「・・・いや、俺がするさ。 ヤツは、俺のことを人間だと思っていたようだからな?
『天使』であるにも拘らず、人間だと思い込んでいた俺を欲していたようだ。
ならば、その妄想を打ち破ってやろうじゃないか」



あの者は、この俺に喧嘩を売ったんだ。
彼女は、俺が唯一欲した存在。
そして、永き時の末に漸くこの手にした俺の『半身』。
その存在を、なぜ理不尽な理由で手放さなければならない?

それに、あの者は彼女を侮辱した。
己の力を過信し、長き間彼女の力を吸うことによって得られたその力を。
高飛車で、ほかの者を思いやらない者など・・・俺が最も嫌う者だ。





このツケは、己の理想とその身をもって償うがいい。











比翼連理
  ― 通告という名の警告 ―











イザークと共に私室を離れ、アスランは魔王である父の執務室へと向かった。
今回のことは魔界全土に及ぶことである為、
最高責任者であるパトリックに今回の話を告げなければならない。
アスランはすぐさま天界に向けての返答を行おうとしたが、
今後の対応を考えた末にまずはパトリックに報告という形となった。



「・・・こちらが、その件をトレースしたものです」



イザークから告げられた内容を簡単に説明したアスランは、魔境をパトリックに渡した。
魔境を受け取ったパトリックは無言で振り返り、傍に控えていたレノアに渡した。
レノアは魔境を装置にはめ込み、右手を翳すと装置全体が光を放った。




魔境をはめ込んだ装置とは、
魔境に読み込まれたものを立体映像とするために必要な力を増幅させるものである。
本来、魔境は持ち運び可能な大きさなため、1人しか見ることができない。
だが、装置にはめ込み、込められた力を増幅させることによって、立体映像となるのだ。




流れる映像を冷ややかな表情で見つめていたアスランたちとは対照に、
初めて見るパトリックはギリッと机の上に置かれていた拳を加減なしで握り締めていた。
そんなパトリックとは正反対にレノアはニッコリと微笑を浮かべながら映像を見続けていたが、
彼女の纏っているオーラがその笑みを裏切っていた。



「・・・醜いわね。 こんな性格が歪んでいるような娘が、可愛いキラちゃんの姉ですって?
アスラン、この際再起不能にしてしまいなさい。
人界に影響が出てはならないから、
私たちは天界を壊滅させないだけだということを、この際だから叩き込んでしまいなさいな」

「もちろんです、母上。 今回の戦いが、最終戦となることを祈ってますよ。
長年敵対しているとはいえ、あそこはキラにとって見れば故郷。
全てを消し去るには、リスクが伴います。 ならば・・・黙らせればいい。
こちらの力を見せ付ければ、大人しくするでしょう。 あちらには、強力な“護り”が失われているのですから」



冷笑を浮かべたレノアはスゥッと目を細めると、立体映像に映し出されるカガリの姿に対して毒を吐いた。
そんな母の言葉に同意を示すように大きく頷いたアスランは、
魔王である父よりも強い母の許可の言葉に、黒い笑みを浮かべて承諾した。
そんな妻子の言葉を静かに聞いていたパトリックは、
口を挟むことなく視線を向けた2人に許可の意味を込めて頷いた。






両親からの承諾を得たアスランは、
イザークを引き連れて天界への返事を返すべく、『水晶の間』へ向かった・・・・・・。




『水晶の間』には、
初代魔王であったサタンの側近であったルシファーの魔力を具現化した魔石が数か所、埋め込まれている。
そのため、この場所は膨大な魔力を使用する際に適している部屋でもあった。
アスランは部屋の中央で立ち止まり、左手を空中に翳した。
視覚では見ることはできないが、彼の左手に魔力が集中し、周りが徐々にグニャッと空間が歪んでゆく。
空いている右手をギュッと握りしめ、掌に魔力を込めた。
ゆっくりと右手を開き、掌に浮かぶ球体と化した魔力を歪んでいる空間に近づけると、
パンッと小さな音を立て、小さな錬成を起こした。



