「完全にとは言わなくとも・・・今回の件、それなりに償っていただきましょう。
この2年間、好き勝手させたことにつきましては、問題点もあったと思われますが。
しかし・・・僕たちの予測を遙かに上回るほどの愚かさですね。
同情の余地は、ありませんが?」



キラさんに悲しみを味合わせた時点で、僕たちからそれ相当の制裁が下ることは必須ですよ。
軽いお灸程度だと、ラクスは言っていましたが・・・僕からすればまだ軽い方ですね。
コレに懲りずにまだ、アスランに近づこうとするのならば、僕の持てる全ての情報網を駆使してでも、完全に消しますよ?
僕たちがそれなりに優しくしていたのは、キラさんの“姉”と言う立場だったからに過ぎません。
キラさんを悲しませたり、瞳を曇らせるのは本望ではないですからね。
しかし、そんな自分の立場を十分理解せずにキラさんを邪険に思っていらっしゃる貴女を、これ以上好き勝手にやらせることは、許しません・・・よ?



―――― 完全に表から消すのは・・・次回、と言うことで。








Adiantum・外伝
    ― 一時の休息 3 ―











アスランの誕生日を翌日に控えたその日、
キラはいつものように幼馴染や孤児院に住む子供たちと一緒に最後の飾付けに取り掛かっていた。
大掛かりなところは男手としてイザークとディアッカが借り出され、逆に細かいところはキラやラクスが借り出された。
子どもたちもまた、キラたちと一緒に細かい作業や部屋に飾るための小道具などを製作した。





そんなメイン会場となる大広間に姿を現さないもう1人の幼馴染であるニコルは、
宛がわれた部屋において、今回の裏計画の最終段階に突入していた。



本来ならば、ロンドと通信した直後に仕掛けたかったのだが、どうせ同じ末路ならば、
当日又は前日の方が精神的ショックが大きいと考え直したからである。



「・・・さて、こちらの方も最終段階と参りましょう。
・・・・僕らが何もしないままだと勘違いなさっているのは、こちらとしても好都合。
せいぜい、傀儡の成れの果てとして、狂い踊っていただきましょうか」



ニコルは現在彼の部屋として宛がわれいる部屋に、ニコルが身に纏う真っ黒いオーラが充満していた・・・・。






ニコルは黒い笑みを浮かべながら、アスハ邸のマザーに侵入するとエリカから仕入れた情報を元に、
カガリが計画しているメインイベントの会場の見取り図を最初に引き出した。



その後、その会場に繋がるデータの一部を改ざんし
一般のプログラマーが見ても何の変化のないように細工をしながらデータそのものを書き換えていった。



「・・・さすがとでも言っておきましょうか。 オーブの五大氏族だけあって、無駄に広いですね。
・・・これは・・・シェルターでしょうか。
尤も、こんなお粗末なプログラムでこの僕から守ろうだなんて・・・笑えますが。
・・・しかし、これは使えますね」



ニコルはある装置を見つけるとクスッと今まで以上の黒い微笑を見せ、
シェルターの役目を担う壁の発動するプログラムを組み替えていった・・・・。







ニコルがある程度のプログラムを弄り終わると一旦ラクスたちのいる会場へ向かった。


そこには、ラクスが若干黒いオーラを身に纏いながら数日前にキラと共に
アスハ邸に行った時のことについて、サラリと毒を吐いていた。



「それにしても・・・あの方は、あのドレスが本当に似合っていると思っていらっしゃるのでしょうか。
私からいたしましたら、まったく似合っていないにもほどがありますわ」

「ラ、ラクス・・・。 でも・・・本人は、アレが良いって言っていたらしいよ?」

「・・それこそ、身の程知らずですわ。
あんな成金がお着になられるようなドレス・・アスランが最も嫌うものの一つですのに・・・・」



ラクスの言葉にキラは苦笑いを浮かべながらも、数日前に見た己の姉の姿に対し、
フォローをするもののラクスは嫌そうに呟いた。



「・・・・ヤツが何を着ようがまったく興味はないが・・・。 ラクスがそこまで言う衣装だったのか?」

「私も、あそこまで酷いモノは初めてですわ。服装とその容姿が合っておりませんもの
一言で言うと、“悪趣味”ですわね。
胸元が開いているものは、数がありますからそう珍しいものではございませんわ。
尤も、彼女のは偽胸でしたけど。 問題は、その色です。
彼女、見栄なのか彼女の感覚なのか分かりませんけど、全身金色でしたのよ?
しかも、艶有でしたわ。 丈の長さもギリギリ下着が隠れるくらいのミニスカート。
そのお姿を見た時、本当に友人だと思わなくてよかったと本気で思いましたわ」

