『Archangel』・・・キラ・・・・。 そんな・・・・・馬鹿な!!」



俺は認めない。『Archangel』が・・・彼らがあのような攻撃で撃墜されるだなんて。
なにより、彼が・・・キラがこの世にいないだなんて。
・・・・2年前のあの時、俺は気付いたはずだった。
俺が守りたいもの・・・それは、あいつだという事を。
あの時・・・自分の手であいつを殺したと思ったあの時に気付いたはずだった。

あいつがこの世にいないと思っただけで周りの色が全て色として認識できないほどにあいつに依存・・・
いや、執着していたという事に。




なぜ、再びこのような失う恐怖を味あわなければならない?
・・・なぜ、俺はあいつの傍にいずにこんな、あいつと敵対するこんな場所に・・・・。





(・・・俺は、あいつを失うために力を手にしたわけじゃない。
・・・あいつをあの偽りと解っている〔平和〕で、あいつの傷が癒えるまで守るために力を欲したんだ・・・・・)





1人の青年は、かの船に乗る最も大切な者の安否を一心に心配し、
その青年を乗せた船は彼らの司令官の命令により、集結の場所へと移動して行った・・・・。







最も大切なものを失う恐怖を味わったその青年は、自分が何を一番望んで再び諸刃の剣をその手に取ったのか、
その恐怖をもって知らされた・・・・・・。









堕天使、降臨
         ― 2つの剣 ―









空中で悲痛な声と共にたった1人の安否を確かめたい衝動に駆られる青年の想いの人は、
撃墜されたと思わせている戦艦・・・『
Archangel』の医務室にて休養を取っていた。
コックピット付近を刺されたにも拘らず、彼自身に備わっている反射神経を狭いコックピット内でフルに活用し、
核の積まれている付近に当たらないよう、注意をしていたら見事に刺さってしまったというだけである。



空中に漂う艦・・・先ほどまで戦闘を繰り返していた艦から見えた爆発によりところどころ軽症な火傷の跡が見え隠れするが、
どれも数日安静にすれば治るという見事に軽症なものばかりであった。



「・・・・すみません、マリューさん」

「いいのよ。 この艦も少し修理しておかないと動かないし・・・。 艦長席にいても邪魔になるから・・・。 でも、大丈夫なの?」



医務室のベッドで横になっていた青年はこの艦の艦長であるマリュー=ラミアスに対してすまなさそうな表情を浮かべたが、
弟のように思っているマリューは苦笑いを浮かべるだけであった。


数日間、医務室において絶対安静と軍医によって宣告された
アメジストの瞳とブラウンの髪を持つ青年・・・キラ=ヤマトは軍医の言うことを聞き、
数日間の間身体を安静にし、体の治療を第一に考えていた。

その傷も今ではすっかりと治り、
念のために医務室に泊まらせていたマリューに自室から自分のPCを持ってくるようにマリューに頼んだのだ。



「傷のほうは大丈夫です。 ・・・・ただ、ちょっと気になるところがあって・・・・」

「・・・・アスラン君?」

「・・・・えぇ。
アスラン・・・多分この間の戦闘の時、
僕が死んだと思い込んでいるかもしれないし・・・・突発的な考えから妙なことをしでかしそうで・・・・」



キラはマリューに安心させるように微笑を見せた。
その微笑に僅かに安堵を見せたマリューだったが、彼の片割れであり今は敵方に回ってしまったかつての戦友のことを思い出した。




さすが片割れなのか、エメラルドの瞳と宵闇の髪を持つ青年・・・アスラン=ザラの性格をよく理解していた。


彼は一つの考えを盲目的に信じる傾向がある。

今回の件・・・【プラント】の最高評議会議長であるギルバート=デュランダルの言葉を信じ、ザフトに複隊したことであった。
キラは彼に直接的な攻撃を受けたわけではないのだが、
彼らの住んでいたオーブの近海にある孤児院の襲撃は彼らと同じ『コーディネーター』・・つまりザフトの特殊部隊だったのだ。
そのことにより、彼は議長に対して不信感を抱いていた。



しかし、彼と話し合った時のアスランは議長を心酔する勢いで信じ込んでいたために話が決裂してしまったのだ。
しかし、今回の状況は彼にとってとても衝撃的な出来事であった。
キラを最も大切に思っているアスランにとってキラを失うことに耐えられるはずがなく、
そんなキラを“敵だったから仕方がない”と言うように感情を割り切れるほど感情を捨ててはいないアスランである。






そんな幼馴染が何かするのではないかと危惧するキラであった・・・・。






一方、キラに心配されているエメラルドの瞳と宵闇の髪を持つ青年ことアスランは
自室にあるPCをくまなく操作していた。(もちろん小細工込み)





(・・・・彼らが・・・キラが俺を置いて死ぬはずがない。 力量的にも技術的にも彼らが上だ)





アスランが必死に探しているのは彼らが向かう基地・・・ジブラルタルの脱出経路だった・・・・・・。





キラほど早くはないが、2年前にアカデミーで叩き出した情報処理の最高ランクを打ち出したタイピング能力は衰えてはおらず、
ロックの掛かっている場所なども難なくすり抜けていた。
もちろん、見つかるようはへまをするアスランではなく、いくつものダミーを用意しての進入であった。

