれ・・・・」

「・・・・。 それ、僕のセリフだよ?
・・・今回もだけど、前回も君が先にいなくなったんだから・・・・・」


「・・・・そう・・・だったな・・・・。 俺はキラの元を離れることはできないさ。
先の大戦に、その事をあの悪夢と一緒に実感させられたからな」


「・・・・僕も一緒だよ。
君が、傷ついて重体の時にAAへ運び込まれた時・・・・僕、生きた心地しなかったもの」



キラはその時の恐怖を思い出したのか、微かに震えながら隣にいるアスランの裾を弱々しく握った。
アスランはそんなキラを安心させるようにキラの手を優しく握ると自分の手で包み込むように握った。
そんなアスランに安心したのか、震えは残したままだがアスランに抱きついた。









人々は彼らの様子を見て、『依存』だと思うだろう。
だが、彼らは先の大戦時に知ってしまった。


唯一無二の存在を目の前で失うという恐怖を。



常に、傍にいなければその恐怖を感じてしまうほどに。








それ故に、彼らは傍を離れることができない。

彼らは『離れる=死』と認識してしまっているからである。


そのことを深く理解しているラクスたちは、彼らに戦後の後始末を託すことなく、
自分たちの役割だと思っている。
それでもどうしても力が必要な時、少しだけ彼らの力を借りることがあるが、
その時は彼らが常に共にいられるよう、最善な策をとっている。










そのことを知らない者がアスランだけを本国に呼び、
キラに伝えなかったばっかりにキラは一度、自殺未遂を行っている。
そのことを聞きつけたイザークは不注意に一時期とはいえ彼らを引き離した者を地球へ転属させた。
退院したキラは、今まで以上にアスランに依存するようになり、
彼自身再びキラを失うと言う恐怖を体験したためか、
寛容するだけでなく彼自身もキラの傍にいるようになった。







闇を消し去る朝日が昇り終わった頃、ザラ家の住人とその客人たちは目を覚まし、
朝一番で本国へ戻らなければならないイザークたちは、準備を済ませるとザラ家の玄関へと向かった。






ジョルディはいまだ眠っているが、アスランとキラは彼らを見送るために玄関へと出て、彼らにニッコリと微笑んだ。



「キラたちがお元気そうで安心いたしましたわv また、お邪魔いたしますわね?」

「うんv ・・・でも、あまり無理しないでね?」

「大丈夫だ。 無理はしないさ」

「そうそうv 姫たちも無理するなよ?」

「あぁ。 ・・・また来るといい。 そのほうが、キラが喜ぶからな」

「「・・・・・・・」」



キラはニコニコと微笑みながらアスランの隣におり、
アスランの発言にディアッカとイザークは固まったが
ラクスはいつものように終始ニコニコと微笑んでいた。





彼らは玄関先に止まったザラ家所持のエレカに乗り込むとシャトルのある港へと向かった・・・・・。



「・・・寂しい?」

「・・・ちょっとだけ・・・。 けど、大丈夫だよ? アスランがいるもの。
アスランがいなくなってしまうのは耐えられない」


「・・・俺も、キラがいなくなるのは耐えられない。 ・・・ずっと、一緒にいよう」

「・・・・うん。 ずっと・・・一緒だよ」



イザークたちを乗せたエレカが過ぎ去っても尚、彼らの向かった方向を見ていたキラは、
アスランに寄りかかるように身体を寄せ、アスランはそんなキラの身体を守るかのように優しく包み込んだ。










―――――――― 彼らは、引き離してはならない。
別々に生まれたことがおかしいくらいに彼らが共にいることは自然体なのだから・・・・・・。









END.














10万hit企画、最終話をお送りいたしましたv
皆様、如何でしょうか??
皆様のご希望通り、『イザークの蒼白』をベースに書いてみたのですが・・・・。
ジョルディに関しては、アスキラを幼年学校時代から知っていると言うことで、
急遽出演させました。
キラ至上のアスランを客観的に見た場合のほうが説得力があるかと思ったので・・・。
(アスランは本人のためNG。キラは少々天然が入っているためNG)
1周年記念も兼ねているので・・・このお話は、無期限のフリー小説となります。

お持ち帰りの際、サイト名である【水晶】と著者名である【遠野 真澄】は必ずご記名の上、
BBSにて書き込みをしてくださいませ(必須
これからも、【水晶】をよろしくお願いいたしますv





2006/05/15