「我は、魔界の皇子。 アスラン=ザラ。
天界に告ぐ。 先ほどの宣言を、天界側からの宣戦布告と見なす。
我が妻は、私の至宝の存在。 我ら魔界は、至宝を守るべくお前たちの侵攻を阻止する」



アスランは天界と空間の繋がったことを確認すると、
絶対零度の色をエメラルドの瞳に宿しながら静かに告げる。
天界と空間を繋げたため、あちらとの時間の誤差がない。
アスランは自らの意思で繋げる空間を限定し、神と宣言を行ったカガリの住むオロファトのみに開いた。
アスランが空間を繋げている間、
イザークは台座に安置されている水晶を取り出すと、アスランの魔力によって出現していた杖に置いた。




《お、お前はあの時の!? わ、私を騙したな!?》




オロファトでは、突如空間の歪みが出現したことに驚き、対応が遅れていた。
そんな時、城の中央にある水瓶に出現した魔界の皇子と名乗る青年の姿に、
カガリは呆然とした表情を浮かべた。



硬直状態から漸く状況を飲み込み始めたカガリは、現状を理解したと同時に顔を醜く歪ませた。


その表情には絶望と同時にその瞳には怒りが宿り、水瓶に映し出されるアスランに向かって喚きだした。



「・・・醜いな。 元が美しくなければ、もっと醜い。 このような者が妃殿下の姉だと?」

「・・・比べるな、イザーク。 このような者と比べたら、キラが穢れる。 ・・・騙す?
何を言っているんだ、きさまは。 俺は、きさまに対して名乗った覚えなどないぞ?
きさまが勝手に俺を人間だと勘違いしただけだろう? それに、微力とはいえあの時、俺は魔力を使った。
それに全く気付かなかったのは、きさまだろう」



水晶から響くカガリの耳障りな奇声に対し、イザークは眉を顰めるとボソッと呟いた。
その呟きを隣にいたアスランには聞こえており、
奇声に対して器用に片方の眉だけ上げたアスランはイザークに訂正を入れ、
カガリに対して冷笑を浮かべ、判断能力が皆無なカガリを嘲笑った。




《ッ!! 『ピースメーカー』の発射準備を開始しろ! 目標、魔界だ!!》




アスランの言葉に対し、言い返せないカガリはますます顔を歪ませると、
背後に控えていた天使に聖力で造られた天界最強の聖具『ピースメーカー』を発射させるよう、命じた。










同じ頃、パトリックからの勅命を受けた軍部ではニコルを中心に兵士たちが集まっていた。




《ニコル、ディアッカ。 やつらがこちらに向けて聖砲を撃ってくる。
タイミングを合わせて被害を最小限に抑えるが・・・。 出撃準備だけは整えておけ》




出撃準備に慌ただしく動いていたニコルとディアッカの頭に、直接アスランの声が響いた。
イザーク・ニコル・ディアッカは、軍部ではアスランの直属の部下である。
そのため、彼らには直接思念を送ることが可能であった。
アスランから送られた思念に、ニコルはどす黒いオーラを纏った。
彼の直属の部下たちは彼から放出されるオーラを恐れ、一斉に比較的安全な位置に引いた・・・・・・。

同時刻、寝室で眠っていたキラはビクッと身体が跳ね上がった。
魔界全体を覆う空気に反応したキラは、
完全に覚醒していない状態で寝室の隣に設けられているバルコニーに足を向けた。
緊迫した空気がキラの美しい白い肌を撫で、速いスピードで迫りつつある聖力の波動を感じる。
キラは左手を高く掲げると、静かに美しいアメジストの瞳を瞼の裏に隠した。
祈るように顔を上げ、ゆっくりと瞼を開いたその瞳には強い光が宿っており、
全身の力を抜くと左手に込めた力を一気に放出した。





――――― パァン!!