「・・・・それは・・・きついな」

「・・・キツイですね。 まさか・・そこまで酷いとは」



ラクスの表情に引きつった表情を浮かべたイザークであったが、
衣装・・・特にドレスに関して拘りを持っているラクスがそこまで批判するモノがあまりないため、
カガリがどのような衣装を彼女たちに見せたのかが気になった。



そんなイザークに対し、思い出すのだけでも嫌というような表情を見せたが、
ある意味好奇心のために聞く彼らの様子を見て、自分の感じたことを交えて彼らに伝えた。



ラクスの言葉に、イザークは「醜い」と呟き、作業を続けていたディアッカは想像してしまったのか、寒気を覚え、
ニコルに関してはある程度の予測はしていたものの、その予測を遙かに超える悪趣味さに苦笑いを零していた。



「・・・まぁ、カガリさんのことはこの際、どうでもいいですわ。
キラ、こちらが以前言っておられたものですわv」

「ありがとう、ラクス。 綺麗な色だね」

「当然ですわ。 キラは何色でもお似合いですが、この色が一番お似合いですもの。
私のは、こちらですわ」

「ふふっ。 ラクスらしい色だね。 でも、僕は好きだな」



男性陣が脳内にはてなを飛ばしている最中、女性陣はそんな彼らを気にしてはいない。


ラクスは持ってきた2つの紙袋のうち、白い袋をキラに渡した。
キラはニッコリと微笑みながら、中に入っているものが分かっているのか照れた表情を見せた。

そんなキラに対し、ラクスは先ほどまで放出していた真っ黒いオーラを完全に引っ込めると、
キラに向かって優しく微笑んだ。








様々な思惑が秘められながらも一夜明け、アスランの誕生日当日となった。


ニコルは孤児院に滞在するメンバーの誰よりも早く起きると、
昨日仕掛けたプログラムが正常に動いているかの最終チェックを開始した。







一方、キラたちからの妨害とコンタクトがなかったことに、アスランを自分のモノに出来たと勘違いしているカガリは、
本日行われる予定のパーティーの最終チェックのために
ラクスやイザークたちから「悪趣味」と言わせた金色のドレスを着用して
パーティ会場となったホールに足を踏み入れた。



「きっと、アスランも喜んでくれるぞ。 婚約者の私が祝うのだからな。
幼馴染などと言って付きまとっているアイツとは違う」



カガリは目の前に広がる光景に満足したのか、頷いた。


カガリの言葉を聞いていたキサカは、内心で首を傾げていた。




(カガリ、いつ彼と婚約したんだ。 その前に、幼い頃にセイランと婚約をしていなかったか?)




そんなキサカの疑問にも気付かないカガリは数人のSPと共にホールから出ようとした。





―――― ガシャンッ!





カガリがホールと廊下の境目に足を踏み出そうとした瞬間、それまで開放されていたシャッターが突如起動し、カガリの進路方向を遮断した。



「なんだ!! なぜ、急にこんな物が落ちてきたんだッ! 危ないだろうがッ!!」

「・・・何かの誤作動で、核シェルターが起動したみたいね・・・。
このシャッターは、そう簡単には開かないわよ?」

「シモンズ! さっさと原因を突き止めろ! あと何時間かでパーティが開始されるんだぞ!!」



カガリは癇癪を起こしたかのように怒鳴り散らし、
ホールの柱に付けられていた小型の操作パネルをチェックしていたエリカを怒鳴った。



そんなカガリの怒鳴り声に対し、エリカは慣れた様子で全てを聞き流していた。



「そういうのでしたら・・・如何です? カガリがこのプログラムを解析して、自分で直すのは?」



(・・・・悪く思わないで? 勘違いしている貴女の為でもあるのよ。
大体、こんなばかげた茶番に、彼が付き合うと思っているのかしら・・・?)



