「キラを傷つける者は誰であろうと、許さない」
「・・・お前にとって、他人とキラの優先順位はかなり離れているんだろうな」
キラは俺の全て。
キラが望むのならば、この世界を破壊してもいい。
キラが〔平和〕を望んだから、俺はそのために戦った。
・・・キラ?
君は今まで頑張ってきたから・・・・もう、休んでも誰も文句は言わないよ?
・・例え、誰かが文句を言ったとしても・・・・俺が言わせないけどね?
・・・そういえば、3,4年位前に結構キレた時期があったな・・・・。
誰に対してキレたのか、そんなことは覚えていないが・・・。
記憶のかけら 1
宇宙空間・地上をも巻き込む『コーディネーター』と『ナチュラル』との間で起こった戦争が終結して
早くも半年の月日が流れていた・・・・。
『コーディネーター』の世界であるコロニー・・・【プラント】に最年少で議長になった少女のおかげなのか、
僅かに戦争の爪痕を残しながらも双方の友好を実現させた。
先の戦争において最もその〔平和〕を望んだ2人の存在は彼らをよく知る人物から表舞台から隠され、
彼らの名前は当事者であるごく少数の者たちしか知らなかった。
彼らもまた、その者たちのことを思い、誰も名をメディアに明かさなかった。
その者たちは【プラント】と地球において英雄を言われたが誰も名前を知ることは無かった・・・・・。
『ZGMF-X20A
STRIKE FREEDOM』と『ZGMF-X19A INFINITE JUSTICE』のパイロットの存在は・・・・・。
気候・天気などがコンピューターによって管理されているコロニー・・・月面都市【コペルニクス】に
1組のカップルが暮らしていた。
外出の時はいつも二人一緒に行動し、少女に見える女性の肩にはメタルグリーンのペットロボの姿があった。
彼らは広い屋敷に住んでおり、中で働いている使用人たちは彼が幼い頃から知っている人物たちであった。
「キラ? 大丈夫?」
「・・・・アス? 一応、キリのいいところまで終わったよ?」
キラと呼ばれた少女は束ねていない長いブラウンの髪を靡かせながら声が発せられた後ろに振り向いた。
そんな彼女を見た青年はニッコリと微笑み、
椅子に座っていたキラを優しく抱きかかえるとお姫様抱っこの格好のまま、リビングへと移動を開始した。
「さっきね、通信があったよ? ラクスたちが有給を取ったらしいからね、明後日に来るって」
「ラクスたち? ラクスとイザーク、ディアッカ?」
リビングにあるソファに優しく座らせ、
キラを包み込むように抱き寄せた青年・・・アスランは驚いたかのように
目を丸くする腕の中にいる最愛の者にニッコリと微笑を見せた。
「そうだよ? だから、体調の方をしっかりと管理しておかないとね?
遊びに来たときに倒れるなんて嫌だろう?」
「うん。 ・・・アスランも一緒に寝よう?」
自分の状態を把握しているのか、アスランに対して何も文句を言うことなく頷いたキラは
アスランに甘えるように自分からアスランを抱き締めた。
そんなキラに苦笑いを浮かべたアスランは、了承とばかりに再び抱き上げて自分たちの寝室へと向かった。
キラは半年前の戦争・・・いや、2年ほど前に起こった先の戦争において精神的に大きなダメージを負い、
それ以来情緒不安定な時期があった。
そんなキラに半年前まで起こっていた戦争は大きな打撃を負わせ、
時折アスランの体温を求めて甘えることが多くなった。
キラが今一番恐れているのは目の前にいるアスランが消えることである。