キラの意思によって放出された力は、
彼女が堕天使となった際に放たれた光よりもより強力なものであった。
解放された力は魔界全土に届き渡り、全体をやさしく包む膜のような結界が一瞬のうちに出来上がった。
天界から降り注いだ聖力は無数の矢となり、魔界に降り注いだと思われた。
だが、降り注ぐ前に張られた結界により魔界に貫通することなく、聖力と魔力がぶつかり合い拡散した。
聖力は完全に消滅し、魔界を覆う結界は消滅していない。
その様子を水晶越しに視ていたイザークはキラの力に驚きを隠せない様子だったが、
アスランは満足そうに微笑みを浮かべていた。

天界では、一瞬にして拡散した聖力に驚愕の色を隠せなかった。
『ピースメーカー』に込められた力は、数人という規模ではない。
天界中の強い聖力を保持する者たちを集め、凝縮したものである。
また、より強力な力を放出するために現在における力を最大限に引き出していた。
それにより、たった一回しか攻撃ができない。
その一撃に込められた聖力で長きに渡る天界と魔界の戦いに終止符が打たれると、
天界の住人たちは信じて疑わなかった。
そのこともあって、天使たちはその後のことを考えずに持てる聖力すべてをその一撃に注いだため、
魔界からの侵攻に打つ手がない・・・・・・。










『水晶の間』では、
アスランを中心に軍部で局地的に起こったブリザードよりも冷たい冷気が吹き荒れていた。
キラの力により魔界全土に張られた結界によってまったく被害がなかったが、
魔界への直接攻撃と彼の至宝の存在でもあるキラを差し出せと主張した天界側に対し、
アスランの限界はとっくに超えていた。
怒りによって、彼の瞳は普段の色よりもより濃い輝きが宿っていた。
また彼の視線は冷たさも併せ持っており、視線で相手を凍らせるほどの威力があった。



「・・・あちらから攻撃を仕掛けてきた。 ならば・・・報復をせねばなるまい?」



ククッと冷笑を浮かべたアスランは左手を強く握り締め、掌に魔力を集中させた。



右には彼の愛剣を出現させており、
握り締めた拳をゆっくりと開いた掌に浮かぶ魔力を剣の刃に吸収させる。
魔力の込められた剣を空気と一体化にさせると、
両腕をゆっくりと開きながら頭に思い浮かべた槍を出現させた。





アスランは槍の柄を握ると、再び魔力の塊に変化させると上に向けて投げた。
魔力は一瞬のうちに空気に溶け、高速で天界へと空間を駆け抜けた。
魔力は天界へと辿り着く前に再びその姿を変え、光に変化した。
天界に辿り着いた漆黒の光はオロファトを包み込み、
光が完全に消え去った時には、オロファトの姿も共に消滅していた・・・・・・。















護りの力を持つミカエルを失った天界。
守護が攻撃となり、刃を向ける。
神を失った天界は、古来より続いた魔界との戦争に敗北という形で終結した。
かつて、双翼と呼ばれた3対6枚の翼をもつ天使たちは、永き時を経て再び惹かれあった。
純白の翼を漆黒へと変え、比翼となる。
失われていた半身を取り戻した彼らは、
失われていた時を取り戻すかのように、連理となって永き時を仲睦まじく過ごしてゆく・・・・・・。








2008/08/01















最終話となりました、【比翼連理】。
キラはとうとう、一言も話すことなく終わってしまいましたが・・・・;
キラのアスランたちを守りたいという加護の力と、
アスランのキラを傷つけるものは徹底排除
という二つの力が作用し、今回の事態が生じましたv
このような結果となりましたが、宜しかったでしょうか・・・?(聞くな)
リク者である桜ちゃん以外、お持ち帰りは不可です。
桜ちゃんに限り、加筆・苦情を受け付けます。
お持ち帰りの際は、必ず【水晶】と管理人の名前をよろしくお願いしますねv