「私がだと・・・? 何を言っている。 私がするわけがないだろう。
そんなもの、シモンズの専門だろう」

「・・・でしたら、少しは黙っていてください。
なぜ、こんな誤作動が生じたのかを調べなければならないので、そんな簡単に開くことは不可能ですよ」

エリカはカガリに向かってニッコリと微笑みながら黙らせ、再び操作パネルに視線を向けた。




そんなエリカの言葉に対し、まさか反論があると思わなかったカガリはイライラしたようにモノに当たっていた。



「クソッ!! そんなモノに時間がかかっていたら、開かないじゃないかッ!
もっと簡単に開く方法はないのか?」

「・・・・あることはありますけど・・・?」

「なんだと?」

「簡単な話しよ。 このシャッターを爆破してしまえばいいの。
そうすれば、わざわざプログラムを解析しなくても開くわ」



カガリの癇癪に、エリカは内心でため息をつきながらも表情には出さず、
近くにある箱を視界に入れながら提案した。
エリカの発言に、キサカは驚きを隠せなかったがそれ以外に方法はないと分かっているのか何も言わない。
そんなキサカのことを予測済みだったエリカは、自分の提案した方法がどれほど危険かをわざと説明しなかった。



「それをやるとして・・・一体、どこに爆破物があるんだ? そんな簡単に手に入れるはずがないだろう」

「・・・最悪の事態を想定しての準備は、私たちには当然のことよ。
この箱に、ロックがかけられている手榴弾が入っているわ。 それを使ったら?」

「コレか・・?」

「そうよ。 それでも一応、威力は弱いはずだけど・・・」

「弱いんであれば、意味がないんじゃないのか? コレよりも、強力なやつは?」



カガリはエリカから示された箱に近寄り、中から小さな手榴弾を取り出した。
それを目にしたエリカは、黒い微笑を浮かべていたがその変化に、
ホールにいた人間は気づかないままであった。




エリカの発言に対し、不満があるのかもう少し強力なモノがないのかとカガリが尋ね、
そんな想定の範囲内の言葉に、エリカは表情には出ないものの、内心でクスクスと微笑んでいた・・・・。



「コレよ。 コレを、あそこに向かって投げるだけでいいわ」



エリカは箱の中から取り出した小型のものをカガリに手渡した。
カガリに渡したモノは、爆弾であった。
尤も、それが爆弾だと気付かれないためにちょっと細工され、威力は通常の爆弾と同じである。
エリカはカガリに手渡す際、ロックを解除していた。



エリカの言葉通り、受け取った爆弾を思い切りシャッターに当たるように投げたが、
当たった衝撃で爆発することなく、投げた近くまで反射して戻ってきたことに対し、
カガリは不信がって不発したモノに近づいた。





その様子を見届けたエリカは、ホールにいた者たちに気付かれることなく、
カガリから一番遠い柱にその身を隠し、計画した最終段階をその場で傍観することを決め込んでいた。



「・・・不発弾か? シモンズ、爆発しないぞ?」

「!! カガリ、危ないッ!」

「・・・え?」










――――― バンッ!!!!!







危険を察知したキサカが爆弾の近くにいるカガリに危険を知らせたが本人には届いていなかったのか、
キサカに問い返そうとした瞬間、不発弾と思われた物体は、閃光を伴い、爆発した。


その光は、ホール全体を包み込むほど大きい光で、広い範囲での爆発であった。



「カガリ、大丈夫か?」

「い、痛いッ!!! キサカ、どこだッ!!!!」

「カガリ!?」



爆煙が収まり始め、漸く視界が正常に戻り始めた頃、
爆発したモノに尤も近くにいたカガリを心配するかのようにキサカが叫んだが、
その声に応えた声は何かを痛がっている声だった。




そんなカガリの声に、キサカはどこか怪我をしていると察し、すぐさま駆け寄った。
そんなキサカの様子を爆煙などにまったく影響されない位置に避難していたエリカの視界に映っており、
そのほかの者たちの意識がそちらに向いている隙に、元いた場所へと戻って行った。




(・・・あのシャッターは核から守るために作られた特注品の中でも、最高品質と言われたもの。
たかが爆弾でも破壊することは不可能よ。 尤も・・MSなどで攻撃された時に守られるかは定かではないけど。
まぁ、カガリも火傷を負ったくらいでしょうし)