アスランが自室に篭って逃走を企てていた頃、
彼の片割れであるアメジストの君はマリューから手渡されたPCによってアスランの考えていることの情報を入手した。

アスランは基地内部の者たちにばれないように細工をしながら作業をしているが、
幼い頃から共に見続けるために相手の癖などを把握している彼らだからこそ気付いたことであった。





(・・・・アスラン・・・あそこから逃亡する気なの?・・・大方、僕が倒されたと思い込んだ結果だろうけど・・・・・)





ため息をつきながら片割れの状態を冷静に判断した。
即座にPCを自動とし、ベッドの近くに掛けてある自分の軍服の上着を軽く乗せるように着ると、
次の行動にでるべくブリッジへと向かった。



「きっ、キラ君? どうかしたの?」

「マリューさん、今すぐ宇宙にいるラクスと連絡は取れませんか?」



医務室で安静にしているはずのエースパイロットが滅多に姿を現さないブリッジに来たことに驚いたマリューだったが、
彼の背後を取り巻く不穏な空気を察知したマリューは若干顔を引きつらせながら尋ねた。




マリューの様子が解っているのかニッコリと邪気のない笑みを見せながら
この場にないもう一つの同盟艦の艦長を務めている人物の名を告げた。



「分かったわ。 エターナルに通信を」



マリューの命令により、CICの席にいたチャンドラはエターナルとの専用回線を開き、周波数を合わせた。



「艦長、エターナルに繋がりました」


《どうかなさいましたの?》




チャンドラの言葉と共にモニターに映ったのは今は宇宙にいる
【プラント】の歌姫であるラクス=クラインとアンドリュー=バルトフェルドの姿があった。



「・・・ラクス、悪いけど今から送る地点に向かって例のモノを射出してもらえないかな・・・?」


《例のモノを? ・・・事情をご説明いただけます?》




ラクスは首を傾げながらキラに尋ねた。



「・・・アスランがね、ザフトの基地から単身で逃走を図ろうとしているんだ。 ・・・原因はこの間の戦闘だろうけど・・・」



キラはため息をつきながら大雑把に事情を説明した。
言葉は冷たい感じがするのだが、その表情はアスランを心配してるというような表情のため、
ラクスは深く追求することなく了承の意で頷いた。




《分かりましたわ。 その地点に射出しますわね》


「ありがとう、ラクス。 ・・・ついでに僕のお怒りに触れたひよこちゃんたちにお仕置きもしてくる」



ラクスの言葉に嬉しそうに微笑んだキラだったが、最後の言葉と共にその笑みを消し、
アメジストに光る瞳の奥に物騒な光を宿し、周りには冷たい冷気を放出していた。




その様子にAAのブリッジクルー及び、エターナルのブリッジにいたクルーたちは2年ほど前のことを思い出し、
ある者は遠くを見つめ、またある者は今にも失神しそうな危うい様子を見せた。







AA内で2年前の恐怖をクルーたちが思い出している頃、宇宙にいるラクスは密に製造していたデッキに向かっていた。



「・・・タイミング的にはちょうど良かったですわ。 この2機をこのポイントに向かって射出していただけますか?」



ラクスは整備士のチーフと思われるクルーに先ほどキラから送られてきたデータを見せた。
そのデータにはAAが向かう地点であり、受け取り場所を指定してきた場所でもあった。



「・・この地点の近くにはザフト基地があります。 ・・・よろしいのですか?」

「そのザフト基地にちょっとした忘れ物があるそうですわ。 この機体は・・・キラとアスランの機体ですから」



データを渡されたクルーは心配そうにラクスを見たが、本人はいたって冷静を保っており、
クルーに向けていた視線を目の前にある物体に視線を送った。

ラクスに頷いたクルーは部下たちに命令を出し、射出準備に取りかかった。



「ラクス様、準備が整いました」

「解りましたわ。 ・・・では、ピンポイントで降ろしてくださいね?」



ブリッジに上がったラクスにブリッジクルーが整備士たちから受けた連絡を伝えた。




《誤差の調整、終わりました》


「『INFINITE JUSTICE』、『STRIKE FREEDOM』・・・射出してください!」



ドッグと繋がっている通信機から誤差の修正をしていた整備士の声が聞こえ、その言葉に頷いたラクスは射出するように命じた。








ラクスの言葉と共にエターナルのカタパルトが開き、大きな荷物はキラの指定した地点に向かって降下していった・・・・。








2006/02/27















このサイト初の男の子キラですv
時期的には・・フリーダムが墜落したと思ったアスランが逃走の計画を練っている辺りです。
後々、黒キラが降臨なされます。

この話は、リクをされた方である亜矢姉様以外はお持ち帰り禁止ですv
この話をリンクする場合はちゃんと持ち帰ってくださいねv
背景、文字の列を変えるのはOKですが、著作権は放棄してはおりませんので(^-^;)
この話のどこか又はこの話をリンクする場所に必ず、【蒼穹】と遠野 真澄と表示してください!
もちろん、返品・修正可です(爆)