そして、アスランもまた半年前に起こったあの出来事以来、キラの傍を離れることを極端に避けていた。
彼らは、離れることのできない状態となったのである。
しかし、本人たちはその事実が安心させる事実なのである。
他人からはそれは依存だと言われるだろうが、
彼らは唯一の者を失う恐ろしさを誰よりも体感しているため、自分からはもちろん相手を離すことができない。
2年前の大戦直後、キラは自分の状態を知っていながらアスランを手放し、
アスランもまたキラのために世界を〔平和〕にしようと奔走した。
しかし、結果的には歴史を繰り返し、
再び大きい犠牲と多くの命を失いながらも戦争を終わらせたのは彼らだけではない。
だが、その者たちよりも大いなる犠牲を払ったのは彼らであろう。
彼らは敵とされるMSの搭乗者を知りながらも剣を交えた。
そのことは2年前と同じ状況を作り出し、必死に守ってきたキラの精神は徐々に崩壊の道を辿っていた。
アスランにとっても同じことであったがそのことを決定付けたのはザフトによるAA討伐・・・
『エンジェル・ダウン』が原因である。
アスランと戦いたくは無いキラによって先の戦闘においてコックピット以外を破壊されたアスランは
出撃することができずに艦内でその戦闘を見ていた。
キラは相手を殺すことを頑なに拒絶していたが相手はそうではなかった。
そのことにより、アスランは目の前で悪夢と言うものを目の当たりにしたのだ。
そのことによって、アスランはキラの平穏のためにしかその力を発揮せず、
片時もキラの傍を離れることが無かった。
そのことをよく知る彼らの友人によって、やっと取り戻した〔平和〕の中に彼らはいるのだ。
もちろん、彼らの生活に友人たちは難題を突きつけたりなどしない。
彼らに不安定とはいえ〔平和〕の道を歩みだした世界の秩序を守れとは誰も言えなかった。
彼らは戦時中に大きな犠牲を払ってまで世界を・・・自分たちの場所を守るために戦ってきた。
そんな彼らにこれ以上心を傷つけるようなことをさせるのは避けたのである。
そのため、彼らは友人たちの力も借りてかつて自分たちが最も〔平和〕だと思っていた時期であり、
共に過ごした幼年期の思い出の象徴ともいえる故郷・・【コペルニクス】での生活を望んだ。
それから3日後、アスランの伝言どおり本国から3人の訪問者がザラ家に訪れた。
彼らはメディアにダミーの情報を流し、
彼らの行動を知られないために情報操作をした上で彼らの住む【コペルニクス】に訪問した。
そのことは彼らが大切な友人たちを想う心がそうさせ、殆ど無意識の中であった。
「アスラン様、キラ様。 みな様がお付きになられましたよ?」
「分かった。 ・・・キラと庭にいるから、そこに通してくれ」
「かしこまりました。 後ほど、キラ様のお好きな紅茶とお菓子をお持ちいたしますね」
リビングで寛いでいたアスランたちの前に長年ザラ家で執事をしている老人が声をかけ、
その言葉に頷いたアスランはキラを促して庭へ移動して行った。
「お庭でお茶会?」
「そうだよ? ・・・多分、ディアッカ辺りがキラのために甘いケーキでも買ってきているんじゃないかな?
あいつは意外と甘いモノが好きらしいからな」
アスランの言葉に首を傾げたキラはアスランの腕に自らの腕を絡めながら尋ねた。
そんなキラの様子に満足したのかアスランはニッコリと彼女限定の微笑を見せると
キラの言葉を肯定するかのように頷いた。
「ふぅ〜ん? だったら、そのお土産は美味しいんだねv」
「・・・あまり、甘いものだけを食べるのは身体によくないよ? あとで、みんなで夕食会を開くんだろう?