エリカはキサカに支えられるようにして連れ出されるカガリを観察し、
悪趣味な金色のドレスが所々破けて、露出していた部分に広い範囲で火傷を負っていることを確認した。



「あ、熱いッ!!!!」

「カガリッ!!」



カガリが火傷で負った傷が熱く、叫んでいるところにエリカはどっから持ってきたのか冷水を一気に浴びせた。



その事に爆発の衝撃で悲惨な状態になっていたカガリの姿がさらに酷くなり、
爆発が起きる前とその姿がまったく違っていた。



「な、何をするんだっ!」

「火傷は速やかに冷やさないといけないでしょう? あのままだと、その肌に傷が残るわよ?」



冷水を浴びせられたカガリは、憤慨した様子でかけたエリカを睨んだが、
エリカはニッコリと微笑みながら「傷が残りたくなければ大人しくしろ」と言外に含ませた。



爆発によりシャッターはは解されたと思ったカガリは、
全身を水浸しにしながらも破壊できたと醜い笑みを浮かべていた。
爆煙が完全に収まってホール全体が見渡せた頃には、
シャッター付近も完全に見える範囲まで視界が戻ってきた。



「!! は、破壊されていないだと!? あの爆発で、なぜ壊れないんだッ!!」

「・・・これ以上、強力なモノはないわ。 ・・・諦めて、救助かシステムの復旧を待つことね」



傷すらつけられていない状態のシャッターを見たカガリは、愕然とした表情を浮かべた。
そんなカガリの様子を見ていたエリカは、軽くため息をつきながらシステムの復旧を待つしか方法がないと呟いた・・・・。









時間は少し遡り、カガリの行動を監視しているエリカの協力を得ているニコルは、
与えられている個室に真っ黒いオーラを充満させながら昨日仕掛けたウィルスを流した。



「コレで、あのシェルターをあちらが制御できることはないですね。 ・・尤も、保険としてエリカさんに要請しましたが。
後は、あちらが用意すると言っておりましたけど・・・何を用意するんでしょう?」



ウィルスが完全に周り、制御システムを完全にダウンさせ、正常に動いているものをニコルのPCへ移動させた。



ニコルは数日前に今回の段取りとしてエリカと通信を繋いでいた時のことを思い出し、
何を用意するのかを聞いていないことに気付いた。



ニコルは管制室へハッキングをすると、
会場となるホールに設置されている監視カメラをニコルのPCでも流れるようにプログラムを弄った。



「・・・コレで、中で何が行われているかが分かりますね。
おや、早速何も知らないおめでた思考の方が現れましたねv」



ニコルはニッコリと微笑を浮かべると、会場となるホールの様子をジッと見つめていた・・・・。







ニコルの発動させたプログラム通り、カガリたちがホールから出ようとした瞬間にシャッターが落ちた。
その様子を見ていたニコルはクスクスと黒い笑みを浮かべ、システムに対し、
誰にも解析が出来ないように頑丈なロックとトラップをいたるところに仕掛けた。
ニコルはこれから起きるであろう作戦に楽しそうに・・・それでも真っ黒いオーラを収めることなく画面に視線を向けた。




画面の向こうではカガリがエリカに向かって叫んでいる姿が映し出され、
その様子を見ていたニコルは軽いため息をついた。
画面に映し出されている映像は流れており、ちょうどエリカが何かを提案し、
未だ叫ぶだけのカガリに四角い箱を見せているところであった。



「・・・あの箱、一体なんでしょうか? ・・・まぁ、アレに入っているのが僕が聞きそびれたものでしょうけど・・・」



ニコルはカガリの前に差し出された箱の中身が気になったが、
そのまま様子を見守って監視カメラに中身が映し出された。




箱の中身は、小さい手榴弾とそれに似た形を司っている物体であった。



「爆薬・・・のようですね。
しかし・・・アレではシェルターが完全に破壊できないことは、エリカさんもよくご存知だと思うのですが・・・・?
あぁ、それを利用して会場を滅茶苦茶にするんですね・・・?」



ニコルは中に入っている物体が何なのかを2年前に軍に所属していた際にアカデミーで倣った物と同じだと認識し、
エリカが何をしようとしているのかを大体であるが把握した。





その様子を見ていたニコルだったが、これ以上見ることはないとそのまま電源を落とし、
部屋を退出してラクスたちの待つ会場へと向かった・・・・・・。








2006/12/10