少しはご飯食べようね」
「・・・・はぁ〜い」
アスランの甘いモノ発言に瞳の色を輝かせたキラを目敏く見ていたアスランは苦笑いを浮かべながらも
キラの小食を知っているためかちゃんと釘を指すことを怠らない。
そんなアスランの言葉に素直に・・自覚があるのか首をすくめながら返事を返した。
「お2人ともお元気そうで安心いたしましたわv」
「相変わらず、ラブラブだな!」
「姫〜、お土産買ってきたぞ?」
上からラクス、イザーク、ディアッカである。
ラクスは相変わらずニコニコと笑顔を浮かべ、イザークはラクスの隣で呆れたような様子を見せ、
そんなイザークの言葉と行動をその隣で見ているディアッカは苦笑いを浮かべながらも
手に持っていたキラへのお土産の存在を思い出し、アスランの傍を離れないキラに見えるように持ち上げた。
ディアッカの言葉に反応を見せたキラは、
キラの表情を一部始終見ていたアスランは苦笑いを浮かべると、ラクスたちに座るように促した。
それぞれの場所に落ち着いた彼らはそれぞれが持ってきたものをテーブルの上に置くと
メイドが用意した紅茶セットをラクスが受け取り、
慣れた手つきでそれぞれの好みに合わせてお茶の葉を変えながらカップに注いだ。
キラはラクスから受け取ったカップにお砂糖を入れるとディアッカが持ってきたケーキを嬉しそうに覗き込んだ。
「姫が一番に選んでいいぞ? ここの店のケーキはどれも美味しいからな」
「ありがとう、ディアッカ」
「・・・あまり、ケーキの食べすぎには注意するんだよ? 後で、夕食会があるんだからね」
ディアッカの言葉に嬉しそうに頷いたキラに苦笑いを浮かべたアスランは釘をもう一度刺し、
ゆっくりとした動作でキラの頭を優しく撫でた。
「夕食会?」
「今夜はこちらに泊まるんだろう? キラが夕食を作ると張り切っているからな」
「キラがお作りになられますの?」
「キラは料理上手だぞ? カリダさんから直接指導受けていたからね」
キラは幼い頃から母親であるカリダの手伝いを進んでしていたため、料理上手である。
精神的に安定している時は自らキッチンに入って料理をし、
プロの料理人であり幼い頃から交流の深かったザラ家のコックなどもキラの腕前を高く評価していた。
「・・・ほんと、あの頃は考えられなかったよな〜」
「なにが?」
「いや、お前とアスランたちがこうして話していることがだよ」
キラたちを黙ってみていたディアッカは何かを感じたかのようにしみじみと呟いた。
「・・・・ディアッカの言うとおりですわね。
あの頃は・・・私たちは第3勢力に属しておりましたが、イザークはザフトに属しておりましたから・・・」
ラクスはディアッカが何を言いたいのかを正確に理解し、当時の構図を思い出していた。
「その上、アスランに敵対視していただろう? 姫に対しても因縁あったみたいだし」
「・・・今ではアスランもキラも戦友だと思っている!」
ディアッカはザフトにいた頃のことを思い出したのか、
日常茶飯事に行われていたアスランとイザークの言動を思い出していた(殆どイザークが一方的に)。
「分かってるさ。 じゃないと、プライドの高いお前があんなに拘っていた傷をそう簡単に消すか?
・・・アスランに関してはお前じゃなくてもあれじゃ、認めるって」
「お2人とも、本当に仲がよろしいんですのね」
顔を真っ赤にして怒鳴るイザークにディアッカは苦笑いを浮かべながら落ち着かせるように背中を叩いた。
そんな2人の様子を微笑みながらラクスは紅茶を飲み、
目の前にいるアスランとキラは目の前で起こっている事態についていけない様子を見せた。
「・・・そいや、姫には言ってなかったな・・・・」
「? 何を?」
的外れなラクスの発言に苦笑いを深くしたディアッカは何かを思い出したかのように
メイドに出された昼食を食べているキラに視線を向けながら話しかけた。
キラは首をかしげながらもディアッカの発言に疑問を感じ、フォークを皿の上において聞く体勢を整えた。
「イザークが昔、蒼白したことをだよ」
「イザークが!?」
「あぁ。 4年位前か? アカデミーの時だ。
イザーク、周りから見ても不機嫌だと解っているのにアスランにいつものように突っかかっていたからな・・・・。
普段であればアスランは無視していたんだが・・・」
ディアッカはため息をつきながら4年前に起こった出来事をキラに話した。
そのことは婚約者であるラクスも知らなかったらしく、
キラと一緒に聞くことを選んだのかそのまま傍観の姿勢を保っていた。
10万hit企画アンケートで見事1位を獲得した【制裁】の番外編ですv
この話で番外編を書くことになるなんて、始めのころは考えもしなかったことです。
これも全ては、読者の皆様の応援のおかげでございます!
さて、今回の番外編ですが・・・
皆様が気になるところのイザークことイザ様が蒼白した出来事ですが・・・・(ぇ)
ちょっと前振りが長かったようですね;
次回は、イザ様蒼白体験《ディアッカ視点》をお送りできるよう、頑張ります!
2006/04/01
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